櫻井鼓の発言 (法務委員会)

⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。 詳細は利用規約をご確認ください。

○櫻井参考人 皆様、こんにちは。追手門学院大学心理学部の櫻井鼓と申します。
 私は、公認心理師、臨床心理士で、専門は犯罪心理学になります。本日は、このような場をいただきましてありがとうございます。
 私は、二十一年間、警察の心理職を務めまして、性加害も含む非行少年への援助、そして犯罪被害者等への支援に携わってまいりました。現在では、大学で引き続き犯罪被害者等の支援ですとか研究、そして捜査機関依頼の心理鑑定を行っております。ですので、犯罪被害に携わり始めまして二十七年になります。今日は、自験例ですとか研究を基に、性被害を受けた子供の刑事手続に関する課題につきまして意見を申し上げたいと思っております。
 初めに、子供の性被害の現状について御説明いたします。
 一つが、性的グルーミングによる手口が散見されるという点です。
 グルーミングと申しますのは、法律上は面会要求等罪になりましたけれども、心理学ではもう少し広く、わいせつ目的を持って若年者を手懐ける行為のことを指しております。
 特に、SNSやゲームを介したオンライングルーミングの問題というのは非常に大きいと思っております。同じ学校の生徒同士の自画撮り画像要求、それから、知的に課題を抱える子供が同級生からだんだん相手にされなくなって、SNSに関係を求めて被害に遭うということもあります。最近では、推し活、ゲームなど共通の趣味をきっかけとするものも散見されています。身近なアイドルであったり身近に注目されている人が発信しているSNS、それから、悩みを抱えている子供ですとか大人が集まると言われるオンラインゲームを介して知り合って、その後、コンセプトカフェですとかネットカフェで性被害に遭うというようなパターンです。
 また、現状の二つ目としまして、最近では、報道が活発になったという影響もあり、潜在化しやすかった男子の性被害、それから監護者性交等の被害の訴えが以前よりは上がってきているというのが体感でもございます。
 さて、被害におきましては、子供の脆弱性要因が働いています。加害者との立場の差、知的、発達障害などの障害がございます。しかし、それだけではありません。例えば、グルーミングを考えましても、子供がなぜ被害認識に至らないのか、なぜ会いに行くのかという点も疑問として残るわけです。もちろん、加害者の巧みな手口ということはございますが、資料の二に示します私の研究からも、子供の孤独感ですとか過去の傷つきが影響しているということが分かってきています。子供の性被害においては、こういった子供の特性や背景を踏まえた対応が必要になると言えます。
 さて、課題を三点申し上げたいと思います。
 一つ目が、聴取者の育成の課題です。
 専門的な話をしますと、心理学には共同注意という概念があるんですね。お母さんと子供とが一緒に指して、あれはなあにというふうに言うようなやり取りに表れるものです。人と人とが同じ対象に注意を向けている状態のことです。聴取におきましても、こうした互いの認識が必要になります。
 子供に話してもらうということは、擬似的にでも信頼していたグルーミング加害者、そして、虐待親との関係を心の中で断ち切って、あのねというふうに打ち明けてもらうものなんです。ですから、そのためには、聴取者が、子供の障害、トラウマ反応、そして臨床心理に関する知識を得て、関係づくりに努める必要があります。
 この点は当然のことでもあるんですけれども、現状ではまだ足りないというふうに言わざるを得ません。解像度を上げますと、更なる課題が見えてまいります。
 例えば、障害の有無について、常に捜査側が分かっているとは限りません。通常学級に所属している、日常会話に支障がない、こういったことがイコール知的障害がないということではありませんので、聴取者がある程度、障害について理解しているということが必要になります。
 それから、トラウマ反応につきましては、一般的な反応について知ることもそうですが、障害があると更に理解が難しくなります。
 被害時に、発達特性に由来する言動を取って、被害か否か疑念が抱かれるというケースがあります。身体障害者の場合も同様です。聴取者の分からなさから、被害に遭っていないように感じられて、二次的被害につながるということがあります。
