井田奈穂の発言 (法務委員会)

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○井田参考人 この六年間、法改正を求めてきた当事者団体として、法案提出してくださった各党の皆様、二十八年ぶりに審議をしてくださっている衆院法務委員会の皆様に、心より感謝を申し上げます。
 全国、そして海外に暮らす千人を超えるメンバーと支援者を代表して、当事者の声を届けさせていただきます。
 まず初めにお伝えしたいのは、この度の委員会審議の中で、改姓に伴うアイデンティティー喪失を軽視するような発言、困っている人はいない、いたとしても極めて少数であるなどの発言がなされていることです。大変残念に感じておりますし、多くの当事者が傷ついております。
 私のことをお話しします。
 私は、四十代で再婚しました。お互いに改姓を望まなかったので、婚姻届を出さずにおりました。ところが、夫が手術を受ける際、法律婚でないことを理由に、病院から配偶者としての医療同意を断られました。このことをきっかけに私たちは婚姻届を出し、私が改姓せざるを得ませんでした。
 数日後、役所から、あなたの氏名の印鑑証明を無効にしましたという封書が届きます。二十数年働いて信用、実績、資産を築いてきた名前、それを国に抹消されたことに大きな苦痛を感じました。
 四十代の子連れ再婚ともなると、大量の名義変更が必要なんですね。二年かけて様々な手続を行いましたが、自分の氏名に二重線を引かれ、夫の氏で上書きをされ、そこに捺印を求められる、こういう苦痛に何度も耐えてきました。
 また、旧姓使用を試みましたが、不都合が多く、例えば、アメリカ出張の際、旧姓併記のパスポートであったことをきっかけとして、現地の警察官から取調べを受け、二時間も拘束をされました。また、法人の代表として登記する際には、戸籍名に旧姓が併記される形でしか登記できませんでした。親の成年後見人登記に当たっては、戸籍名でしか登録できません。
 このように、旧姓使用に限界を感じ、私は、婚姻から六年後にはペーパー離婚をせざるを得ませんでした。再び事実婚となり、その不安定な状況に改めて不安を感じます。
 私が会社員の傍ら当事者団体を立ち上げまして、活動していく中で知ったのは、自分が自分であることを証明し続けてきた氏名を葬り去る過程で心を病むメンバーが一定数いたことです。
 資料の二ページ目には、改姓により適応障害を発症したメンバーの事例が載っています。改姓ストレスで吐血にまで至った彼女は、ペーパー離婚で名前を取り戻すと速やかに回復をしました。これは、現在行われている第三次訴訟の原告にも同じケースがあります。
 また、通称使用をしていたある女性研究者は、在外研究をしていたオーストラリアで、現地当局から、このままではあなたは二人の人間に成り済ましていることになるので、氏名を統一してほしいと注意を受けたといいます。彼女は、女性がその能力を最大限に発揮して生涯を過ごせるような社会に変わらなければ、日本から国外への知識の流出は今後ますます進むでしょう、そう語っています。
 実際に、私たちのメンバーで、二十代の医師と助産師のカップルや研究者同士のカップルなどは、日本での妊娠、出産は難しいと考え、海外で働くことも視野に入れているといいます。
 二〇二五年一月二十日、NHK「クローズアップ現代」で、家事支援の会社を五つ経営している女性が紹介をされました。事業五つ全ての登記、銀行口座の名義変更に追われ、手続にかかった期間は三か月、費用は百万円以上に及んだといいます。その方は、想像の百倍大変でした、手続をやっている間に、女性はビジネスで、ある程度のキャリアを築いてはいけないのかなと思いましたと語っています。
 旧姓併記で登記をすると、婚姻していることや配偶者の氏という極めて個人的な情報の公開を求められます。ある社外取締役を務める女性は、株主総会の場で、戸籍名を使っていない無責任な役員がいるとおとしめられ、大変なショックを受けたそうです。
 四国に住む七十七歳と八十三歳の御夫婦は、それぞれがそれぞれの家業を継いでいます。妻が改姓し、何十年も苦痛を感じてきました。お二人は、もし今年、法改正がされないのであれば、ペーパー離婚をするとおっしゃっています。自分に命をつないでくれた先祖からもらった本当の名前で死にたい、お互いに名前を大事に思っているので、法改正がなされなければ離婚をする覚悟だ、その声は切実です。
 二十代であっても、先祖代々の名字を重んじるがゆえに、事実婚を選択するメンバーがいます。
 多くの国民の、ただ自分自身でありたい、その切実な思いを否定し、大きな喪失感を与えてきたのが現行法と言えると思います。
