岩間陽子の発言 (国際問題に関する調査会)

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○参考人(岩間陽子君) ありがとうございます。
 政策研究大学院大学の岩間です。
 参院国際問題に関する調査会の皆様、本日はお時間をいただき、ありがとうございます。
 まず、お手元のレジュメに沿って御説明したいと思いますけど、最初に、今の情勢を私自身がどのように考えているかということを説明したいと思います。
 国際問題に関する調査会ではあるのですが、やはり私は国内レベル、それから個人レベルとの関連というものをしっかり見ながら対処を考えていくことが重要だと思います。その意味で、このケネス・ウォルツという人が最初に言いました三つのレベルの分析ということを申し上げたいと思います。
 現在、非常に混乱して厳しい情勢にあるわけですけれども、そういうふうになった一つの要因は、まず個人レベルでトランプ大統領の信条、世界観、スタイルというものが間違いなくあると思います。構造によって全てが変わるという説もあるんですけれども、私はやはり、個人がどのように世界を捉えているか、そしてどういうふうにそれを実現していくかが大きく世界を変えると思っています。ですから、現在起こっている変化の速度というのは、かつてゴルバチョフ氏が冷戦という構造に引き起こしたレベルでの急速な変化であるというふうに思っています。
 それから第二に、国内社会、国家レベルでも、これはアメリカに限らないんですけれども、様々な構造変化が起こっていると。
 よく言われていることですけれども、トランプ支持層、いわゆるMAGAと言われる人々は米国内の製造業の空洞化による中産階級の貧困化がもたらした人々であるということで、こういう国内問題が解消されない限り、それはやはり国際社会にも響き続けると、簡単に国際社会レベルだけで問題を解決しようと思ってもうまくいかない可能性が大きいということを申し上げたいと思います。
 それから三つ目に、もう既に神保参考人の方からお話ありましたけど、国際秩序、構造レベルでの大きな変化が起こりつつあると。
 長い間、冷戦では二極体制と言われていたんですけれども、冷戦終結以後のアメリカの一極体制というものが続いていたわけですけれども、このシステムの維持コストというのはアメリカに集中していたと。
 大きな枠組みというのは第二次世界大戦終結時につくられたわけですけれども、冷戦が終結したことによってシステム維持コストというのがアメリカに集中していて、それは安全保障だけでなく、金融であるとか経済の秩序を運営するコストもアメリカに集中していたということで、その負担というものに対する不満感というのは出てきていると。
 それから、もうこれは日本の直近の問題ですけれども、中国という経済大国が特に二〇一〇年代以降出現し、そして経済大国だけでなく軍事大国化していると。近年はかなりアメリカにこれは挑戦をしているという現状があり、アメリカには自分が運営してきたオープンで自由なシステムを悪用されたという感情があるということです。
 それから、やはり見逃せないのは、冷戦後急速に進んだグローバリゼーション。規制緩和自体は一九八〇年代から既に始まっていて、これが一層九〇年代に加速し、そこにやはり情報革命というのが重なりました。これがいろんな問題を複雑化させているし、我々が取り得る選択肢というのも制限していると思います。
 その中で、人の移動が激化したということで、御参考までにそこにグラフを付けていますけれども、この青がアメリカに入っている移民の絶対数ですけれども、オレンジの方がその割合です。
 見ていただくと、一九二〇年代以来ずっとこれは低下していました。人口に占める移民の割合で、御記憶のとおり、二〇年代というのは排日移民法を始めとする排外主義というのがアメリカにおいてすごく強まった時代です。それはやはりそれなりに社会的な理由があったというのがこの数字からお分かりいただけると思います。この割合は、二十世紀後半を通じてずっとそれより低かったんですが、二十一世紀に入り、最近になってそのレベルに迫っていて、その反応というのがアメリカ社会に出ていることは、トランプ政権が今出てきたということの背景の一つにあると思います。
 二番に参りまして、アメリカによるリベラル国際秩序がどのようにつくられたかというのは、なぜ第二次大戦が起こったかという問いに対する答えが戦後秩序を形成してきたと。そこには一定の世界観というものがあったわけで、世界恐慌とファシズムを生み出したのは保護主義やブロック経済化、一九三〇年代の大恐慌の結果として起こったことがこういう現象を生み、世界大戦へつながったと。
 それから、国際連盟不参加というアメリカの孤立主義が間違いであったということで、それらを是正しなければいけないという歴史観が戦後のアメリカの行動を支えてきたと。国際政治のアクター、中心的形成者になるという見方から、国連、世銀、あるいは自由貿易制度、資本の自由な移動などをアメリカ自身が支えてきたという背景があります。これが先ほど神保さんがおっしゃった国際的な公共財というものなんですけれども、同時に、旧大陸、ヨーロッパにおける勢力均衡にもコミットしなければいけないということで、米軍の常駐がNATOという形で実現しました。
