平和博の発言 (憲法審査会)
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○平参考人 桜美林大学の平でございます。
本日は、このような貴重な機会をいただき、誠にありがとうございます。
私は、メディア環境の変化を、シリコンバレー駐在を含め、三十年以上にわたって取材をしてまいりました。本日は、その観点から、憲法改正国民投票をめぐるいわゆるフェイクニュースそれからファクトチェックの課題について意見を述べさせていただきます。
まず、お断り申し上げます。
私は、メディア論を専門とする実務家教員であり、法律論については十分な専門的知見を有しておりません。また、本日の発言は、あくまで私見であり、関連団体を代表するものではないことをあらかじめ御了承ください。
それでは、五ページを御覧ください。
本日は、この五つの論点を中心に御説明をいたします。
まず第一に、ファクトチェックは、広報活動とは切り分け、民間主導で進めるべきだと考えます。マスメディアによるファクトチェックの取組強化も重要です。
第二に、ファクトチェック団体と国民投票広報協議会の直接的な連携は難しいと考えます。一方で、幅広いステークホルダーによる透明性の高い情報共有の場の設定は選択肢となり得るのではないかと思います。
第三に、偽情報の拡散は、生成AIによる高度化、サイバー攻撃との連動などで対応のハードルが上がっています。安全保障の文脈では、政府機関との連携、国際的な連携も重要です。
第四に、ネット広告を用いた偽情報の拡散は、いわば見えない拡散です。透明性確保のため、日本においても広告ライブラリーの整備が求められます。
第五に、偽情報、誤情報対策に決定打はなく、社会のレジリエンス、すなわち強靱性に着目した総合的で継続的な取組が不可欠となります。
以下、具体的に御説明いたします。
六ページを御覧ください。
まず、フェイクニュースとファクトチェックにまつわる用語の整理をいたします。
フェイクニュースという言葉は、偽情報、誤情報、さらに、デマ、流言なども含む幅広い意味で使われております。ここには、法令違反の違法情報、違法ではなくともプラットフォームの利用規約に違反する有害情報、あるいは誹謗中傷などにおける虚偽情報も含まれます。
政策の焦点は、多くの場合、偽情報、誤情報対策です。特に、意図的に拡散される有害な虚偽情報である偽情報対策が喫緊の課題です。ですので、本日の説明も偽情報対策を軸に進めさせていただきます。
問題の中心は、このような虚偽情報が社会に分断や混乱、扇動、人権侵害といった深刻な危害を及ぼす点にあります。
欧州連合、EUのデジタルサービス法、DSAは、規制の中心を違法情報とし、必ずしも違法ではないが有害な偽情報には、主に、DSA、デジタルサービス法と連動するプラットフォームの自主規制、偽情報に関する行動規範で対応をしております。
日本では、違法情報を規制する関係法令に加えて、今年四月に施行された情報流通プラットフォーム対処法により、権利侵害情報などへの大規模プラットフォームの対応も整備されました。
七ページです。
次に、ファクトチェックの定義と規律について御説明いたします。
ファクトチェックは、欧州ファクトチェック基準ネットワークの定義によれば、公共空間における言説の正確性をエビデンスに基づく手法で検証することとされています。
また、ファクトチェック団体の信頼性担保の規律として、国際ファクトチェックネットワークが掲げる非党派性と公正性、情報源の基準と透明性、資金源と組織の透明性、検証方法の基準と透明性、訂正方針のオープン性の五原則が国際的な基準となっております。
八ページです。
続いて、偽情報、誤情報へのファクトチェックの主体についてです。
公的機関による正確な情報の発信と、非党派性、独立性、透明性が求められるファクトチェックとは、区別した議論が必要だと考えます。
公的機関がファクトチェックを掲げて情報流通にラベルづけをすることは、表現の自由を侵害するリスクをはらみます。
また、憲法改正発議によって設置される広報協議会のような組織で、ファクトチェックの規律にのっとったノウハウが蓄積されるということは現実的には想定しづらいのではないかと考えます。
九ページ。
ただし、公的機関の情報発信が高い信頼を得ていることも事実です。総務省のICTリテラシー実態調査によると、ソーシャルメディアやネットの情報を正しいと判断する基準として、公的機関が発信元、情報元であるとする回答が最も多かったという結果も示されております。
公的機関などの成り済まし、災害時の被害状況や避難、救助の虚偽情報、あるいは制度や手続に関する虚偽情報など、公的機関による正確な情報発信が必要とされる場面もあります。
