橘幸信の発言 (憲法審査会)
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○橘法制局長 衆議院法制局の橘でございます。
本日は、枝野会長始め幹事会の先生方の御指示により、国民投票法に関する御議論のうち、ネットの適正利用、特にフェイクニュース対策に関するこれまでの本審査会における議論の概要について御報告をさせていただきます。どうぞよろしくお願い申し上げます。
早速ですが、お手元配付の資料の表紙と目次をおめくりいただきまして、一ページ、及びこれに併せて、簡単な用語解説を掲載いたしました二ページを御覧ください。
本審査会では、ネットの適正利用の観点から、ネット社会と憲法の関わりをテーマとして、この分野の第一人者でいらっしゃる慶応義塾大学の山本龍彦先生から御意見を伺いました。山本先生は、現在のネット時代における言論環境の変化について、次のように述べて、大きな警鐘を鳴らされました。
すなわち、まず、個人データからAIを用いて当該個人の趣味、嗜好、健康状態や精神状態、社会的信用力に至るまで自動的に予測、分析をするプロファイリング、この手法によって得られた情報が、対象者を選別して効果的な選挙戦略を構築する政治的マイクロターゲティングに用いられると、民主主義に多大な影響を及ぼすこと、また、いかに人々の注意を引き、自分のサイトに一秒でも長い時間とどまってもらうかといったアテンションエコノミーの時代では、事実の報道よりも刺激的な情報の方が拡散されやすいといった傾向から、デジタル言論空間は刺激競争の場へと変容していくこと、さらに、これらのネット社会の特徴が、個人的傾向によって選別された同じ意見だけに触れるようになるフィルターバブルを生み、それが、同じ意見を持つ者同士だけが触れ合って意見が極端化していくエコーチェンバーと組み合わせられると、ますますフェイクニュース拡散の温床となっていくと述べられました。
このような状況において外国からの介入があると、選挙はもちろん、国民投票においても、有権者が適切にその権利を行使できる基礎的条件が失われてしまい、その結果の正統性すら疑われる状態に陥ってしまうとも指摘されました。
これに対して考えられる方策として、まずは、ふだんから言論空間全体を健全化すること、これを山本先生は情報的健康と呼んでいます、そのためには、EUのように政治広告の透明性を高める規律を行うこと、さらに、デジタル空間において今や国家権力をしのぐほどの権力を持つに至っている巨大デジタルプラットフォーマーたちに対して、一定の法的措置、ハードローと、その任意の協力に基づく自主規制、ソフトロー、これを取り合わせた措置を講じることが必要だと述べられました。
以上のようなネットによる言論環境の現状を念頭に置きつつ、複数の実務関係者からのヒアリングも行っております。
資料の三ページを御覧ください。
まず、LINEヤフーなどインターネット関係事業者による一般社団法人セーファーインターネット協会の吉田専務理事は、偽情報対策について次のように述べられました。
一つ、マスメディアをその主な担い手とするこれまでの情報環境が相対的に安定していたのとは異なり、インターネットの出現によって個人にも情報発信の場が与えられた結果、情報の質は玉石混交となり、近年では民主主義を脅かすような偽情報が横行するようになってきたこと、二つ、これに対処するためには、社会を構成する各機関が協力して偽情報に強い社会の実現を図る必要があると述べて、偽情報対策の重要性を訴えられました。
そして、この偽情報の問題については、単一の手段で、副作用なく問題を解決することは難しいこと、また、表現の自由を確保しつつ、他の法益との調整を図りながら対策を行う必要があることなどを述べられた上で、考えられる方策としては、一つ、正確な情報を目立つ箇所に掲載すること、二つ、自然な動線の中に正確な情報に触れる機会を現出することが肝要であると指摘した上で、三つ、社会的なコンセンサスを得つつも、あくまでも最終的には各民間事業者が自主的に判断することが大事であることを強調されました。
なお、吉田参考人が言及した従来のマスメディア、いわゆるオールドメディアなどとも呼ばれるようですが、これについては、現在のネット時代における新たな役割を期待する御発言もございました。すなわち、放送CMの文脈の中での御発言でしたが、法的な枠組みの裏づけがある民間放送事業者が流す放送CMは、ネット広告がフェイクであるかどうか、その信憑性を判断する際のバロメーターになり得るといった趣旨の新藤義孝先生の御指摘です。
