秋山信将の発言 (外交・安全保障に関する調査会)

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○参考人(秋山信将君) ただいま御紹介いただきました一橋大学法学研究科の秋山と申します。
 本日は、このような機会をいただきまして、誠にありがとうございます。
 このFMCTは、総理も御尽力されているということと、あと猪口先生も軍代大使のときに大変に御尽力をされたということで、むしろ先生の前でお話をしなければいけないということで緊張しているところでございます。
 本日私がお話しさせていただきたいのは、このFMCT、あるいはより広く、核兵器用の核分裂性物質の規制に伴う様々な、その政治的な環境であるとか、あるいはそのために日本が何をすべき、この核分裂性物質の削減に向け何をすべきなのかということについてお話をさせていただきたいと思います。
 お手元にレジュメとそれから私の原稿が配付されておりますので、そちらに沿ってお話をさせていただければというふうに思います。
 まず、この核兵器を保有する過程において最も技術的に重大な課題は、核兵器用の核分裂性物質の獲得であります。もちろん、核物質を格納し起爆させることが可能な弾頭の設計や製造、さらには運搬手段であるミサイルの開発にも高い技術力を必要とすることは言うまでもありません。やはり、とはいえ、核兵器用の核分裂性物質の獲得というのが最大の鍵を握っていると言っても過言ではございません。
 それでは、この兵器用の核分裂性物質の取得をどこでどのように規制したらよいのでしょうか。また、そのような規制が導入されることはどのような意味を持つのでしょうか。
 核分裂性物質の獲得を禁止する政策を考える上では、幾つかの視点があると思います。第一に、核兵器なき世界を目指すという軍縮の視点です。
 兵器用の核分裂性物質の取得及び製造を規制することは、核兵器の拡散を防止するという観点から効果的な措置であると言えます。また、核軍縮の観点から見れば、少なくとも現状から核兵器を増加させない、すなわち核軍縮のベースラインを確立するという意味で、また、核兵器が削減され核軍縮に進展が見られた場合、軍縮の不可逆性を担保するという視点から有効な措置であると考えます。
 ただ、国際政治の現実を考えると、この視点だけでは十分とは言えません。核兵器を削減していくことに国際社会のコンセンサスが形成されるために、あるいはコンセンサスが形成されるまでにどのような取組が核分裂性物質の管理において必要か、そしてリスクをどのように管理し削減していくのかを考えていく必要があります。
 核分裂性物質の獲得とそれに応じた規制の措置というのは様々なアプローチがございます。特に核の場合には、これは究極の両用技術でありまして、民生用の物質と兵器用の物質というのを技術的には厳格に区別して捉えることは不可能でありますので、様々な場合分けをこの二ポツのところでしてございますけれども、本日は時間の都合でここは省略させていただければというふうに思います。
 ここを飛ばしまして、三ポツのFMCTの交渉における論点というところをお話をさせていただきます。
 FMCTの交渉については、一九九三年の国連決議48/75において、適切な国際機関において、差別的でなく、多国間で、国際的かつ効果的に検証可能な兵器用核分裂性物質の削減を交渉するように勧告がなされ、一九九五年にカナダのシャノン大使の下で合意されたいわゆるシャノン・マンデートが交渉の在り方について大枠を規定し、多くの国がFMCT交渉の基本方針として位置付けてきました。
 FMCTの交渉において争点となっているのは、主として、規制の対象の範囲、スコープ、それから禁止すべき物質を含め用語の定義、ディフィニション、それから検証、ベリフィケーションの在り方です。
 ①のスコープについては、幾つかのポイントがあります。第一に、規制すべき対象は新たな製造に限るべきなのか、あるいは既存の貯蔵分、ストックパイルも含めるのかという点です。
