橘幸信の発言 (憲法審査会)
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○橘法制局長 衆議院法制局の橘でございます。
本日は、枝野会長を始め幹事会の先生方の御指示により、国民投票法に関する本審査会でのこれまでの議論のうち、放送CM及びネットCMに関する議論の概要につきまして御報告をさせていただくことになりました。前回及び前々回同様、先生方の御議論の参考に資するよう、簡潔で分かりやすい説明を心がけたいと存じますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。
それでは、早速ですが、お手元配付のパワポスライドのA4横長の資料を御覧ください。
まず、表紙と目次をおめくりいただきまして、一ページですが、放送CMに関する議論の経緯を御理解いただくために、まず、国民投票法制定時の議論について御報告申し上げます。
衆議院憲法調査会の最終報告書取りまとめの議論が行われていた二〇〇五年当時、憲法制定後約六十年を経てもなお、憲法改正国民投票法は、憲法九十六条に基づく基本的な憲法附属法規であるにもかかわらず、制定されておりませんでした。
その制定に向けた議論が大きく進展するきっかけとなったのは、同年二月、当時会長代理を務めておられた枝野幸男先生の次のような御発言でした。
政権がどちらの側にあったとしても共通のルールを憲法で規定する、そういう観点から、憲法改正手続につきましても、今のような共通の基盤を持てる政党間において真摯な協議、議論の上で、幅広い国会の意思で早期に制定をすることが望ましいというふうに考えております。
この御発言に対して、自由民主党の保岡興治先生、船田元先生、公明党の太田昭宏先生などが相次いで呼応する御発言をされ、その後、与野党協議を経て、同年九月、衆議院に、国民投票法制定のための憲法調査特別委員会が設置されたのでございました。
また、この御発言の前後から、この法律の基本的な枠組みをどうするかが議論となっておりました。
一方には、昭和二十八年に当時の自治庁が作成した法案をベースに、公職選挙法の仕組みに倣いつつ、これに国民投票に特有な部分の手直しを施せばよいという発想がございました。
これに対して、公選法は、候補者間の平等を旨として規制でがんじがらめになっている、べからず集だ、識者によってはこれを不自由の平等と称しているようですが、このような公選法の仕組みを前提とすることなく、主権者国民が国家の基本政策に直接関与できる貴重な機会なのだから、できるだけ規制のない自由な運動を保障する仕組みを構築するべきとの意見もございました。この後者の主張をされたのが、当時の枝野先生と山花郁夫先生でした。
様々なやり取りの中で、多くの会派の先生方がこの枝野・山花ラインの主張を受け入れて、具体的な制度設計の議論に入っていったのでございました。
その際に、大きな論点の一つになったのが、放送CMの問題でした。
新聞や雑誌などの紙媒体については、編集行為や一定の時間的経過の中で真偽や適否が判断され、また、それに対する対抗言論もそれなりに可能なので、有料広告も含めて一切自由でいい。しかし、テレビやラジオの放送メディアについては、その即時性などのメリットとともに、視聴者の感性に訴える扇情的なものも少なくなく、有権者の冷静な判断にとって弊害となるおそれもある。また、テレビCMには相当な費用がかかるので、その経済力によって流せるCM量に大きな差が出てきてしまうなど、国民投票の公平公正に大きなマイナスの影響を与える可能性があることが共通の認識となっていきました。
そこで、原則自由な国民投票運動においても、放送CMについてだけは、一つ、期日前投票が始まる投票日前二週間は禁止、二つ、これ以上の法規制はしない代わりに、放送事業者は放送法の下でCMの自主規制を行う、三つ、国民投票広報協議会が賛否平等の枠の下で公的な広報活動を行う、これら三つの手法によって、放送CMの賛否平等と、それを通じた国民投票の公平公正を担保することとされたのでした。
ここで、国民投票広報協議会について簡単に御説明申し上げておきます。
資料二ページを御覧ください。
