ハジアリッチ秀子の発言 (外交・安全保障に関する調査会)
⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。
詳細は利用規約をご確認ください。
○参考人(ハジアリッチ秀子君) 本日は、貴重な機会をいただきまして、本当にありがとうございます。
人間の安全保障は、過去三十年間、日本と国連が推進してきた重要な理念でございます。グローバル化が進む中、環境破壊、気候変動、紛争や戦争、食料とエネルギーの安全保障の課題が国境を越え、相互に関連し合う中、人間を中心にあらゆる課題に多角的に取り組むことが主な理念となっております。
一九九四年、UNDPは人間の安全保障の新次元という報告書をリリースし、国連システム内に人間の安全保障という新語を作り出しました。人間が中心になることはもちろんのこと、相互依存性や早期警報を人間の安全保障の特徴として掲げました。
今年一月、グテーレス国連事務総長は、四回目の人間の安全保障についての事務総長報告書を発表いたしました。世界が混迷を極める中、国際社会が複合的な危機も含めた様々な課題に向き当たるに当たり、人間の尊厳に注目を当て、改めて世界に大事な理念として提示いたしました。
今回の報告書では、更なる人間の安全保障の推進を行い、気候変動、パンデミック、貧困、飢餓の削減、不平等の是正から紛争や暴力の防止まで、国境を越える課題に対して国際社会が一丸となって取り組むことを提唱しております。こうしたことからも、今回の調査会で先生方が非常にタイムリーなトピックを取り上げてくださったことに心より感謝する次第でございます。
それでは、ロシアとウクライナの両国で、世界の小麦生産量の三〇%、ヒマワリ油は八〇%を占めております。二〇二二年の戦争以降、ロシアが黒海の港を封鎖したことでウクライナからの穀物、ヒマワリ油などの輸出は大幅に減りました。これらの輸出の減少は世界の食料の価格上昇の一因ともなっておりまして、食料価格の高騰により、世界中で飢餓と貧困が悪化いたしました。アフリカ諸国は、ロシアとウクライナからの輸入依存度がとても高く、エジプトでは小麦の八〇%以上を両国から輸入しております。ベナン、コンゴ、カーボベルデ、タンザニアなども小麦をロシア、ウクライナに依存しております。
さらに、気候変動も加速しており、亀山教授がおっしゃったとおり、待ったなしの気候変動でございます。
一九七〇年代以降、サヘル地域、西アフリカのサヘル地域では、ほかの地域の二倍の速さで気温が上昇しており、既に月平均気温が三十五度を記録しております。私が前回赴任していたクウェートでも五十度近く行きました。もう熱いというか肌が痛いぐらいでした。
そしてさらに、西アフリカにまたがるリプタコグルマ地域、特に国境地帯では毎年十万人以上もの人々が干ばつや洪水などで被災しております。サヘル地域では、気温の上昇によって耕作地や放牧地が使えなくなることもあり、遊牧民と農民の対立をあおっております。つまり、気候変動、戦争、紛争、食料危機が悪循環しているという状況がございます。
ウクライナ戦争は、肥料価格にも影響を与え、世界の肥料価格を二一%上昇させたと言われております。アフリカでは、複数の国々が肥料補助金政策を開始いたしましたが、戦争の長期化は財政圧力が高まること、更なる貧困、食料危機へのリスクを意味いたします。
気候変動による気温の上昇、海面上昇、頻繁に発生する災害、そして生物多様性が損なわれると、農業の質と量にも悪影響を及ぼし、紛争と気候変動は世界の食料安全保障の大きなリスクとなっております。戦争により貴重な命も奪われますと同時に、原油の流出や火災、軍事行動に伴う爆撃によって、大量の温室効果ガスや有害ガスも放出され、水も汚染されます。
ウクライナは鉱物資源や化学産業も盛んであるため、国連によると、砲撃など受け、有害な化学物質の流出、そして製油所のほか、ガソリン、ディーゼル、LPGなどの貯蔵庫への攻撃が多くあり、汚染も深く懸念されております。
気候変動は多数の農業従事者の生計にも脅威を付けられています。特に、低中所得国の小規模農家、五億世帯の約三十億人への影響は大きくなり、島国は飲み水の不足にも陥る傾向にございます。
また、エネルギー安全保障についても少し短く触れさせていただきます。
ロシアは世界第三位の石油産油国であり、戦争勃発後、ブレント原油価格は二五%上昇いたしました。また、ロシアは、ウクライナの発電所やその他の主要なエネルギーインフラを狙った軍事攻撃を行い、UNDPによる電力セクター被害調査によると、国内の発電能力が戦前の約五割程度に減少し、生活、産業に支障が出ていると報告されております。
今年一月に上川外務大臣がウクライナを訪問した際、日本とUNDPとの連携により電力機器を供与することができました。エネルギー不足による混乱を未然に防ぎ、被害を受けた地域の五百五十万人以上の人々が電気にアクセスすることができるようになります。
さらに、中東地域ガザの戦争により、世界のエネルギー部門のリスクも高まりつつございます。今後、イラン産の石油輸出に対する制裁が強化される場合、価格上昇などの影響も考えられます。ウクライナ戦争の長期化と中東における不安定化の継続により、多くの途上国でもエネルギーの自給率を上げる必要性が再認識されております。