 既存のストックパイルを含めることに対して核保有国は積極的ではなく、FMCTの交渉を支持する核保有国でも将来の生産のみを対象にすべきという意見が有力です。しかし、ストックパイルを含めなければ核兵器の削減への明確な方向付けにはならないという議論もあります。他方で、既存のストックパイルを含め削減を方向付けることになれば、生産禁止だけではなく、民生用からの転用などについても規制の範囲に含まれるべきでしょう。
 なお、日本政府は、核兵器の製造、使用、研究のための核分裂性物質の生産禁止、生産援助の禁止のほか、生産施設の閉鎖や民生用への転換の禁止、閉鎖施設や民生転換された施設の軍事用に再転用することの禁止、余剰と指定された物質のストックを再び核兵器用に戻すことの禁止、非核兵器用の核分裂性物質の軍事転用の禁止、兵器用核分裂性物質の他国からの受容あるいは他国への移転の禁止なども条約上の義務として想定されると指摘しています。
 次に、条約で使用される用語の定義についてですが、そもそも兵器用核分裂性物質とはどのような核分裂性物質を指すのか、どう定義するのかというのは、この条約のスコープの目的を大きく左右するものであります。
 核兵器に使用される核分裂性物質は、プルトニウム239、ウラン235若しくは233が主たるもので、IAEAでは特殊核分裂性物質という用語が使用されています。他方で、兵器級という言葉も使われていますけれども、ウエポングレードとなると、例えばウラン235の濃縮度は九〇%程度あった方がよいというふうに言われておりますし、それからプルトニウム239も純度九五%程度とされています。
 しかし、これよりも濃度が低いからといって核兵器が製造できないわけではありません。広島に投下されたリトルボーイに使われたウラン235の濃縮度は八〇%程度と言われています。また、現在核開発の瀬戸際外交を展開しているイランは濃縮度六〇%のウランの貯蔵量を増やしています。このレベルまで濃縮されれば、兵器級に濃縮されるまでそれほど遠くありません。ただし、そこから追加的な処置が、処理が必要となります。ですから、そのまま核兵器に使用できる直接利用物質と間接利用物質という分類の方法もあります。
 いずれにしても、兵器用核分裂性物質を広く定義すればするほど実効性は上がりますが、今度は交渉で合意を得ること、そして条約の履行を担保する検証の手続も複雑かつ広範になってしまいます。
 その他、生産施設を規制すると一言で言っても、核分裂性物質の製造過程は何段階にも分かれており、しかもそれらの手順は民生用核分裂性物質の製造とほぼ同一であり、どの施設を対象にすべきなのか、どのように対象施設を指定するのか、すなわち、民生用と軍事用に区別し、その区別の実効性を担保するのかなどが課題になるでしょう。
 そして、その検証ですが、多くの国は検証付きの条約を支持しますが、何を検証すべきなのかという検証の範囲や検証の正確性と完全性のレベル、その担保についての議論が分かれそうです。
 さらに、核兵器国に対する検証については、IAEAに規定された保障措置と同様の問題が発生します。核兵器国あるいは核兵器保有国に対しては、ボランタリー・オファー型の保障措置協定ないしはINFCIRC六六タイプの保障措置協定が適用され、追加議定書においても非核兵器国と同様な内容の保障措置が適用されているわけではありません。
 したがって、FMCTの目的をより高い信頼性を持って達成するためには、条約が発効し、これに加盟した核兵器国及び核兵器保有国に対して、非核兵器国並みの保障措置の実施が必須となりますが、果たしてこれらを核保有国が受け入れるのかという疑問があります。
 では、なぜこのFMCTの交渉が困難に直面しているのか。
 これまでFMCTの交渉に当たり考慮すべきテクニカルなイシューについてお話をしてきましたけれども、実際の交渉はどのような状況にあるのでしょうか。現実に目を向けると、ジュネーブ軍縮会議の様子を仄聞するに、交渉開始の見通しがなかなか立っていないというのが現状のようです。
 シャノン・マンデートでは、CDに、軍縮会議にですね、FMCT交渉のための特別委員会を設立することが含まれていますけれども、CDは作業計画に合意することができておらず、機能が長い間停滞しております。こうした状況でFMCTについても交渉に入れていない状態が続いております。
