中井智子の発言 (厚生労働委員会)

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○参考人(中井智子君) 皆様、おはようございます。私は弁護士の中井と申します。
 本日は、労働施策総合推進法等の改正法案の審議に際しまして、同法案に対する意見を述べさせていただく機会をいただきまして、誠にありがとうございます。
 私は、弁護士として、日頃、主に使用者側からの御相談を受けて相談あるいは紛争に対応している弁護士でございます。昨今、やはりハラスメントに関する相談が増えてきているという実感を持っております。
 ところで、本改正では様々な点に関する複数の法律の改正案が提起されておりますけれども、私からは、自身の実務上の経験を踏まえまして、その改正点のうち一部を取り上げさせていただき、意見を述べさせていただきます。
 さて、初めに、今回の労働施策総合推進法等の改正の目玉の一つとも言うべきカスタマーハラスメントに関する意見を述べさせていただきます。
 昨今、カスタマーハラスメントに関するトラブル事例が報告、報道されたり、あるいは東京都ではカスタマーハラスメント条例の施行が本年四月より開始しております。また、皆様、普通にスマートフォンを持っているというのが普通の時代になりました。これによって、例えば、無断で写真撮影をされる、動画撮影をされるというようなことも増えてまいりましたし、こういったことがSNSにアップされて拡散をしていくという、こういうおそれが格段に高くなっているという、こういう時代になっています。
 やはり、今回、この時代においては、一個人の発言や発信力というのが非常に力を増しているということがあって、この対応に苦慮しているという場面が多くなってきていると、このように実感をしております。
 ただ、カスタマーハラスメントという事象がかつて全くなかったかというと、そういうことではないというふうに思います。かつてよりそういう問題はあって、これまでも対応してきたという経緯はあったと思います。しかし、過去は、どちらかというと対応がうまい、あるいはあしらいがうまいと、こういう労働者がその対応を一身に背負っていると、こういう個人の力量に頼っていた面もあったのではないかと私は考えます。
 しかし、事業主側としては、今後、人材の獲得が難しくなると、少子高齢化によって難しくなると、こういう時代を迎えて、こういった対応を見直す必要があるというふうに考えます。カスタマーハラスメントを個人の力量に頼る時代はもう終わったというふうに考えます。使用者は、カスタマーハラスメントについて組織をもって対応するということに切り替え、そして、労働者の職場環境を良好なものにしていかなければならないというふうに考えます。カスタマーハラスメント問題に直面して対応に困って困惑すると、こういった労働者が離職をしていくというようなことは絶対避けるべきであり、事業主側としては、必要な人材を確保し育てていくこともこういうことでは困難になってしまうということを危惧します。そういう点では事業主にとっても大きな損失を被る可能性があると、こういう問題だというふうに認識をしております。
 したがいまして、カスタマーハラスメントについて、事業主に一定の雇用管理上の義務を、措置義務を義務付けるということをして、そして、もってカスタマーハラスメントの対策を図るという本改正の方針については、事業主としては、人材を確保し、そして育て、そしてその価値を最大限に引き出していくということのその前提として、事業主に求められる具体的な行為規範を示すものであるというふうに評価をいたします。これは、別の面から言えば、事業主の危機管理体制の整備の一つになるということも言えると考えております。私は、その点で、このカスタマーハラスメントに関する法改正の方針について賛成をいたします。
 カスタマーハラスメントの法改正に関して、少々細かい実務上の問題について以下述べさせていただきます。
 カスタマーハラスメントについては法令でその定義が整備される予定となっております。もちろん、事業主にカスタマーハラスメントの一定の措置義務を設ける以上は、その対象、ターゲットたるカスタマーハラスメントの概念が明確になっているという必要はあります。ただ、法令案では、社会通念上許容される範囲を超えたというものになっておりますが、これは多分に評価を含む概念ということになります。この概念を事業主が分析していくためにはどういうアプローチをすればいいのかということについては、今後より具体的に示していただく必要があると、このように考えています。
 また、事業主によってはその業態、それから業種、そして商慣習、そういったものも実に様々でございまして、最終的には個々の事業主が検討しなければならない課題であろうということは認識をしております。もうその検討に当たって、業界ごとに共通するような類似事例を共有して分析をするということは効率的な対応に資すると、このように考えます。
 また、もう一つ、カスタマーハラスメントに関しては、各種法令等抵触する場面というものもあります。例えば、その例としては、医師、医師法に定める応招義務などに関しては、カスタマーハラスメントと応招義務のぶつかり合いの場面が出てくるということになります。これは、法令上は正当な理由というものがあれば応招義務は免れると、こういうふうに定められておりますし、現時点でも患者の迷惑な行為に関して例として挙げられています。しかし、今後、カスタマーハラスメントの法整備がされた場合には、更にこの法制度との整合性の観点から、より解釈について整合性を取ったものを作っていくことも有用ではないかなというふうに思います。そのために、これは今例を申し上げましたけれども、その他の業態においても各種監督官庁との調整といったものは必要になってくる場面が多いと、このように私は考えます。
