神保謙の発言 (国際問題に関する調査会)
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○参考人(神保謙君) 参議院外交委員会の皆様、本日は、発言の機会をいただきまして、誠にありがとうございます。
御紹介いただきました国際文化会館、慶應義塾大学の神保でございます。
冒頭二十分ほど、この第二期トランプ政権、いわゆるトランプ二・〇の外交・安全保障政策が、インド太平洋の戦略環境、日米同盟、そして日本の外交・安全保障政策にどのような影響を与えるかということをできるだけ構造的に整理をしたいと思っております。
現下中東で展開しているアメリカとイスラエルの対イラン攻撃についても、後半の方で扱いたいというふうに思っているところでございます。
まず、スライド二を御覧いただきたいと思いますけれども、これ、世界のマクロトレンドとして二〇〇〇年代から現代まで一体どういう変化が起きているかということを概観したものでございますけれども、今から二十五年ぐらい前の二〇〇〇年代の初めの頃、我々が何を議論していたかというと、それは、グローバル化と経済相互依存が平和的な発展を後押しして、新興国が国際システムにいずれ統合されるという見取図だったように思います。
ところが、二〇一〇年代、特に後半ですね、以降、地政学の復活とよく言われますけれども、地政学的な世界が非常にこの世界を覆うようになったということでございます。
重要なのは、この緊張が高まっているという世界の情勢を抽象論で語るということだけではなくて、政策上のこの具体的な影響、インプリケーションを持っているという点だと思います。必ずしも経済相互依存関係だけでは平和を保証できないということもありますし、また、力の不均衡や空白が生じた場合に、それがこの軍事侵攻を誘発し得るという構図も様々な事例で確認ができます。
また、権威主義国家はいずれ経済発展に伴ってG7、OECDの世界に吸収されるんだという見通しですけれども、これも実は自明の前提ではもはやなくなってしまったとともに、その権威主義国家の権力集中が様々なところに進んでいる結果、その意思決定において、成功への過信と相手への過小評価、まあ基本的に戦争が起こるときの要件というのはそういうことなんですけれども、こういったことが招きやすいということだと思います。
したがって、国際法、国際制度、経済相互依存という戦後の世界が育んできた安定の方程式みたいなものがこの二十年ぐらいでがたがたっと崩れて、そして今、パワー、力がむき出しな世界の中でどのようにバランスを保っていくのかということが、私の観点からしても、誠に残念ながら今世界の主流になってしまっていると。
その抑止力の重要性というのは常に言われるわけなんですけれども、ただ、その抑止というのは破れるまで分からない仮説なんですよね。なので、その仮説をどのように成り立たせるかということは、国民のコンセンサスをつくるためにしっかりと議論しなければいけないということだと思います。
また、その抑止を成り立たせるための諸条件も、実は、次のスライドで説明するように、固定した見立てができないということなんですね。常に変化しているので、動体視力の中でこの安定を保たなければいけないということだと思います。
現代の国際環境の最大の特徴は、危機が一つの戦域、戦域というのは一つの戦場を概念化したものですけれども、それで完結しないということだと思います。それが連接しやすいことだと思います。つまり、欧州、中東、インド太平洋という三つの、三戦域と、そして、我々の国家安全保障戦略に記載されているロシア、中国、北朝鮮という三つの正面が相互に連動して軍事能力と軍事活動が増幅するという、こういう状況をこの国際関係のトレンドとして見るべきだろうというふうに思います。
スライド三に行っていただくと、インド太平洋のこれ軍事バランスを描いたものでございます。
二〇一〇年から二〇三〇年にかけての軍事支出の推計値を示しているわけですけれども、いろいろ数字が並んでおりますが、この細かな数字以上に押さえるべき点は、地域全体でこの軍事力が増勢し、競争の密度が上がっているという点でございます。これによって、平時から有事への移行速度というものがやはりマグニチュードを高めて上がっていて、そして、以前我々が議論をしていたグレーゾーンの長期化、深刻化という現象と通常戦へのエスカレーションが連続的に起こり得る現象というものが常態化していくということだと思います。
危機の初動で主導権を握られないための即応性も大事なんですけれども、それが長期化した場合の持久性みたいなことを考えて抑止力を考えなければいけないということとともに、やはり構造的に言えることは、二〇〇五年見ていただくと、大体中国と日本の国防費ってドルベースで同じぐらいだったんですね。ところが、今や六、七倍になって、日本が仮にGDPの二%を目指したとしても対中劣勢の大きな構図というものは変わらないという構造的な変化が起きている。そして、その中国は、アメリカが西太平洋、第一列島線の中で戦える能力をどれだけ拒否できるかということに徐々に自信を高めているということでございます。
