青木栄一の発言 (文教科学委員会)

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○参考人(青木栄一君) おはようございます。ただいま御紹介いただきました青木栄一と申します。大学で教育行政学担当教授をしております。
 本日は、意見を陳述する機会を与えていただきまして、誠にありがとうございます。
 私は、教育に関する仕事をする上で、自分を育ててくれた日本の公教育システムの下、全ての先生方が働きやすさと働きがいを持てるようにしたい、そういう思いを持って研究と教育に携わってまいりました。この点で文教科学委員会の先生方と思いを同じくしていると信じております。
 それでは、意見に入ります。
 まず冒頭に、この法案、今回の法案について、私の基本的な評価をお示しします。
 本法案が対象とする制度は、長年にわたり様々な批判と再検討の声にさらされており、このテーマは大変重く、慎重な議論と着実な制度設計が求められます。私は全体として前向きに評価いたしますが、あくまで過去の問題を直視しつつ一歩を踏み出そうという意思を見てのことです。
 といいますのも、この法案には、給特法を中心として政策の総動員と言える姿勢がはっきり見えており、教員の多忙、学校の働き方改革という課題に対して、動員可能な政策手段をしっかり整備し対応しようという意思が感じられるからです。
 さらに、法律案の附則について一部修正が行われたことについては、実効性の観点から評価されるべきものと考えます。
 私は、三回にわたる教員勤務実態調査及び平成、令和、二つの中教審特別部会の委員の一人として一連の議論に参画いたしました。その経験から見て、直近の特別部会での議論は妥当な方向性だったと認識しています。なぜならば、現実の制度の機能を直視し、どう改善を図っていくのかという現実論、手段論がしっかりしていたからです。
 また、国としての制度設計の議論の場として、どこまでが国の責任で、どこからが地方や学校、校長の責任かという線引きもかなり明確に意識されていました。この仕分によって、それぞれのレベルでの責任の所在がぼやけることなく、適切に政策を実施できるような提言に結び付いたと思います。
 ここから、私なりに三つの観点から法案を評価していきます。
 第一に、私の専門であります政府間関係論という観点からです。
 政府間関係、言い換えれば国と地方の関係の観点から見ますと、今回の法案は極めて異例ではありますが、教員のためには前向きに捉えられます。
 といいますのも、ある意味で教育行政の地方自治の原則を踏まえつつも、例外的な規定を打ち出しているからです。通常であれば、公立学校の設置者である自治体に相当程度任せるべきところを、地方や学校に丸投げすることなく、あえて国がリーダーシップを取ろうとしています。
 今回の法案は、地方自治の尊重と中央の責任、そのぎりぎりの接点を巧みについた、覚悟を持った制度設計だと評価します。
 例えば、改正案では、教育委員会に対して、文部科学大臣が定める指針に則して、教員の業務量の適切な管理と健康、福祉を確保するための実施計画の策定、公表を義務付け、さらに計画の実施状況の公表も市町村単位で義務付けます。そして、この一連の対応を教育行政に閉じることなく、総合教育会議への報告を義務付けることによって、首長を始めとする多様なステークホルダーとの連携、協働も教育委員会に求めています。
 加えて、給特法と関連する法律の改正を通じて、学校単位の動きにまで義務付けを含む強い規制を二つ掛けます。一つ目は、公立学校が学校評価の結果に基づき講ずる学校運営の改善措置が、先ほどの実施計画に適合することを義務付けます。二つ目は、公立学校の校長が、学校運営協議会の承認を得る学校運営の基本的な方針に業務量管理・健康確保措置の実施に関する内容を含めることとします。
 これらの改正案は、いずれも教育委員会の行動を強く枠付けるものであると言えます。しかし、教育行政の地方自治原則のぎりぎりの範囲内で、緊急事態とも言える現在の教員の働き方を改善するという強い意思の表れと肯定的に評価しています。
 この国の強い方針に対して、教育委員会や学校が適切に制度を運用することが鍵になります。教育ガバナンスの観点から見ますと、例えば、さきに述べた総合教育会議や学校運営協議会の活用は、首長、保護者、地域住民を巻き込むものです。教育委員会が単独で抱え込む時代から、教育行政の外部主体と連携して進める開かれた教育行政への転換点に立つものと言えましょう。
 こうした既存の制度を給特法と組み合わせ、教育委員会や学校が教員の業務量の適切な管理と健康・福祉確保措置の実効性を主体的に高める狙いを持つこの法案を積極的に評価します。
 ただし、学校運営協議会を設置していない学校については、教員の業務量管理・健康確保措置をより実効性あるものとするという観点からも、設置を促していくことが必要と考えます。
 第二に、個々の学校に目を向けたとき、特に注目されるべきなのが学校マネジメントです。その中でも、いわゆるミドルマネジャーあるいはプレーイングマネジャーの重要性が今日増しています。
 例えば、学年主任や教科主任といった立場の人たちが、自らの授業に加えて、チームメンバーの相談を受け、成長を促すことが求められています。これまでの学校には、いわゆる鍋蓋型組織と呼ばれる構造が根強く、マネジメントが機能しにくい状況でした。
 マネジメントが機能することで、業務の割り振りや適切な分担も期待できます。さらに、休憩時間の確保、勤務間インターバルの確保といった課題にも取り組める可能性を高めます。
