黒田忠広の発言 (経済産業委員会)

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○参考人(黒田忠広君) おはようございます。このような貴重な機会、今朝いただきまして、誠にありがとうございます。
 私は、学者として、あるいは教育者として、この半導体とAIの技術と産業の将来展望について意見を申し上げます。
 では、お手元の資料、早速一ページめくって御覧ください。まずは歴史を振り返ります。
 この地上に脳が誕生したのは約五億年前、そしてホモサピエンスが誕生したのは七百万年前と言われています。このホモサピエンス、これは非常に弱い生き物ですので、生存のためには助け合いが必要でした。そこで社会が生まれました。次に、社会の中で何をしたいかを思う心が生まれました。心を通わせるために脳は言語を獲得しました。さらに、曖昧な認識やあるいは独り善がりの思考を補う道具として、脳は数学を生み出しました。数学、当初、税金の計算や土地の測量などに使われましたが、やがて計算よりも数学の内部世界が興味の対象となり、数学は道具から思考に進化しました。十五世紀のルネサンスで記号代数が発明され、十七世紀になると微積分が考案されました。そして、数学は物理的制約を受けない普遍的な視座を獲得し、脳の中に宿ったのです。二十世紀に入ると、この数学をする自らの思考について数学をすると、そういった考察までが行われました。
 このようにして、物理的直感や主観的感覚などといった曖昧なものを完全に脱ぎ捨てて脳からあふれ出した数学は、ついに計算する機械であるコンピューターを誕生させたのであります。
 この初期のコンピューターには三つの技術課題がありました。
 一つは、電子デバイスの信頼性が低かったことであります。当初は、電子の流れを気体の中で制御する真空管が用いられていました。熱電子を電極から放出するために電球のように輝き、そしてよく焼き切れました。そこで、固体の中で熱せずに電子を制御する半導体トランジスタが一九四八年に発明されました。デバイスの信頼性が格段に上がったことで、大規模な回路を作る道が開けました。
 二つ目の課題は、より複雑な問題を解くためにより大規模な回路が必要になるということでした。数学者のフォン・ノイマンは、コンピューターの基本設計、いわゆる後にノイマン型アーキテクチャーと呼ばれるもの、これにより、プロセッサーとメモリーがあればいかに複雑な問題でも計算できると、こういうふうになりました。
 そして、三つ目の課題は、回路が大規模になると人手では配線し切れないという問題でした。この問題を解決したのが一九五八年の半導体集積回路の発明であります。写真の現像技術を応用して、ちょうどコピーを取るように大規模な回路をチップに転写できると、こういうふうになりました。
 このコンピューターが半導体にこのように出会って以来、半導体はコンピューターを高性能にし、そして、高性能になったコンピューターは更に複雑な半導体の開発を可能にするという進化の応酬、いわゆる共進化が始まり、ムーアの法則と呼ばれる指数関数的な成長を遂げたのであります。コンピューターはやがてインターネットを生み、インターネットは世界を覆い尽くしました。地上のあらゆるデータが仮想空間に吸い上げられ、ビッグデータが誕生しました。このビッグデータを用いてコンピューターが自ら機械学習できるようになり、加速度的に学習を積み重ねた結果、ついにAIが誕生したのであります。AIは社会と経済に革新をもたらし、第四次産業革命の幕を開こうとしています。現代はまさにそうした時代の大転換期にあるわけであります。
 さて、AIと半導体が今後どうなるかについて、一つのシナリオを次のページでお示しします。
 二ページを御覧ください。
 現在のAIは学習の段階です。データセンターでGPUを用いて学習している神経回路網、これは言わば小学校で勉強している子供の脳のようなものでありまして、つまり全結合した神経網であります。そしてこれが、学習が続きますと、余り使われなかった結合がどんどんと刈り取られていき、効率の良いスマートな神経網が形成されます。これが成人の脳です。