また、エネルギーセクターが世界の温暖化ガス排出の七三%を占めております。化石燃料に代わる、よりクリーンな代替燃料の期待もますます高まっており、このエネルギー移行により、とても多くの、少なくとも三千万以上の雇用がつくることもできると言われております。二〇五〇年までにネットゼロを達成することが必要最低限でございます。レジュメの方にはタイポがございますので、御容赦ください。
こうした背景もある中で、UNDPは、パリ協定の目標でもある二〇五〇年までのネットゼロのエネルギー移行の実現に向けて、技術支援のみならず、計画策定、そして政策支援、ガバナンス、社会的保護の強化にも取り組んでおります。例えば、中長期的な国家のエネルギー安全保障を確保すべく、UNDPはアフリカのサヘル地域にてエネルギー移行の取組も行っております。
サヘル地域、これはブルキナファソ、カメルーン、チャド、ガンビアなどが含まれますが、世界で最も再生エネルギーのポテンシャルが高い地域の一つであるため、再生可能エネルギーを原動力とするアフリカにおけるグリーン産業化を先導できる可能性がございます。再生可能エネルギーに投資すれば、雇用を創出し、SDGsの達成を早める地域的グリーン・バリューチェーンの確立も期待されます。
可能性のある産業の例として、太陽電池や太陽光発電バッテリーの製造、農産物の加工もございます。脱炭素を推進する政策、再生可能エネルギーの推進、産業のグリーントランスフォーメーション、GXですね、つまり産業界のエネルギー転換は日本自身が推進することと同時に、日本が開発途上国で支援する上でも同時に重要になってくると思われます。
それでは、手短にUNDPの関連したエリアでの御紹介をさせていただきたいと思います。
UNDPは貧困に終止符を打ち、人間の尊厳を守り、人権を実現し、次世代のためにも地球環境を守り、紛争予防や平和構築など、コミュニティーの人々や政府機関のパートナーと密に協働をしております。
加えて、UNDPの特徴といたしましては、国連の中でもいろいろな機関がございますので、国連開発計画の特徴といたしましては、国レベルでのカウンターパート、窓口は広範にわたり、一つの省庁を超えた横断的な関係が強いことでございます。例えば、WPS、女性・平和・安全保障の支援は長年UNDPは取り組んでおりまして、紛争後の小型武器の回収や不発弾の除去、元兵士の武装解除や社会復帰プログラム、暴力的過激派の防止など、テロ対策委員会などと協力する場合もあり、あらゆる省庁と女性の役割やニーズなどを考慮した支援を長年やっております。
UNDPの百七十か国におけるプレゼンス、とりわけ途上国に駐在しているUNDP国事務所は現地で五十年以上の実績がございます。上から目線の支援ではなく、寄り添い型で途上国との信頼関係を築き上げてまいりました。フィールドレベルでの支援と同時に、多くの途上国のSDGsに基づいた五か年開発戦略の作成などの政策レベルの支援もしております。
また、人間の安全保障のアドボカシーにも代表されるように、グローバルレベルの政策提言なども、多国間の開発対話にも貢献してまいりました。日本がリードされている人間の安全保障はもちろんのこと、WPSや人道、開発、平和の連携など、日本の開発協力大綱の優先順位にのっとって、UNDPは政策面でも協働に国際社会でアドボカシーをしていく所存でございます。
本日の議題に関連する食料やエネルギー危機と深く関わる紛争や気候変動についてのUNDPの取組を紹介させていただきます。
まずは、紛争予防ですが、あるドイツの研究所の発表によりますと、全ての紛争の六〇%が再発し、紛争後の平和は平均して七年しか続かず、一九九〇年代半ば以降、紛争の発生のほとんどは再発というデータも出ております。ですので、平和や安定化に関して申し上げれば、和平協定が必要不可欠なものではあります。これは、私も勤務していた、ボスニア戦争に終止符を打ったデイトン和平協定は、直ちに流血を防ぐための終戦を実現するという点では必要なものでございました。ただ、その平和協定の内容は長期にわたるガバナンスの枠組みとしては不十分で、だからこそ、UNDPはガバナンスの強化と早期警戒システムなどでボスニア戦争後、力を入れてきたという経緯もございます。
また、二〇二一年、UNDPの独立評価室が行ったUNDPのプログラム評価査定によると、人道、開発、平和の結び付きは今後更に重要となり、あらゆるパートナーが比較優位に基づいて共同で取り組む枠組みの必要性を強調しました。
日本が去年改定した開発協力大綱には、HDPネクサス、つまり人道支援だけではなく、その国が自分自身の足で立ち上がれるような開発の支援などの重要性が強調されておりますし、昨年末ジュネーブでありましたグローバル難民フォーラムにおいて、日本とUNDP、そしてUNHCRが共同で発表したHDPネクサス宣言は、日本の国際社会におけるリーダーシップの好事例でした。
したがって、UNDPは、今後も引き続き、コミュニティーを安定させるだけでなく、ガバナンスの再構築、人的能力の育成など、また汚職対策のための支援もしております。国によっては、グッドガバナンスなんて言って、より良い統治などといった立て付けで汚職対策支援をする場合もございます。