アメリカが圧倒的な優位を持ち、そして日本が対中戦略においても海空優勢というものを維持できる時代から、もう根本的な構造変化が今起きているということを読み取らなければいけないということだと思います。
スライド四を御覧いただくと、こうした環境の上にトランプ二・〇がどういう政権なのかということなんですが、すごく毎日のようにいろんなことが動いているので抽象化することがすごく難しいんですけれども、私自身の仮説的な捉え方をお話ししたいというふうに思います。
トランプ政権、単なる孤立主義とか同盟軽視とか自国第一主義とかいろんなことが言われているわけなんですが、地政学的に申し上げると、そのアメリカの自己像、自画像の大きな変化というのは、まさにかつてのようなシーパワーとして、海洋国家としての超大国、つまり、多くのその同盟関係、パートナー関係を世界中に張り巡らせて、その地域にアメリカの関与を通じて安定を図っていき、それがまたアメリカの安定につながるという、こういう発想から、アメリカはむしろ、大陸国家、つまり、国境線を重視し、そこにバッファーゾーンと影響圏をつくって、そして西半球の優位性を確立するという大陸国家型の自画像に転換しているんだというのが自分自身の見方ということであります。
もちろん、アメリカがシーパワーの超大国であること自体は、現在のイランの、パワープロジェクション能力とかを見ても、イランに対する能力を見ても明らかなんですけれども、どこまで、どの条件で、どの程度コミットするのかというのは、同盟に五条があるからとか同盟に書いてあるからということではなくて、よりアメリカの価値基準に基づいた、選別的になりやすい構図があるということだと思います。こうした観点から、やはり我々の日米同盟の運用の在り方というものを考えていかざるを得ないということだと思います。
次のスライドを御覧いただくと、これは、昨年十二月に発表されたアメリカの国家安全保障戦略の問題設定を整理しているものでございます。
出発点は大変シンプルで、アメリカは世界の全ての地域、全ての課題に等しく注意を払うことはできないという考え方です。ここから地域ごとに優先順位と設計が与えられて、これは報道で明らかになっているとおりですけれども、まさに西半球においてその優先順位を定め、そこにエンラージ・アンド・エンリスト、動員と拡張というものを掲げていくと。なぜそんなことをするかというと、アメリカの現在のナショナルセキュリティーにおいて、移民の管理、越境犯罪、重要インフラの保護、域外勢力の浸透の排除というものが大きな中心課題となっているからということだと思います。
インド太平洋も必ずしも軽視されているわけではないんですけれども、同じトランプ政権でも、二〇一七年、一八年に出た戦略の考え方とはやはり一味違うといいますか、アジアにおいては経済的な未来を勝ち取り、軍事的な衝突を防ぐという、こういうバランスの関係性の下で語られているということだと思います。対中競争、戦略的な競争というのは中心課題であり続けるわけですし、台湾をめぐる抑止も優先的に位置付けられているということではあるんですけれども、その条件を達成するためには、同盟国、パートナー国がより大幅な負担を通じて勝ち取らなければいけないという関係性になっております。
ヨーロッパは、ヨーロッパ自身が一次的責任を負う方向での移行を促し、中東は、今のイランを見ると少しちょっと信じられない気持ちもしますが、この戦略の中では、アメリカは関与を限定するという、こういう整理になっているということでございます。
日本にとってはインド太平洋がどのぐらい重要なのかと気になるところではあるんですけれども、その重要性があるがゆえに、アメリカが関与し続けるための条件を我々同盟国がどれだけ整えていける、いくことができるかという問いが重要だというふうに私自身は考えております。
スライドの六は、その世界観をモジュール化した世界として図示しているということでございます。
世界を相互に連結した一つの戦略回路として考える発想から、地域ごとに独立性とコストの分担を求める発想へとアメリカが移行しているということで、これをアメリカの表現で言えば、世界秩序全体を、ギリシャ神話のアトラスという世界を抱える神様がいるんですけれども、そのように支え続ける時代はもはや終わったのだということなんですね。
ただ、先ほど、冒頭申し上げたように、実態としての戦域というのはまさにその連結性を深めているというのが専門家としての私の見方なんですけれども、アメリカは必ずしも連接性というものを主軸に置いて今世界を見ることをしていないということだと思います。
では、スライド七を御覧いただければと思います。
