首藤若菜の発言 (予算委員会公聴会)
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○公述人(首藤若菜君) 立教大学の首藤若菜と申します。
本日、このような場でお話しさせていただく機会をいただき、大変光栄に感じております。どうぞよろしくお願いいたします。
本日は、賃上げと年収の壁、選択的夫婦別姓の三点についてお話しさせていただきます。
最初に、賃上げについてです。
昨日は春闘の集中回答日でしたが、報道によりますと、今年は昨年と同様若しくは昨年を超えるような賃上げ水準となっておりまして、大変喜ばしいことだと思っておりますが、中小企業での春闘というのはこれからが本番ですので、そこへ波及できるかどうかというのが課題となっております。その見通し等について幾つかお話ししたいと思います。
まず、現時点で高い賃上げ率を達成した背景には、一つには労働組合による高い要求があったというふうに考えております。資料の四ページ、図一を御覧いただければと思います。
これは、連合が出しておるデータに基づきまして、企業規模別に要求と回答を過去五年間示したグラフになります。今年の要求水準高いということが示されていると思いますが、要求と回答は、その差を見ていただきますと、企業規模が小さくなるほど当然差が開いていくわけですが、それを考慮しても、今年の要求水準を踏まえますと中小企業でも高い賃上げが期待されるところです。図一が定昇込みの賃上げ率、図二が定昇を除く賃上げ率、いわゆるベースアップ分となっております。
さらに、六ページに図三がございますが、これは商工中金が取引先の中小企業を対象に行った調査結果になっております。これはベースアップの数値です。上が実績で下が計画となっておりまして、これによりますと、中小企業では、まず計画と実績を同じ年度で比較していただきますと、計画よりも実績が高くなる、つまり上振れをするという傾向が中小企業では見られるということが分かります。今年の計画が二・九〇ですので、これ十分な数値かどうかはちょっと別として、物価がもし昨年と同様でありますと、物価を超えるベースアップが期待されるというところでございます。
ただ、これらのデータと社会全体の賃金上昇には乖離も見られます。スライドの七ページ目の図四が賃金構造基本統計調査ですけれども、二〇二四年の所定内給与額の増加率になっております。百人未満を見ますと一・七%という水準で、二〇二四年の消費者物価の総合指数は二・七%増となっておりますので、賃金の上昇が物価の上昇に追い付いていないという状況です。昨年の実質賃金マイナスとなっていますので、こちらの方が実は現実には近い数値なのかもしれないと思っております。
つまり、中小企業の中でもかなり賃上げ状況に差が開いていると。組合のあるなしでかなり差が大きいというのは幾つかの研究で指摘されていますけれども、それ以外にも、上げられる企業と上げられない企業があるというふうに考えております。人手不足ですので、賃上げができない企業は淘汰されても仕方がないんだというような指摘もありますが、これがもしかすると産業ごとの違いと重なっている可能性があるというふうに見ております。
八ページの図五を御覧いただければと思いますが、これは産業別に見た二〇二三と二〇二四の賃上げ率になっています。金融・保険業や不動産業で高い一方で、医療、福祉では低く、教育業界ではマイナスというふうになっております。でも、低い、この賃上げ率が低い産業も社会インフラを担っているというような部分がありまして、ここに十分な人が集まらなければ社会が成り立たないという状況です。
では、どのようにして社会の隅々にまで賃上げを行き渡らせることができるのかという点ですが、まず、中小企業は労働分配率既に高い水準にありますので、生産性を高めつつ、やはり価格転嫁が重要だと思います。この間、政府は、価格転嫁を強力に呼びかけて下請法の改正も進めたり、公正取引委員会も監視を強化してきました。こうした動きが一定の効果を発揮していると私は高く評価をしております。
ただ、価格転嫁が十分かと言われると、そうではないというふうに考えております。例えば、中小企業庁の調査によりますと、二〇二二年の九月、今から二年前の九月の価格転嫁率四六・九%でしたけれども、その後、二年後の二〇二四年九月では四九・七%と、実は余り価格転嫁率は変わっていない状況です。かつ、全く転嫁できなかった、いや、むしろマイナスになったという割合も両時点共に約二割を占めています。結局、その中小企業の価格交渉力が弱いままでは、幾ら呼びかけをしてもなかなか転嫁が進まないという実態があると思っております。
例えばですけれども、その多層的な下請構造がある中では、その四次請け、五次請けの事業者に価格転嫁を呼びかけたところで、実際には価格交渉すらできていないような実態があります。下請法の改正も確かにすごく重要なんですけれども、そもそもその多層的な下請構造自体を見直すというような取組が必要なのではないかというふうに考えております。