厚生労働省の新型コロナワクチンQアンドAや外務省のALPS処理水をめぐる偽情報対応のような取組の事例もあります。ただ、これらは、一定の規律に基づいて情報の正確性を検証するファクトチェックとは異なり、正確な情報の流通で正しい理解を促す広報の範疇と見ることができます。
国民投票における広報活動についても、正確な情報をより広く流通させることに重きを置き、ファクトチェックとは区別した方が国民にも分かりやすいのではないかと考えます。
十ページ。
次に、広報協議会とファクトチェック団体が直接連携すること、これは難しいと考えております。ファクトチェック団体はメディアの一形態であり、国家からの統制を受けない独立性、非党派性、透明性が基本となります。ファクトチェック団体が国家機関と一体となるような取組は望ましくないだろうと思います。
ただし、偽情報、誤情報対策に関する国と民間の情報共有の場が必要だとすれば、政府関係機関、プラットフォーム、マスメディア、ファクトチェック団体、学術界、市民団体など、幅広いステークホルダーが参加する、透明性を担保したラウンドテーブル形式の場の設置は選択肢となり得ると考えます。
偽情報、誤情報対策は国民投票に限ったものではありません。このような情報共有の場は、選挙への対応も視野に設置を検討してもよいのかもしれません。
十一ページです。
国民投票にまつわる偽情報の流通は、広報協議会の設置以前、憲法改正原案提出の機運が高まる段階から拡大する可能性があります。したがって、広報協議会設置時点では、既にファクトチェック結果が一定程度蓄積されていることも想定されます。広報協議会がこれらの蓄積を整理し、国民への啓発に活用する広報活動は考えられます。
プレバンキングという手法もございます。想定される偽情報、誤情報に関する主な検証結果をあらかじめ公表しておくことで、社会の免疫力を高めるという手法です。国民投票運動の本格化前にファクトチェック団体が取り組むことも想定されますが、広報協議会の発信でその後押しをすることはできるのではないかと考えます。
ロシアによるウクライナ侵攻時、ウクライナのゼレンスキー大統領のAI偽動画、ディープフェイクスが拡散されました。しかし、その二週間前にウクライナ政府は偽動画の情報を把握し国民に注意喚起をすることで、実際に拡散した際の混乱を抑制することができたとされています。
十二ページ。
社会全体のファクトチェック機能の強化には、マスメディアの積極的な取組も期待したいと思います。ファクトチェックは、専門団体だけではなく、海外ではマスメディアも広く実施してまいりました。
国際ファクトチェックネットワークには、AFP通信、ロイター通信、AP通信、ワシントン・ポスト、USAトゥデー、ドイチェ・ベレ、フランス・バンキャトルなどのマスメディアが参加をしております。
二〇二四年のアメリカ大統領選では、候補者のテレビ討論会において司会者によるリアルタイムのファクトチェックが行われるなど、迅速かつ積極的な取組も目立ちました。
ファクトチェック機能の層が厚くなることで、更に迅速な対応が期待できます。
十三ページ。
重要なのは、ファクトチェックが実際に国民に届き、対象となる偽情報、誤情報の拡散が抑制されることで初めてその効果が発揮されるという点です。
そのためには、プラットフォーム事業者によるファクトチェック結果の優先表示や、偽情報、誤情報表示の抑制策も不可欠です。
しかし、残念ながら、先ほど鳥海先生の御指摘もございましたけれども、プラットフォーム事業者のコンテンツモデレーション、すなわち利用規約違反の有害情報の管理、対処や、ファクトチェックの取組における後退の動きも見られるところです。さらには、プラットフォーム事業者が集中するアメリカの現政権が偽情報、誤情報対策を検閲であると位置づけていることが問題を複雑にしております。
偽情報、誤情報対策は、検閲では決してなく、国民一人一人の判断の土台となる正確な情報の流通を支えるものです。
十四ページ。
偽情報に関しては、外国による情報操作と干渉、いわゆるFIMIの論点もあります。偽情報は、情報戦の一環として外国勢力が拡散する場合があります。日本も、二〇二二年の国家安全保障戦略などで偽情報対策を明記しております。
生成AIの進化によって、偽情報は大規模、安価、高速、巧妙となり、偽装ニュースサイトが三日間で百二十件も開設された事例も報告されております。AIの活用は、偽アカウント登録、偽情報コンテンツ作成、拡散におけるエンゲージメント、いわばシェアとか「いいね」、こういったリアクションのエンゲージメント獲得まで、急速に拡大しております。
十五ページ。