これ、トランプ外交が一体どういう、いわゆる外交思想、思潮の下で今の世界を捉えているかということをかなり無理やり整理してみたものなんですけれども、縦軸に介入と不介入、そして横軸に競争観とディールの世界という、こういった四軸、四つの象限で描いているということなんですけれども、やはりその実務的なインプリケーションとしては、トランプ二・〇を読み解くというのは物すごく難しいということなんだと思います。
対中競争を強く押し出す右上のアジア・ハードピボットという側面がある一方で、アメリカ自身の関与を絞って同盟国にアウトソースするこのオフショア的な思考というものも併存しているということだと思います。また、大統領個人に絞れば、そこには一定の取引あるいは大国間の調整で安定をつくるグランドバーゲン的な衝動というものが強く見られるということでございます。
したがって、日本にとっての課題は、アメリカは必ずこう動くという予言ではなくて、アメリカの意思決定がこの三角形の構図の中でどう振れても耐えられる設計、つまり、振れ幅の管理というものが非常に重要だと思います。
第二期のトライアングルは何かということはちょっと次のページで御覧いただきたいと思うんですけれども、私自身の仮説の変化なんですけれども、トランプ政権は、冒頭、いろいろなこの閣僚人事を見ても、右上の競争的な世界観でアメリカがそこには関与していくだろうと、そこで同盟を共に盛り上げていくという、こういう構想で、去年の前半はそういう発想で見れるのかなと思っていたんですが、トランプ政権の世界の関わり方、様々見てみると、どうやらトランプ政権自身は、様々な世界の紛争をディールによって解決を連続的に続けていきながら、最終的にアメリカが不必要な紛争に関わらなくてよい世界をつくるために今やっているんだ、つまり、左下の世界を目指した行動をやっているというのが今私の強い仮説的な設定でアメリカを見る視点ということになります。そうした視点が、じゃ、朝鮮半島や台湾にどう働くのかということは、今年以降の大変重要なポイントになるだろうというふうになります。
九番目、スライド九を御覧いただきたいんですが、国防省と軍という視点をこれからお話ししますが、その条件を理解する鍵が、このヘグセス国防長官が演説等の中で述べている大統領の意思決定の余地という、ディシジョンスペースという概念として捉える見方が重要だというふうに私自身は考えております。すなわち、アメリカの国防長官及び統参本部の仕事は、大統領に代わって意思決定をすることではなくて、大統領の選択肢をどれだけ多くつくり、それを大統領に提示できるかということが仕事なんだということだと思います。
つまり、今回の武力介入にしてもディールによる解決にしても、様々な選択肢をどれだけ広く取るかという形で大統領に、ここに選択肢がたくさんありますと、これだけですということを言わないということがすごい重要な今のホワイトハウスの力学になっているということで、逆に言うと、この大統領のディシジョンスペースを狭める相手は、徹底的にこれを対抗していかなければいけないということになるんだと思います。
じゃ、そのディシジョンスペースを狭めるのは誰かというと、それはもう、一つは懸念国ですよね。ロシアや中国が仮に威圧、軍事行動を強めたりすると大統領は選択を迫られるので、そうしたことは牽制するというのが第一なんですけれども、第二に重要なのは、実は、同盟国がただ乗りしたり、あるいは同盟国がアメリカを巻き込むような挑発的な行動をするというのも、これもアメリカの選択肢を狭めるということなので、ここにも厳しく対応するということで、こうした理屈の目線というのは同盟国にも向いているということだと思います。
じゃ、日本、韓国、オーストラリアが一生懸命防衛費を伸ばしたらアメリカの関与が増えるのかというと、そのような比例的な関係には必ずしもなっていないというのが、これがトランプ政権と同盟関係のすごくつらいところだというふうに思うわけでございます。ディシジョンスペース論というものを念頭に置きながら、どのような形に同盟するのかというのはちょっと結論で申し上げたいと思います。
スライド十以降は、これまでアメリカが軍事介入をした三つの事例について申し上げたいと思います。
スライド十は、アメリカによるイランの核関連施設への攻撃、昨年の六月に展開されたオペレーション・ミッドナイト・ハンマーですけれども、これはフォルドゥやナタンツなどの地下深層を含む標的に対してB2やバンカーバスター、潜水艦からの巡航ミサイル等を組み合わせた大規模統合作戦をしたということでございます。
このときの教訓は、軍事介入をしないトランプ政権という単純な見立ては成り立たない、トランプ政権は軍事介入をするべきときにはするんだという教訓があるということなんですが、ただ、その介入の仕方に関しては、何か長期戦とか占領や国家再建ではなくて、能力破壊など限定的な目的を短期間で達成する設計に寄っているというのが昨年六月の時点での教訓ではないかというふうに思います。
