川崎哲の発言 (外交・安全保障に関する調査会)

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○参考人(川崎哲君) 猪口会長、委員の皆様、本日、このような機会をいただきまして、ありがとうございます。
 私も資料を用意してまいりましたので、このとじてある資料に沿ってお話をしていきたいというふうに思います。さきの秋山、阿部両参考人の話と重なるところもたくさんありますけれども、御容赦いただければというふうに思います。
 私は、核兵器廃絶国際キャンペーン、ICANに集う世界中の仲間たちと、また、広島や長崎の被爆者の皆さんと協力をしながら、核兵器廃絶のための活動を続けてまいりました。
 二〇一七年七月に、核兵器を非人道兵器と断じ、その開発、保有、使用を全面的に禁止する核兵器禁止条約が採択されました。同条約が二〇二一年一月に発効してから三年がたち、締約国又は署名国として加わっている国の数の総数は九十七か国に上っております。しかし、こちら、表一、世界の核弾頭数にありますように、いまだに世界では九か国が合計一万二千発以上の核兵器を保有しており、冷戦終結以後、核兵器の総数自体は減少し続けてきましたけれども、近年、現役の核弾頭数はむしろ増加の傾向を見せております。
 提案されているFMCTは、核兵器の材料物質の生産を禁止し、核軍拡を止めるということがその最大の意義であります。FMCTをめぐる課題について、私自身がその成立に関わってきた核兵器禁止条約との関係に触れながら、意見を述べてまいりたいというふうに思います。
 まず、FMCTとは何のための条約かということであります。
 めくって表二を御覧いただきたいと思いますけれども、FMCTは、核兵器を規制、禁止する様々な国際的な取組の中の一つに位置付けられます。
 今日、全世界的な規範を作るための多国間条約としては、NPT、核兵器不拡散条約、CTBT、包括的核実験禁止条約、そしてTPNWとも称される核兵器禁止条約が存在します。このうちNPTは、新たな核保有国の出現を防ぐ核不拡散については厳しく規定しておりますけれども、核保有国による核軍縮については一般的な甘い規定にとどまっております。
 そこで、NPTが一九九五年に無期限延長される際に、具体的な核軍縮措置として、核実験を禁止するCTBTと核兵器の材料物質の生産を禁止するFMCTの二つが優先課題として合意をされました。そのうちCTBTは、ジュネーブ軍縮会議で交渉され、一九九六年に採択されました。一方のFMCTは、いまだ交渉開始に至っておらず、その見通しも立っておりません。
 その一方で、核兵器禁止条約は、一九九七年にNGOによるモデル案が示され、二〇一〇年以降機運が高まり、二〇一七年に交渉の上採択され、今日では世界の約半数の国が参加するに至っています。
 表三を御覧いただきたいと思いますけれども、これらの多国間条約の基本的な対比をここで示しております。
 めくっていただきまして、FMCTが規制しようとしておりますのは、核兵器の材料物質、すなわち高濃縮ウランとプルトニウムであります。これらの核分裂性物質を核兵器目的で生産することを禁止しようというものであります。
 一九九五年にジュネーブ軍縮会議で、差別的でなく、多国間の検証可能なFMCTを交渉するという基本的な構想が示されました。これに対して、これら核分裂性物質の将来の生産のみを禁止するのか、それとも既存の核分裂性物質も規制の対象に含めるのかという論争が続いてきました。将来の生産だけ禁止し、既存の物質を対象にしなければ、当然、これまで多くの核分裂性物質を生産し貯蔵してきた核保有国に有利に働くことになります。こうしたことから、南アフリカなど非同盟諸国を中心に多くの国が既存の貯蔵分も対象に含めることが核軍縮にとっては不可欠であると主張しています。
 実は、CTBTにも同じように、先に核保有国となった国と後進の核保有国の格差という問題があります。すなわち、米国のように、既に多くの核実験を行った国が他の国々が新たに核実験を行うことを止めるという性格があるわけです。つまり、CTBTやFMCTは核軍縮のための措置と言われますが、同時に、新たな核保有国の出現の防止という核不拡散の側面や後進の核保有国の活動を制限するという垂直拡散の防止という側面があるのです。
 日本政府は、名指しこそしないものの、中国の核軍拡を封じるという観点を中心に置いてFMCTを促進しているように見えます。ヒロシマ・アクション・プランにおいても、昨年のG7広島サミットにおいても、中国を念頭に核戦力の透明性の必要性を強調し、その文脈の中でFMCTの交渉開始を呼びかけています。しかし、NPTが世界を五つの核兵器国とそれ以外の国に分けたように、FMCTが新たな差別構造を持ち込むような形で作られるならば、それは国際的な幅広い支持を得られません。
 ジュネーブ軍縮会議においては、パキスタンが既存の貯蔵分を含めないFMCTは差別的だと主張して、ほぼ一か国のみで議論をブロックし続けてきました。そのパキスタンは核保有国であり、年々核兵器を増産し続けています。皮肉なことに、不平等なFMCTには反対だというパキスタンの主張は、その不平等を埋めんとばかりの同国の核軍拡を許す結果につながってきたのです。