貧困と紛争、構造的な不平等は深く関連しております。世界人口の約二五%、極度の貧困状態にある人々の七五%が、いわゆる脆弱な環境で暮らしております。二〇一〇年以降、暴力的な紛争が劇的に急増し、気候変動に関連した災害が増加する中、人道支援への依存度は高くなっておりまして、二〇二四年、今年の世界人道支援要請額は四百六十億ドルになっております。これは、UNDPの年間事業額の約十倍となります。
ですので、人道支援のみならず、人々が尊厳を維持し、自助努力することが必要なため、UNDPの活動資金の半分はいわゆる脆弱な状況に投入されておりまして、OECDが脆弱と定義する六十か国全てにおいてもUNDPは現地で活動しております。
UNDPの邦人職員は、現在でもパレスチナ、アフガニスタン、ウクライナ、ナイジェリアなど、数多くの紛争地で活躍をしております。
また、アフガニスタンでは、女性の人権を侵害しているからアフガニスタンに支援しないのではなく、女性が困難な立場に置かれているからこそ、UNDPは現地に残り支援を続けております。UNDPの邦人職員も勤務しております。アフガニスタンでは、人口の四分の一に当たる千百四十万人以上が生計を立て直し、七万五千の女性がオーナーの零細企業がサポートを受けることができました。
また、JICAとUNDPの協力は特筆すべきものであり、JICAの培ってきた知見を生かしつつ、アフガニスタンのような邦人職員が入れない地域や国でUNDPが実施しており、これは紛争予防や復興支援におけるJICAとUNDPのパートナーシップの好事例であると言えると思います。
UNDPがJICAのイラクの円借款のモニタリングをしたり、タジキスタンでの国境管理などもございます。アフリカだと、カメルーン、ナイジェリア、中央アフリカ、コートジボワールなどにおいて、JICAの技術、知見をUNDPのプロジェクトの対象地として広めている事例がございます。また、ライベリアでは、UNDPが選挙管理機関の能力を協力し、信頼性と透明性がある選挙を実施することで、約二百五十万人が投票することになりました、できました。
また、気候変動対策でございますが、UNDPは、開発途上国の八〇%に相当する約百二十か国で、温室ガス排出量削減目標などを含む、国が決定する貢献計画、略称NDCとよく言われておりますが、それを実現するための技術、政策支援を実施しております。ちなみに、貴重な日本からの御支援で、アジア太平洋を始め欧州、中央アジア、アフリカ、アラブ諸国の二十八か国・地域でクリーンエネルギーの推進、脱炭素を達成するための気候変動対策の加速、気候変動の影響を受けている脆弱なコミュニティーや地域における適応対策などをサポートしております。
また、UNDP全体で昨年度の実績のハイライトとして、九十七か国における雇用と生活の促進、約九千万人が再生可能エネルギーのアクセスとエネルギーの生産的利用を可能にしたこと、そして四億三千九百万人以上の有権者が選挙に参加できるように登録したことなどが挙げられます。
また、グリーントランスフォーメーション、GX支援により、二〇二三年二月より日本から貴重な御支援を受けて、パプアニューギニア、サモア、東ティモール、バヌアツの四か国でGX推進計画を実施しており、再生可能エネルギー導入やGXを推進することによりこれらの国々の脱炭素化をサポートしております。今年の夏に開かれるPALM10、第十回太平洋・島サミットが成功に収まることを祈念いたしております。
日本は長年にわたりUNDPに貴重な支援を行ってきており、皆様に感謝申し上げます。気候変動の影響を踏まえた食料・エネルギー安全保障及び人間の安全保障の確保と、日本とUNDPの共通の優先分野においてパートナーシップを更に深めることで、各国の差し迫った課題に協働して取り組んでいくことが重要だと思われます。
紛争の拡散、気候変動による緊急事態の加速化、不平等の拡大など、深い混乱に直面し、分極化している世界においてマルチラテラリズムは重要な役割を果たしておりまして、ウクライナやアフガニスタン、イラクの危機、復興やアフリカ開発会議、TICADに代表されるように、マルチラテラリズムを推進する日本の継続的なリーダーシップに期待しております。
SDGsの達成に向けた国際的な啓蒙活動やSDGs投資の促進においても、官民挙げてSDGsに取り組んでいる日本の貢献が期待されております。実際、UNDPは、二千億ドルの公的資金のみならず、民間投資をSDGsに整合させるお手伝いをさせていただきました。
昨年六月に改定された開発協力大綱では、国際社会が複合的危機に直面する中で、人間の安全保障の理念に基づき、日本が国際的な協力を牽引すべき立場にあることが示されました。特に、平和と繁栄への貢献、複雑な危機の新時代における人間の安全保障、UNDPが得意とする開発途上国との対話を通した社会的価値の共創など、新たに改定された開発協力大綱の多くの側面において日本とUNDPは今後一層の連携を強化していけると考えております。
御清聴ありがとうございました。