橘幸信の発言 (憲法審査会)

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○橘法制局参事 衆議院法制局の橘でございます。
 本日は、若干まとまったお時間を頂戴して、緊急事態条項のイメージ案について御報告を申し上げることになりました。長時間、お耳汚しかとは存じますけれども、よろしくお願い申し上げます。
 まず最初に、配付資料の確認をさせていただきたいと思います。
 資料目次にありますように、本日の御報告は、冒頭に掲げてあります緊急事態条項のイメージ案本体と、その基本的な考え方をポンチ絵で図示した別紙、この二つの資料で行わせていただくつもりです。
 さて、この二つの基礎資料に続いて、これまでの議論の経過に関する資料として、毎週開催が定例化して以降の本審査会での議論の経過と題する年表と幾つかの参考資料もお手元に配付させていただいておりますので、まず、この年表を御覧いただきながら、これまでの議論の経過についてごく簡単に御報告申し上げたいと存じます。
 二〇二二年の通常国会より、当時の森会長、新藤、奥野両筆頭始め幹事会の先生方の御尽力により、本審査会は毎週定例日開催が常態化いたしました。
 その際、最初に取り上げられたテーマが、新型コロナウイルス感染症の蔓延に伴う本会議出席の交代制を背景としたオンライン国会の問題でした。私どもの論点説明、参考人質疑、集中的な討議を経て、本審査会における議論の大勢として、緊急事態においてはオンライン出席も憲法五十六条の定足数算定の基礎となる「出席」と認められるとの議決がなされ、森会長から当時の細田衆議院議長に報告され、議院運営委員会での議論が開始されたのでございました。
 次に、これに続いて、当時勃発したロシアのウクライナ侵略などの国際情勢を背景として、戦時下でも国会が機能し必要な法律を日々制定しているウクライナ国会の情勢などを見ながら、緊急事態における国会機能の維持や政府機能の維持に関する議論に移っていきました。国民投票法制など他のテーマに関する議論を挟みながらも、この緊急事態条項に関する議論は、お手元配付の二度にわたる論点整理、すなわち、各党各会派の御主張を論点ごとに対比させたマトリックス表の作成につながりました。また、これに基づく議論の積み重ねを踏まえて、昨年六月の通常国会会期末には、当時の自民、公明、維新、国民、有志の五会派による骨子案の幹事会での提示にもつながっていきました。
 さらに、この間、各党各会派における議論も活発に行われ、緊急事態条項に関する条文案の発表などもなされましたし、これに対する批判も展開されたところでございました。
 そのような議論の積み重ねに加えて、この国会に入ってからは、本テーマに関する集中的な討議を経て、今回の緊急事態条項のイメージ案の作成、提示に至ったという次第です。
 さて、恐縮ですが、ここで、最初の資料、イメージ案本体にお戻り願います。
 まず、冒頭の、※印を付して点線で囲んだ部分を御覧ください。
 今回作成させていただきました資料は、今も申し上げました、二度にわたる論点整理や、幹事会提示の五会派骨子案、そして先月二十三日の集中的な討議を含むこれまでの本審査会における緊急事態条項に関する討議の積み重ねを踏まえて、私ども衆議院法制局及び憲法審査会事務局において、先生方の今後の更なる議論の深掘りの素材となるようなイメージ案として、中立的かつ専門的な立場から整理、作成させていただいたものです。
 本資料は、緊急事態条項に関する各会派の先生方のこれまでの御主張について、法制執務的な観点を含めて全体の整合性が取れるような一つの形に仕上げるとすればどのようなものとなるのか、そういった観点から純粋立法技術的に作成したものであって、その主張の当否や是非それ自体については全く価値判断を加えておりません。あくまでも、賛成、反対を含めて先生方の今後の議論の素材となるように、できるだけ具体的なイメージ案をお示ししようとしたものでございます。この点、何とぞ御理解の上、お許しいただきたいと思います。
 以上のことを御確認いただいた上で、早速、内容の説明に入ってまいりたいと存じます。
 最初に、今回のイメージ案作成の際の基本的な考え方とその整理の概要を御理解いただくために、右上に「別紙」と付記したA3横長一枚紙のポンチ絵、「「衆議院議員総選挙の延期」及び「参議院の緊急集会」と「議員任期特例」の棲み分けに関する考え方(メモ)」と題する資料を御覧願います。
 1から5までの番号に沿って、順に御説明してまいりたいと思います。
 まず、左下の1を御覧ください。
 衆議院議員総選挙の期日と参議院の緊急集会の基本的性格について規定する現行憲法五十四条を掲げてございます。