以上を踏まえた各会派の委員からの主な御発言を、資料四ページと五ページにまとめております。
前回の放送CMやネットCMの分野とは異なり、このネットの適正利用一般の分野においては、これまでの議論においては、発信禁止などの直接的な法規制に関する御意見はほとんど見られませんでした。他方、一定の義務づけを行う間接的な法規制に関しては、与野党を問わずに各会派から様々な御意見、御提言が述べられております。例えば、一つ、勧誘や意見表明を行う者、すなわち情報の発信者のメールアドレス等を画面に表示することを義務づけること、二つ、国民投票に係る憲法改正案に関する発信については、検索事業者等に対して、広報協議会ホームページのURLを優先的に表示することを義務づけたり、あるいは協力要請をしたりすること、三つ、ネットの適正利用について利用者の努力義務を定め、情報リテラシーを醸成するための措置を講じていくことなどです。
また、自主的取組を後押しするための緩やかな法的措置として、広報協議会による、ネット適正利用を促すガイドラインの策定や、事業者等の自主的取組としての自主規制を促す御意見もございました。
次にファクトチェックですが、その概要等の基礎知識を資料六ページにまとめておきました。これは御参照いただくことにとどめて、次の資料七ページを御覧ください。
ファクトチェック・イニシアティブの楊井事務局長をお呼びして、我が国におけるファクトチェックの現状と対策について伺いました。
楊井参考人は、まず、国境を越えた偽情報、誤情報の流通リスクが高まっている今日、海外ではファクトチェックが活発に行われていること、これに対して、我が国におけるファクトチェック活動は資金、人材共に不足していることを指摘されました。現在でも、国際ファクトチェックネットワークの認証を得たファクトチェック団体は、我が国では三団体にとどまっております。
その上で、楊井参考人は、このような我が国の現状を考えると、検証活動の独立性を保った上で、民間のファクトチェック団体に対して何らかの公的支援を行う枠組みが必要であること、プラットフォーム事業者の協力も不可欠だが、他方、法律で直接規制をすることは望ましくなく、あくまでも民間団体に任せるべきとの御意見を述べられました。
以上を踏まえた各会派の委員や参考人からの御発言を、資料八ページから十一ページにまとめてございます。
まず、八ページと九ページを御覧ください。
一つ、広報協議会がフェイクニュースの例示やその取扱いに関するガイドラインを策定すること、二つ、影響の大きいフェイクニュースについては事業者から広報協議会に一定の報告義務を課すこと、三つ、広報協議会と民間ファクトチェック団体が相互に連携をすること、このような方策が各会派から提案されております。
次に、十ページと十一ページを御覧ください。
公的機関である広報協議会が自らファクトチェックを行うことの是非について議論がなされてまいりました。すなわち、諸外国においても選挙手続や外国由来の情報を対象として公的機関がファクトチェックを行っている例はあり、我が国でも広報協議会がファクトチェックを行うことを検討すべきとの積極説が述べられる一方、ファクトチェックは民間団体が自主的に行うべきものであり、国会に設置された広報協といえども、公的機関がこれに直接介入することは国家権力による情報統制の危険を生じさせるため行うべきではないとする消極説も述べられております。
外国の制度については、次に国立国会図書館の御担当者から御報告がございますが、資料十二ページに、事実かフェイクかの検証を公的機関が行っている海外の事例について、本審査会において積極説の委員が言及された国を中心に、若干の事例を掲載しておきました。
最後の資料十三ページの一覧表は、前回の論点を含めて、各委員の主な御意見を一覧表にしたものです。御議論の際の参考資料として御参照いただければと思います。
以上、本日は、ネットの適正利用、特にフェイクニュース対策について、本審査会におけるこれまでの議論の概要を分類、整理しながら、その論点を浮き立たせる形で御報告申し上げました。
私からの御報告は以上です。御清聴ありがとうございました。