坂口唯彦の発言 (法務委員会)
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○坂口参考人 坂口でございます。本日は、どうぞよろしくお願いいたします。
日弁連は、各種技術の進展に伴う刑事手続のデジタル化には賛成でございます。しかし、現在の法案は、捜査機関の利便に資する多くの制度を創設する一方で、国民のプライバシーの権利や被告人の防御権を軽視し、バランスを欠いた内容になっているというふうに考えております。そのため、主に二つのポイントについて修正を強くお願いしているところでございます。
一つ目のポイントは、電磁的記録の収集に関する国民のプライバシー等の保護というところでございます。
捜査機関は、現行法上の電磁的記録の押収や任意捜査による電磁的記録の収集に加え、この度創設される電磁的記録提供命令制度により大量の電磁的記録を収集、蓄積、利用することができるようになります。
しかし、今日、個人や企業が所持、利用するスマートフォン、パソコン、クラウド、これは今日お集まりの議員の皆さんもそうだと思いますが、大量のプライバシー情報がパソコンやクラウドには入っているということになります。もちろん、議員の皆様だけではなくて、業務上の秘密、企業、それから個人の方の情報もございます。情報技術の進展に対応するための刑事法の整備というのはもちろん必要なことだと思いますけれども、プライバシーの権利を始めとする市民の方の権利を保護するための修正がなされなければならないというふうに考えております。
日弁連は、昨年三月十四日に表明した意見書の中で六つの提案をさせていただいております。本日は、時間の関係もございますので、要点のみ申し上げます。
まずは、犯罪と関係のない情報をできる限り収集しないという観点からの手当てが必要でございます。
実務上、電磁的記録が入った携帯電話機やパソコンが差し押さえられる場合、令状には、本件に関係あると思料されるといった文言や、これらに関連する文書、物件といった包括的な記載があることから、被疑事実と関連性の乏しい電磁的記録の差押えが行われているという現状がございます。
そうしますと、捜査機関は、犯罪とは無関係なプライバシー情報を収集し、それを濫用するということも実態としてございます。取調べの一部が可視化されたことによって、議員の皆さんも、プレサンス事件でありますとか、ほかの取調べの事件が一部オープンになっているものを御覧になったこともあると思います。取調べにおいて、事件と全く関係のない中学校時代の成績に触れて、その能力についてやゆをし、被疑者を侮辱した事例、また、被疑者の男女関係に言及して被疑者を侮辱し、知らせたくない人に知らせることを示唆して供述を迫った事例、被疑者のお子さんの精神疾患に言及して被疑者の態度、黙秘を非難した事例などが報告をされております。
このような状況の下で、市民のプライバシーや企業、労働組合の秘密が侵害されることを防止するためには、裁判所が厳格な令状審査をし、かつ令状で許可されたものだけを捜査機関が取得するとすることが不可欠だと思います。
そこで、まず、最低限、裁判所や捜査機関に対し、デジタル社会における個人情報保護の観点から、犯罪と関係のない個人情報をできる限り収集しないよう留意しなければならないということを明記すべきだというふうに考えます。
次に、不服申立ての機会を保障することが必要でございます。
不服申立てをするためには、情報を取得された個人又は団体がそのことを知る必要がございますが、本法案では、例えばクラウド事業者からある人の個人情報が提供された場合に、本人に何の通知もされないことになっています。それどころか、事業者に対し、無期限で、情報提供を行ったことを秘密にしておくよう命令する制度ということになっています。
不服申立ての機会を保障し、違法な処分を是正したり抑止したりする観点からも、情報収集をされた本人への通知制度を設けるとともに、秘密保持命令制度について、この命令について、秘密保持を命ずることができる期間を制限する、それが必要だと考えています。
さらに、違法で取得された電磁的記録を消去する仕組みが必要です。
法案では、違法な処分が取り消された場合にも、電磁的記録を消去する仕組みがなく、それは捜査機関に蓄積されていくことになります。しかし、それではプライバシー等の保護が不十分であることが明らかですし、不服申立ての意味がなくなってしまいます。電磁的記録提供命令や記録媒体の押収が取り消されたときは、消去が命じられるようにすべきというふうに考えます。
また、本法案は、憲法が保障している自己負罪拒否特権との関係でも問題がございます。