もう一つは、施策としてのもう一つとしましては、その公的セクターの給与改定が重要だというふうに考えています。昨年の人事院勧告では月例給が大幅に引き上げられましたが、これが今年も継続できるかどうかが問われていると思っております。もちろん、人事院勧告は民間給与を反映しますので、民間の賃金が上がらなければいけないというのは当然なんですけれども、ただ、実態としましては公務員の給与が民間に影響を及ぼすという面があります。特に地方の中小企業においては、その地元の公務員給与に準じて賃金を決めているというようなところもございます。
最後に、医療、介護、物流など社会インフラを支える労働についてです。
これらの労働は、資格や熟練を必要としているのに、それに見合った賃金が支払われていないために人手が不足しているというような面がございます。これについては特定最低賃金などの形で賃金の底支えをする、このことがこれらの業界の賃上げには非常に効果的だというふうに私は思っております。
続いて、年収の壁についてです。
これまでの年収の壁の議論は、主に手取りを増やすためということと、働き控えを減らすためという二点からその引上げや廃止が論じられてきていると思っております。
まず、年収の壁というふうに呼ばれるものは複数ございますが、その勤労収入が増えると手取りが減ってしまうという意味での壁は、私は、税ではなく社会保険の壁だというふうに考えております。いわゆる百六万、百三十万円の壁であるというふうに思っています。
そして、この壁については、手取り、働き控え以外に、第三号被保険者制度に関する中立性、公平性の問題もあるというふうに思っています。この点は長年指摘されてきたことですので繰り返しませんが、今の時代にそぐわない制度なのではないかというふうに私は思っております。
働き控えについては、確かに大きな課題なんですけれども、これは扶養されて働くことを控えることができる人たちの話でありまして、自分の収入で生計を維持していたり、例えばシングルで子育てをしているような人にとっては、働くことを控える余裕すらないというのが実態だと思っております。そうした点からも、公平性の観点から壁の縮小が求められているというふうに考えています。
以下では働き控えについてお話ししていきたいと思いますが、十一ページの図六を御覧いただきたいと思います。
日本の就業者は、まだ縮小は、減少はしていないんですけれども、この間、女性、高齢者がたくさん増えた、女性と高齢者が増えたことから短時間労働者が増加をしていまして、就業者数と労働時間を掛け合わせた、いわゆる労働投入量というふうに呼ばれますが、赤い線で示しているところです、これが減少をずっとしてきているという状況です。
今後この傾向ますます強まるというふうに予測されますので、人手不足を緩和していくためには労働参加率を引き上げるとともに、短時間で働く人たちの労働時間をいかに延ばしていくのかという施策が重要だと思っております。
特に、時間の関係もありますので、女性の短時間労働者に焦点を当ててちょっと考えていきたいと思います。
十二ページの図七を見ていただきますと、日本は国際的に見ても女性雇用者に占める短時間労働者の割合は高い方であるということです。ですので、これを見直していくためにも、その年収の壁が、撤廃をしていくという議論が起きていると思いますが、これが就労抑制にどう働くのかということが、研究が幾つかありますので御紹介したいと思います。
十三ページの図八を御覧ください。
これは明治学院大学の児玉直美先生らの研究で、就業調整の理由別に示したグラフになっています。上の、一番上のオレンジの部分が就業調整をしていない割合で、真ん中の黄緑色が税、社会保険を理由に就業調整をしている割合、一番下のグレーの部分がそのほかの理由で就業調整をしている割合になります。男女別、既婚、未婚別の六つのグラフとなっています。
就業調整をしているのは圧倒的に既婚女性が多いですので、下の段の真ん中のグラフを見ていただきたいと思います。横軸が所得階層となっておりまして、百万から百三十万の辺りで黄緑の割合が増えて、税、社会保険を理由とした就業調整が多いということが分かります。
ただ、この所得階層でも、そのほかの動機で就業調整をしている人が実はかなりの割合を占めています。そして、大抵の人は就業調整を行う理由というのは複合的だというふうに思っております。年収の壁もありますが、家庭の事情もあるので就業を抑制するといった具合です。この図は、その税、社会保険の影響を最大限高く見積もった場合です。
次のページの図九は、その影響を最小に見積もった場合ということになります。この研究では、税、社会保険の影響が最も大きいと言われる既婚女性においても、労働時間を抑制するのは税、社会保険よりも、家庭の事情であったりとか個人の志向という部分が強くて、仮に年収の壁がなくなっても就労抑制の効果は限定的だという結果を導き出しています。
十五ページに整理してありますのが、短時間の女性労働者の賃金と労働時間の変化を過去二十年ぐらいのものを出しています。二〇〇〇年と二〇二三年の値です。
女性の短時間労働者の一時間当たりの所定内給与額、いわゆる時給ですけれども、二〇〇〇年時点、全国平均で八百九十一円でしたが、二〇二三年は千三百十二円と、およそ五割上昇しました。この増加率は、ほぼ最低賃金の上昇率と一致をしています。しかし、月当たりの実労働時間数は百五時間から七十九時間に二五%ほど減少し、その結果、年収の増加が一割増にとどまるというのが実態となっています。