スライド十一を御覧いただくと、今年のベネズエラの軍事介入ですけれども、同じ論点を別の角度から示したと私自身は解釈しております。ここでは、占領や国家再建を避けて短期集中的な圧力で行動変更を狙う限定的な強制というものが前面に出ていると考えています。また、十二月の国家安保戦略で示したとおり、西半球優先という地理的な優先順位の中で、迅速性と決断力を示し、域外勢力へのシグナルと捉えるロジックだということだと思います。
つまり、このトランプ二・〇の介入が、この二つの事例からは、介入の是非以前に介入を可能とする条件を整えると、それによってアメリカは介入をしていくと、それは、勝敗基準が比較的明確で、時間軸を短く切って、アメリカの作戦優位が担保され、アメリカのエスカレーション管理が可能であると、しかも撤収ができるということであればアメリカは軍事介入をするんだという論文をこの二月の中旬に私は出したところ、このイラン介入が始まってしまったので、もう論文直せないんですけれども、ちょっと困ったなと思っているところでございます。
そのスライド十二が現在進行している対イラン攻撃なんですけれども、まさにその条件付介入の性格が問われるということだと思います。
これも、アメリカ、イスラエル側が掲げる目的としては、指揮統制の麻痺、ミサイル戦力や海軍能力の破壊、核保有の阻止、そして今回、最高指導者を殺害したということを含めて体制の転換の圧力まで複層的な政治目的が並ぶということだと思います。ただ、非常に重要なのは、出口戦略が本当にアメリカはできているのかということでございまして、この今回のイラン攻撃を何をもって終わりとみなすのかという定義がまだアメリカの中ではっきりしていないということだと思います。
第一の問いは、その終結条件に何を置くのか。それは核能力を潰したということなのか、イランの報復能力を低下させたということなのか、それとも攻撃停止や交渉への復帰をするというその行動変容を起こしたということなのか、どういうことかということをはっきりさせないといけないということだと思います。
第二の問いはエスカレーション管理ですけれども、このエスカレーションがどこまで普及するのかということで、短期限定でありたいと思うことが結果として長期化しやすい。つまり、短期的な作戦の成功は必ずしも長期的な戦略の成功を意味するわけではないのではないかというのが第二番目の問いということになるということだと思います。
こうした出口戦略の問題は、必ずしもその中東だけの話ではないと私は考えております。アメリカがほかの正面でも介入を選ぶときに、その介入が短期で終わる保証はなくて、政治の注意力、軍事資源、弾薬や補給、即応態勢がどうなるのかということに及び得ると思います。つまり、私たちが見るべきは、中東かアジアかという二者択一ではなくて、同時多発の危機が連鎖する時代にアメリカのディシジョンスペースがどこでどのように形成されるのかということが非常に重要なポイントになるということだと思います。
スライド十三が台湾海峡でございます。これは話し出すと切りがないので、非常に短くまとめたいと思いますけれども、これも単一のシナリオで語るというよりは、限定侵攻、離島、ハイブリッドまで様々な幅があるということだと思います。それでも、いずれのシナリオでも共通するのは、初動の時間が短く、エスカレーション管理が難しく、また、先ほども申し上げたトランプ政権二・〇の武力介入が本当にこうしたシナリオと適合するのかという点において極めて難しい性格を持っているというふうに思います。
時間も限られていますので、最後のページに進みたいと思います。
政策的なインプリケーションを三点に整理したいと思います。
第一に、東アジアの安全保障環境、厳しさが継続し、リスクが連鎖をするということです。通常戦力の競争に加えて、核を含む多層的な抑止への移行というものが進んでいくということが第一番目でございます。
第二番目に、アメリカ第一主義時代の我々の防衛と日米同盟は、価値基準が、アメリカは日米安保条約第五条があるんだから関与は自動的に担保されているという、こういう発想ではなくて、アメリカの大統領のこのディシジョンスペースの中で管理しているというふうに発想を転換するべきだというふうに思っております。したがって、我々がどういう形でこの同盟の負担分担をしていくのか、また、どのようにその価値基準を共有化していくのかということについての作業というのは、今後も非常に重要なポイントになるだろうというふうに思います。
最後に、自由で開かれたインド太平洋、これは故安倍総理が提唱してから今年は十周年ということになりますが、十年前と比べてもそのインド太平洋の重要性というのは増しておりますし、その性格というのも変化しているなというふうに思います。アメリカがその公共財を広くグローバルに供給するというモデルから、やはり同志国、パートナー国、そして必ずしもライクマインデッドとは言えない国々ともネットワークを形成して、そこでどのようにその公共財を提供していくのかという発想を積み上げていくということが大変重要になるというふうに思っております。
時間も超過いたしましたので、私の冒頭の発言とさせていただきます。