橘幸信の発言 (憲法審査会)
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○橘法制局長 衆議院法制局の橘でございます。
枝野会長を始め幹事会の先生方の御指示により、本日は、憲法五十三条後段の規定に基づく臨時会の召集要求の制度について御報告をさせていただくことになりました。
先生方の御議論の前提となる基本的な情報提供をするよう心がけたいと存じますので、本日もどうぞよろしくお願い申し上げます。
それでは、早速ですが、お手元配付のパワポスライド資料の表紙と目次をおめくりいただきまして、一ページを御覧ください。
まず序論として、現行憲法における国会召集の基本的な枠組みについて御報告申し上げます。
現行憲法においては、国会が活動を開始するには、内閣の助言と承認による召集の決定に基づいて、天皇の国事行為としての召集がなされなければなりません。他者の行為によって国会が集会しその活動を開始するこの仕組みは、他律的集会主義の原則などと呼ばれるものです。国会は自らの意思では活動を開始することができないという仕組みです。
しかし、一旦召集がなされますと、何をどのような順番で調査審議をするのかについては、内閣の関与なく、国会が自律的に決定できますし、また、いつまで国会を開いていくのか、その活動終了の時期も、解散のような場合を除いて、国会自身で決めることができます。
すなわち、入口は他律的だけれども中身と出口は自律的に決定できるというのが、現行憲法の定める基本的な枠組みと言うことができます。
次の二ページ目は、参議院の緊急集会の場合についてです。
参議院の緊急集会の場合は、入口のみならず、審議の中身も、活動終了といった出口も、若干自律性に制限がかけられているということを示した図です。
次に、資料三ページを御覧ください。
以上の基本的な枠組みを念頭に置いた上で、憲法五十三条後段に関する基本的な解釈論上の論点分析に入ってまいりたいと存じます。
まずは、五十三条の条文の確認です。
前段は、「内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。」と規定していますが、この部分は、他律的集会主義の原則を確認した規定と言えます。
これに続いて、その後段で、衆参のいずれかの議院の総議員、これは法定議員数と解釈されていますから、欠員がある場合であっても、常に衆議院では四百六十五人、参議院では二百四十八人となりますが、その四分の一以上の要求、したがって、衆議院では百十七人以上、参議院では六十二人以上の要求があれば、内閣は臨時会の召集を決定しなければならないと規定されています。
国会法の三条では、その要求の際には、連名で、議長を経由して、要求書を提出する、といった手続が定められているところです。
次に、資料四ページを御覧ください。
このように、国会議員側に、しかも、四分の一という少数会派でも行使可能な人数でもって臨時会召集に関する権限を与えたことは、他律的集会主義の中に自律的集会主義の要素を盛り込んだものと言えます。その趣旨については、一般的に、少数派の権利保護のためとの説明と同時に、衆議院に基礎を置く内閣とは別に、参議院に対して国会の活動開始につながる権限を付与したものとも説明されているところです。
ただし、憲法は、その要求を受けて召集を決定する内閣に対していついつまでに召集決定を行いなさいという期限までは定めていないことをどう考えるかが問題となります。国会側に、しかも少数派に召集要求権は認めたが、いつ臨時会を召集するのかの決定権は依然として内閣に委ねられているということになっているわけです。
そして、この両者を整合的に説明する概念として出てくるのが合理的期間論であり、憲法五十三条後段は、合理的期間内に召集しなければならないという法的義務を定めた規定、このように説かれることになるわけです。
次に、資料五ページを御覧ください。
この合理的期間の解釈論に入る前に、なぜ四分の一という数字なのかについて、制定経緯を眺めてみたいと思います。
