上野貴弘の発言 (資源エネルギー・持続可能社会に関する調査会)

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○参考人(上野貴弘君) 電力中央研究所の上野と申します。本日はよろしくお願いいたします。
 最初に一言だけ自己紹介をさせていただきますと、私は、電力中央研究所に入所して以来、一貫して気候変動対策、特にその中でも国際的な側面につきまして研究をしてまいりました。本日は、そういう私の専門性の観点も踏まえて、気候変動について中心に述べていきたいと思います。
 お手元に配付されております資料に沿って話をしてまいります。各ページの右下にページ番号がありますので、そちらを御覧になりながら話を聞いていただければと思います。
 まず、二枚目です。
 本日の御報告の背景なんですけれども、気候変動というのは地球規模課題、グローバル課題でありますので、長年、国際協調の下で取組が進められてきました。歴史をたどれば、一九九二年に冷戦が終結した後、地球環境問題というのが国際社会の重要なアジェンダになりまして、その中で、ブラジルで行われた地球サミットという会議を契機に、気候変動枠組条約が採択をされています。その後、一九九七年に日本で行われたCOP3という会議で京都議定書が採択され、さらには二〇一五年にパリで行われたCOP21という会議でパリ協定が採択されました。これまでのところ、このパリ協定の下で国際協調は進められてきているわけなんですけれども、皆様御案内のとおり、今年一月二十日に就任しましたアメリカのトランプ大統領は、就任日の大統領令でパリ協定からの、一度脱退しているんですけれども、もう一回脱退する、再脱退を表明しているところであります。
 このような状況を踏まえまして、報告の目的としましては、このアメリカのトランプ政権の動向と、世界はアメリカだけではありませんので、世界全体の動向を更に概観した上で、日本が進むべき道について私なりの考えを述べたいと思っております。構成としては今の三つを順に述べてまいります。
 続きまして、三枚目を御覧いただければと思います。
 最初に、アメリカ・トランプ政権の動向です。
 気候変動対策はグローバル課題で、国際的な側面と各国の国内的な側面がありますので、国際、国内に分けて話していきたいと思いますけれども、まず、国際協調につきましては、今申し上げましたように、既にパリ協定からの再脱退を通告をしています。手続面でいいますと、通告という手続を国連に対して行ったのが一月二十七日であります。パリ協定の規定上、脱退を通告してからその脱退が効力を持つまで一年とされていますので、正式な脱退となるのは二〇二六年の一月二十七日ということになります。なので、形式上は、今年十二月に行われるCOP30という会議では引き続きパリ協定の締約国であるということです。
 パリ協定から脱退するというのは、いわゆるトランプ一・〇、二〇一七年からの一期目のときにも行っていますので、これはトランプ大統領が再選されたときから既定路線と考えられていました。むしろ懸念されていたのは、九二年に採択をされた気候変動枠組条約からも抜けてしまうのではないかということでした。
 気候変動枠組条約は、パリ協定も含め、気候変動の国際協調を進めるための土台となる条約でありまして、毎年の後半に行われているCOPという会議は、まさにこの枠組条約の締約国の会議であります。仮にアメリカが気候変動枠組条約から脱退すれば、もはやCOPにさえ来なくなるかもしれないという状況になるわけですけれども、今日までのところ、この枠組条約からの脱退についてはトランプ大統領ないしトランプ政権からは何も具体的なものは出ておりません。もし脱退するとすれば、一番可能性が高いと見られていたのは就任日でしたので、そこを越えたということで、そのリスクはかなり下がったのではないかと私は見ているんですけれども、パリ協定脱退を宣言した大統領令の中で、必要に応じて追加的な取組を行うという一文もありまして、ここに若干まだリスクの芽を感じ取れるところもあります。そのため、もうしばらくアメリカがどのような動向になるのかというのは注視が必要ではないかと私は考えております。
 続いて、国内政策についてであります。
 こちらも、新聞等のメディアでよく報じられていますように、バイデン政権が進めた脱炭素の取組を転換をしまして、国産の化石燃料の増産を目指すという方針を掲げ、その目的に沿った大統領令を同じく就任日である一月二十日にトランプ大統領は署名をしております。
 その中で、行うことの一つ目としましては、まさにバイデン政権が進めてきた脱炭素化のための排出規制、具体的には火力発電所や自動車の新車販売に対する排出基準なんですけれども、これを撤回をしていくと。ただ、大統領が撤回すると宣言しただけでなくなるものではありませんで、行政手続法に沿った手続が必要で、通常それは一年半から二年ぐらい掛かるわけですけれども、その手続に着手せよと初日に関係省庁に命じているということで、ある意味、規制撤回の号砲ですね、それを初日に行ってスタートダッシュをしたということなんだろうと思います。
