齋藤裕の発言 (内閣委員会)
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○参考人(齋藤裕君) 弁護士の齋藤裕と申します。
本日は、貴重な機会をいただきまして、誠にありがとうございます。
私は、日本弁護士連合会で今回の法案についての検討を担当してきました。今回お話しする内容はあくまで個人としての発言でございますが、よろしくお願いいたします。
私の方は、今日、能動的サイバー防御法案、令和七年五月八日、参考人質疑メモというものに基づいてお話しさせていただきたいと思います。ただ、こちらが言いたいことは、事前でも配られていますし、今日も配られていますけれども、いわゆる能動的サイバー防御法案について慎重審議等を求める意見書、日本弁護士連合会、四月十七日付けというものがございますが、基本的には私の意見はこの意見書に沿った内容ということになります。
まず、メモに基づいてですが、第一に言いたいことでございますが、当事者協定の問題点、特にこれが通信の自由を侵害しないかということについてお話しさせていただきたいと思います。
当事者協定による通信情報の利用は、一方当事者の同意のみがあれば可能だというふうにされておるわけです。例えば、当該当事者の設備にサイバー攻撃がなされている、あるいはもうなされようとしているというような具体的な必要性は全く要件とされていないわけでございます。これがほかの通信情報の利用制度と異なるところでございます。このような通信情報の利用、当事者協定による通信情報の利用というものが通信の秘密を侵害しないかということについて述べさせていただきます。
まず、この点についてですが、最高裁決定、平成十一年十二月十六日決定というものがございます。いろいろ書いてございますけれども、最終的には、その通信傍受についてやむを得ないと認められることが必要だというふうにされているわけでございます。要するに、必要性でございますけれども、ここでいう必要性というのは、一般論としての必要性ではないわけですね。
例えば、一般的に、犯罪を防止しなければならないから、どんな状況であっても人の家に捜索、差押えを掛けてもいいということには絶対ならないはずであります。捜索、差押えをすることができるのは、犯罪の嫌疑がある、具体的に、ある犯罪が行われた疑いがあって、その被疑者を捜査するために必要性がある、そういう具体的な必要性があるから捜索、差押えができるということでございます。ここでいう必要性というのは、あくまで一般論としての必要性ではなく、具体的な必要性ですね。最高裁は、あくまで具体的な必要性がある、具体的にやむを得ないという場合には通信の秘密は制限されるということを言っているわけでございます。
ところが、当事者協定の場合、どうでしょうか。当事者協定について法文上の要件とされているのはあくまで一方当事者の同意であります。例えば、ソトソト通信と言うのかガイガイ通信と言うのか分かりませんけど、外外通信の場合ですけれども、通信情報の利用をしなければサイバー攻撃による被害を防止できないというようなことが要件に書かれています。これが具体的な必要性だと思います。当事者協定による以外の通信情報の利用については何らかの形で具体的な必要性が要件とされているわけでございますが、当事者協定による通信情報の利用については具体的な必要性が全く要件とされていない。これが非常に異質なわけでございます。そうしますと、最高裁の判断枠組みからして合憲性に疑問があるのではないかと思っております。
この点ですけれども、一方当事者が同意しているからまあいいんじゃないかというような反論が考えられるところであります。全く同じような事例について判断した判例、裁判例というのはないわけでございますけれども、通信の一方あるいは会話をしている一方が他方の同意なく録音しちゃう、人と人が話している、電話で話す場合も面と向かって話す場合もあるでしょうけど、一方当事者が相手の承諾を得ないで勝手に録音してしまうということがあるわけです。そういうケースについて、今まで多くの判例、裁判例で判断されてきたわけでございますが、今回、最高裁の二つの決定を資料に書いておりますけれども、二ページ目に行きます。
結局どういうことを言っているかということですけれども、例えばその録音が証拠にする上で必要性があるとか取材をする上で必要性があるとか、何らかの必要性があるからその録音、勝手に録音するというのは適法なんだというような判断をしている。あるいは、相手方も録音されることは予想すべきだったんじゃないのということで適法としているということでございます。これが最高裁の判断枠組みでございます。
そうしますと、今回の当事者協定による通信情報の利用というのは、先ほどから申し上げていますけど、法律上の要件として、少なくとも具体的な必要性というのは全く要件になっていない。そして、当事者が、じゃ、私は内閣総理大臣から通信情報が利用されるだろうかということを予期できるかというと、普通はできないわけですね。そう考えると、秘密録音、不同意録音の事例を持ってきて、一方当事者が同意しているから当事者協定による通信情報の利用は正当化されるんだということは決して言えないだろうと思っています。
そう考えますと、やはり当事者協定による通信情報の利用については、通信の秘密との観点で非常に問題があるというふうに考えております。これが一点目です。
二点目、捜査利用の可能性と令状主義でございます。
ここでは主に、通信情報の利用以外の、通信情報の利用について述べますけれども、全ての通信情報の利用について、法律の条文上は捜査利用の可能性は排除されていないわけでございます、明確には排除されていません。政府答弁では、これは政府答弁自体がぶれていますけれども、警察が選別後通信情報を得て、それを捜査に使う場合には新たに令状を取得するというような答弁もあったわけです。これはほとんどもう令状主義の潜脱と言わざるを得ないわけですけれども、このような捜査に使われてしまうかもしれない状況で令状なしで通信情報を取得するという制度が憲法に違反しないかということが問題になると考えております。
憲法三十五条というものがございまして、捜索、差押えをする場合には令状がなければならないというふうに言っておるわけでございます、これに反しないかの問題です。
まず、前提として、捜索、差押えというのは、警察官がどかどかと人の家に入り込むみたいな物理的なものが基本的には念頭に置かれているわけですけれども、ただ、無形的なものについても憲法三十五条が適用されるというのは、最高裁平成二十九年三月十五日判決ではっきりしたわけでございます。
