林尚美の発言 (消費者問題に関する特別委員会)
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○参考人(林尚美君) 林です。
今回の改正は、令和二年改正法の附則第五条の検討の規定に基づいて検討会が開催されまして、改正案が提出されているというものです。
先ほど山本先生からもお話ありましたが、私は、平成三十年の内閣府消費者委員会の公益通報者保護専門調査会の委員、そして令和二年、公益通報者保護に基づく指針等に関する検討会の委員をさせていただきました。かなり縁がありますので、これも日頃から日弁連、大阪弁護士会で公益通報者保護について研究をしておりますので、今日ここで参考人として意見を言わせていただくのを大変に光栄に思っております。よろしくお願いいたします。
まず、今回の改正案についてですけれども、濱田さんとは違ってちょっと評価をしているところはあります。
公益通報を理由とする解雇及び懲戒処分に対する刑事罰の導入をしているという点、それから通報後一年以内の解雇又は懲戒について公益通報を理由としてなされたものと推定する制度を導入しているということ、それから保護すべき公益通報者にフリーランスを加えているということ、公益通報対応業務従事者指定義務違反への是正命令及び同命令違反時の刑事罰を導入しているということ、それから公益通報者を探索する行為及び公益通報を妨害する行為を禁止しているということ、そして、一般職の国家公務員等について、公益通報をしたことを理由とする不利益な取扱いを禁止し、これに違反して分限免職又は懲戒処分した者に対し直罰制度を新設するなど、本法の実効性を高めるために必要な内容が盛り込まれているというふうに評価しております。
この点、令和七年三月十九日、兵庫県におきまして、文書問題に対する第三者調査委員会の調査報告書において、利害関係者が公益通報対応業務に関与していたということが極めて不当であるということ、それから通報者を探索した行為が違法であるということが指摘されております。通報者保護の観点から、本改正案を早急に実現していただきたいと思っておるところです。
しかし、他方で、本改正案では、配置転換や人事権行使としての降格処分について公益通報を理由としてなされたものと推定する立証責任の転換が認められていないということ、それから公益通報をするために必要な資料収集や持ち出し行為に対する民事、刑事の免責規定についての定めがないということ、公益通報にインセンティブを与える制度の導入がなされていないということ、それからフリーランス以外の取引先事業者等を保護すべき公益通報者に加えるという規定が盛り込まれていないということ、しかも、常時雇用する労働者が三百人超に限られた規定になっているところを三百人以下にも適用しようとする内部通報制度整備というのが盛り込まれなかったということ、それから小規模事業者内では安心して通報ができないということから、行政機関への通報、つまり二号通報が重要になってまいりますが、二号通報について、労働者へのより一層の周知啓発の必要性があります。ところが、それが、その手当てがなされていないということ、また、二号通報で要件緩和をされたと言いますけれども、この書面の要件は顕名でなければならないということになっております。この点で、通報者の保護に欠けているところがそのままになっているということ、問題であると思っております。
そして、解雇、懲戒処分以外の不利益取扱いに対する刑事罰の導入がなされておりません。外部公益通報受付窓口の設置を推奨することについての規定もないということです。公益通報対応業務従事者指定義務違反以外の体制整備義務違反に対する是正命令及び同命令違反時の刑事罰の導入もなされていないということで、検討課題が相当残されていると思われます。
以下、幾つかの点について詳しく説明したいと思います。
まず、配置転換についてですけれども、配置転換等が不利益取扱いとして権限濫用に当たるとして争われる場合には、公益通報者において、業務上の必要性がない配置転換であり、不利益取扱いに該当するということ、そして、それが公益通報をしたことを理由としてなされたのか、つまり不当な動機又は目的でなされたかを立証しなければならないということになっております。
しかし、配置転換は日常的に特段の理由なく人事のローテーションとして行われているのが一般的です。業務の必要性があるという事実について証拠を持っているのは事業者側であって、また、不当な動機があったかどうかという内心について労働者側が立証するというのは非常に困難です。その反面、事業者において、業務上の必要性があるということ、特に不当な動機、目的ではなく一般的なローテーションであるということを主張、立証するというのは比較的容易になっております。このように、証拠が偏在している場合に立証責任を労働者側に負担させるのは公平ではありません。
そこで、公益通報者の立証の困難性を解消し、公益通報がしやすい法体系を構築すべきであると考えます。
そこで、通報者が法二条一項に定める公益通報であることを主張、立証した場合には、事業者は当該配置転換や降格処分が公益通報以外の理由によるものであることを主張、立証しなければならないといった立証責任転換をする規定を設けるべきです。
この点、既に雇用機会均等法の第九条四項において立証責任の転換についての規定があるところは本委員会でも議論されているところです。さらに、国際的には、EU指令、フランス法、ドイツ法においても立証責任の転換規定を置いております。
次に、資料の収集や持ち出し行為についてですけれども、資料持ち出し行為については裁判で判断されたものがあります。
