堀有喜衣の発言 (厚生労働委員会)
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○参考人(堀有喜衣君) 労働政策研究・研修機構の堀と申します。
この度は、貴重な機会をいただきまして、誠にありがとうございます。
今般、年金部会の委員として議論に参加してまいりました。本日は、その議論を踏まえながら、私の意見を申し述べさせていただければ幸いです。
初めに、皆様も御存じのことではありますが、働き方やライフスタイルの変化について確認したいと思います。
ページをおめくりください。
かつてのように、学校を卒業して皆が正社員となり、ほとんどの人が結婚し、夫は仕事、妻は家庭に入り、子供の手が離れると扶養の範囲内でパートをするような七〇年代から八〇年代に多く見られたようなモデルは、二〇二五年現在においては支配的ではなくなりました。このモデルをここでは八〇年代モデルと呼んでおくことにします。
八〇年代モデルは、言わば男性稼ぎ主モデルでもあり、男性は企業中心社会にからめ捕られていました。当時のモデルからしますと、ここから外れた人々、例えばシングルマザーであるとか、あるいは責任を持って働きたかった女性のチャンスは限られていたと言えるかと思います。当時の日本は、ジャパン・アズ・ナンバーワンと言われながら、過労死が社会問題になっていた時代でもありました。また、男女雇用機会均等法が成立し、女性の年金のメルクマールであるサラリーマン世帯の専業主婦の自分名義の年金権が確立されたのもこの頃であります。
変化の一つのきっかけは、バブル崩壊後の不況です。これまで安定していた八〇年代モデルにおいては終身雇用が不可欠だったわけですが、リストラが盛んに行われるようになりました。また、若者が就職できないという状況が広がり、二〇〇三年にはフリーターが二百十七万人を超え、若年者雇用が大変大きな問題になりました。これが今の氷河期世代に当たりますが、この頃、フリーターが厚生年金に入るチャンスは極めて限られておりました。
二〇〇〇年代に入ると、少子化を背景に仕事と家庭の両立支援のための法整備が進みました。二〇〇〇年代前半は第一子出産後も就業継続するという女性は三割にも満たなかったのですが、二〇一五年以降は半数以上が就業継続するようになっています。僅か十五年で、出産しても就業継続するキャリアがマジョリティーになるという急激な変化が起きました。
かつて育児期に低下する就業率を示していたM字カーブ問題は、今は正社員率を示すL字へと問題の焦点が移りつつあります。とはいえ、依然として主に家庭内のケア労働に従事しているのは女性であります。労働政策は男性の育児休業取得を積極的に進めてきておりますが、まだ男女が半々に育児、家事を負担するには程遠い状況です。また、結婚はもとより、子供を持たない人々も増加しつつあり、単身化が一層進みつつあります。
他方で、職業人生は長期化しています。高年齢者雇用安定法により六十五歳までの雇用機会の確保が義務化されました。年金の受給年齢が六十歳から六十五歳まで引き上げられてきましたが、この雇用機会の確保あってのことであり、年金の受給年齢と高齢者雇用は深く関わっております。
このように、この十年は女性と高齢者の就業率が上昇した時期でありました。以前であれば、八〇年代モデルを念頭に、そこから外れた人に対して配慮をすればよかったのですが、それぞれの思考や利害が多様になり、その調整が大変複雑になってきた十年でもあったと思います。
こうした変化は、現役のときの働き方やライフスタイルの反映である老後の年金の在り方にも強い影響を与えます。したがって、年金制度に不断の見直しが必要なことは間違いありませんが、働き方やライフスタイルにどの程度の変化が生じており、どのくらいの変化であれば年金制度を変えるべきなのか、また、その際には年金の観点から誰にどのように配慮すべきかなど、何が望ましいかということについての意見が一致することは困難な状況になってきたと思います。
そうした中で、今回の年金制度改革法案は、様々な意見が交差する中で、これまでの状況を踏まえながら、その最大公約数的な落としどころを探ったものであり、働き方やライフスタイルの変化に対応するという観点から考えると、おおむね今回の法律案は妥当なものだと考えます。
以下では、具体的な改正の概要について幾つかだけピックアップして申し上げます。番号は三ページの資料に対応しているものでございます。
まず、一の一、被用者保険の適用拡大につきまして、賃金、企業規模要件の撤廃や、いわゆる年収の壁に対応する施策がございます。こちらにより適用拡大が一層進むことを期待しております。将来的には、週に二十時間以上という労働時間の要件についても検討が必要だと考えます。
これまで政策では年収の壁が注目されてきましたが、全体としては少ないながらも、社会保険に入りたいんだけれども入れていない方もいらっしゃいます。事例を御紹介しますと、四ページ、四十代後半男性は、正社員経験が全くなく、社会保険に入ることを希望しているんですが、現在の職場では入れてもらえないという状況にあります。お母さんの年金と自分のアルバイト代で何とか暮らしているのですが、先が見えない状況です。もし今般の改正で適用拡大の恩恵を受けられれば、少しでも本人の年金を増やすことができます。その点で、適用拡大の時期が年金部会の議論よりも遅くなった点につきまして残念に思っております。
続きまして、一の二、在職老齢年金制度の見直しでございます。
在職老齢年金につきましても、職業人生の長期化を背景に、高齢者の働くモチベーションを保ちながら年金財政への影響とのバランスを取ることが重要だと考えています。よって、ますます職業人生が長くなる今日においては、支給停止基準額を上げることは妥当だと考えます。金額については、今後の賃金動向を踏まえ、将来的には支給停止基準額を更に上げていかれるものと推測しております。