 中国も、最大の核保有国である米ロがまず核軍縮をして初めて他の核保有国も核軍縮プロセスに参加できるようになると主張しています。中国の核軍備増強は懸念されるところでありますけれども、それでも総数においては米ロとは一桁異なります。米ロにおける核軍縮の停滞は、結果的に中国の核軍拡を許すことにもつながっています。
 したがって、FMCTを目指すのであれば、それが核保有国間の格差を固定するためではなく、核不拡散のためだけでもなく、あくまでその目的が核兵器のない世界を目指した核軍縮にあるということを明確にしなければなりません。そして、全ての国に対して普遍的に規制を掛けるものにしなければなりません。さもなくば、信頼を得られず、結局実効性も持ち得ないでしょう。
 さて、次に、核兵器禁止条約とFMCTの関係についてです。
 二〇一七年の核兵器禁止条約によって、核兵器の開発や生産は全面的に禁止されました。核兵器の材料物質の生産は、同条約の下で既に禁止されているというふうに解釈することができます。したがって、核兵器禁止条約の締約国は、FMCTに入るまでもなく核兵器の材料物質の生産を禁止されているということになります。
 それゆえ、日本は、まずもって核兵器禁止条約に加わり、他国に対してもそのことを促せばよいと考えられますけれども、政府はそのようにはしておりません。このことの妥当性については、国会議員の皆様にはよく考えて審議をしていただきたいと思います。
 しかし、それはさておき、核兵器禁止条約が既に存在する上で、更にFMCTを作るとしたらどのような意義があるかということについて考えたいと思います。
 一つは、核分裂性物質に焦点を当てて、技術的な検証を含む精緻な禁止と規制を行うというところに意義があります。もう一つは、核保有国が加わる可能性があるということです。核兵器禁止条約には、現在、核保有国は一か国も加わっておらず、近い将来加わる見通しも残念ながらありません。これに対して、新たにFMCTを作り、そこに核保有国が一定程度加わる見通しが立つのであれば、それには意義があると言えるでしょう。
 ここで、核分裂性物質の禁止や規制の在り方について考えたいと思います。
 FMCTについて、将来の生産禁止だけではなく既存の貯蔵分も規制対象に含めるかという論点があるということは、さきの参考人の皆様、また私も述べたとおりであります。真に核軍縮に資するFMCTにするためには、核保有国が既存の貯蔵分を核兵器の維持や近代化に使うことに対しても規制を掛けることが必要であります。
 それに加えて、明示的に核兵器目的とされていなかったとしても核兵器に利用可能な物質であるならば規制対象にすべきではないかという論点があります。例えば、今日、中国が民生用として開発をしている再処理施設等が核兵器目的に使われる可能性が指摘をされています。
 こうした懸念を背景に、G7サミットでの核軍縮広島ビジョンには、民生用プログラムを装った軍事用プログラムのためのプルトニウムの生産又は生産支援のいかなる試みにも反対すると記されました。民生用とされていても、高濃縮ウランやプルトニウムは本質的に核兵器に利用可能です。したがって、それらの生産や保有を適切に規制しない限り抜け穴となってしまいます。
 過去を遡れば、一九九一年の朝鮮半島非核化共同宣言は、南北両国が核兵器を持たないとうたうに当たり、両国とも再処理施設とウラン濃縮施設を持たないと定めました。そうすることで非核化に実効性を持たせようとしたのです。また、二〇一四年にハーグで開かれた核セキュリティ・サミットでは、高濃縮ウランの保有量を最小化し、分離プルトニウムの保有量を最小限のレベルに維持することがうたわれました。
 核分裂性物質に関する国際パネルやカーネギー国際平和財団といった専門家グループからは、プルトニウムの分離は利用目的にかかわらず中止又は禁止する、また、高濃縮ウランについては使用を全面的にやめて低濃縮ウランに転換するといった提言も出されております。
 今、世界には約一万二千発の核兵器がありますが、核兵器の材料として使われるおそれのある高濃縮ウランやプルトニウムの量は、資料の最後のページに付けてある別紙にありますように、表四、表五にありますように、核兵器十一万発以上分にも上ります。これらに対する総合的な管理の視点が必要になります。プルトニウムについては、国際原子力機関、IAEAの下で管理指針、INFCIRC五四九が策定をされていますけれども、こうした透明性措置の強化が必要であります。
 表五にありますように、中でも日本は今日約四十五トンのプルトニウムを保有しており、その量は核兵器七千六百発分にも相当します。非核保有国としては突出した量であります。もちろん、これはIAEAの保障措置下にありますので、即座に核兵器に転用できるというわけではありません。それでも計算誤差の問題は発生します。何といっても、日本の場合には量が格段に多いわけです。
 二〇一八年に政府は、当時の保有量約四十七トンを上限とし、保有プルトニウムを減らしていくと公約しました。確実に削減し、国際的疑念を持たれないようにするためには、青森県六ケ所村の再処理工場の本格稼働を中止することで、これ以上プルトニウムを増やさないようにすることが必要です。
