佐久間亜紀の発言 (文部科学委員会)

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○佐久間参考人 皆様、おはようございます。慶應義塾大学の佐久間と申します。
 本日は、このような機会を与えていただきまして、本当にありがとうございます。
 私は、この三十年間、教員養成の研究をしてまいりました。そして、実際に教員養成に携わり、多くの教え子を教員として学校現場に送り出してまいりました。その立場から、本日は、本法案についての意見を述べさせていただきます。
 まず、私は、本法案の趣旨、特に、優れた人材を確保するために教師の処遇の改善を図るという趣旨につきましては、大変意義あるものと考えます。また、今、国が学校教員の必死の努力に少しでも報いようと具体的な財政措置を取ってくださることは、国が学校教員を大切にしていますよというメッセージを発信することにつながり、非常に重要なことだと思います。
 その上で、一方、しかし、大きな課題が二つあると拝見いたしました。
 一つは、教職調整額が一〇%に増やされただけでは、今学校現場が置かれている厳しい状況を抜本的に改善する効果が生まれるとは考えにくいというふうに言わざるを得ないということです。
 今、学校現場は、もう待ったなしの厳しい状況にあります。多くの学校教員たちは、したがいまして、先生、給料や手当を増やしてもらうのはありがたいけれども、それよりも、まず、何とかこの仕事の量を減らしてもらえないかというふうに言っています。つまり、長時間労働への手当をどうするかという問題よりも先に、長時間労働そのものをどうしたら抜本的に減らせるか、そのリーダーシップをこそ国に取っていただきたいというのが現場の声ではないかと思われます。
 もう一つの課題は、したがいまして、本法案には、国が教員の長時間労働を改善するためにどのようなリーダーシップを発揮してくださるのかということがどう書かれているのかに着目して拝読したのですけれども、具体的な国の役割というのは多く示されていませんでした。
 したがいまして、本日は、教員の長時間労働を抜本的に改善するためには教員一人当たりの持ち授業数を減らさなければならないということ、そして、そのためには国が教職員定数改善計画を再開していただく必要があるという、この二点に絞りまして、以下、私見を述べさせていただきます。
 まず、なぜそもそも、これだけ教員の長時間労働が悪化してしまったのでしょうか。
 結論を先に申し上げますと、二〇〇一年以降、教員の人手がどんどん減らされ続けたのに仕事は増やされ続けた、つまり一人当たりの仕事量が増やされてしまった、その必然的な結果としての長時間労働であるということが言えます。しかも、教員不足も深刻化し、私どもの研究室の調査では、二〇一八年頃から教員不足が本当に深刻な状況になってきましたので、この七年間以上は、しんどい状況が続いています。
 特に、欠員の先生、いない先生の授業や仕事の分までを、今いる先生方が分担してカバーしなければならなくなっています。そのため、更に長時間労働が悪化しているという全体像が、以下、二種類のデータから読み取れます。
 一つ目は、文部科学省が行ってくださいました、令和四年度の教員勤務実態調査です。この調査を見ますと、教員の在校等時間は、平日、休日共に、以前の調査よりも減少していました。しかし、私が注目したいのは、それにもかかわらず勤務時間が増加している業務があったことであり、それがまさに授業だったということです。授業と、学習指導の時間と、朝の業務というのが増えているということがデータから明らかになっています。教員の中核的な仕事、外注したりアウトソーシングできない、そういう仕事そのものが増えてしまっているというのは非常に重要だと思います。
 具体的な数値を見ますと、教員の一週間当たりの平均担当授業時数は、小学校で二十三・九こま、中学校では十八・一こまです。一日に換算しますと、小学校で約五こま、中学校で約四こまの授業を平均的な先生方は行っているということになります。つまり、授業を実施するだけで勤務時間の大半が過ぎてしまう状況であり、空きこまがないので、授業の準備や成績処理、特別な支援を必要とする子供への関わりや保護者対応、学校行事の準備や事務作業、さらには教員研修など、そのほかの仕事を勤務時間内に全て終えることはもはや物理的に不可能になっているという実態が読み取れます。この実態は、つまり、もはや教員の働き方の効率性の問題ではなく、仕事の量の問題であると思われます。