 CDで、じゃ、交渉の開始に合意することが困難であれば、国連などコンセンサスでの決定を必要としない他のフォーラムに交渉のアリーナを移すことを検討すべきというのは幾つかの国が主張しているところで、日本政府もこの立場を取っています。しかし、当然のことながら、交渉の進展を望まない国は、CDに特別委員会を設置すべきというシャノン・マンデートを盾にしてこのアイデアをブロックしております。
 FMCTの特別委員会が設置できない原因の一つは、パキスタンの反対にあります。CDでは、議題の設定から文書の採択に至るまで基本的にコンセンサスによることが習慣となっております。パキスタンは、核分裂性物質の生産が禁止されることになれば、現状の核の不均衡が固定化されることになるとの論理で反対をしております。インドとの競争において核の不均衡が永続する可能性があるとの思惑からです。そして、パキスタンの姿勢の背後には中国がいるとの声も聞かれます。中国もFMCTの交渉については消極的です。
 また、我が国の安全保障という視点から核軍縮及び核分裂性物質の規制という問題を見た場合、北朝鮮と並び中国の姿勢というのは極めて重要な要素となっております。
 中国は、NPT上認められた核兵器国N5の中で唯一核戦力を増強しており、その核関連の活動は最も透明性が低く、今後拡大していく可能性は高いと見ております。米国の国防総省の見積りでは、二〇三〇年までに千発、二〇三五年までに千五百発程度の核弾頭を保有するとされています。
 この数字がどの程度信頼できるものかについては議論の余地はあります。ただし、中国は現在CFR600という型式の高速増殖炉二基の建設プロジェクトを進行させておりまして、そのうちの一基は既に完成し、運転が開始されている兆候、建屋から、建屋の排気塔から蒸気が噴出しているといった映像が、画像が確認されています。中国は、これらの高速増殖炉は民生用であるとしていますけれども、高速炉が二基とも完成し、フル稼働し、使用済燃料が再処理されるようになって、抽出されたプルトニウムが軍事転用されると想定すると、国防総省の見積りは計算が合うということになります。
 中国の民生用プルトニウムの保有量ですけれども、これは二〇一六年の時点で四十・九キロとされていましたが、高速増殖炉の建設が開始された二〇一七年以降、民生用のプルトニウム管理についてIAEAに報告することをやめております。IAEAのIAEAにおけるプルトニウム管理に関する指針という文書、INFCIRC五四九という文書ですけれども、これは民生用のプルトニウムを保有する九か国がその管理状況をIAEAに報告することを求めています。これは法的な義務はありませんけれども、透明性を担保し、信頼を醸成するために重要な措置であります。しかし、中国がIAEAに対して報告をやめていることは、民生用プログラムの軍事転用が疑われても仕方がないという状況証拠と言えるかもしれません。
 また、現在、FMCTの交渉が開始されない中、中国を除くN5は兵器用核分裂性物質の生産モラトリアムを宣言しておりますけれども、中国はモラトリアムの宣言は核軍縮に向け実効性がないと主張しており、実際のところ、米ロに対して一定程度までキャッチアップをするまでは核戦力の規模や今後の核戦力増強の傾向を知られたくない、そして活動を縛られたくないということだと考えております。
 米ロは、新STARTの条約の下で、軍備管理の取決めの中、配備される核弾頭数の上限を千五百五十発と定めています。そのほかに、貯蔵されたものや退役、解体待ちの弾頭もあり、合わせると、米国は約五千四百、ロシアは約六千発ほど保有しております。中国からすれば、核弾頭、ひいては核分裂性物質を大量に保有する米ロがまず削減すべきであるということではないかと思われます。
 なお、北朝鮮に関しても、従来プルトニウムの製造に使用されてきた五メガワット級の黒鉛減速炉に加え、その近くに新たに軽水炉を建設し、最近運転を開始したとの報道もありました。軽水炉での使用済燃料は再処理をしてプルトニウムを抽出することが可能ですから、北朝鮮でも核兵器用の核分裂性物質の製造能力が向上しているということが言えると思います。
 では、このような状況を踏まえ、日本としては兵器用核分裂性物質の規制にどのように取り組んでいけばよいのかという点について私見を述べさせていただきたいと思います。