 第一項では、冒頭に「衆議院が解散されたとき」という、場合を限定する表現に続いて、その解散から総選挙まで四十日、総選挙から特別会召集まで三十日、つまり、解散による衆議院不在は最長で七十日間以内と定めています。この趣旨は、新たな民意に基づく衆議院の誕生が内閣の恣意によって安易に引き延ばされてはならないようにするための期間限定と説明されているところです。
 これを受けた第二項の冒頭でも、第一項と同様に「衆議院が解散されたとき」という表現で第一項の規定を受ける形で、この解散による衆議院不在の間は、一つ、参議院も閉会となること、つまり、両院制の下、衆参は一緒に活動するとの両院同時活動の原則を定めるとともに、二つ、それに続くただし書で、そのような衆議院不在の間に「国に緊急の必要があるとき」は、内閣が緊急集会を求めることができる旨が定められています。これが、現行憲法唯一の緊急事態条項とも呼ばれ、また、参議院の重要な権能でもある参議院の緊急集会の根拠規定です。極めてシンプルな規定であり、この規定をめぐって様々な解釈論が展開されている条項でもございます。
 最後の第三項では、参議院の緊急集会で取られた措置は、衆議院が成立しその同意を得られないと失効してしまう、そのような暫定的なものであることが規定されております。
 次に、2を御覧ください。
 以上のようなシンプルな条文構造から、参議院の緊急集会の活動と権能については、一般的に、次のような性格を持つことが指摘されてまいりました。第一は、第一項とそれを受けた第二項から、解散による衆議院不在の七十日程度の期間を想定した一時的なものであること、第二は、第二項後段に規定するように、緊急集会は内閣のイニシアチブによってのみ活動を開始し、また、それを受けた国会法の規定により、そこで議論される案件は内閣提案の緊急案件に関連するものに限られることなどから、その権限は限定的なものであること、三つ目として、第三項の規定によってその効力は暫定的なものであること、この三点が指摘されてきたところです。
 次に、3を御覧ください。
 ところで、冒頭申し上げましたように、この参議院の緊急集会を含む憲法五十四条の規定の前提となっておりますのは、解散から四十日以内に衆議院議員選挙が行われることでございます。これは従来の学説において当然視されてきた事柄でした。
 ここで、いよいよ4を御覧ください。
 しかし、東日本大震災における地方議員・首長選挙の実施が発災から最長八か月余りの長期間にわたって延期されたことや、先ほども言及したロシア侵略下のウクライナでは大統領や国会議員の任期が到来しても選挙が実施できないといった国内外の事情を背景として、本審査会の先生方の主要な関心事は、もし解散に伴う総選挙が憲法五十四条一項の定める四十日以内に行うことができなかった場合、それは憲法上どのように評価されるのかといった、従来必ずしも明示的に議論されてこなかった論点でございました。
 少なくともこれに対処する明文の規定は現行憲法にはございませんから、文字どおり現行憲法の想定外の事態と言うほかなく、これに対処するためには、何らかの解釈によって妥当な結論を導き出すか、あるいは明文規定でもって対処方針を明らかにすべく憲法改正を行うべきか、そのような議論がなされてきたわけでございます。
 この点に関して参考人質疑や先生方の討議を繰り広げる中で、本審査会の先生方からは、物理的に困難な場合には法は不可能を強いるものではないとの法格言が示すように、形式的な憲法違反も許される、このような超法規的な対応、解釈でよいのだろうか、憲法違反の状態をなくし立憲主義の観点から憲法の規範性を回復するためにも、総選挙実施の延期に関する明文規定を整備すべきではないかといった意見が出てまいりました。
 では、どのような場合に総選挙を延期すべきなのか。その議論の過程の中で、国政選挙というのは全国一律、一斉に行われるべき性格のものではないか、この国政選挙の一体性とも呼び得るような原則は、憲法十五条や四十七条の根底にある国政選挙の公正性確保といった憲法的価値に由来するものと考えることすらできるのではないか、そのような認識が共有され、国政選挙延期の基準として、国政選挙の一体性が害されるほど広範な地域において四十日以内の総選挙実施が困難であることが明らかであるときといった基準、いわゆる広範性要件が提示されるようになり、その是非をめぐる議論が展開されていったのでした。
 このことは、逆に言えば、選挙実施の困難性が局地的な一部地域に限られるのであれば、その地域において現行公選法の定めによる繰延べ投票を行えばよく、全体としての選挙期日を延期する必要はないということにもなります。