明治憲法にはなかった、国会議員による臨時会の召集要求という制度ですが、当初、日本側は三分の一といった数字でこの制度を設けようとしていました。しかし、この案は、一九四六年二月八日にGHQに提出された憲法改正要綱では削除されていました。その理由は、その直前、二月一日の閣議で、閉会中に議員が議員としての行動をすることになるから新しい制度である、その点やや問題がありやしないかとか、特に規定を設けずに実際政治の運用の上で目的を達することにしてはどうかといった反対論があったからでした。ただ、当初の案を起案した松本烝治博士は、デモクラシーの立場からすればこの規定は必要であると応答していたそうです。
さて、GHQ側は、この臨時会召集要求の制度を設けることとし、数字は変動しますが、最終的には二〇%、すなわち五分の一の提案をしたところ、これを受けた日本側は、当初案の三分の一とGHQ提案の五分の一の間を取って四分の一とした、それがこのまま成立したという経過だったようです。
次に、資料六ページを御覧ください。
このようにして成立した憲法五十三条後段ですが、その法的位置づけについては、三つの論点を確認することが必要かと存じます。
まず第一に、その法規範性ですが、政府見解、学説共に、この召集要求に応えて臨時会の召集を決定すべきことは、憲法上の法的義務であることについては一致しています。政治的責任などではございません。
第二に、それでは、その解釈上の召集期限ともいうべき合理的期間についてですが、政府見解では、召集に当たって整理すべき諸課題によって変わるものであり、一概には言えないと述べられています。
これに対して、学説では、閣法の提出準備などの内閣側の事情、内閣独自の立場からの臨時会召集の必要性の判断などを理由とする遅延は許されないと述べて、合理的期間は客観的に決まり得るものとされ、後ほど見ていただきますが、資料十ページの明文化のところでも議論されるところでありますけれども、せいぜい二、三週間とか、二十日以内、三十日以内といった数字を挙げる論者もいるところです。
三つ目として、仮にそのような合理的期間内の召集義務に反すると認められた場合の内閣の責任ですが、政府は、義務違反の場合の法的効果についての規定は憲法にはないと述べるのみです。この点について、更に敷衍すれば、政治的責任か法的責任かについて申し上げることは差し控えるとの内閣法制局の答弁もあるところです。
他方、学説においては、多数説は政治的責任が生ずるのみとしていますが、法的責任を認める少数説もございます。最高裁判決の反対意見のところで御紹介申し上げます。
次の七ページには、過去二十年間に提出された、衆議院議員による臨時会召集要求の事例を掲載してございます。
よく言及されるのが、第百九十三回常会閉会後の平成二十九年六月二十二日に、いわゆるモリカケ問題の真相究明を理由として提出された臨時会召集要求に対して、実際に第百九十四回臨時会が召集されたのが九十八日後、しかも、その臨時会召集当日に衆議院が解散されましたので、その総選挙後の特別会が召集されるまでの期間を入れると、召集要求後百三十二日かかったことになる事例です。これについては、合理的期間内の召集決定と言えるのかといったことが問題となりました。
この事案については、次の資料八ページから九ページに掲げましたように、訴訟が三件提起され、既に最高裁判決も出ているところです。
沖縄地裁に提訴された事案の原告のお一人は、本審査会の委員でもいらっしゃる赤嶺政賢先生です。私が御紹介するのも大変僭越ですが、この事案は、召集されるべき臨時会での議員活動を行う機会が奪われたことに対して、損害賠償お一人一万円を求めたものです。
下級審判決では、地裁、高裁共に、まず、一つ、五十三条後段の規定による内閣の召集決定は憲法上の法的義務であること、二つ、その召集決定は合理的期間内にしなければならないこと、そして三つ、この合理的期間の解釈問題は法律問題であって、高度の政治性を有する行為として司法審査の対象とならない、いわゆる統治行為論などは採用しないことといった判断が述べられているところです。
しかし、同時に、内閣の召集決定は個々の国会議員に対する義務ではなく、したがって、ここで資料の九ページに入っていただきますが、国賠法一条に言う違法とは評価できないとして、訴え自体は棄却されました。また、平成二十九年の臨時会召集の憲法適合性といった個別事案に対する判断にも踏み込みませんでした。