広報協議会は、憲法改正が発議されたときに国会に設置される広報のための特別な機関です。メンバーは、衆参両院から十名ずつ、合計二十名の議員によって組織されますが、本日の報告との関係で重要なのは、この資料の右側にありますように、この広報協議会が行う様々な広報活動、すなわち、国民投票公報の原稿作成、新聞やテレビ、ラジオ、ネットも含めた様々な媒体で行う公的な広報活動について、二つの法的な義務づけがなされているということです。すなわち、一つ、憲法改正案の内容や議論の経過等については、客観的、中立的に、かつ、分かりやすい説明をすること、二つ、これに関する賛成意見、反対意見の記載等については、公正かつ平等に、すなわち、賛否の意見を量的にも平等に掲載すること、この二つです。
次に、資料三ページを御覧ください。
以上のように、二〇〇六年から二〇〇七年の法制定時の議論においては、放送事業者が国民投票CMに関し自主規制を行うことは与野党の共通認識とされ、当時の民放連の山田参考人も、「自主規制はできます。やらなければいけないというふうに思っております。」と発言しておりました。そして、この発言の前後のやり取りから、ここで言う自主規制は、量的に賛否平等の自主規制との受け止めがなされておりました。まずはこの点を確認することがポイントになります。
その後は、昨年十二月十九日の私の御報告でも言及いたしましたように、一時期、国会の憲法論議は大きく停滞いたしましたので、この議論が再度本格化したのは、二〇一八年に入ってからになりました。
同年七月、民放連の責任者を幹事懇談会に招致し、自主規制の検討状況について伺った際は、本格的な検討はこれからとのことでした。
ところが、同年九月に、民放連の大久保会長が量的自主規制はしないと発言され、また同年十一月には、制定時の民放連の山田参考人の発言は量的な賛否平等の自主規制を行うことを前提としたものではないと表明されました。
憲法審査会の先生方は与野党を問わずに大いに驚き、一部には、法制定時の約束がほごにされた以上、国民投票法は欠陥法になってしまった、このままでは国民投票は実施できないとの主張までされるようになりました。
また、この約束ほご論とは別に、法制定後十年以上経た今日、国民投票を取り巻く環境は大きく変わったとして、改めて、国民投票の公平公正確保の観点から、放送CMの問題を含めて国民投票法の仕組みを見直すべきではないかとの事情変更論も出てくるようになり、放送CMの見直しの議論へとつながっていったのでございました。
その後、民放連は、同年十二月に国民投票運動対応に関する基本姿勢を、また、翌二〇一九年三月には国民投票運動CMの考査ガイドラインを発表し、民放連が考える自主規制の全体像が明らかになっていきました。
そこで、同年五月、憲法審査会に永原専務理事らを招致して参考人質疑が行われました。しかし、民放連側は、我々はCMの受け手であって、量に特化した自主規制はできないし、行わないことにしたとの主張を繰り返し、議論は平行線のままでした。
その後、しばらくの冷却期間を置いた二〇二二年になって、与党筆頭幹事となっていた新藤義孝先生は、民放連のCM考査ガイドラインを子細に検討した上で、このガイドラインの下でも運用次第で量的規制はある程度できるのではないか、その点を審査会の質疑を通じて確認し、担保する必要があるとのお考えの下に、同年四月、改めて永原専務理事らを招致して、次のようなやり取りが行われました。
資料四ページを御覧ください。
新藤先生は、民放連の自主規制のポイントを幾つか挙げられた上で、その中に、特定の広告主のCMが一部の時間帯に集中して放送されることがないよう特に留意するといった項目があることを指摘して、ここには量も要素とした規制が盛り込まれているのではないかとの趣旨の質問をしました。
これに対して、永原専務理事は、「今、新藤先生が大変分かりやすく、整理してお話しされていたと思います。先生のおっしゃるとおりの意味でございます。」と述べ、さらに、「量を全く考慮せずやるかといったら、そんなことはなくて、ありとあらゆることを総合判断する。」と述べました。
このやり取りを受けて、新藤先生は、民放連の自主規制は評価できるものであり、残る問題は、広告の主な出し手である我々政党側による取組と、広報協議会を通じた公平な広報活動の確保ではないかとの意見を表明され、これに賛同する意見が他の会派からも述べられました。