 したがって、まず何よりも重要なのは、あらかじめ災害に強い選挙体制を構築し準備しておくこと、そのことによって、ここで言う広範性要件に該当するような状態などはできるだけつくらないこと、そのような認識も同時に共有されていったわけでございます。
 次に、5を御覧ください。
 そういたしますと、次に問題になるのが、万々が一、この広範性要件に該当するような、総選挙実施を延期すべき事態、いわば選挙延期事態が発生した場合、その延期されている期間における衆議院不在にどのように対処するのかということです。
 これについて、本審査会では二つの方策が唱えられてまいりました。一つは、あくまでも、現行憲法に定めのある参議院の緊急集会で対応すればよい、参議院の緊急集会とはそのような場合における国会権限の代行機関そのものなのであるという御意見、もう一つは、先ほど述べたように権限等が限定されている参議院の緊急集会ではなく、国会の原則的形態である二院制国会でもってこの国難ともいうべき事態に対処するべきではないか、そのためには一時的に議員任期を延長するような特例制度を用意しておくことも必要なのではないか、そのような御意見でした。
 これに関する御議論を繰り広げるうちに、この両者を組み合わせるハイブリッドな見解が唱えられるようになってまいりました。
 すなわち、まず、現行憲法五十四条の下でも、参議院の緊急集会は、解散から特別会召集までの七十日程度の衆議院不在に対応する制度として想定されているものでございます。総選挙実施の見通しが仮に四十日を超えたとしても、それが一定期間内に収まることが見通せるような場合には緊急集会で対応すればいいのではないか、またそれがふさわしいのではないか、そして、この一定期間については、七十日程度とすべきか、もう少し長期間にわたってもよいのか、あるいは、被災の種類や状況によっても期間それ自体は違うだろうから、まずは相当程度長期間といった表現にとどめておいて、その具体化については更に議論を深掘りする必要があるのではないか、そのような考え方が提示されていったのでございました。これが、長期性要件と言われる第二の基準でございます。
 その上で、日本全国広範な地域で国政選挙が実施できないといった広範性要件のみならず、この相当程度長期間の選挙困難な事態といった長期性要件にも該当するような事態を考えると、これはもはや例外的にしか発生しない国難ともいうべき事態である、そのような国難事態、ここではこれまで一般的に先生方によって用いられてきた表現に倣って選挙困難事態と名づけておきますが、これに対応するためには、議員任期を延長してでも、国会の原則的な形態であり、その権限にも特段の限定がない二院制国会で対応すべきではないか、少なくともそのような備えをしておくべきではないか。
 このような基本的な考え方の下に、参議院の緊急集会の適用範囲と議員任期特例延長の適用範囲をすみ分ける主張が提案されるようになっていったのでございました。
 以上の基本的な整理を前提に、以下、本日のメインテーマである緊急事態条項のイメージ案本体について御報告を申し上げたいと存じます。
 最初の資料を御覧願います。
 まず、このイメージ案の全体的な構成について御確認いただきたいと思います。
 大きく二つの要素に分かれております。一ページ目から三ページ目の上半分までは「国会機能の維持に係る緊急事態条項」で、これに関しては、一ページ目の「衆議院議員総選挙の延期及び参議院の緊急集会の射程の明確化」、二ページ目の「選挙困難事態における国会機能の維持」、そして三ページ目上半分の「オンライン国会」の明文化、この三項目を掲げております。もう一つの大きな柱が、三ページ目下半分で、ここでは、どうしても国会機能の維持が困難となった場合における国家機能、政府機能の維持の方策としての緊急政令及び緊急財政処分に関するイメージ案を掲げております。
 順次、それぞれの内容の御説明に入ってまいりたいと思います。
 まず、一ページ目の「1 衆議院議員総選挙の延期及び参議院の緊急集会の射程の明確化」ですが、ここでは、現行憲法五十四条について、次のような改正措置を講ずる旨整理してございます。
 一つ目は、現行五十四条一項の「衆議院が解散されたときは、解散の日から四十日以内に、衆議院議員の総選挙を行ひ、その選挙の日から三十日以内に、国会を召集しなければならない。」という規定に続けて、ただし、解散の日から四十日以内に衆議院議員の総選挙の一体性が害されるほどの広範な地域において総選挙を実施することが困難であることについてやむを得ない特別の事情があるときは、総選挙を実施できるに至った後速やかに総選挙を行えばいい、そしてその選挙の日後速やかに国会を召集すればよい、そのようなただし書を置いて、選挙延期に関する明文規定を置いたことです。