五十五歳女性の事例を載せておりますが、この方は、定年後も積極的に働くために五十代から準備をしていきたいと、そういうお気持ちを持っている方でございます。こうした働くモチベーションは大切にしていく必要があると思います。
続きまして、遺族年金の見直し、これは資料はございませんが、今回の遺族厚生年金の改革において最も重要な貢献は、男女問わず受給しやすくなったという点にあると考えます。
近年、子育て世帯の中心となっている共働き世帯では、妻の収入があることを前提として生活が成り立っているだけではなく、妻が育児の担い手であることが多いことから、妻が亡くなると、収入と育児の重要な担い手を同時に失うということを意味しています。今回の改正により、夫が妻を亡くした場合でも、直後の衝撃を和らげ、生活を立て直す一助を得ることができると思います。この見直しは男女にかかわらず、中立的な方向に近づくアプローチだと受け止めております。
また、一の四、厚生年金保険等の標準報酬月額の上限の段階的引上げで、こちらも資料はございませんが、標準報酬月額別の分布割合を見ますと、上限に集中している現象が見られることから、上限の引上げと、そしてそれを将来の年金額に反映していくことにも賛成しております。
最後に、一の五、将来の基礎年金の給付水準の底上げであります。
今回のマクロ経済スライドの調整期間の一致により給付水準を底上げするという、今回の御提案に賛成です。私は氷河期世代について研究してまいりましたので、本日はその観点から述べたいと思います。
一般的に就職氷河期世代は、一九九三年から二〇〇四年卒業者を指しております。六ページ左側に見られますように初職の状況は大変悪かったのですが、その後の人手不足と氷河期支援の効果が出て正社員率は上昇し、四十代になってから上の世代と遜色ない状況に至っています。しかし、年金は、一時点で正社員であるということだけでなく、これまでのキャリアがどうであったかを見る必要があります。
私の研究によりますと、一度正社員になっても、非正社員、無業、失業を行き来するという特徴を持つキャリアが見出されました。私は、こうしたキャリアをヨーロッパの若者研究の概念を参考に、ヨーヨー型キャリアと呼んでいます。どの世代も必ずこのヨーヨー型キャリアの人々は存在しておりますが、氷河期世代ではほかの世代よりも多いことが推測されます。
雇用形態が入れ替わり、間に失業、無業を経験するヨーヨー型キャリアにおいては、年金における免除期間や国民年金のみの期間の長期化が生じやすく、年金額が低くなる可能性があります。氷河期世代の人口サイズが大きいことを踏まえると、社会的影響は小さくありません。
こうしたことに鑑みますと、特に基礎年金の底上げにつながるマクロ経済スライドの早期終了が期待されます。二〇五七年から二〇三六年にまで終了が早まり、年金が底上げされれば、就職氷河期世代の受取開始にも間に合います。また、氷河期以降のより若い世代の年金の水準を上げることにも寄与するものであります。
以上のように、私は今回の年金改革法案に賛成です。更に言えば、拠出期間の四十五年化は今後の選択肢の一つでありまして、四年後の財政検証の際にもオプション試算を期待しております。
最後に、課題について述べます。
まず、三号制度につきましては、今すぐ廃止というのではなく、適用拡大を進めることでまずは対応するという取りまとめになりましたが、妥当だと考えます。三号は、日本の性別役割分業規範の要因でも結果でもありますが、長い期間を掛けて浸透していったものであるため、廃止には一定の時間が掛かります。また、将来的に廃止される際には、年金が賦課方式であることに鑑み、末子が六歳以下であれば三号と同様に保険料免除の取扱いをするなど、子育てを社会で支援するような仕組みにしていただきたく存じます。
また、年金の受給年齢を引き上げるという選択肢は現時点では有力ではありませんが、仮に行う場合には高齢者雇用とセットにすることが不可欠です。年金だけの議論ではなく、高齢者雇用も並行して進めていっていただきたいと思います。
さらに、適用拡大の時期につきましては、年金部会の議論よりもより時間を掛けて行うということになりました。この点につきましては、是非、使用者の方々の御理解を得て、より前倒しにすることを検討していただきたく存じます。
最後に、長年、若者の研究に関する研究をしてきましたが、二〇〇〇年代前半には年金不信が若者の間でも広がり、どうせもらえないから払わないとインタビューで語るフリーターの若者に度々会いました。例えば二〇一一年に東京都で実施した第三回若者のワークスタイル調査で年金について尋ねておりますが、二十代後半層のフリーターで加入していないと答えた者が当時一二・三%おりました。しかし、八ページに示したように、二〇二一年に実施した第五回の調査によりますと、パート、アルバイトで加入していないと回答した者は三・四%まで減少しています。
若者の加入は雇用形態にかかわらず進んできたところですが、理解については若干の課題が残っています。この示した図表は二〇二一年の調査を基に二十代後半と三十代前半を比較したものですが、同じ対象者のパネルではないものの、三十代になると急に理解が進んでいることがうかがえます。この時期にライフステージが変わることが変化の要因と推測されますが、そうであるならば、二十代に対する広報が一定の効果を持つようにも思います。その際には、若者にとって遠い将来である年金だけを独立して行うよりは、労働法制や医療なども含め、今の自分の生活や働き方と年金がつながっていることが示せるようにトータルで広報する方法も検討していただきたいと思います。
なお、今回、学生猶予制度については広く利用されているにもかかわらず、ほとんど追納されていないということが明らかにされました。こちらにつきましても、追納した方が得であるという広報が必要だと考えます。
私からは以上です。