 教員の自発性に委ねるべきものは教育活動であり、働き方に関してはマネジメントをしっかり機能させる必要があります。働き過ぎの教員に対しては管理職がちゅうちょなく介入し、働き過ぎの状態から速やかに脱出させるべきです。
 今回の改正案では、主務教諭を置くことができるという任意規定ではありますが、学校組織の中にマネジメント体制を制度的に整備していくものです。まずは、これまでの鍋蓋型組織の課題を克服し、教員の働きやすさと働きがいを実現する突破口になると期待します。
 既に、主務教諭の創設が他の級の教員給与の引下げを招かないようにするべきとの議論がありますが、これに加え、マネジメントを機能させる前提条件としての教職員の定数改善を御検討ください。
 第三に、教員の処遇改善です。
 教職調整額が、教員の業務が本来教員自身の自発性、創造性に委ねられるべきことから、勤務時間の内外を包括的に評価し、本給相当として支給されるものという整理は、さきの中教審答申で改めてなされましたが、私もその考えに賛同しました。
 その理由は、給特法に表現された教員像が、教育内容に詳しい専門職、あらゆる子供のために寝食を忘れて尽くす聖職、そして労働する者としての三つの教員像を三位一体的に包括するものであり、いずれも欠かすことのできないものだからです。
 私なりに教員業務を整理しますと、まず最も基本的な層である第一層は、この専門職モデルに対応し、授業、そして授業準備や教材研究が該当します。他方、聖職モデルに対応するのが第二層業務であり、典型例は夜間の見回り、補導時の対応、不当な要求等を行う保護者等への対応などです。現状を直視し、この第二層を早急に削減するべきです。
 今後は、教員の長時間勤務を速やかに是正していくことが不可欠です。働き方改革が実現された後の姿を見据えれば、教職調整額の制度も、ようやくその制定当初に期待されていたとおりに、教員が真に自発性を発揮し、子供と向き合えるようになると期待できます。
 改正案では、教職調整額の率を四%から一〇%に引き上げることとされています。法案の目的である教員に優れた人材を確保するために、そして一般行政職に対する優遇措置の回復、また民間セクターに負けない人材確保策の観点からも、今回の引上げは妥当と評価いたします。
 最後に、給特法そのものに対する評価を述べます。
 給特法の成立後に初めて教員の多忙が引き起こされたという見方に私はやや疑問を持っています。給特法は多忙化の原因と批判されますが、既に多忙が認識されていた昭和二十年代以降の経緯を見れば、立法時点ではむしろ教員業務の無定量化を防ぐために、かつ教員の職務と勤務態様の特殊性が織り込まれ、生まれたものです。
 さて、当時の文部省の担当局長は、給特法の成立の後、校長が勤務時間管理をしっかり行うように指導すると述べました。しかしながら、実際は、教員の勤務実態の把握やそれに基づいた措置について、文部省や教育委員会の対応には問題が全くなかったとは言えません。
 こうした状態に法律面で突破口を開いたのは、教員業務の時間管理を明記した二〇一九年改正です。今回の改正は、更に踏み込んだ時間管理を国、地方通じて目指すものです。現実に対応する法改正が行われるようになったわけでして、ようやく給特法に血が通い始めたと言えます。
 給特法は、教員の給与体系や勤務時間の扱いなどに深く関わる法律ですが、単体で十全に機能するものではありません。
 今回の法案は、まずこの給特法自体の実効性をどう担保するのかという点を意識した内容となっています。中教審で抜本的な議論を行い、制度の根幹は維持しつつも、長年指摘されてきた課題を克服するために国と地方の関係では踏み込んだ制度改革を盛り込みました。
 さらに、関連制度との組合せで制度の実効性を更に担保するための改正案、そして修正案と捉えています。つまり、給特法単体では期待できない学校の働き方改革の推進を、関連する制度を活用しながら実現していくことが期待できます。
 給特法成立時点では欠けたピースが数多くありました。今回の法案には、まさにこの欠けたピースを埋める内容が盛り込まれています。これは非常に重要な進展でして、制度全体の整合性を取る上でも、教員の働き方改革を本気で進めていくという意味でも必要不可欠と思います。
 まずは、一歩前に踏み出し、今回の改正案を実行することが重要です。そして、改革案の進展度合いによっては、文部科学省がより学校や教育委員会に関与する権限強化も検討されるべきです。
 なお、文部科学省の組織と政策を対象とする研究者として申し上げます。
 今回の改正を着実に実行していく上で、霞が関最小規模の本省組織であり、地方支分部局を持たない文部科学省の機能強化が必要不可欠です。少なくとも、教育委員会に対する指導、教員の勤務実態の把握のためには、すぐにでも担当部局の増員、純増が必要であり、司令塔機能の強化が求められます。
 この度の改革は、日本の学校文化を問い直す挑戦でもあります。今この瞬間も教室で奮闘する先生方の姿、そして未来を切り開く子供たちの笑顔を思えば、この法案が持つ意味は極めて大きなものと言えましょう。文教科学委員会の皆様におかれましては、是非この挑戦の意義をお受け止めいただき、日本の先生方を支える力強い応援として御検討いただければと存じます。
 私の意見は以上でございます。御清聴ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 青木栄一

speaker_id: 17435

日付: 2025-06-03

院: 参議院

会議名: 文教科学委員会