 AIの次の段階は、クラウドで学習を終えたスマートな神経回路網を用いて、エッジでエネルギー効率よく推論することです。その際に、ロボットの身体を伴った知能の発展、すなわちフィジカルインテリジェンスを追求することになります。数学が身体をそぎ落として脳に宿り、そこからあふれたコンピューターがAIをつくり、AIが今度は逆に身体を獲得しながらフィジカルインテリジェンスを磨くと。そのために必要になるのは、エネルギー効率の高い最先端の半導体技術で実現されたプロセッサーとメモリーであります。
 次に、半導体市場を見てみましょう。
 資料の三ページを御覧ください。
 半導体の世界市場の大きさが青の棒グラフで示されています。オレンジの折れ線は、世界のこの半導体市場がGDPの何%であるかを示したものであります。かつて半導体市場はGDPの〇・二%程度でした。ところが、一九九五年頃に〇・二ポイントぽんと跳ね上がっています。その理由は、それ以前の家電のように、実空間を快適にする価値に加えて、PCやスマホのように仮想空間を創出し携帯できる、その価値が加わったからであります。そして、近年、更に〇・二ポイントが上積みされて、市場はGDPの〇・六%を目指しています。実空間と仮想空間を高度に融合する価値づくりが始まっています。
 例えば、自動運転の例のように、実空間でセンサーが集めたビッグデータを仮想空間のデジタルツインでリアルタイムに解析して幾つかの未来を描き、その中から選択された未来を実現するためのアクチュエーターのパラメーター、例えばモーターの回転数ですね、こういったものを実空間に戻すのであります。さらに、このデジタルツインをお互いにつなぎ合わせることでより大きなシステム、例えばスマートシティー、あるいはスマート工場といったものを実現することができるようになります。
 半導体産業は第三期成長期に入りました。これまで四十年掛けて築いた巨大な半導体市場が、もう一つぽんと目の前に現れます。二〇三〇年に市場は一・一兆ドルに拡大し、その七〇%はAI、半導体になると予想されています。
 このようにAIは巨大な半導体市場を生み出しますが、同時にAIは危機も招きます。
 次の資料、四ページを御覧ください。それはエネルギー危機であります。
 AIサーバーの消費電力は従来サーバーに比べて六倍も大きく、世界の電力需給は逼迫します。二十一世紀の安全保障は、電力の供給能力と半導体の省エネ力で決まります。AI、半導体を省エネにする有効な手段は、先端半導体を用いてプロセッサーのエネルギー効率を高めることと、プロセッサーとメモリーを3D実装してデータの移動距離を短くし、エネルギー消費を低減することであります。我が国は、この二点に軸足を置いた半導体戦略を描いています。
 次に、半導体事業に世界が公共投資する、その背景について説明いたします。
 資料の五ページを御覧ください。
 半導体は全ての産業に不可欠であり、経済安全保障上の戦略物資です。コロナ禍での半導体不足が国民生活や経済活動に大きな打撃を与えたように、半導体が欠けると社会が麻痺し、安全保障が危機にさらされます。石油が突然断たれた社会を描くことで、かつて堺屋太一氏はオイルショックへの警鐘を鳴らしました。同様に、今半導体に投資しなかった場合の将来リスクを考えるべきであります。
 鉄は国家なりと言われたのは十九世紀、二十世紀は石油をめぐる争いが起こりました。これからは半導体が戦略物資であります。半導体は、天然資源の石油と異なり、人的資源であります。したがって、豊かな人材が鍵となります。日本の豊かな人的資本と地政学的リスクの低さが追い風となって日本に対する国際的な期待が高まり、世界から投資を呼び込んでおります。
 さて、私は現在、九州で人材育成と地域創生に取り組んでいます。九州での取組を紹介することは、北海道や他の地域においても参考になるかもしれません。
 資料の六ページを御覧ください。
 二十一世紀を牽引するのはアジアです。そのアジアの産業拠点の中心に九州は位置します。九州では、産官学金が連携して、世界の優秀な頭脳を引き付ける地域の創生に取り組んでおります。
 今から百年ほど前、土木の専門家である八田與一が台湾に赴き、ダムと用水路を建設し、不毛の大地を黄金色の穀倉地帯に変えました。用水路から水が流れ出したとき、地元の農民六十万人は神の水が来たと、こう喜び、感激の余り涙を流したそうであります。あれから百年がたち、社会は農耕社会からデータ駆動型社会へと進化しました。資源は水からデータに変わり、そしてインフラはダムから半導体工場に変わりました。日本と台湾の協力による歴史的な国家事業は、時代を超えてこのようにつながっています。
 資料の七ページ御覧ください。