仮に、女性の短時間労働者が現在の、二〇二三年の時給及び賞与の金額で二〇〇〇年段階の労働時間数を働く場合ですけれども、そうすると、平均年収百七十万円になります。年収の壁は一般的に年収百五十三万円を超えたら働き損にならないというふうに言われていますが、つまり、かつての時間を働けばそれを超える時給が達成しているという状況なんですけれども、そこまで働こうとしていない実態があるということです。
政府は年収の壁を議論するに当たって、私が政府にお願いしたいなというふうに思っていることは、今後の労働の在り方についてグランドデザインを示していただきたいというふうに思っております。
先ほどの、ちょっと戻ってしまうんですけれど、十二ページの図七の国際比較の図を見ていただきたいんですが、例えばオランダは短時間労働者が特に多い国です。オランダは、正規、非正規の均等待遇を徹底しまして、かなり戦略的に短時間雇用を拡大してきたことで知られています。逆にスウェーデンは、フルタイムの共働きを標準モデルとしておりまして、短時間労働者が少ないということが分かります。
日本がどのような方向を目指していくのか、税、社会保障の在り方とともに労働の在り方を一緒に議論をし、全体像を示していくことが重要だというふうに思っております。
年収の壁の見直しを、ちょっと元に戻りますけれども、その労働時間を延ばしていくという上で年収の壁を見直していくというのは、ある意味ディスインセンティブを取り除くという意味で重要性が高いというふうに思っております。ただ、働き控えを減らすには、それと同時に、より長く働くことのインセンティブを高めていくという施策が重要だと思っています。
日本は、正規、非正規の処遇格差がすごく大きい国として知られています。賃金格差も大きいですが、図十に示してあるのが退職金、賞与の適用率が正社員と非正社員でどれほどの差があるのかということが分かります。
十一も見ていただきますと、その非正社員の多くが退職金や賞与の適用を望んでいるという実態も分かります。つまり、非正規になると、ボーナスも退職金もなく、何年働いても時給がいつも最低賃金で、昇給も昇進も適用されていないと。なのに、人手不足だからもっと働こうというふうに言われても、そう思えない気持ちは十分に理解できます。正社員と非正社員の壁こそ取り除くということが重要だと思っております。
そもそも、あとフルタイムで働く割合を高めていくこともできると思っておりまして、十九ページの十二を御覧いただければと思います。
これ、三十五歳から三十九歳の女性の労働力率と、女性の雇用者の中に占める正規雇用の比率を都道府県別にプロットしたものになります。これを見ますと、三十歳代の就労の中断がなく働き続けている地域では正規雇用の比率も高いということが分かります。因果関係はこれは分かりませんので、正規だから働き続けられるということかもしれません。
就労を継続するには、要するにワーク・ライフ・バランスの支援というのが肝要なのですが、大切なことは、女性ではなく男性のワーク・ライフ・バランスを進めるということだと思っております。就労抑制の理由とも重なりますが、多くの女性が家庭責任との兼ね合いで非正規に転じたり、働く時間を短くしたりしていますので、男性の長時間労働の是正が求められているというふうに考えております。
以上のとおり、今後も女性の活躍がもっと求められているところですが、それの障壁となっているのが夫婦別姓を選択できない実態にあるというふうにも思っております。
二十ページにあるものが連合の調査の結果ですけれども、別姓を選択できる方がよいとの回答が四六・八%、夫婦は同氏がよいという回答を大きく上回る状況にございます。通称使用では不利益があるとの回答も全体の二五・八%で、五十代の女性では三六%に上っています。
次のページが経団連の調査になりますけれども、同じような質問を女性役員に尋ねますと、八八%の女性役員が、旧姓使用が可能であったとしても不便や不都合、不利益が生じるというふうに回答しております。この問題は、経団連が指摘しているとおりだと私は思っていますが、企業が女性活躍を進める障壁の一つになっています。働く場で多様性を推進できないということは、企業の競争力にも関わる問題だと思っております。
他方で、選択的夫婦別姓の導入が家族のきずなを弱めたり、子供に悪影響を及ぼすのではないかという懸念の声も上がっております。ただ、現在、海外で別姓を選択できる国の中には、かつては夫婦の同姓を強制していた国も多数あります。そうした国で選択的夫婦別姓が導入された後、その家族のきずなが弱まったり、子供の発達に悪影響が及んだりするというような研究を私は読んだことも見たこともございません。家族のつながりの強さは文化や宗教などによって強弱があるということは様々な研究で指摘をされていますが、家族構成員が同姓か別姓かでそれが変わるという実証研究も私は見たことがございません。
この問題は様々な意見があることは承知しております。ただ、少なくとも国会ではファクトに基づいて議論していただきたいと思っております。同一姓であれば家庭が安定し子供が健やかに育つというのであれば、その根拠を示しながら論じるということが重要だろうと思っております。
私からは以上となります。御清聴ありがとうございました。