 二つ目は、参議院の緊急集会の射程の明確化に関するイメージ案です。
 ここでは、まず、二として、今申し上げた憲法五十四条の衆議院解散に関する総選挙実施時期とその延期に関する一の条項と切り離して規定する形にした上で、その1で二つの事柄を定めております。
 すなわち、一つは、内閣が参議院の緊急集会を求めることができる場合については、「衆議院の解散により総選挙が行われる場合又は衆議院議員の任期満了後に総選挙が行われる場合」として、衆議院解散時に限らず、任期満了後の総選挙実施による衆議院不在時にも、類推適用などといった解釈ではなく明文規定でもって、参議院の緊急集会で対応可能なことを明確にしたことでございます。もう一つは、これに続けて、「次の国会が召集されるまでの間に国に緊急の必要があるとき」として、特段の期間限定なく、衆議院不在時の一般的な国会機能維持のための機関が参議院の緊急集会であるとの位置づけを明文化したことです。
 なお、次の二ページに掲げる選挙困難事態における議員任期特例が発動するときは、当然に衆参そろった次の国会が召集されることになりますから、この表現によって、参議院の緊急集会と議員任期延長特例とのすみ分けが、「次の国会が召集されるまでの間に」という表現によって自動的にすみ分けられることになるわけでございます。
 次に、二ページ目の「選挙困難事態における国会機能の維持」を御覧ください。
 まず、「第一 選挙困難事態の認定の手続」のうちの「一 緊急事態の対象範囲(定義)」については、地震等による大規模な自然災害、感染症の大規模な蔓延、内乱等による社会秩序の混乱、外部からの武力攻撃、そしてその他これらに匹敵する事態をいうものとして、これまでの本審査会における議論の到達点を確認してございます。
 ただし、その他これらに匹敵する事態というバスケットクローズが表しておりますように、ここに掲げた事象はあくまでも緊急事態の例示であって、これらに限られるものではなく、また、これらの例示に該当したとしても、直ちにそこから何らかの効果が導き出されるものでもありません。あくまでも、次に述べる選挙困難事態の要件に該当することが重要であることに、改めて御留意願います。
 次に、二の1として、内閣による選挙困難事態の認定要件を掲げております。すなわち、ただいま定義したような緊急事態の発生により衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙、すなわち国政選挙と言い換えてもいいと思いますが、この国政選挙の一体性が害されるほど広範な地域において、かつ、当該国政選挙の適正実施が相当程度長期間にわたり困難であることが明らかであると認められるときは、内閣は、選挙困難事態である旨及びその選挙困難事態が継続すると見込まれる期間の認定を行うものとするとして、広範性要件と長期性要件の二つの要件を共に充足する場合に限って選挙困難事態の認定がなされることを定めております。
 この広範性要件、長期性要件共に、我が日本国憲法の他の規定ぶり、特に統治機構に関する規定ぶりと同様に、極めて簡潔な表現で記述してございます。日本国憲法が簡短概括型の憲法と呼ばれるゆえんでございます。
 したがいまして、今後この要件の具体化に関する議論がなされる際には、その具体的な基準の内容に関する議論はもちろんですが、同時に、そのような具体的基準をこの憲法の中に全て書き切るのか、それとも一部は下位の法律等に委任してそこで具体化していくべきなのかも含めて、深掘りした議論がなされていくものと拝察するところです。
 次に、この内閣の認定については、二の2、国会の事前承認が要求されることになりますが、その議決数については、前回の本審査会での議論にもありましたように、各議院の出席議員の三分の二以上の特別多数として慎重な議決を担保するのか、それとも、現行憲法の定める議決数要件の構造に照らして両院それぞれの過半数議決は十分に慎重さが担保されている、これには衆議院優越も参議院優越も定められておりませんから両院共に議決が必要だ、そのような考えから、過半数でもいいではないか、そのような御主張もあるように拝察しております。今後とも御議論がなされていくところかと存じます。
