是枝俊悟の発言 (厚生労働委員会)
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○参考人(是枝俊悟君) 是枝俊悟と申します。
大和総研で税制、社会保障制度の調査をしており、社会保障年金部会では委員として本法案の基となる制度改正の論点を提示させていただきました。
私からは、本法案につき五点意見を申し上げます。一点目は総論、二点目はマクロ経済スライド調整期間の一致について、三点目は厚生年金の適用拡大について、四点目は年収の壁と第三号被保険者制度について、五点目は遺族厚生年金の改正についてです。
まず、一点目の総論です。
衆議院による修正後の法案は、私は総論として賛成できると考えています。本法案は、マクロ経済スライド調整期間一致の部分を除けば、おおむね社会保障審議会年金部会の議論の整理を基に作成されているものです。
二〇二四年財政検証では、前回の二〇一九年財政検証と比べて年金財政の見通しは明るくなりました。その主な要因は、労働力率が高まるとともに厚生年金の加入者が増えたことと、株価上昇による運用成果を年金に取り込んだことの二つです。将来の年金の充実に向け、私たちはこれからも、女性も高齢者も働きやすい社会に向けて労働市場を変えていき、さらに、雇われて働く者はすべからく厚生年金に取り込んでいくという努力を重ねていくことが重要です。
この点、法案に盛り込まれた在職老齢年金の見直し、遺族厚生年金の見直し、被用者保険の適用拡大は、いずれも働き方に中立な制度を構築する点で、労働市場への参加を促し、また、労働者をより厚生年金に取り込み、保障を手厚くするという観点から、年金部会で多くの委員の賛同があったものでございます。
次に、二点目のマクロ経済スライドの調整期間の一致についてです。
マクロ経済スライド調整期間の一致については、私は修正後の法案は良い落としどころだと考えております。
基礎年金と報酬比例年金のマクロ経済スライド調整期間を一致させるための方法は二つあります。一つは、年金局から提案のあった、基礎年金拠出金の按分ルールを変更するという方法であり、もう一つは厚生年金の適用拡大による方法です。
再分配構造としては、厚生年金の適用拡大による方法は厚生年金内部での再分配にとどまるのに対し、按分ルール変更による方法は実質的に厚生年金から国民年金に積立金を移転するものとなります。その額は、現在価値に直して七兆円から八兆円ほどとなります。厚生年金積立金の一割未満ではあるものの、七兆円から八兆円ほど国民年金に渡してしまう形になっています。この点につき、これまで厚生年金保険料を負担してきた身からすれば納得し難い旨、年金部会の労働者側、使用者側の委員から意見がありました。年金部会の専門家の委員の中でも賛否が割れております。
ただし、按分ルールの変更を行ったとしても、後に大規模な適用拡大を実施すれば結果的に適用拡大による方法に近くなり、厚生年金から国民年金への積立金の実質的な移転額はゼロに近づきます。このため、按分ルールの変更を行うのであれば、少なくとも中長期的に大規模な適用拡大を実施する方針を明確化し、最終的には厚生年金内部での再分配に近い形とすることの担保が必要だと私は考えております。そうであるならば、労働者、使用者の理解を得やすくなるものと思います。
自民、公明、立憲の三党の協議により法案に追加された附則第三条の二は、私は慎重かつ精緻に検討されたものと考えております。この附則は、次回財政検証時にもなお比例と基礎の調整期間に著しい乖離が見られる場合に必要な法制上の措置を講ずるとあり、按分ルールの変更を行うとは一言も書かれておりません。
つまり、そもそもこれからの四年間で経済が好転したり、更なる適用拡大の道筋を立てたりすることによって、比例と基礎の調整期間の差が短期間にとどまるようになれば、按分ルールの変更など行わなくてもよいと解釈できます。また、仮に四年後もなお著しい乖離が認められる状況であったとしても、その解消の手段は按分ルールの変更には縛られないものと解釈することができます。
