高見澤將林の発言 (予算委員会公聴会)

⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。 詳細は利用規約をご確認ください。

○公述人(高見澤將林君) ありがとうございます。高見澤です。本日は、貴重な機会をいただき、感謝申し上げます。
 時間が限られておりますので、配付資料に従い、御説明させていただきます。
 二ページを御覧ください。
 本日は、安全保障環境の変化、戦略実施上の課題、総力安全保障に向けての取組について述べさせていただきます。
 三ページ、資料一を御覧ください。
 国際安全保障環境やその枠組みの変化についての私の捉え方をまとめてみました。
 左側を御覧いただきますと、三つの変化が生じています。既存の国際システムの信認に対する疑念が生じ、さらには国際社会の相互依存関係が進んだ結果、それが逆利用された形でタブー破りが横行し、民主主義、人権よりも目の前の経済的利益と政権の安定が優先するという構図が強まりました。
 これと並行して生じているのが、右に示すような三つの変化です。
 まず、抑止をめぐる環境変化。軍事力というハード主体の米ロ二極構造から、情報社会化が進む中でソフト面を含む複雑な構造に変化しました。中国の核戦力の増強など多極化が進展する中で、グレーゾーン事態など対象の多様化に対するトータルな抑止構造の有効性が問われております。
 第二は、力による現状変更です。抑止構造が変化する中で一旦破られてしまったルールを守らせるということは非常に難しい。国際システムの限界があらわになっております。
 第三は、経済始めあらゆる分野におけるいわゆる安全保障化、セキュリタイゼーションの問題です。軍民融合であるとか総体的安全保障観、あるいは経済安全保障こそ国家安全保障のベースだというような認識が広がっていることが挙げられます。
 こうした変化の中、多国間主義の危機が叫ばれ、様々なグローバルな課題が浮上しています。
 中でも、資料中央に示すとおり、いわゆるグローバルサウスの関与、それから中国、ロシア、北朝鮮、イランの連携強化、こういった二つの要素にどういうふうに対応するかということが特に重要性を増しております。
 では、どう対応するか。一言で申し上げれば、妙案はないということであります。あえて申し上げれば、資料の下に書いてございますような努力を積み重ねていくしかないと考えます。多層的、横断的、持続的な対話の実施、既存の枠組みや制度のアップデート、それから戦略でも言っておりますいわゆる新たな均衡の形成による力とバランスの維持ということではないかと思います。
 四ページ、資料二を御覧いただきたいと思います。
 これは、特に民主主義国に見られる五つの共通的現象や症状、さらには価値の動揺とその背景にある六つの要素をまとめたものです。
 実は、これは、二〇一六年十一月にトランプ大統領が当選したときの日本記者クラブにおける私の講演資料を基に再整理したものであります。政治を取り巻く環境は一層困難になり、価値の動揺はますます広がっているように思われます。
 五ページ、資料三を御覧ください。
 多国間主義の危機という表現は、二〇一八年五月にジュネーブでグテーレス国連事務総長が述べた国連軍縮アジェンダの中にありました。
 具体的には、長期にわたるコミットメント、すなわち約束が履行されていない、多国間軍縮交渉がデッドロックに陥っている、軍備競争が制約されずに国際的な規範と制度が遵守されずに形骸化している、技術の進展により様々なリスクが高まっているといった危機感が表明されました。この演説から五年以上たちましたけれども、その間に何が起こったか。ロシアのウクライナ侵攻を始め想像を超える事態が生起しております。
 右の方にありますように、昨年九月、グテーレス事務総長は国連で演説し、次のように述べました。世界は混迷を極める移行期にある、多国間制度は問題の一部となる危険性を内包している、二十一世紀の経済的、政治的現実に基づいて多国間制度を更新するときが来ているというものです。最大の問題がその具体的対応策にあることはグテーレス事務総長自身も認めており、お互いの妥協、いわゆるコンプロマイズが必要だということを強調されています。
 しかし、二十一世紀の経済的、政治的現実とは何でしょうか。これをどう理解するかについて著しい相違がございます。その上、その現実が急激に変転し、その行方が定まらないのが実態です。制度の更新の具体案が仮に案出されても、その実現は容易ではなく、新たな制度が無視される危険性は深刻化しているわけです。当面は、短期的行動と中長期的ビジョンの組合せが不可欠であり、現実的な施策の実施と抜本的な施策の検討の双方について、それぞれが不都合な真実を率直に認識する必要があると思います。