 なお、この内閣、国会といった政治部門による認定については、その濫用を防止し、適正性を担保するために、裁判所の関与を主張する御意見がございます。右側の「議論があり得る論点」の論点5に掲げてありますように、憲法裁判所や最高裁判所による事後審査、あるいは、一票の格差訴訟などに関する現行公選法の選挙訴訟のような客観訴訟の制度を創設しこれによるチェックをするなどといった意見が述べられておりますけれども、他方では、事態認定の適否は選挙困難事態終了後の国政選挙によって判断される高度に政治的な判断なので裁判所の関与は不要とする御意見も唱えられているところです。
 次に、三として、選挙困難事態の濫用防止の方策の一つとして、その期間制限に関する一連の規定を整理してございます。
 一つは、一回当たりの選挙困難事態の期間の上限を定めるかどうか、定めることによって国会承認をきめ細かに関与させるという意味ですが、もう一つは、その期間の延長を可能にした場合において、その通算期間の上限を定めるかどうか、この二つです。特に、後者の通算期間の上限設定の是非については、大いに議論があり得るところかと存じます。
 次に、「第二 選挙困難事態の認定の効果」について、三つに分類して整理してございます。
 まず一つ目は、「選挙期日の特例」です。選挙実施が困難なのですから、これに伴う当然の効果は選挙期日の延期であることは、実に自然なことです。阪神・淡路大震災、そして東日本大震災の際の統一地方選に対応するための特例立法において取られた措置と同様の論理構造です。
 このイメージ案のポイントは、選挙困難事態の認定があったときは、憲法五十四条一項の規定中総選挙の期日に係る四十日以内の総選挙という義務づけ規定は適用しないけれども、国政選挙はできるだけ早く行うべきであるから、選挙困難事態が過ぎ去ったら速やかに行えということです。さらに、念には念を入れて、2では、選挙困難事態の認定期間中といえども、状況が好転して、国政選挙を適正に実施することができると認められるに至ったときは、国会の議決に基づいて選挙困難事態の認定期間を短縮して、速やかに選挙を行えということも定めています。
 いずれも国民の選挙権保障の重要性を改めて確認する規定と言うことができるかと存じます。
 二つ目の効果が、いよいよ「議員任期の特例等」です。「等」という言葉が示すように、これには更に二つの効果が含まれています。
 第一は、文字どおり議員任期の延長特例です。すなわち、選挙困難事態の認定があったときは国政選挙が延期される結果、衆議院議員の全て、あるいは参議院議員の半数は任期切れになってしまう、このようなことに対応するため、延期された国政選挙に係る衆議院議員又は参議院議員の任期は、憲法四十五条及び四十六条の衆議院議員四年、参議院議員六年といった規定にかかわらず、延期された総選挙、通常選挙の期日の前日まで延長するというものです。
 第二は、2として掲げてある、「任期が終了している議員の身分復活」に関する規定です。すなわち、選挙困難事態の認定に係る国会承認が求められた場合において、衆議院議員、参議院議員の任期が解散や任期満了により既に終了しているときは、任期延長しようにも、その土台となる任期、議員資格それ自体がなくなっていますので、それを復活させてから、それを延長するという仕組みが必要となるからです。
 ここでは、そのための事項を、細かくなりますが二つ規定してございます。
 一つ目は、選挙困難事態認定に対する国会承認それ自体を慎重ならしめるために、できるだけ多くの人々によって英知を集めて判断させることが望ましいのではないか、そうすると、この段階から現職議員に加えて前職議員もこれに関与させることとすべきではないかとの観点から、まず、当該国会の承認をするために必要な限度においてその任期は終了していないものとみなすとする、いわゆる暫定的身分復活の規定を設けています。
 もう一つは、そのようにして国会承認が得られ、議員任期の延長特例が発動されることとなった場合には、暫定的に身分復活をした前職議員たちの身分を、今度は本格的な身分復活に切り替えて、その上で任期を延長し、その後の選挙困難事態における国会活動に参加してもらうための規定を用意しているのでございます。2の後段の「また、」以下の文章で、任期が終了していないものとみなされた衆議院議員又は参議院議員は、第一の二の認定の日、すなわち選挙困難事態が国会承認により正式に認定された日に再び衆議院議員又は参議院議員になったものとみなして、1の規定、すなわち任期延長の特例規定を適用するとの、若干ややこしい文章の意味は、このようなものでございます。
 以上の二つの身分復活規定の是非も、論点9に掲げておりますとおり、賛否両論の立場から激しく議論されている最重要論点の一つでございます。
 最後の三つ目の効果として、選挙困難事態認定の「その他」の効果を掲げてあります。