次ですけれども、今回のような通信情報の利用のような、通信情報の利用は行政手続であって捜査手続ではないというふうにされているわけですが、このような手続についても令状主義が適用されるのか、これはもう国会でも議論されたわけでございます。これについて述べさせていただきます。
これについては、収税官吏による調査と憲法三十五条についての最高裁昭和四十七年十一月二十二日判決というものがあって、これも国会審議で再三引用されてきたところでございます。この最高裁判決は税務調査について令状主義が適用されないという判断をしているわけですが、その理由として四点挙げているわけでございます。
一つは刑事責任の追及を目的とする手続ではない。二つ目が刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結び付く作用を一般的に有しているものではない。三点目、これ、三ページですね、三点目でございますが、直接的物理的な強制と同視すべき程度の強制をしていない。四点目でございますが、公益上の目的を実現するために必要不可欠だということが言われているわけでございます。
まず、二つ目の要件でございますけれども、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結び付く作用を一般的に有するものかどうかということでございますけれども、これにつきましては、最高裁はなぜこういう判断をしているかというと、所得税の逋脱その他刑事責任の嫌疑を基準に右の範囲が定められているのではない、だから税務調査というのは刑事責任の追及に一般的に結び付くものではないと言っているわけです。税務調査の対象というのが犯罪という基準で絞られているわけではない、だから税務調査の対象は犯罪以外のものも含まれている、犯罪も含まれるかもしれないけど犯罪以外のものも含まれているので、そういう意味では、刑事責任の追及に一般的に結び付くものではないというのが最高裁の論理なんでございますけれども、通信情報の利用につきましては、特定不正行為の疑いというのが要件となっているわけですね。
特定不正行為というのは、例えば、業務妨害であるとか、刑法の業務妨害とかあるいは不正アクセス禁止法とか、そういう犯罪行為に該当する行為を要件としているわけです。通信情報の利用というのは犯罪行為というものを基準として行われることになっている、そういう制度でございますので、まさに犯罪というものを基準に、それを、犯罪に関わるものを対象に通信情報の利用がなされるという制度になっていますので、まさにこれは刑事責任の追及に一般的に結び付き得るものだろうというふうに言わざるを得ないと思います。
三点目の要件ですけれども、通信当事者は、もう勝手に通信情報を利用されちゃうわけですから、もう原則拒否できない、嫌だよと言うこともできない。これは非常に強制の度合いが大きいということでありまして、そう考えますと、最高裁の判決を前提としましても、少なくとも当事者協定に基づくもの以外の通信情報の利用については、最高裁判決に照らしても、憲法三十五条が適用されて令状主義が必要なのではないかと考えております。そうしますと、令状なしでこのようなことをやる制度というのは違憲ではないか、その可能性があるのではないかと考えております。
三点目でございます。当事者協定と目的外利用でございます。
当事者協定については目的外利用が許容されているということでございます。この点について一点、政府の説明としては、一つ目は、法の趣旨にのっとり権限を行使するのが当然だからいいんだと。二点目、第三者機関も法の目的に照らしてチェックを行うからいいんだと言っています。三点目、サイバー防御以外のために使いようがない情報だからいいんだというふうに言っています。
これらについて検討しますけど、一について、我が国は法治国家であります。法の趣旨にのっとり権限を行使するからいいんだというのはまさに人治主義の考えでありまして、到底法治主義の考えではないと言わざるを得ません。
二つ目ですが、第三者機関も法の目的に照らしてチェックを行う、次、四ページ目でございますけれども、というふうに言われていますけど、これ、二十三条四項でわざわざ特定被害防止目的以外に使ってよいと記載されているわけですね。明確にこういうふうに書かれているのに、第三者機関が法の趣旨とかどうのこうのということでチェックできるとは到底思われないわけであります。
三番目でございます。これは、ここに書かれているのは、どっちかというと当事者協定に基づく通信情報の利用などに関わる、法二十二条二項、一項三号ですかね、ごめんなさい、法二十二条二項一号、三号に基づいて述べているわけでございますけれども、例えば、誰かのパソコンなりサーバーが乗っ取られて、それを踏み台としていろんなところにサイバー攻撃がなされた場合、そのサーバーなりのIPアドレスをキーにして検索をして、それに関わるような通信がのぞかれてしまう可能性があるだろうと。その場合に、例えば、じゃ、どういうところとメールでやり取りをしたのか、どういうサイトをのぞいたのか、そういう人の交流、交友関係とか興味関心に関わるような情報が知られてしまうのではないかと思います。そういう情報が知られてしまうということになれば、それは捜査とかあるいは脅しに使われるということも十分あり得るだろうと思っております。
メールについては非識別化がされるからいいんだというようなお話もありました。これについては、衆議院でたしか平大臣がおっしゃっていたのが、メールの識別可能性については、例えばメールの中に名前が入っている、名前が入っているような場合にはそれで個人識別ができちゃうのでその部分を消さなきゃいけないというようなことを平大臣おっしゃっていたと思います。
そうだとすると、じゃ、名前が書かれていないメールアドレスは非識別化しないのかということになります。でも、メールアドレスというのは、使いようによっては、あっ、このメールアドレスはこの人のものだなというふうに分かってしまうことは十分あるわけですね。そういう意味では、メールアドレスなどについて非識別化されるから安心だということには決してならないだろうと思っております。そういう意味で、当事者協定において目的外利用を許容する規定は削除すべきだと考えております。
第四もありましたが、時間となりましたので。ありがとうございました。