 このように、国際的に核分裂性物質への管理を強化する中では、日本が民生用として進めている核燃料政策も再検討を迫られていくことは必至です。自国の分は民生用だから大丈夫、しかし他国の分は民生用と言われても怪しいといった態度は通らないと思います。
 次に、FMCTを条約として制定させるプロセスとそこへの核保有国の関与について考えたいと思います。どのような場で条約を交渉するかという問題であります。
 これまでジュネーブ軍縮会議での交渉が呼びかけられてきましたけれども、軍縮会議は全会一致制を取っているので、全ての国が拒否権を持つのと同じことであります。今後、軍縮会議で条約交渉が開始できるとは思えません。
 一九九七年の対人地雷禁止条約や二〇〇八年のクラスター弾禁止条約は、国連の枠組みを飛び越えて、有志国の外交会議を重ねて成立へとこぎ着けました。
 核兵器禁止条約の場合は、第一段階として有志国が核兵器の非人道性に関する議論を重ね、第二段階として核兵器禁止を目指す有志国の誓約を集め、第三段階として国連総会決議を通じ、国連の下で交渉会議を行い、条約を成立させました。この過程では、対人地雷やクラスター弾と同様に、完全に有志国会議で進めるべきとの意見もありました。その方がスピードが速いからです。しかし、将来的に核保有国を巻き込むためには国連という枠組みの下で作るべきだという意見がそれに勝りました。私はこれが正しい選択だったというふうに考えております。
 今後、FMCTを作る場合にどのような制定過程を取るかという問題は、核保有国をどのように巻き込んでいくかということと関係します。核兵器禁止条約の場合には、核保有国がすぐには参加しない条約でも早く成立させて、強い禁止規範を作ることを優先すべきだという考え方の下で今日の条約が作られました。その結果、確かに核保有国はいまだ入っておりませんけれども、核兵器の非人道性に関する認識は国際社会にあまねく広がりました。FMCTの場合に、保有国の参加を重視するのか、それとも規範形成を優先するのかということは重要な論点となります。これは条約の発効要件とも関係します。
 改めて表三を御覧いただきますと、そこに主たる条約の発効要件、発効状況、現在の締約国数、そして核保有国九か国のうちどこまでをカバーできているかということがまとまっています。
 このうちCTBTは、原子力活動を行っている四十四か国が批准して初めて発効するという厳格な定めをしました。その結果、今日に至っても未発効です。こうした状況を踏まえて、核兵器禁止条約の場合には、単純に五十か国が批准すれば発効すると定めました。一方、CTBTも未発効だから効力がないということではありません。既に圧倒的多数の国が締約国となっていること、そして全世界に核実験の監視システムを張り巡らせていることから、実質的に核実験を抑制する効果を発揮しております。
 現実問題としては、核保有九か国全てが最初から参加する条約というものを作ることはほぼ不可能ですから、FMCTにおいて何を優先させるかを慎重に検討する必要があります。条約の交渉が始まっても、既存の貯蔵分を対象に含めるかどうかといった点で交渉が難航することは予想されます。どこまでの内容の条約にするかによって、どの国の参加が期待できるかということも変わってきます。
 まとめに入りたいと思います。
 核軍縮の世界では、表二や表三に記した様々な条約や制度が組み合わさって、アーキテクチャー、すなわち建造物が造られているという言い方がよくなされます。NPT、CTBT、そして核兵器禁止条約は相互補完的な関係にあり、そこにFMCTをどう組み合わせるのかが最も効果的であるかということを考える必要があります。FMCTを通じて核分裂性物質に対する国際的な管理を強化し、その検証制度をつくっていくことは、NPTに対しても核兵器禁止条約に対しても実効性を高めるために有益です。
 いずれにせよ、大前提として、核兵器がいかなる国にとっても許されない非人道兵器であるという基本認識を確認することが絶えず求められます。そのためには、そのためにも日本は、核兵器禁止条約に加わるという政治的意思を示しつつ、同条約の締約国会議には積極的に参加して、核分裂性物質の生産禁止、管理強化、そしてその検証に向けた実質的な議論を牽引すべきであると考えます。
 最後に一言申し上げます。
 本日、私は他の参考人の先生方がどなたであるかということを知らされることのない状態でこの役割をお引き受けいたしましたが、その後になって三人とも男性であるということを知り、残念に思っております。
 近年、核軍縮の世界においてもジェンダーの議論は盛んです。核兵器は女性に偏った被害をもたらす一方で、核兵器をめぐる議論や意思決定の場が男性に依然支配されているということは大きな問題であります。
 二〇二二年のNPT再検討会議において、日本は六十七か国によるジェンダーと多様性、包摂に関する共同声明に連名をしております。猪口会長及び委員の皆様におかれましては、今後の調査会での参考人の選定に当たりましてジェンダーの多様性を重視していただけますようお願いを申し上げまして、私の意見陳述を終えたいと思います。
 御清聴ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 川崎哲

speaker_id: 2070

日付: 2024-02-21

院: 参議院

会議名: 外交・安全保障に関する調査会