最高裁判決も、内閣の臨時会召集は義務であることは認めたものの、それは個々の国会議員の臨時会召集要求に係る権利利益を保障したものではないとして、その他の憲法上の論点には踏み込むことなく、国賠法上の損害賠償請求は否定されています。
ただし、最高裁判決では、行政法学者でもいらっしゃる宇賀克也裁判官が反対意見を述べています。そこでは、一つ、特段の事情がない限り、内閣は、合理的期間、しかも具体的に二十日以内に臨時会召集を決定する法的義務を負うこと、二つ、これは個々の国会議員に国会活動における諸権利行使のための手続的な権利を付与したものであること、三つ、したがって、特段の事情なくこれが侵害されたときは損害賠償は認められるべきであることなどが述べられています。
次に、資料十ページを御覧ください。
以上の解釈論を踏まえて、国会の内外で、この召集期限の明文化に関する議論が立法論として行われてまいりました。
まず、憲法改正ではなく、法律レベルでこれを認めることができないかが問題となりました。多くの学説は、憲法五十三条後段による臨時会の召集決定は憲法上の義務であるから、それを具体化するために法律で具体的な期限を定めることは、その期間が相当なものである限り憲法に違反しないと述べています。これに対して、一部には、他律的集会主義の原則との関係で憲法構造上の問題があるだけではなくて、議院内閣制の下での国会と内閣のチェック・アンド・バランスの関係からも、内閣の裁量に制限を加えることは妥当ではない旨述べる論者もおられます。
なお、具体的に召集期限を定める場合の課題も指摘されています。資料十一ページを御覧ください。
例えば、会期延長が多数決で否決されて国会が閉会したその直後に臨時会の召集要求が行われた場合、自律的な国会活動の終了と、これまた自律的な集会主義がバッティングすることになりますが、これをどのように整合させるのか。これは、内閣と国会との関係ではなくて、国会多数派と国会少数派の関係であり、なかなかに難しい論点だと思われます。
これに対しては、一定のインターバルを置いて、閉会から一定期間、あるいは、召集要求が繰り返されないようにするためには前回の召集要求から一定期間は臨時会の召集要求を禁止するなどすれば、濫用防止への対策が取れるのではないかとの御提案もございます。
しかし、これに対しては、閉会直後に国会審議を真に必要とする新たな事態が生ずる場合もあるのだから、一定の期間といった数字による一律の禁止はかえって憲法違反の疑義を招くとの指摘もあるところです。宇賀裁判官の言うような特段の事情などを盛り込む工夫も必要かもしれません。
これに関連して、資料十二ページを御覧ください。
国会閉会後の国会活動の必要性への対応は、臨時会の召集でなくても、予算委員会その他の関連する委員会の閉会中審査の活用でも対応可能ではないかとの反論もなされているところです。この資料は、国会としてフルスペックの活動ができる臨時会と、個々の委員会が調査及び審査活動を行う閉会中審査について、専ら衆議院の場合を念頭に対比してみたものです。なお、参議院では継続審査という表現で呼ばれているところです。
次に、資料の最終ページ、十三ページを御覧ください。
以上のような議論を背景として、複数の政党、会派からは、この臨時会召集要求に対する、召集決定期限を明文化する提案が幾つかなされてまいりました。
まず、二〇一二年、当時は野党の立場におられた自由民主党が、憲法改正案の形で、憲法五十三条後段に二十日以内との期限を設ける提案をされたことがございました。
また、一昨年、二〇二三年には、維新、国民、有志の三会派の共同提案として、緊急時における国会機能の維持に関する総合的な憲法改正案の御提案の中の一つとして、緊急時、平時を問わずに、召集要求に基づく臨時会の召集を確実に担保し、国会機能を維持するために、同様に二十日以内の召集決定を義務づける改正案が発表されています。
他方、その前年、二〇二二年の臨時会では、立憲、維新、共産、有志、れいわの五会派共同の衆法、衆議院における議員立法として、こちらは国会法改正案という法律レベルでの対応になりますが、二十日以内といった召集期限を明記する提案がなされているところです。
以上、本日は、憲法五十三条後段の規定に基づく臨時会の召集要求に関して、現行の憲法規定の解釈論、その上での召集期限明文化の立法論のそれぞれについて御報告をさせていただきました。
御清聴ありがとうございました。