自民、公明、立憲の三党として、将来が分からない中でも著しい基礎年金の低下だけは避けなければならないという合意を得つつ、それを避けるための手段についてはこれからの四年間で工夫する余地がある内容となっておりまして、現時点で妥結可能な落としどころを見出した良い法案だと考えております。立場の違いを超えて妥結点を見出した三党の御尽力に敬意を表したいと思います。
続いて、三点目の厚生年金の適用拡大についてです。
私は、短時間労働者の企業規模要件の撤廃時期につき、次の財政検証の二〇二九年頃までに撤廃いただきたいと年金部会で申し上げてきました。
田村委員が六月四日の本会議にて、ここから十年後、氷河期世代の私は五十九歳だとおっしゃったとおり、十年後では氷河期世代の非正規労働者が厚生年金に加入できる機会が損なわれてしまいます。企業規模要件撤廃まで十年掛けるのは長過ぎだと石橋委員、高木委員もおっしゃっておりました。私は、田村委員が六月四日の本会議で提案された企業規模要件の撤廃の五年前倒しにつき、与野党で真摯に御検討いただきたいと思っております。
アジア通貨危機やリーマン・ショック後のような失業率の高い時期はとても適用拡大などと言っていられる状況ではございませんでした。企業が潰れて失業者を増やしてしまったら元も子もございません。
しかし、今は人手不足の時代です。もちろん、企業が社会保険料も含めた付加価値を提供できるよう、政府として生産性向上の支援をしていく必要はあると思います。しかし、仮に社会保険料を負担できず潰れる企業が出てしまったとしても、そこで働いていた方を雇いたいという企業はほかにたくさんあります。今は希少な労働者を大事に使っていくべきだと思っております。
もし、企業規模要件撤廃時期の今からの前倒しが難しいのだとしても、せめて本法案の衆議院厚生労働委員会附帯決議の三にあるとおり、企業規模要件の撤廃を待つことなく早期に任意の適用を進めるための方策につき検討を加え、必要な措置を講ずるよう努めることをせめてお願いしたいと思います。
雇われて働く方に対して厚生年金の保障を付けることは、無年金・低年金対策として極めて重要です。また、マクロの視点でも、厚生年金の適用拡大は、基礎年金拠出金の按分ルールを変更しなくとも、厚生年金内の再分配機能を高める効果がございます。
また、厚生年金と併せて医療保険の適用拡大も進めると、医療保険の保険料率を引き下げられる効果が生じ、現役世代の負担を平準化できるという効果もあります。現在の医療保険制度は、大まかに言うと、高齢者の医療費を被用者保険の保険料で支えている構図にあります。被用者保険の適用拡大が行われると、言わば支える側の被用者保険の頭数が増加するため、医療費を所与とすれば、医療保険の保険料率を引き下げられる効果があります。
大和総研の試算では、週十時間以上の労働者全員が被用者保険に加入することとなれば、二〇四〇年度における医療保険の保険料率を〇・六%ポイント引き下げられる結果となりました。特に猪瀬委員も社会保険料率の引下げに強い御関心をお持ちかと思いますので、そのためにも是非適用拡大への御支持をいただきたいと思っております。
続いて、四点目、年収の壁と第三号被保険者制度についてです。
ある収入を超えた途端に多額の社会保険料が発生し、かえって手取りが減ってしまうという年収の壁の問題の解消については、私は被用者保険の適用拡大を更に進めることによって解消を目指すべきと考えております。
たとえ第三号被保険者制度が残っていても、雇われて働く方全員を被用者保険に入れて、年収五十万円なら五十万円なり、八十万円なら八十万円なりの保険料を労使共に支払っていただければ年収の壁は生じません。今回の法案が成立次第、次の二〇三〇年改正に向けて、更なる適用拡大のための具体的な検討を進めるべきです。
その上で、第三号被保険者制度の在り方については、私は慎重に検討すべきと考えております。
かつて、第三号被保険者制度が男は仕事、女は家庭という役割分担を強化してきたのは事実だと思いますが、私は現在はそうではないと考えています。現在では、二十代の男女の賃金格差は小さく、かつ、出産した女性も六割ほどが産休、育休を経て元の職場に復帰しています。女性が生涯で得られる賃金と比べれば、第三号被保険者制度が魅力的だとは思えません。むしろ様々な事情で働けない人を保護する面が大きくなっていると考えております。