 九万年前に阿蘇カルデラが出現し、地下水の受皿となる地下水盆が地中に形成されて、熊本に火の国、水の国が誕生しました。半導体の製造には大量の水が必要です。この地は半導体製造に適した約束の地であったと言えます。
 熊本を火の国、水の国、そしてさらに半導体の国にするためには、豊かな知の森をつくることが重要です。キャンパスを造り、サイエンスパークを造り、国際頭脳循環の交差点にすることであります。これは、現代の課題に照らしてみると、火とはすなわち創エネ、再生可能エネルギーを意味します。水とはすなわち環境共生、環境循環を示唆します。そして、半導体は、先ほども議論したように、省エネが課題であります。専門家が一堂に会して議論をすることで世界平和に貢献する、ちょうどダボス会議のような阿蘇会議を創設することを提言します。
 教育は国家百年の計です。鉄は国家なりと言われた一九〇〇年初頭に官営八幡製鉄所が九州に建設され、九州工業大学や九州大学の前身が設立されました。半導体は国家なりの時代を迎え、九州では次の百年を担う事業が始まっています。九州に立派なアカデミアとサイエンスパークを造り、次世代にバトンを渡すことがこの時代に生きる私たちの責務であります。
 時代はますます不透明です。激動の時代を迎えました。私たちはいかに生き抜けばよいのでしょうか。
 資料の八ページを御覧ください。
 日本が二百年にわたる鎖国を終え、開花期を迎えた明治時代。それまでの階級社会から、社会の階層や出自を問わず、誰でもが学んで、資格さえ持てば博士や官吏、軍人、教師などになれた。新国民には少年のような希望がありました。作家司馬遼太郎は、そうした明治人の気質である楽天主義を歴史小説「坂の上の雲」で次のように描いています。上っていく坂の上の青い天にもし一朶の白い雲が輝いているとすれば、それのみを見詰めて坂を上っていくであろうと。
 明治人のこうした楽天主義の精神的な支柱となったのは、恐らく吉田松陰であります。吉田松陰は次のような言葉を残しています。夢なき者に理想なし、理想なき者に計画なし、計画なき者に実行なし、実行なき者に成功なし、ゆえに夢なき者に成功なし。激動の時代を生き抜く力は夢にあると訴えたのであります。
 現代風に言えば、この計画なき者に実行なしは次のように解説できます。すなわち、プラン・ドゥー・チェック・アクションのPDCAを回して、計画を修正しながら柔軟に行動せよと。さらに、来るべきAI時代は以下の説明が加わるでしょう。つまり、素早く行動しPDCAを多く回すほど多くのデータが得られると、多くのデータが得られるほどAIの学習は進み、成功する。もう少し一般化して言うならば、データの取得とは知見の蓄積であります。
 したがって、計画なき者に実行なしは次のように言い換えることができます。計画なき者に素早い実行なし、素早い実行なき者に知見なし、知見なき者に成功なしと。素早い、つまりラピッドであることが大変重要であります。
 そして、結論としてこうなります。夢なき者に理想なし、理想なき者に計画なし、計画なき者に素早い実行なし、素早い実行なき者に知見なし、知見なき者に成功なし、ゆえに夢と素早い行動なき者に成功なし。
 最後に、資料の九ページを御覧ください。激動の時代を生き抜いた先人の格言を紹介します。
 イギリスの元首相のウィンストン・チャーチルは、国難に当たって次のように述べました。目前に迫った困難や大問題にまともにぶつかること、そうすればその困難や問題は思っていたよりずっと小さいことが分かると。しかし、そこで逃げ出すと困難は二倍の大きさになって後で襲ってくる。インテルを創業したロバート・ノイスはこう語っています。安全な場所にとどまっていては成長などできない、革新的なことを成し遂げようとするなら楽観主義で突き進んでいくしかないのだと。チャーチルはまた次のような言葉も残しています。悲観主義者はあらゆる機会の中に問題を見出す、楽観主義者はあらゆる問題の中に機会を見出す。
 私たちは、覚悟を決めた以上は楽観主義で夢を追い求め、迅速に行動することが重要であります。
 以上の観点により、私は今回の法案に賛同いたします。
 以上です。

発言情報

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発言者: 黒田忠広

speaker_id: 12764

日付: 2025-04-17

院: 参議院

会議名: 経済産業委員会