偽情報の拡散にはサイバー攻撃が連動する場合もあります。
二〇一六年アメリカ大統領選、翌年、二〇一七年のフランス大統領選、二〇二二年のウクライナ侵攻、そして昨年、二〇二四年のルーマニア大統領選などでは、サイバー攻撃と偽情報拡散が併せて行われたと言われております。
サイバー防御と偽情報対策が重なる場面では、国家安全保障戦略に基づく政府機関との連携も重要になるかと思います。
また、G7即応メカニズムなどの国際連携の枠組みも重要です。
十六ページでは、ネット広告の課題について取り上げています。
ネット広告は、個別ユーザーに特化したマイクロターゲティングのために、そこに偽情報、誤情報が含まれていた場合、社会、すなわち一般ユーザー、メディア、研究者からは遮られた、見えない拡散となってしまう問題点があります。
この問題への対応策として、EUのデジタルサービス法では、メタ、グーグル、ティックトック、Xなどの超大規模プラットフォームに広告ライブラリー、すなわちデータベースを整備し、掲載された広告を一年間保存、公開して、誰でも検証できるようにすることを義務づけております。また、今年十月に全面施行される政治広告の透明性とターゲティングに関する規則では、政治広告に関しては七年間の保存、公開が義務づけられております。
十七ページ。
現在、情報流通プラットフォーム対処法の大規模プラットフォームとしては、グーグル、LINEヤフー、メタ、ティックトック、Xが指定されていますけれども、日本で広告ライブラリーに対応しているのはメタとグーグルのみです。
メタは、社会問題、選挙、政治関連広告を七年間保存しておりますが、それ以外は日本では広告掲載終了とともに非公開となります。グーグルは、一般広告では一年間、政治広告は七年間の保存を行いますが、政治広告は日本では未対応です。ティックトックやXも広告ライブラリーを設けておりますけれども、日本には対応しておりません。
ネット広告の透明性確保には、まず広告ライブラリーの整備が求められると思います。
十八ページ。
収益目的での偽情報拡散も課題となります。投資詐欺などのアクターが国民投票を、社会の注目を集めるアテンション獲得のための素材として取り込む可能性もございます。
二〇一六年のアメリカ大統領選では、ロシアによる政治介入に加えて、マケドニアの若者たちが広告収益目的でフェイクニュースサイトを立ち上げていたことが判明しております。最近でもカナダの総選挙で、暗号資産投資詐欺の広告がニュースメディアを偽装し、政党党首らに関する偽情報を拡散する事例も報じられました。
生成AIを駆使した詐欺広告はグローバルに展開をされているところです。日本国内でも、選挙関連の切り抜き動画が広告収益目的で制作される事例もあります。
十九ページ。
ネット上の政治広告規制強化は一つの対応策だと考えます。
旧ツイッター、現Xは、誤解を招く情報、さらにはマイクロターゲティングの問題を受けて、二〇一九年から全世界を対象に政治広告を禁止した経緯があります。ただし、イーロン・マスク氏による買収後の二〇二三年には禁止を解除して、現在は日本などでも政治キャンペーン広告が可能となっております。
偽情報、誤情報を含む政治広告、さらには広告収益を狙う虚偽の政治コンテンツは、国民投票に限らず選挙においても、現行法の適用強化を含めて一定の対処は必要だと考えております。
対策の柱となるのは、広告掲出の舞台となるプラットフォーム事業者による抑制です。旧ツイッターのような政治広告禁止の前例もあります。加えて、偽情報、誤情報を含む政治コンテンツへの広告配信を停止することは収益化の歯止めにもなると考えます。
二十ページ。
最後に、社会のレジリエンス、強靱性に着目した総合的な取組の重要性について述べます。
偽情報、誤情報対策は総務省の検討会などでも長く議論され、研究開発へのファンディングも、新エネルギー・産業技術総合開発機構、NEDOや、総務省、科学技術振興機構社会技術研究開発センター、JST―RISTEXなどで進められてきました。
ただ、民主主義社会において、強権国家のような特定の情報の即時排除は困難であり、オオカミ男を倒す銀の弾丸は存在しません。したがって、偽情報、誤情報の一定程度の流通を前提に、社会のレジリエンス強化、すなわち、コンテンツモデレーション、ファクトチェック、法整備、研究開発、リテラシー向上など、継続的かつ総合的な取組が肝要です。
これまでの取組との連続性を踏まえた、バランスの取れた対策を講じていくことを強く期待いたします。
以上、甚だ雑駁ではございますけれども、国民投票におけるいわゆるフェイクニュース対策とファクトチェックの在り方について意見を述べさせていただきました。
御清聴ありがとうございました。(拍手)