私は今三十九歳で、小学生の子供二人を育てながら夫婦ともフルタイムで働いております。夫婦とも厚生年金保険料をそれなりに納めておりますが、だからといって第三号被保険者制度が不公平だとは思っておりません。
私の同世代の中には、不妊治療のために仕事を辞めなければならなかった方、本人の病気や障害のために長時間働くことが難しい方、子供が学校に通うことが難しいために家庭でケアをされているという方がいらっしゃいます。幸運にも今こうした事情が生じていないために夫婦ともフルタイムで働けている私たちのような者の厚生年金保険料が、こうした事情が生じている方に再分配されることを私は不公平だとは思いません。
働かないのか働けないのか、理由を問わないのは三号制度の長所でもあり、病気や不妊治療、子供の不登校など、ほかの制度でカバーしにくい、自己申告しづらい事情も包括的に保護できるところが三号制度の大きな特徴です。
法案では、附則第二条四項に、第三号被保険者の在り方について国民的な議論が必要であるという認識の下、その議論に資するような第三号被保険者の実情に関する調査研究を行い、その在り方について検討を行うと書かれており、この規定は妥当だと思います。是非そのとおり、実情を調査した上で国民的な議論を行うべきだと思います。
最後に、五点目、遺族厚生年金の改正についてです。
法案は、制度としての男女差をおおむね解消し、家族形成や労働参加に中立的な制度としつつ、必要な者にはより手厚い給付を行う良い改正案だと考えております。
三十歳以上の子のない妻や、子が十八歳となった後につき、夫死亡後又は子が十八歳となった後のいずれか遅い方から五年経過後は所得などの状況に応じた継続給付に切り替わります。昨日、石橋委員も本委員会で質問されておりましたが、この継続給付については余り理解がされておらず、誤解に基づく報道も多くあるところです。
本日、この継続給付の金額につき私が具体例を基に試算しましたので、その試算を紹介させていただきます。この試算は次に開催される年金部会に資料提出し、公開させていただくつもりです。
男性が残された場合は、現状、配偶者死亡時五十五歳未満であれば遺族厚生年金が全く支給されませんが、まず五年間は遺族厚生年金が支給され、その後も本人の年収が百三十二万円以下であれば遺族厚生年金は全額支給され、年収百三十三万円から三百五十七万円までは一部支給されることとなります。
女性が残された場合は、ほとんどは中高齢寡婦加算が付くケースになるかと思います。この場合、まず五年間は遺族厚生年金が現行制度よりも増額されます。その後も、本人の年収が二百六十八万円以下であれば現行制度よりも遺族厚生年金の支給額が多くなります。それを上回る収入のある方については、収入に応じて緩やかに遺族厚生年金の支給額が減っていきますが、実に年収六百十六万円まで遺族厚生年金の一部支給が継続されます。女性が四十代、五十代になってから再就職したとしても年収百万円から二百万円ぐらいしか稼げないのではないかとおっしゃる方もいますが、もしそうであるならば、遺族厚生年金は現行制度よりも手厚く支給されるということになります。
ただ、それは年金部会が目指す姿ではありません。年金部会では、年金が労働市場の改革を促すことを目指して制度設計を考えてまいりました。法案による新制度の下では、配偶者が亡くなった後の自らの厚生年金の加入実績が自らの老齢年金にダイレクトに反映されるようになります。また、継続給付の遺族厚生年金についても所得に応じて緩やかに給付額が減り、賃金と合わせた手取り収入は増え続ける設計になっております。
このような制度の下、男女とも中高齢期からであっても自立した所得を得られるように労働市場に改革を促すのです。継続給付の遺族厚生年金に頼らずとも多くの男女が自立できる所得を得られる労働市場に変えていくよう、与野党の委員の皆様のこれからのますますの御尽力をお願いし、私の意見陳述を終わらせていただきます。