 これに加えて、こちらも新聞の見出しなどで取り上げられているところもありましたけれども、エネルギーに関する国家緊急事態というものを宣言しています。これは、アメリカのエネルギーの生産、供給あるいは発電などが十分ではないと、それがアメリカ経済や外交政策、国家安全保障に対しての通常ではない異常な脅威であるというふうに認定をした上で、国家非常事態宣言というものを行ったということです。ある意味、この宣言までは、何というか、大統領の大きな方針を示すものなわけですけれども、その宣言をしたから何ができるのかというところが論点になります。
 これについては、様々なアメリカの個別の法律の中で、緊急事態が宣言されたときにのみ行政府が行使できる権限がありまして、その権限を各省庁は自ら特定した上でアメリカのエネルギー増産のために行使せよといったことが大統領令に書かれています。ただ、どの法律のどの権限を行使すべきといったことについてはほぼ何も書かれていないところでありまして、したがって、これからこの緊急事態宣言の下で何を行われるのかということは各省庁で決められるということになりますから、この時点においては、緊急事態宣言を行ったことでどれほどのエネルギー増産に向けた効果があるのかということは未知数と言わざるを得ないと私は理解をしています。
 もう一つ、この大統領令の中で注目を集めた点がありました。少し専門的なんですけれども、それは大気浄化法における気候変動の危険認定の再考を指示するというものであります。
 一つ目のポイントで挙げましたバイデン政権が行ってきた排出規制の撤回なんですけれども、そもそもこの規制というものは、大気浄化法という、一九七〇年代だったかと思いますけれども、その頃から大気汚染のために使われてきた法律の下で規制を行っています。この規制の下で、温室効果ガスを規制するには、温室効果ガスが一般公衆に対して危険であるという危険認定を最初に行う必要があります。アメリカではこれを、二〇〇九年の十二月、オバマ政権の一年目の年末にこの危険認定を温室効果ガスに対して行っていまして、この認定の下に規制を進めてきました。
 トランプ政権の一期目も、一部の保守派からはこの危険認定を見直すようにという強い要求はあったんですけれども、実際にはこの認定は見直すことなくそのままとし、その認定の下で、その前のオバマ政権がつくったものよりも緩い規制を課してきたというのがトランプ一・〇の状況でした。
 これに対して二期目については、初日にこの危険認定を再考するようにといったような指示が出ています。実際にこの認定を取り消すかどうかまでは踏み込んでいないんですけれども、三十日以内にこの法律を所管する環境保護庁の長官に対して提言を取りまとめるべしという内容になっていますので、今月の下旬や来月の上旬にはこれについて何らかの動きがあるかもしれないというところであります。この辺り、国家緊急事態や危険認定の再考といったところが、トランプ二・〇のトランプ一・〇にはなかった特徴だと私は見ています。
 このようになってくると、アメリカの脱炭素化というものは完全になくなってしまうのかという疑問が湧くわけですけれども、私は、後退する部分はあれど、継続する部分も少なからずあると見ています。
 まず、後退する部分については、バイデン政権による排出規制の撤回による脱炭素化の減速、特に電気自動車関係はトランプ大統領は非常に問題視していますので、この辺りは減速するだろうと思われます。
 ただ、バイデン政権の一つの大きな成果としまして、立法によって、インフレ抑制法という脱炭素化のための投資を促進する法律を通しておりまして、これの撤回にはまた別の立法が必要だという中、このインフレ抑制法の特に減税をインセンティブとする投資促進は、共和党の議員が選ばれている選挙区でもその法律が成立した後かなり進んできているというところがありまして、実際にこれを撤回する立法をやろうとすると相当難しい、議会を通すのが難しいのではないかと私は見ています。物によっては撤回される可能性あると思うんですけれども、多くの部分は残ると思われまして、その部分が残ることによる脱炭素化の継続はあると見ています。
 これに加えて、いわゆるビッグテック企業、IT関係の巨大企業によるクリーンエネルギー投資は、再生可能エネルギーのみならず原子力発電も含めて昨今行われておりますし、アメリカは連邦政府だけではなく州政府は独自性を持って政策を進めておりますので、そういう独自政策による継続もあります。
 これらを併せて見ると、完全な後退ではなくて、減速と継続というところが妥当な評価ではないかと見ております。
 続きまして、四枚目を御覧いただければと思います。世界全体の動向になります。
 一月二十日にトランプ大統領がパリ協定脱退を表明した後の世界の反応なんですけれども、私が観察している限りにおいては、前回の一期目のときの二〇一七年六月一日に脱退を表明したときに比べて反発は弱かったような印象があります。
 これは幾つかの理由があると思うんですけれども、一つには、前回は政権の発足日ではなくて、そこから四か月ちょっとが経過した六月一日であって、ほかの話題がおおよそ一巡してこれだけに焦点が当たっていたところ、今回は就任日で、この環境条約に関するものだけではなくて様々なことが御案内のとおりアメリカで起こりましたので、そういう意味ではニュース性が埋没していたというところはあるのかなということと、やはり就任日だったということで、トランプ大統領に向かって強く批判するというようなことはなかなか、国家に限らず、国家以外のプレーヤーも含めて難しかったのではないかと思われるところです。