 しかし、今回の学習指導要領の改訂に当たりまして、総授業時数は減らさないということを前提にした諮問が行われています。この問題をどうしたらよろしいでしょうか。
 また、もう一つ御覧いただきたいデータがございます。資料のシート七の図を御覧いただけますでしょうか。この図になります。
 これは、私の研究室が調査した、ある県の二〇二一年五月一日時点での公立小中学校における教員配置状況です。この調査から、教員不足には四段階あること、そして、最終の四段階目、つまり、教員不足によって授業が実施できなくなることを防ぐために、各学校の教員が自己犠牲的に、不足している教員分の授業をカバーして実施せざるを得ない状況に追い込まれているという実態が明らかになりました。
 すなわち、このデータを見ていただきますと、この県では、この年度の五月一日時点で、正規雇用教員が千九百七十一人も欠員でした。担任の先生が千九百七十一人、この県でいなかったとお考えください。そこで、県教委は、常勤の臨時的任用教員を千八百二十一人も探して配置しました。しかし、それでも、まだ百五十人不足していました。そこで、仕事の一部を補う常勤的に働いてくださる非常勤講師を百二十二人も探して配置しましたが、なお二十八人分の穴を補う教員は全く見つかりませんでした。この段階で教育委員会にはもうなすすべがなく、あとは学校で何とかしてくださいというふうなことになるのだそうです。したがいまして、最終的には、この二十八人分の授業を各学校の先生方が自分の労働量を増やしてカバーしていたのです。この結果、この県では、授業が実施できなかったという事例は一例も報告されていませんでした。
 ちなみに、いない先生の分の授業をかぶって授業した先生方は、その給料が増えるどころか、早く帰りなさい、働き方改革に逆行すると言われて、学校にいられないという状況にあります。褒められるどころか、叱られるという状況が生まれているということです。
 私の教え子は、休職した二人分の同僚の仕事も併せてやれと言われ、約三人分の仕事をこなさなければならず、今日がまだ木曜日であることに絶望していますというLINEを私に送ってまいりました。このように、不足教員分の授業を今いる先生に上乗せして実施させているという、この構造的な問題が解消されない限り、教員が担当する授業数はどんどん増えてしまい、在校等時間を減らせる可能性はどんどん低くなってしまいます。
 それでは、なぜこれほど深刻な教員不足が起きてしまったのでしょうか。
 この私たちの調査で、四月に配置されているべき正規雇用の教員が、この県だけで千九百七十一人も欠員になっていたと今申し上げました。一方で、この県のこの年度にどれだけの臨時的任用教員や非正規雇用教員の需要が生じたのか、当該年度末までの産育休と病休の取得状況を調べましたところ、産育休は八百六十七人、病休は八十七人で、合計九百五十四人でした。つまり、この県は五月に非正規雇用教員を千八百二十一人も配置できていたのですから、もし、きちっと四月に担任の先生が正規雇用で配置されていれば、必要だった臨時的雇用教員九百五十四人の二倍近くも供給があったということが確認できました。
 もう一度申し上げますが、もしも四月に義務標準法が定めた標準数の分だけきちんと正規雇用教員が配置されていれば、産育休や病休の代替教員はしっかり配置することができます。そして、教員不足は起きていないはずなのです。つまり、教員不足の原因は、非正規雇用教員のなり手が減ったことではなく、正規雇用が減らされ過ぎ、非正規の需要が増やされ過ぎていたということの方だったのです。
 では、一体、なぜ四月にいるべき担任の先生がこれほど欠員の状態になっているのでしょうか。
 この背景には、二〇〇〇年代に本格化した国の行財政改革がありました。国は、悪化した財政状況を改善するため、教育分野においては、国立大学の独立行政法人化と義務教育費国庫負担の削減を推進しました。さらに、教職員定数改善についても、第七次計画で中止にしてしまったのです。
