新藤義孝の発言 (憲法審査会)
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○新藤委員 自由民主党の新藤義孝です。
先週に引き続きまして、緊急事態条項のイメージについての討議を行います。
まず、緊急事態条項のイメージについて、私が理解をしている位置づけについて申し上げたいと思います。
このイメージは、審査会における今後の討議のために、これまで積み上げてきた議論を、幹事会の要請によりまして、衆議院法制局、憲法審査会事務局が中立的かつ専門的な立場で整理をしたものであります。現時点で何かが確定されたり決定したりするものではなく、今後の議論の土台として活用すればよい、このように考えております。
先週の審査会で私がピン留めと言えるのではと紹介した論点は、各会派の意見がおおむね同様と言える論点という意味で整理をいたしました。また、更に議論を深めていくと整理した論点は、複数の見解があるので今後更に議論を深めていくものというような趣旨で私なりの整理をしたものとお考えください。
本日は、緊急事態における国会機能の維持を図るための規定に加えて、更に厳しい状況、国会機能の維持すら困難となる事態に備えて国家機能の維持を図るという観点から、緊急政令、緊急財政処分の規定の必要性を中心に、私なりの意見を申し上げたいと思います。
憲法四十一条は、国会は、国権の最高機関であって、唯一の立法機関と規定しています。この立法機関の意味としては、少なくとも、国民の権利を制限し、義務を課す事項については、国会が法律という形式で定める必要があるとされているわけであります。平時はもちろん、特に緊急事態にこそ、国会が立法機能をフル回転させることが求められます。だからこそ、私たちは、緊急事態においても国会機能を維持するために、選挙困難事態の認定と議員任期の延長を可能とする制度の創設、これを提案しているわけであります。
一方で、国会機能の維持を図るべく国会議員が参集しようと思っても、物理的に参集することが難しく、国会がどうしても開けないような更に厳しい事態が発生することも、当然に予想しておかなければならないと思います。
そのような場合に備えて、まずはオンライン国会などの法的、物理的な環境整備が考えられます。しかし、極めて深刻な緊急事態発生時においては、通信途絶や停電などにより、オンライン国会すら対応できないという事態が起こり得るわけであります。
このように、様々な手段を用いてもどうしても国会が開けず、国会議員が参集できない、オンライン国会すら不可能な究極の事態において、国家機能を担う内閣が一時的、暫定的に立法機能や財政支出機能を代替しようとするのが、それが緊急政令や緊急財政処分の制度であります。国会が機能不全に陥り、法律や予算の議決が不可能になり、既存の法律に基づく委任政令や既存の予算に基づく予備費などでも対応できない場合の、万々が一のための制度、これを整備する必要があるのではないかと考えるわけであります。
もちろん、このような事態が発生しないように最大限の努力をするのが政治の責任です。しかし、それでも国会が機能不全となってしまう事態が起こり得ることは否定できないと思います。
我々は、どのような事態にあっても、国民の生命と財産を守り抜き、国と社会を維持する仕組みを整備しておかなくてはならないと考えています。したがって、緊急政令、緊急財政処分は、内閣の権限をいたずらに強化したり増やそうとするものではありません、究極の手段として、国家機能を維持し、国民の生命財産を守ろうとするものであり、積極的に使うことは想定しなくても、立憲主義国家として当然に備えていくべきものではないかと考えるわけであります。
一九四六年の日本国憲法制定時において、日本政府はGHQに対し緊急政令の規定を設けることを求めたという経緯があります。これに対するGHQの判断は、英米法的な発想で、超法規的な法理であるエマージェンシーパワーで対応すればよいというもので、緊急政令の規定を設けることを拒否しました。
本来であれば、一九五二年に日本が主権を回復した際に、憲法を改正し、緊急事態条項を整備すべきだったのかもしれません。しかし、結果としてこれまで憲法改正は行われず、日本国憲法の未完成部分として今日に至っている、このように思います。
次に、緊急事態条項は諸外国において実際どのように発動されているのか。
二〇二二年時点で世界の現行憲法の九一%に緊急事態条項が設けられていること、これが東京大学のマッケルウェイン教授の研究により明らかになっています。
例えば、フランス憲法は、十六条で大統領の緊急措置権、三十六条で戒厳という緊急事態条項を規定しています。ただ、一九五八年に憲法を制定して以来、フランス大統領の緊急措置権は一九六一年アルジェリア紛争時に発動した一例のみであり、戒厳はこれまで一度も発動例がありません。
フランスは、二〇一五年の同時多発テロの際には緊急状態法、二〇一九年末に始まる新型コロナウイルス感染症蔓延時には公衆衛生法典という法律上の緊急事態条項によって対応しました。
つまり、フランス憲法上の緊急事態条項は、整備はされていても、実際に発動される例はほとんどなく、緊急事態条項を備えた憲法を頂点とする法体系を確立していることにこそ意味があると考えられます。実際、私がかつて憲法審の筆頭幹事としてフランスに出張した二〇二三年の海外調査で意見交換をいたしましたパリ・サクレー大学のブドン教授からもそのような話を伺ったことは、鮮明な記憶として残っています。
一方で、現実に憲法上の緊急事態条項を発動し、国民の生命と自由を守り抜こうとしている例もあります。それはウクライナです。
ウクライナは、二〇二二年二月二十四日、ロシアが侵略を始めた当日、憲法に定められた緊急事態条項のうち戒厳を布告し、国家運営を緊急事態モードに移行いたしました。これにより、現在までウクライナにおいては、大統領選挙、国会議員選挙は延期され、その任期も延長されています。他国からの侵略という緊急事態においても議会機能をぎりぎりまで維持し続けているウクライナの国民と議会の勇気と努力には、心からのエールを送りたいと思います。
このように、緊急事態条項は抑制的であり、よほどのことがない限り使われるものではありません。
我が国においても、緊急事態に陥らないよう外交、安全保障、強い経済、国土強靱化、選挙制度など不断の努力や整備を怠らないことが何より重要であり、政治の責任であることは、常に肝に銘じております。一方で、主権国家として、あらゆる事態においても国の運営を維持していく、そのための緊急事態条項の整備は、日本国憲法の未完を埋め、国の形を整えることにつながると確信をしております。
憲法改正の機運が高まりを見せている中で、憲法改正は何のために行うのか、そしてどのような効果をもたらすのか、より多くの国民の皆様に理解をしていただくことが重要だと思います。憲法審査会において今後更に国民のための憲法論議が深まることを切望して、私の意見といたします。
ありがとうございました。