 また、先ほど業界ごとに検討するのもよいということを申し上げましたけれども、これは、抵触する法令があるかどうかということに限らず、適切に対応するために必要な体制の整備というのは何なのかというのを事業主として検討するために、効率的な検討に資するということが業界での取組ということがつながると私は考えます。業界が同じであれば同じ問題を抱えている、必ず共通点があるはずでございまして、この共通点を業界をまたいで、失礼、業界の中で事業主をまたいで共有することで、連携して有効な対応策を確保することができるのではないかと、このように考えております。
 次の問題ですけれども、カスタマーハラスメントについては、他のハラスメント類型とは異なる点があります。今から申し上げたいのは、国、事業主、労働者、そして顧客等についての責務について定めている規定に関する私の意見になります。
 これまで法で整備されてきたセクシュアルハラスメント、マタニティーハラスメントあるいはパワーハラスメントというのは、原則として事業主の中で起きたものに対する対応です。行為者も、そして被害者と目される者も同じ事業主の中にいるというのが原則でございます。カスタマーハラスメントはそうではありません。類型上は必ずその行為者というのは事業主の外にいると、こういう関係にあると。ここが今までのハラスメント法制とは決定的に違います。
 そのために、今まで、三つの申し上げたハラスメントではその予防策というのを取るというのも有効だというふうに言われてきていますけれども、カスタマーハラスメントに関してはなかなかその行為者に対する予防教育というのを実効的に行うというのは難しい面があります。
 最近では、例えば駅、そして例えばタクシー、店、そういったところにカスハラはいけないという趣旨のポスターが貼られているというのを御覧になった方も多いかと思います。これは、業界あるいは一事業主としてカスハラ予防のために一生懸命啓蒙活動を行っているという一つの表れでございます。こういったことは一定のカスハラ予防のための意義はあると思いますけれども、やはり限界もあるというふうに考えます。
 国が、顧客等に対しても、カスハラはいけないんだと、啓蒙活動取り組んでいくんだと、こういう趣旨の条項を取り込んでいただくということは、事業主が今後カスタマーハラスメントに対する対応策を検討していく、そして対応策を推進していくに当たって追い風になっていただくというふうに、私はそのように捉えております。
 それからもう一点、カスタマーハラスメントについては、もう一つ、先ほど行為者が外部、事業主の外部にいるということを申し上げましたけれども、事業主の内部に行為者がいるのであれば、注意、懲戒処分、配置転換、そういった、労働者ですから、指揮命令に基づいて一定の措置がとれますけれども、カスタマーハラスメントはそういった関係にはございません。
 それから、緊急事態というか、もっと緊急的に対応しなければいけないというようなケースというのも多く想定されるということになります。そういった場合は、例えばですけれども、警察などの外部機関とも連携して対応することが必要になるということも十分考えられます。
 こういった対応を事業主が速やかに行うことができるように、例えば指針その他で外部連携との重要性をうたっていただくということも事業主の取組の一つの後押しになっていただくのではないかと、このように考えております。
 最後に、私からは、主に就活生、就職活動をしている学生などを想定していると思いますけれども、求職者等に対するセクシュアルハラスメントの対応措置についての法改正について意見を述べさせていただきます。
 今、例えば就職活動を行っている学生、あるいはインターンシップによって企業内で就業体験をするという学生に対するセクシュアルハラスメントの問題がよく報道等でされることもあります。
 就職活動を行う学生というのはOBやOGと例えばマッチングアプリを使って個人的につながるといったこともありまして、企業が完全に活動を把握できていないというようなケースもあります。そういった場面で個人的に連絡を取り合ったり連絡先を交換したりして、その後にその問題がセクシュアルハラスメントにつながっていくという可能性があります。
 せっかく自分の企業に興味を持って、そして就職の意欲を示してくれたという者に対してこの自社の社員がセクシュアルハラスメントなどを行えば、その企業について失望しますし、就業する意欲はなくすというのは当然の流れだと、こういうふうに思います。事業主にとっては、大事な求職者を失うという点で大きな損失だというふうに考えます。そして、事業主の信用失墜も大きいと、このように考えます。これは事業主にとっても大きな法的なリスクということが言えます。
 また、もう一つの問題として、就職活動等の場面のセクシュアルハラスメントというのはなかなか問題が表面化しないという問題もあります。就職活動をやめるということで問題が終わりになってしまうということも多いというふうに認識をしております。その結果、事業主、企業にとっては認識していない法的リスクは実はたくさんあると、こういうことが起きてしまうと。こういう問題もこの求職者等のセクハラ問題にはあるというふうに考えています。
 ということで、こういう事態になると後で大きなリスクになるというのは、跳ね返ってくるのは事業主でございますので、今回議論されている求職者に対するセクシュアルハラスメントの雇用措置をとるということについては、これは、教育や周知、労働者に教育や周知を行っていくことはとても大事だと思います。したがいまして、私は、今回初めて事業主の外の求職者に対するセクハラについて防止に向けた雇用管理上の措置をとるという考え方、この本改正の方針について賛成をいたします。
 以上、私より意見を述べさせていただきました。ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 中井智子

speaker_id: 9573

日付: 2025-05-29

院: 参議院

会議名: 厚生労働委員会