 私は、ある裁判で、もちろん他の事情もあるでしょうけれども、残念ながら無罪という経験もいたしました。この理解の難しさについては、障害者の被害の実態についての実証研究が足りないということも影響していると思います。今後、国として研究が進み、実態をより明らかにする必要もあると感じています。
 それから、臨床心理の点です。
 私は、司法面接の専門家ではなく、あくまでも司法面接動画を鑑定してきた立場として申し上げますと、面接では子供との関係性が大切と感じられます。聴取というのは心と心のやり取りですので、プロトコル以外の部分でも、臨床心理の知見によって、子供との関係性がつくりやすくなったり、被害を受けた子供の心の動きを捉えやすくなる場面もあるというふうに感じています。
 以上から、聴取者の育成、研修を更に充実させることを望みます。
 さて、障害の問題に関連しまして補足を申し上げます。
 私は、法律は門外漢ですので、細かなところは御寛恕をいただきたいんですけれども、刑法第百七十六条一項第二号の心身の障害に該当する部分になります。障害が重い方の被害の見極めの難しさがあるというふうに感じております。
 重度の知的障害者の場合に、行為はあったことは確かだけれども、説明ができないために何があったのかが不明で、本人にも典型的なトラウマ反応は見られないということがあります。障害は被害の遭いやすさにつながりますので、障害に乗じた搾取が行われているのであれば、許されざることです。一方で、成人であれば、本人の自由な意思決定による結果の可能性も残しておりますので、被害か否かを見極めるのが困難な場合があります。今後の研究あるいは検討が必要と感じられる部分です。
 課題の二つ目に参ります。子供の証人出廷についてです。
 現状では、司法面接が行われていましても出廷をすることはありまして、その際に、ビデオリンク方式や付添人などの配慮がされていたとしても、子供の心理的負担は当然に大きくなります。初めての法廷の場で話せなくなる子供もいます。そうしますと、時には、なぜ子供が話せなかったのかについての心理専門家の意見を求められるということがあります。もちろん、依頼があれば、解離なのか回避なのかといったことなど、何が原因なのかを見極めることになりまして、私も実際に鑑定人として出廷したことがあります。
 ただし、そもそも心理的負担が大きいということにもう少し配慮があってもよいと感じられています。私は、大人の犯罪被害者の出廷時の付添人の経験もありますけれども、大人であっても負担は大きいものです。法廷という初めての場で、トラウマ記憶にもう一度触れざるを得ない子供への質問の仕方についてどうあるべきなのか、実施時間はどうなのかなど、反対尋問において配慮可能なことについての議論が必要と感じています。
 三つ目は、刑事手続と並行しての心理支援体制の充実についての課題になります。
 性被害による傷つきの大きさは、既に皆様御存じのことと思いますけれども、アメリカの調査などでは、戦闘体験を抑えて、最も衝撃が強いとする研究もあります。加えて、先ほどお話ししました孤独感や自己肯定感の低さを埋め合わせるべく被害に遭う子供は、仮にでも愛情や承認欲求が満たされる世界を再び求めるという問題もあります。被害防止はもちろんですが、被害に遭って初めて問題が顕在化するということもあり、再被害防止のための対策が重要になります。つまり、子供の関係希求に応え、子供に向き合って心理教育やケアを行う人が必須になるわけです。
 こういった子供に関わる機関の一つに、民間被害者支援団体があります。各都道府県に一つはある団体です。私も、現在、神奈川にある団体の登録カウンセラーとして活動を始めたところです。再被害防止の観点からは、早めに支援開始するのが望ましいと言えますが、東京にある被害者支援都民センターのように、非常勤心理職が働いており、刑事手続と並行したトラウマ専門の治療が提供できる体制と比べますと、地方の民間支援団体の心理的ケアの体制は弱いと言わざるを得ません。
 また、条例のあるなしによっても、公費で負担できるカウンセリング回数が異なるということもあります。各地域の実情に合わせつつも、全国どこでも同じレベルの心理支援体制を目指す必要があると感じています。
 性被害と申しますのは生涯にわたって影響を与えるものです。理不尽にも被害を受けた子供が刑事手続の中で更に傷つくことなく、子供の健やかな育ちのためにできることを検討していただければと思います。
 ありがとうございました。(拍手)

発言情報

speech_id: 121705206X00520250326_010

発言者: 櫻井鼓

speaker_id: 29330

日付: 2025-03-26

院: 衆議院

会議名: 法務委員会