 ただ、では、アメリカに追随するという国が現れているかといいますと、唯一の例外としてはアルゼンチンがあるんですけれども、それ以外の国については今のところ追随して脱退しようという連鎖は起きていないように見えます。この先どうなるか分からないというのはあるんですけれども、個別の国の中で脱炭素化の政策を弱めることはあれど、パリ協定を抜けるというところまでやる国というのはなかなか出にくいのではないか、前回も出ていないですし、今回もそうではないかと予想をしているところです。
 そうなりますと、世界全体の動きを見る上ではほかの主要国がどうかということが大事になるわけでありまして、ここではEUと中国について少しお話をいたします。
 まず、EUですけれども、昨年、欧州議会選挙がありまして、右派の政党の議席数が増えるということがあったわけですが、欧州の行政機構である欧州委員会のトップであるフォン・デア・ライエン委員長はそのまま再任されまして、昨年の終わりにその第二期が開始をしています。
 この第二期フォン・デア・ライエン欧州委員会の最重要キーワードが競争力です。実は、第一期は欧州グリーンディールという環境政策が一番の柱だったんですけれども、今回は、最近のヨーロッパの経済の競争力低下ということもありまして、競争力が最重要キーワードになっているというところです。
 気候変動対策はそのための要素の一つでありまして、競争力強化の政策の下でクリーン産業ディールなるものを定めて、その競争力強化に気候変動を使っていくということを掲げています。この中身は今月下旬に発表されるということになっていまして、この時点では明らかではないんですけれども、より産業や経済というところを中心に据えながら、気候変動対策をそれに役立てていくという方向性になるのではないかと予想されているところです。
 続いて、中国についてですけれども、アメリカのパリ協定の脱退表明に対しては強く批判するということではなかったんですが、懸念する、その上で中国は各方面と協力をするということを中国の外務省の報道官が会見で述べていました。
 そのような中、国際社会の注目としては、アメリカがパリ協定からいなくなっている隙間を埋めるように中国が動くのかどうかということであります。例えば、中国は一帯一路という構想の下でいろいろな途上国に対して支援を行っていて、その中ではクリーンエネルギー関係のものもあるわけですけれども、そういったものを国際的な気候変動対策の中での途上国支援の一部としてカウントするのか、先進国の支援はそういうカウントをしているんですけれども、中国もその中に入るのかどうかといったところが一つ注目されるところです。今のところ具体的な動きは見せていないんですけれども、注目度の高まりは明らかに見られるところであります。
 中国にとりましては、太陽光パネルや風力タービンや電気自動車、蓄電池など、脱炭素化に向けて必要な技術の一部について世界市場で見て大きなシェアを中国企業が占めておりまして、これは、こういった製品を輸入する国にとっては依存の仕方が余りにも過度であってしまうと経済安全保障上の懸念を生むというところがありまして、この脱炭素化の加速と経済安全保障のトレードオフというのは中国との関係では常に配慮すべき課題になっているというところです。
 最後に、五枚目を御覧いただければと思います。
 今までの話したことを踏まえまして、日本が進むべき道として私が考えるところを述べます。
 まず一点目は、中道路線の維持であります。
 我が国は、二〇五〇年カーボンニュートラルという目標を掲げながらも、現実の政策は脱炭素だけに振り切るのではなくて、経済的な負担やエネルギー安全保障とのバランスを取りながら進めてきました。グリーントランスフォーメーション、GXはそれを経済成長戦略として体系化したものだと私は理解しています。
 アメリカもトランプ政権が発足で脱炭素化への反発というのが一つ形になっていますし、欧州でも昨年の欧州議会選挙の結果での右派の躍進というのも一部には脱炭素への反発というのが背景にあるということを見ますと、日本のこの中道的な進め方は、私は結果的には適切だったのかなと思っているところです。アメリカはトランプ政権になっても、またその後、民主党政権になる日が来るとは思いますけれども、そのどっちになった際も、我が国は今の中道路線をぶれずに維持すべきだと思います。
 加えて、産業構造が似たアジアの国々との連携もグローバル課題への対応という点では重要になると思います。
 この中道路線の維持に加えて、トランプ政権が続く向こう四年間に関して言えば、トランプ大統領がアメリカのエネルギーコストを下げると言っている以上、日米のエネルギーコスト差をこれ以上広げないということは非常に大事だと思います。この後、我が国はカーボンプライシング制度などの導入によって各方面でエネルギーコストも含めてコスト負担が少しずつ生じていきます。液化天然ガスの長期契約の確保で価格を安定化させながら、原子力発電所の再稼働も含めて米国との競争力の差を少しずつ、少しでも埋めていくことがこれからの四年間の課題でもありまして、私としては期待したいところと思っているところであります。
 私からは以上になります。どうも御清聴ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 上野貴弘

speaker_id: 31882

日付: 2025-02-05

院: 参議院

会議名: 資源エネルギー・持続可能社会に関する調査会