 ところで、両親の名字が異なることは子供に悪影響があるという意見もあるようです。
 私たちは、別姓家庭で育った子供たちの座談会を何度も行ってきました。子供たちが口をそろえて言うのは、親が夫婦別姓と意識すらしたことがなかったというものです。言われてみたら別姓なんだなというふうに思うけれども、小さな頃から両親それぞれをフルネームで認識している、何の疑問も湧いていなかったので、かわいそう、悪影響と、問題がある家庭かのように言われることを知ってショックを受けた、普通に仲のいい家族なのに、なぜ他人が決めつけるのかと口々に言います。親子別姓に問題があるかのような言説にずっと傷ついている、差別されている気分になると子供当事者からも声が上がっています。
 事実婚、国際結婚、離婚、再婚など、様々な理由で別姓となった家庭でも、幸せに暮らしている例は無数にあります。私自身も、子供と異なる名字で、二人の子供を成人させました。
 もし本当に親子別姓が子供に悪影響なのであれば、なぜ親子別姓を前提とした共同親権の制度が施行されようとしているのでしょうか。なぜ国際結婚も同姓に統一すべきと主張しないのでしょうか。現行法は、なぜ離婚後の親権者と子供の名字を同姓にするよう義務づけていないのでしょうか。別姓家庭に対する差別だけまき散らし、これらの現行法と矛盾する主張をするのはやめていただきたい、強くそう思っています。
 国会議員の皆様にお願いがあります。当事者に聞くということを制度設計の基本にしてください。
 今、国会の審議の中で、困っている人はいない、いても少数だ、政府は調査もしていないなどと決めつけるような発言がありました。しかし、第五次男女共同参画基本計画策定に当たっての公聴会、パブリックコメントには、多くの当事者から切実な事例が寄せられていました。寄せられた四百件もの声を資料二としてお送りしました。分厚くて、百六十二ページもあるんですけれども、そこに切実な声が書かれています。
 また、選択的夫婦別姓に反対する方々が引用する各種世論調査は、将来結婚しようという若者や、今まさに結婚や改姓に直面している世代の声を反映しているとは限りません。
 先日行われたNHKの調査では、現行法維持を望む声が最も多かったとされていますが、図一を御覧ください。この調査の回答者は、六十代以上が三十代以下の五倍でした。十代の回答は僅か五件、最多は七十代の二百三十八件でした。
 次に、図二は、反対の方々がしばしば引用する二〇二一年の内閣府世論調査です。この調査では、旧姓使用法制化が最も支持を集めたとされていますが、ここでも回答者の約半分、四五・一%が六十歳以上であり、二十代、三十代の回答者の約二・二倍となっています。七十歳以上の回答者は八百人、十代の回答者の十二倍もいました。
 他方、図三は、国立社会保障・人口問題研究所による第七回家庭動向調査です。こちらを見ると、これは女性だけのデータを集めているんですけれども、二十九歳以下の賛成は七五・八%、三十代の賛成は七六・三%となっています。六十代未満の単身女性で見ると、八五・三%が賛成をしています。結婚に直面している世代や改姓が身近な女性たちの多くが選択的夫婦別姓に賛成していることが分かります。
 図四、日経新聞の調べでは、既婚女性の五二・三%が、選択肢があれば別姓を選びたかったと答えています。
 また、図五、共同通信社の調査では、三十歳以下の女性の実に八五%が賛成です。改姓当事者となることの多い若年女性が選択肢が欲しいと訴えています。
 図六、慶応大学の阪井裕一郎教授と私たちの合同調査では、事実婚の人たちは、税制や相続、医療同意など、命とお金の不安を抱えながら生活をしています。
 そして、図七、氏名を維持できる選択肢さえあれば安心して婚姻届を出せると答えた人たちは、二十代から五十代だけでも五十八・七万人いることが分かりました。
 お互いの氏名を維持したい、ただそれだけの思いで待っているのです。家族解体と言われるのが、ちょっと意味が分かりません。
 法制審議会が五年の歳月をかけて練り上げられた答申案で、力を合わせて、今いる五十八・七万人の事実婚当事者と、これから結婚を考えている若い世代を幸せにできる選択肢を実現してください。
 ありがとうございました。(拍手)

発言情報

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発言者: 井田奈穂

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日付: 2025-06-17

院: 衆議院

会議名: 法務委員会