 それゆえ、地方自治体は、国が教員定数を絶対に改善しないということを前提にして長期的な教員採用計画を立てなければならなくなりました。四十人学級のままだとすれば、少子化が進行した後で教員が余ってしまうことになります。そのため、今は必要な教員をあえて雇用できず、非正規雇用で耐え忍ぶ政策を推進せざるを得なくなったということなのです。
 しかも、国は、さらに、二〇〇七年に教育職員免許法を改正し、教員免許取得に必要な科目数を増やして免許を取りにくくするとともに、教員免許更新制も導入しました。これについては廃止していただいたところですけれども。つまり、地方自治体がどんどん非正規教員に依存するようになったのに、国は非正規教員の供給を減らす改革を同時に行っていたということがポイントです。その結果、二〇一〇年代からは非正規の先生になり得る人々が枯渇し、ついに全国で教員不足が深刻化するに至りました。
 皮肉なことに、そんな中でも教育改革は精力的に続けられ、教員の仕事はどんどん増やされました。二〇〇三年のいわゆるPISAショックを契機として、二十一世紀型学力の育成がうたわれ、一斉教授方式からの転換が求められました。また、二〇〇八年の学習指導要領の改訂によって新教科が設立され、授業時数も増やされました。したがいまして、先生方の仕事が大変増えたということです。
 こんな状態が二十年以上続いてきたのですから、余りに過酷な状況を見て、教員採用試験の応募者が減るのは、むしろ自然なことではないかとさえ思われます。今では、正規雇用教員の採用を増やしたくても応募者が少な過ぎて採用を増やせないという教育委員会も増えてしまいました。
 以上の経緯から分かりますのは、教員の長時間労働は、現場の自助努力だけではもう改善されるような単純な問題ではなくなっているということです。教員の長時間労働は、国の財政改革を背景にした教員の雇い控えと非正規依存、その結果としての非正規の枯渇、さらには、教員不足に起因する長時間労働の結果としての病気休業の増加、あるいは産育休の長期化といった、現在の教職をめぐる一連の問題の一環として生じているということを是非御理解いただきたいと思います。
 したがいまして、教員の長時間労働を是正するためには、国が教員一人当たりの仕事量を適正化するための根本的な対策を打っていただきたいと切望しております。
 具体的には、まず、教員一人当たりの担当授業時数に上限を設ける必要があります。この国のリーダーシップがなければ、教員が効率的に頑張って仕事をすれば定時に帰れる、そういう仕事量へと抜本的に改善することは不可能です。
 そのためには、授業を担当できる教員を増やすこと、教員定数を改善することが必要になります。ところが、ここまで教職をめぐる悪循環が進んだ今となっては、志願者が減り過ぎて、すぐに採用数を増やすことさえ困難になっています。
 したがいまして、教員数を何年かけてどの程度改善できるのか、国が教職員定数改善計画をきちっと立てて、長期的な財政支援の見通しを地方自治体に示すことこそが、四月の雇用控えを少しずつ減らしていける、今最も喫緊の政策課題であるというのが私自身の見解でございます。
 なお、日本は、昭和三十四年の教職員定数改善計画、第一次からずっと、財政状況が悪いときでさえ、少しずつでも継続的に教員数を改善する努力を続けてきていました。子供の数が減るから教員を雇い控えするという政策は、過去の日本の教員政策の歴史におきましても、あるいは諸外国の一般的な教員政策を見ましても、むしろ異例のものでありまして、子供の数が減る今の時期こそ、子供一人当たりの教員の数を増やすには、むしろチャンスなのだということを力説したいと思います。
 今現場に必要なのは、希望の光です。少しずつでも現場の人手が増えていくという明るい未来が示されれば、教員志願者を増やし、悪循環を好循環にする効果が期待できます。そのためにも、教員不足の実態と少子化の進行に関する綿密な調査を行い、第八次の教員定数改善計画を再開していただきたく、ここに強く要望いたします。
 御清聴ありがとうございました。(拍手)

発言情報

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発言者: 佐久間亜紀

speaker_id: 31781

日付: 2025-04-18

院: 衆議院

会議名: 文部科学委員会