東京地判の平成十九年十一月二十一日、内田洋行事件におきまして、本件告発の内容である事実が真実であることを示すために必要な行為であって、その複写の方法にしても、就業時間若しくは休日出勤の際に、鍵が掛からず取り出しに事実上の制約のないキャビネットから資料を取り出して複写するというもので、社会的相当性を欠くものとは言えないから、正当行為として違法性は阻却されるというふうに判断しています。
また、大阪高裁の平成二十一年十月十六日の神戸司法書士事件では、本件通報が公益通報者保護法による保護があるかどうか、控訴人が犯罪、非弁行為ですね、を犯した、あるいはまさに犯そうとしていると信じるに足りる相当の理由があるかどうかによって決せられることになると。何らの証拠資料もなしに公益通報を行うことは困難な場合が多いから、公益通報のために必要な証拠書類又はその写しを持ち出す行為も公益通報に付随する行為として同法による保護の対象になると解されるというふうに判断がされています。
しかし、真実相当性等の立証のために、どこまで、どの証拠が必要十分であるのか、どのような証拠収集方法が相当性が認められるのかを通報する当事者が事前に予見することは困難です。先ほど濱田さんもおっしゃいました。一般法理によって事後的に救済される可能性があるということだけでは、安心して公益通報を行うことは期待できません。
そこで、保護されるべき資料収集行為の要件を明確にした上で、通報を裏付ける資料収集を理由とした民事上、刑事上の免責規定を設けるべきと思います。EU指令、イギリス、フランス、ドイツの法律におきましても免責の規定があります。
三つ目ですけれども、報奨金制度等の公益通報にインセンティブを付与する制度を導入すべきであると考えております。
公益通報者保護法は、保護要件を満たす通報をした者を不利益取扱い等から保護する規定を置いております。
しかし、通報者は、たとえ保護が及ぶ場合であっても、実際に不利益を受けてしまった場合に訴訟を提起しなくてはなりません。その場合、金銭的、時間的、精神的な負担は極めて大きいと。今、濱田さんがおっしゃったとおりです。そして、仮に勝訴したとしても、基本的には不利益取扱いが是正されて元に戻るというだけであって、弁護士費用などに要した費用は回復されないというのが実情です。
私は、通報するかどうか、通報後にどうすべきかについて相談を受けることがよくあります。弁護士としては、公益通報をすることによって発生するリスクについても説明せざるを得ません。そうしますと、最初は公益通報することを希望していた相談者の方も、リスクを考えるともう公益通報することを断念するという方もいらっしゃいます。珍しくありません。公益通報を行うことは経済的には何のメリットもなく、むしろマイナスでしかない、そうであれば、組織内の不正を認識しても公益通報をしないという結論に至るということなんです。
このように、潜在的な通報者は相当程度存在していると思います。この現状を打開するためには、公益通報者の経済的な不利益を払拭して、経済的なインセンティブを与える制度を導入し、公益通報者に負担が過度に偏った現状を是正する必要があると思っております。
具体的には、一つ申し上げますと、労働基準法に、百十四条に定められている付加金制度を参考にして、公益通報に関して同趣旨の制度を設けるということが考えられております。
例えば、公益通報を理由とする不利益取扱いを理由とする解雇、降格、減給などがなされて、それが無効であると判断された場合、未払賃金が発生しております。未払賃金に加えて付加金の支払も命じることができるという規定にするということです。その場合には、公益通報が公益に資する行為であるということに鑑みて、付加金の額を未払賃金の二倍若しくは三倍にするということにして通常の未払賃金の訴訟の場合よりも多くするということ、付加金の支払を必要的にするということが考えられます。このような制度を取り入れることによって、通報する人が通報しやすくなるという状況になるのではないかと考えているところです。
次に、フリーランス以外の取引先事業者についてです。
今回、フリーランスというのが通報者として保護されるということが入りました。しかし、フリーランス以外の継続的な取引関係にある自営業者等の取引先事業者を保護の対象とすべきであると考えております。すなわち、相手方事業者の不正を知り、通報しようとする者が、事業者との間で雇用契約がないということで労働者等には当たらないので、公益通報したとしても保護されないと、事業者からの不利益取扱いを恐れて告発することができなかった事案は多く存在しております。また、事業者が通報したことによって不利益を受けたという西宮冷蔵の事件等もあります。
事業者との関係を雇用関係あるいは役員という地位に限定して解釈するのであれば、通報者として保護される者の範囲が狭まってしまい、その結果として不祥事発覚を遅らせるということになりかねません。通報者の範囲というのは、通報することによって不利益な取扱いを受けるか否かによって判断すべきだと思います。また、通報する人というのは不正を知り得る人という範囲にすべきであると考えております。
この点、EU指令では、業務に関連して違法な事実に関する情報を取得した個人事業主、ボランティア、請負業者、下請業者等の監督と指示で働く者等に適用されるとしているところであります。我が国においても、EU指令のように、通報者としての保護を対象とすべき範囲は拡大すべきであると思っております。通報により現に不利益な取扱いを受けるおそれのある継続的な取引にある自営業者等の取引先事業者も含めるべきであると考えております。
このように、検討すべき事項が残されておりますので、本委員会においてよく議論をしていただきまして、より公益通報をしやすい法律になることを祈念しております。
以上です。