 具体的には、抑止とリスク管理に最大限の努力を払いつつ、地道に対話を実現するための条件を構築できるよう、辛抱強く努力を積み重ねていくしかないと思います。日韓関係、日米関係の改善は、こうした努力の成果でもあります。妥協ではなく折り合いを付けることのできる共通の利益と課題、これを発見すること、それを実現するリーダーシップによるものだというふうに考えております。
 以上、最初のテーマである国際安全保障環境や枠組みの変化について申し上げました。
 六ページ、資料四を御覧ください。
 次に、戦略実施上の課題について申し上げます。
 今年度の予算を含めまして、戦略を効果的に実施するためには次の五つの柱が重要であります。一つは、官民協力体制の確立のためのソフトウエアの強化、第二に、変化に応じて柔軟に計画、事業を見直すメカニズムの確立、第三に、関係府省の各種事業の見える化、生きたデータベース化、さらには平素からの国際的な情報共有と調整システムの確立、最後に諸計画の戦略的、機動的実施のためのメカニズムの構築というものを挙げております。
 このうち、第四の柱につきましては、平素から国際的な情報共有と調整システムの確立が大事だというふうに申し上げておるわけですけれども、政府においては、G7、G20、クアッド、日米韓、日ASEANなどを含め、体制強化のための努力が積極的に進められていると認識しております。
 いずれにいたしましても、リアルタイム性があって横断的、統合的なシステムの構築がなされない限り、現状を、力による現状を許さない危機管理の国際化というものは図られないというふうに思っているところでございます。
 七ページ、資料五を御覧ください。
 残りの四つの柱を具体化したものです。この点については、昨年四月の衆議院財務金融委員会、それから安全保障委員会でも申し上げましたので、簡単に触れたいと思います。
 まず、官民協力のための、確立のためのソフトウエアの強化については、戦略三文書に従い、様々な取組が進められております。中でも、政府による積極的な情報発信と関係者の安全保障意識の向上に資するものとして、いわゆるセキュリティークリアランス制度の拡大が挙げられます。これが具体化されることは重要だと考えております。
 次に、変化に応じ柔軟に計画、事業を見直すメカニズムの確立については、特にリスクが高くても先端的な内容を目指す研究に対する支援の拡大が重要だと考えています。これは同時に、想定していた前提と大きく異なる状況に直面したときに機動的に予算を見直していくという体制が必要になると考えております。
 さらには、各種事業の見える化及び生きたデータベース化に当たっては、計画の目標、内容、達成時期に関する具体的な明示と執行の重視、フィードバックの実施が前提となります。特に、部局間の壁を越える形での各種事業に関するガバナンスの向上、執行の透明性の向上が求められます。
 いずれにいたしましても、巨額に上る諸計画は戦略的、機動的に実施することが重要であり、その検証メカニズムを構築することが不可欠です。事業の執行や決算の重要性はこれまでも叫ばれていますけれども、新たな計画の策定ばかりに目が行きがちです。スピードの時代に追い付いていくためには、複数研究機関や有識者による統合・履行・検証・提言メカニズムの構築が有用であると考えております。
 八ページ、資料六を御覧ください。
 戦略の実施に当たっては安全保障意識の向上が重要ですが、その内容は多様であり、三つの側面に分けて考えることができます。
 一つは、安全保障問題そのものに対する関心がどの程度あるか。第二は、国際情勢、軍事力、領土、主権に関する客観的事実やデータなど、全般的な基礎知識をどうしたら高めることができるのか。第三に、実際に危機が生じた際の個々の決断と対応力はどうしたら身に付くのか。
 このために考えられる施策の一例は資料の真ん中に掲げましたけれども、いずれにせよ、幼児から高齢者まで一体となって、老若男女を問わず対象とすることが大事であり、中身も、学習編、基礎編、応用編といった形で段階を追って、またニーズに合わせてプログラムを設定することが重要であります。
 若者から総理、閣僚までを対象とし、それぞれの状況に応じて継続的に実施し、問題に取り組むリーダーシップの涵養、制度に関する理解の向上、具体的な問題解決のための意欲と経験を育むことにつながるように留意する必要があります。その際、教育現場や地域で進められている先進的な各種の取組や世界各国で活用されている優れた手法を学び、共有することが重要と考えています。
 九ページ、資料七を御覧ください。
 ここには、サイバー関連シナリオを基にしたシミュレーションの一例を示しております。シミュレーションは、余り知られていない過去の実例と想像力を組み合わせて制度を運用し、全方位で試して検証し、改善することが必要です。
 複雑化するサイバー攻撃に対し、事態の原因究明が困難な状況の下で、どれほど多くの国や組織が関係しているのかも分からないまま、サイバー以外の局面でも、同時多正面で急激にエスカレートする場面に直面することも考えられます。事態認定もままならない情報不足下での判断や、突然起きた事象に対して瞬時の意思決定が必要となり、外交、情報、軍事、経済、技術などの面での同時対応が求められ、その優先度判断と権限委譲、柔軟対応を行う、並行して、同盟国間、多国間、異分野の調整を行う、こうした状況は容易に考えられるところです。