 まず、核兵器なき世界を目指す中で、核分裂性物質の生産を停止し、貯蔵量を削減していくことは必要なことですから、FMCTの推進は理にかなっていると思います。したがって、その交渉開始に向けて積極的に取り組む姿勢は、軍縮へのコミットメントを示すという観点から大いに意義があると言えます。
 ただし、姿勢を示すというパブリックディプロマシー的な要素だけでは不十分です。CDではパキスタンが消極姿勢であり、また中国にも核分裂性物質生産を規制する意欲がないとすれば、当面FMCT交渉が開始され進展する可能性は低いと言わざるを得ませんが、その間に何をすべきかということを考えるべきであると思います。
 一つは、兵器用核分裂性物質の生産モラトリアムの普遍化、すなわち中国にもモラトリアムの宣言に参加するよう、他の核兵器国のみならず、非同盟諸国などとも協調して働きかけをしていくためのキャンペーンを継続していくべきです。
 NPTの運用検討プロセスでは、中国はモラトリアムをNPTの合意文書に入れることに反対しています。多くの国は、ここが中国のレッドラインと理解し、合意形成のために妥協してまいりました。現在、NPT運用検討会議では、様々な案件において対立あるいは分断が深まって、コンセンサスを得ることが次第に難しくなってきています。こうした分断の深まりに隠れる形で中国は、核戦力の透明性の問題と並び、核分裂性物質の生産モラトリアムについても焦点が当てられるのを避けることに成功してきました。今後は、兵器用核分裂性物質の貯蔵量をこれ以上増やさないという国際規範の醸成のために、非同盟諸国あるいは核兵器禁止条約締約国との対話を強化し、モラトリアムが国際規範として確立され、それを受け入れない国に対しピアプレッシャーを与えられるようにしていくべきではないかと思います。
 第二に、透明性の向上への取組です。こちらもN5の中で最も透明性が低いとされている中国がターゲットになってしまう感じもありますけれども、核弾頭、運搬手段の保有量、兵器用核分裂性物質の貯蔵量、核ドクトリンなどについて、国際社会に対して核保有国が積極的に情報を開示するよう求めていく必要があります。日本は、NPDIを通じてこのテーマに取り組んでいると理解しておりますけれども、核兵器使用の懸念が高まり、また核軍拡の再来が懸念される中で、信頼醸成措置として、あるいは核軍縮のベースラインを確立する取組として、透明性の確保は一層重要になってきていると思います。
 第三に、核兵器国の責任ある行動の在り方についての議論を高めていくのも一案だと思います。つまり、核兵器国が国際の平和と安全に対して持つ特殊な責任に対して、可視化された形でその責任を果たすことを明確にする、示すことを求めるということです。例えば、核兵器や核分裂性物質を安全に管理していることをあるいは国際社会に見える形で証明することや、あるいは核ドクトリンが国際人道法に照らして整合的かどうかを説明する責任、あるいはもし核兵器が使用された場合の環境破壊や人的、社会的な二次被害などに対する責任などについて議論を深めていくことです。
 そして最後に、中国との対話です。安全保障の論理では、関係国のどちらか一方が何かを主張し、あるいは行動することでは安定した関係を望むことは困難です。日本がどんなに一方的に主張しても、それが中国の受け入れるところとならなければ意味がありません。中国には中国の懸念があります。我々はそれに共感する必要はありませんが、理解し、お互いにとって何が懸念か、そしてそれを相互に解消していくためには何をすべきかについて率直に議論する戦略対話が必要であると思います。対立を抱えていても、対話を通じてリスク管理を行い脅威削減を行っていくことは、万が一に備えることと並行して進めていくべきだと思います。
 以上、FMCTをめぐる幾つかの論点と日本の取組として望むことについて述べさせていただきました。
 御清聴ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 秋山信将

speaker_id: 27931

日付: 2024-02-21

院: 参議院

会議名: 外交・安全保障に関する調査会