 まず、国会の閉会禁止、衆議院議員の解散禁止ですが、これは、国難ともいうべき事態において、様々な立法措置を取ったり、また行政監視機能を発揮したりするといった国会機能を維持するために先生方の議員任期を延長する特例措置を講じたわけですから、国会議員にはその期間中は全て開会中として働いてもらわなければならないという趣旨でございます。
 なお、解散禁止に関しては、右側の論点10に記載してございますように、衆議院の内閣不信任決議権と内閣の解散権は、相互にチェック・アンド・バランス、議院内閣制の下における抑制均衡の手段となっていることに鑑みて、内閣の衆議院解散権を禁止するのであれば衆議院の内閣不信任決議権をも同時に禁止するべきではないかといった論点も指摘されています。
 もう一つの効果は、選挙ができないということは、憲法改正国民投票ができないということは当然ですし、そもそもそのような緊急事態に憲法改正のような重要事項を行うのが適当かといった指摘もなされておりますから、選挙困難事態の期間中は、憲法改正の発議もこれに係る国民の承認のための投票も、共に行うことができないことを定めております。
 次に、三ページ目に移っていただいて、上半分の「オンライン国会」のところを御覧願います。
 これは、議事、議決の定足数算定の基礎となる「出席」について定める現行憲法五十六条一項に後段として、「議員が議場に参集することが困難なときその他法律の定める特別の事情があるときは、各議院の定めるところにより、情報通信技術を利用する方法その他の方法により、会議に出席することができる。」とする規定を加えるものです。
 この規定は、令和四年三月に本審査会で、憲法五十六条一項の「出席」の概念について、その議論の大勢を議決したときの議論を反映したものです。冒頭の議論の経過で御報告したとおりです。
 最後に、国会機能の維持が困難となった場合における国家機能の維持に係る方策について御説明申し上げます。
 まず、内閣による緊急政令の制定ですが、これは、「緊急事態の発生により、国会による法律の制定を待ついとまがないと認める特別の事情があるとき」といった限定的な要件の下に、かつ、「あらかじめ法律の定めるところにより、」といった事前に国会自身が設定した枠組みの下に、内閣に対して「法律と同一の効力を有する緊急政令を制定することができる。」として、事態に対して必要かつ臨機の対応ができる権限を付与することとしてございます。
 そして、このような緊急政令については、国会の機能回復後速やかにその承認を求めなければならず、「次の国会開会の後○日以内に、国会の承認が得られなかった場合には、その効力を失う。」として、国会の事後承認と暫定的な性格のものであることも定めているところです。
 次に、緊急財政処分ですが、緊急時はもちろんのこと平時においても、行政府の対応には、その法規上の根拠とともに予算上の根拠がなければ実効的な措置は取れません。このことに鑑みて、緊急政令の制度と併せて緊急財政処分の制度も同様に整備することとし、その要件や効果については、緊急政令の場合と同じ事柄を定めているところです。
 このような緊急政令、緊急財政処分の制度については、論点12の上から一ポツ目や二ポツ目のコメントにあるように、そもそも不要であるとの意見があるほか、三ポツ目に付記してありますように、法律の制定や予算の議決を待ついとまがないといったような要件に加えて、その政令や財政処分による措置が生命、自由、財産といった国民の権利保障に資する場合にだけ発出することができるといった要件を加重すべきではないかとの意見も述べられているところです。これらの点についても、今後議論がなされていくものと拝察いたします。
 以上は全て緊急事態条項として議論されてきた論点ですが、A3横長三枚紙の後ろにA4縦長一枚紙の資料を添付してございますので、これについても一言御説明をさせていただきます。
 これまで本審査会においては、緊急事態における国会機能の維持について特に議論が行われてまいりましたが、その際、通常時の国会機能の維持に関しても様々な御意見が述べられてまいりました。その中に、通常時の国会機能の維持の方策として、臨時会の召集期限の明記や解散権行使の在り方及びその制限について議論をする必要があるのではないかとの意見も度々述べられてきたところです。御参考までに御紹介させていただきました。
 以上、緊急事態条項のイメージ案について、その作成に当たっての基本的な考え方及びその内容の概要について御報告をさせていただきました。
 御清聴ありがとうございました。(拍手)

発言情報

speech_id: 122104183X00520260514_002

発言者: 橘幸信

日付: 2026-05-14

院: 衆議院

会議名: 憲法審査会