 新たな国家安全保障戦略においては、我が国を全方位でシームレスに守るための取組の強化の最初の柱としてサイバー安全保障分野での対応能力の向上が掲げられ、その能力を欧米主要国と同等以上に向上させることや、サイバーセキュリティーに関する世界最先端の概念、技術等を常に積極的に活用することがうたわれています。その早期施策化が望まれるところです。
 十ページ、資料八を御覧ください。
 これは、二〇一二年に防衛研究所で行われた防衛力の戦略的マネージメント、変革の方向性と課題の報告書から取ったものです。基調講演は野中郁次郎先生にお願いしました。
 そこでは、産官学、防衛の協働促進と政治的リーダーシップを含む六つのフロネティックリーダーシップの六能力の重要性が示されております。グローバルエコシステム、分野を超えた場の設定、ありのままの現実を直観する能力なども示されています。
 以上が戦略実施に向けての提案ですが、間もなく三文書具体化の初年度である令和五年度の期末を迎えます。資料の中央の項目は、協働促進のための施策として昨年講演したときに書き込んだ一例です。既に令和六年度予算案に反映されている部分もあるかと思いますが、しっかりと検証と見直しを行い、計画達成に向けての機動的な取組をお願いするものです。
 最後に、総力安全保障の取組について述べさせていただきます。
 十一ページ、資料九を御覧ください。
 これは、大平内閣で検討が始まった総合安全保障研究グループ報告書を私なりに整理したものです。当時は現在と背景が大きく異なりますが、キーワードは重なり合っているように思えます。
 安全保障政策が総合的政策を有していることや、三つのレベル、すなわち脅威そのものをなくすための努力、あるいは国際環境を全体的に好ましいものにする努力、脅威に対処する自助努力、利益、理念を共有する国々と連帯して安全を守り、国際環境を部分的に好ましいものにする努力についての言及があります。まさに経済的安全保障政策に関しても三つのレベルの努力が必要であるというふうにされています。
 また、この報告書の状況と課題として、最も基本的な国際情勢の変化が生じたとして、米国の明白な優位の終えん、特に通常戦力分野での自助努力の強化の必要性、新たな南の勢力との関係の安定した発展の重要性、新たな秩序形成への貢献、さらには責任分担による平和の時代に移行することなど、戦略三文書と重なるところがございます。
 十二ページ、資料十を御覧ください。
 これは、国会において安全保障がどのように論じられてきたかについて一面を切り取ったものです。
 五百旗頭真先生が亡くなる直前に座長を務められた会合において、大平正芳賞と猪木正道賞を受賞された山口先生が講演されましたが、そこでは、総合安全保障の多様性と多層性ということが言われております。それに加えて、融合性ということも顕著に見られます。何でも安全保障を付けるというわけでもないですが、ありとあらゆる分野が融合し、重なり合い、変化している状況を示しているのではないかと思います。
 十三ページ、資料十一を御覧ください。
 戦略三文書では、総合的な防衛体制の整備が強調され、様々な施策が示され、その具体化が図られているように思います。元々、この言葉は、五一大綱策定時の坂田防衛庁長官が国会で言及されたものでもあります。新たな戦略三文書の前から戦略や大綱でも使われてきた経緯があります。総合安全保障の融合性の増大と抑止の多様化ということを考えますと、今後は我が国としてもこれ以上の対応が求められるのではないかと考えております。
 十四ページ、資料十二に示したとおり、戦略に従い、有事も念頭に置いた我が国国内での対応能力の強化、あるいは総合的な防衛体制の整備を速やかに進めるとともに、総力安全保障への展開が必要と考えております。そのポイントは、総合だけでなく総力、つまり、あらゆる手段を動員し、防衛だけでなく安全保障、何かあったときだけではなく平素からということが重要だと考えております。国家戦略の検討、迅速な意思決定体制の整備、幅広い人材の育成、個々人の役割と能力の向上なども重要になります。
 以上、時間が参りましたので、ここで終わらせていただきたいと思いますが、最後の十六ページにこれまでの、過去二十数年の総理の施政方針演説の発言がございます。まさにここでおっしゃっているような政治的リーダーシップあるいは決断、そして果断なる実行ということを期待するものでございます。
 以上でございます。

発言情報

speech_id: 121315262X00120240312_148

発言者: 高見澤將林

speaker_id: 32524

日付: 2024-03-12

院: 参議院

会議名: 予算委員会公聴会