電磁的記録提供命令により供述を強要することはできないというふうにされておりますけれども、一方で、命令に違反すれば刑罰が科されますので、パスワード等の供述が事実上強要されるおそれがございます。電磁的提供命令の執行に当たっては、命令が自己の意思に反して供述することを命ずるものではないということを教示することを義務づける必要があるというふうに考えます。
以上が一つ目でございます。
二つ目のポイント、これはオンライン接見や電子化された書類の授受の点でございます。
私は、北海道の弁護士です。北海道では、弁護士の事務所から被疑者、被告人が収容されている警察署や拘置所まで車で何時間もかかるということがざらにございます。そして、特に冬期間は、天候により移動が不可能になったり、無理な移動をすれば命の危険も生じかねないということもございます。まさに命懸けで刑事弁護活動を行っているということになります。
また、北海道以外でも、例えば離島にある警察署などでは、弁護士が一回接見に行くだけでも丸一日かかる、泊まりがけになるということもございます。そのような地域では、とりわけオンライン接見の実現が切望されています。
全国のほぼ全て、五十七の弁護士会、弁護士会連合会がオンライン接見の早期の実現及び法制化を求める会長声明等を表明しています。
地理的な条件で接見に時間がかかるという場合でなくても、オンライン接見の必要がございます。もちろん、直接対面してやり取りをするということは非常に重要ですが、オンライン接見というやり取り、選択肢が増えますと、弁護士が被疑者、被告人に必要な援助をする機会の確保が格段に容易になります。そして、刑事手続を適正とするものに資することになると考えます。
弁護人が被疑者、被告人に面会をするために時間や労力を要するということは、その分、接見が遅れたり頻度が下がったりすることにより、冤罪の可能性が高まるということを意味します。そのようなことは本来あってはなりません。オンライン接見は、何より被疑者、被告人の権利のために重要であるというふうに考えます。
現在、一部の警察署などでは、試行として、電話などを使って被疑者、被告人と弁護人が話せる制度が実施されていますが、現在試行されている電話等による外部交通の問題の一つは、会話の秘密性が確保されていないということでございます。被疑者側の部屋の外には警察官が控えていらっしゃいますので、弁護人との会話を聞こうとすれば聞ける警察署が多いという問題がございます。そのような状況で行われますので、重要なことは話せない、話しにくいというところがございます。秘密性が確保されていないことで、せっかくの制度が十分利用されていないという課題も生じております。
これらの権利について、予算がないから権利化が実現できないというのは本末転倒だと思います。デジタル化に応じた弁護人の援助を受ける権利を保障するという観点からは、オンライン接見の条件整備を着実に進めていくということが必要です。全国の警察署や拘置所で一斉に進めるということになると予算上の手当てが難しいということはあるのかもしれませんが、そうであれば、計画的に設備を整備していって、近い将来のどこかで実現するということが重要でございます。
また、現在の法案は、身体を拘束された被疑者や被告人が電子化された書類の授受をするということができるとされておりません。弁護人が紙にプリントアウトをして、それを被告人に差し入れろということなのだと思いますが、これでは余計な時間も費用もかかります。刑事デジタル法の帰結がそういうことになると、デジタル化の名が泣くと思います。当事者であり刑事裁判に最も直接の利害関係を持つ被告人が証拠をそのままの形で見られないというのはおかしなことで、オンライン接見のほかに、電子化された書類の授受ということも重要な課題になると思います。
これらが直ちに全面的に実現するというのは難しいということだとしても、例えば附則などで将来的な実現に向けた道筋をつけていくということが必要だと思います。その際に重要なことは、現在試行されている電話等による外部交通の利用の妨げになっております秘密性の確保という観点を入れることと、段階的にこれらの制度を実現し、将来の権利化につなげるため、必要な取組を着実に進めていくこと、これを附則等で明記することだと思います。
身体を拘束されている被疑者、被告人が弁護人と接見し、物や書類を自由に授受できる接見交通権は、弁護人の援助を受ける権利の不可欠の要素と言えます。これらの点についてデジタル化がなされない限り、真の意味での刑事手続のデジタル化は実現しないと考えます。
国会議員の皆様におかれましては、立法府として、市民、国民の目線からこの法案を御審議いただきまして、適切な御修正をいただきますよう、どうぞよろしくお願いいたします。
以上でございます。(拍手)