これに対して、立憲民主党の先生方からは、今日まで一貫して、民放連の自主規制では賛否の量的平等は担保されているとは言えず、憲法改正が発議された日から投票日までの全期間、全ての勧誘CMは禁止するべきである、また、広報協議会を通じて意見表明の機会が保障されている政党等については、勧誘CMだけではなく、意見表明CMも禁止するべきであるといった御主張がなされているところです。
以上の放送CMに関する議論が、次のネットCMの議論にもつながってまいります。
資料五ページを御覧ください。
放送CMに関する参考人質疑の中で、永原専務理事の次の御発言は、ネットCMの議論を喚起する大きなきっかけの一つとなりました。
すなわち、テレビやラジオのCMは投票日前二週間禁止されるが、ユーチューブなどの動画CMは禁止されない、とすると、時に感情に訴える、扇情的な影響力を持つ動画広告が大量に流れ、SNSを通じて大量に拡散されることになってしまうではないか、果たして、そういう状況は、国民投票法第百五条、これは放送CMを投票日前二週間禁止した条文ですが、この条文が期待した、国民が冷静に判断できる投票環境と言えるのかとの趣旨の問題提起をされたのでした。
また、次の資料六ページのグラフが如実に表しているように、CMを取り巻く背景事情も大きく影響してございます。国民投票法が制定された二〇〇七年当時にはテレビ広告費の三分の一以下だったネットCMの市場規模が、二〇一九年にはテレビ広告費を上回り、二〇二一年にはマスコミ四媒体の広告費をも上回るといった状況です。
次に、資料七ページを御覧ください。
以上を踏まえて、本審査会では、ネット広告事業者の団体である日本インタラクティブ広告協会の専務理事らを参考人として招致し、ネットCMへの対策について議論を行いました。
参考人からは、インターネットに限らず、メディアからの情報経路は多岐にわたり、放送CMとネットCMだけを仮に規制することで本当に効果があるか疑問である、実務面や実効性の観点からは、広告の受け手側が自主的に公平性を確保することは難しい、広告の出稿方法は広告の出し手側が設定するものであるといった意見が述べられたところです。
最後に、資料八ページの一覧表を御覧ください。以上のような経緯と議論を踏まえて、各会派から指摘された主な意見のポイントをまとめたものです。
議論の全体像を御理解いただきやすいように分類、整理して、左の欄から法的効力の強い順に並べております。すなわち、一番左の欄には、当該行為の禁止といった直接的な法規制、その右の欄には、努力義務を含む一定の法的義務づけを伴う間接的な法規制、その右の欄には、より緩やかな法的措置としてのガイドラインの策定など、最後に、その右の欄に、広告の受け手である事業者や出し手である政党などによる自主的取組を掲げております。また、一番右端の欄には、備考として、これら四つの規制手法に関する議論のポイントを掲げておきました。
本日のテーマであります放送CM及びネットCMの欄から読み取れる事項を、時間の関係もありますので二つほど挙げて、本日の御報告のまとめとしたいと存じます。
一つは、「放送CM」の欄においては、強い法規制として、先ほども御紹介しましたように、全期間、全ての勧誘CMの禁止と、政党等による意見表明CMの禁止といった事項が提案されております。他方、そのすぐ下の「ネットCM」の欄になりますと、全ての者に対する禁止規定は難しく、政党等に対する禁止規定のみが提案されております。ここに、来週のテーマにも通じるネット規制の難しさが表れていると言えるかと存じます。
もう一つは、だからこそ、間接的な法規制の分野において様々なアイデアが出されてきているように思われることです。例えば、広告主の表示義務や、事業者のCM取扱件数などの広報協議会への報告義務、さらには、ネットCMの分野については、その事後的な検証を可能とするデジタルアーカイブの作成義務などです。
今後の先生方の御議論を通じて、以上の間接的な法規制に加えて、緩やかな法的措置の分野及び自主的取組の分野を含めて、ハードロー、ソフトローを組み合わせた更なるアイデアが出てきて、自由な国民投票運動の保障と公平公正な国民投票のバランスが取れた制度設計がなされていくものと確信しております。
以上、放送CM及びネットCMについて、本審査会におけるこれまでの議論の概要を分類、整理して御報告申し上げたつもりでございます。
御清聴ありがとうございました。