 それからもう一つは、ドイツ経済を一九二〇年代において抑え付けたということが間違いであったということで、欧州統合の中での西ドイツの復興というのが実現したと。
 それから、もう一つ見逃せないのは、独裁者を宥和しようとしたのは間違いだということが、スターリンが当時いた共産主義との対決、そして軍事的な封じ込めというふうにつながっていったと。
 このアメリカを支えた多くの先進国は民主主義国であったということで、これもやはり国内レベルの話になるんですけれども、今、民主主義というものが非常に世界的に挑戦を受けていると思います。特に、私はヨーロッパの研究者ですので、その点を強く感じます。
 民主主義がどのように生まれてきたかというと、これは比較的、世界史的には新しいものです。十八から九世紀のヨーロッパにおいて、自由主義とかナショナリズムが生まれて、そこから民主主義というものが生まれてきたわけですけれども、これは、その当時起こっていた産業革命、産業化社会というものを考えないと理解できないと思います。この産業化された社会というのは、教育された豊かな中流階級、ブルーカラー、ホワイトカラーの労働者というものを必要として、これが国の製造力、技術力、競争力を支えてきたということで、彼らの声を国政に反映させるシステムとしての民主主義というものがあったというふうに私は理解しています。
 経済の相互依存、経済交流、経済発展というのが、ヨーロッパ、それから日本のような国の経験から体制の民主化につながるのではないかというのが二十世紀後半に強まったと、希望であったわけですけれども、実際、韓国、台湾、インドネシアなど一定の国においてはこれが実現したというふうに思われたわけです。中国もこれに続くのではないかという期待が膨らんだのが一九九〇年代であったと思いますけれども、二十一世紀に入ると違う方向に中国が転換し始めたという現状があります。
 今、アメリカが、トランプ二・〇が起こしている現状修正というのは、やはり米国が多大な負担を強いられているということへの不満が募っていると。それが同盟国への公正な負担要求になっていて、これは、何というか、アメリカにとっては、ヨーロッパにしろ日本にしろ韓国にしろ、かなりただ乗りの部分があったと見えるということは、これは否定できない事実だろうと思います。
 それから、国際機関の多くが非効率的であるというのも、これもやはり事実ではあると思うんですね。ただ、それをどのような方向で修正していくかということはいろいろなやり方があると思いますけれども、非常にトランプ政権はドラスチックなやり方で協力を停止しつつあると。
 もう一つ、やはりトランプ二・〇の価値観の問題として、やはり左派イデオロギーへの反発というのがあります。背景には、アメリカの保守派の変化。これは、やはりヨーロッパ社会でも同じで、いわゆる保守党が、保守党までもがかなり中道化、左派化していったという現実があって、それへのやはり国民の共感が付いていかなかったという現実はあるだろうと思います。そこで何かイデオロギー的な揺り戻しというものが来ていると。
 したがって、アメリカにおいてもヨーロッパにおいても、そして多分日本においても、国内社会における国民としての共感というものをいかに取り戻すかというのが重要な問題となると思います。
 この関連においてトランプ政権は、アメリカの製造業を立て直したいと思い、関税戦争を仕掛け、あるいは移民政策、それから国際機関の脱退、協力停止などなどの行動を起こしているわけですけれども、ですから、問題があって、それへの反応があって、そしてさらにトランプが取ろうとしている手段があるということで、手段が正しいかどうかという議論も必要ですけれども、なぜ今出ていることが起こったかというその問題の根っこというものを見ていくことも必要だろうと思っています。
 四番として、私の専門であるヨーロッパの反応、といいましても、国によって相当今ばらけていますので一概には言いにくいんですけれども、ざっくりとお話ししておきたいと思います。
 一つには、公正な安全保障負担をすべしという要求には応じざるを得ないということで、ほとんどの国において五%の防衛支出ということが主流になりつつあります。それから、ウクライナに対する軍事的な支援というものが、物の面ではアメリカから急激に減っているということで、これを肩代わりせざるを得ない。これはほとんどドイツが肩代わりしているのが現状ですけれども、それはやらざるを得ないということです。
 一番そのヨーロッパの反応が揺れているのは、やはり価値観においてアメリカが変わってしまったのではないかという違和感があるということです。これは、最も具体的には、欧州内右派政党へのアメリカによる支援がバンス副大統領を始めとする政権内の主要な人々からはっきりと出されている。それから、記憶に新しいのはグリーンランドに対する要求であって、これらを通じてやはりアメリカに対する違和感というのが強まっています。
 その結果として、ヨーロッパ自身がアメリカから一定の自立を達成すべきであるという議論は出てきていて、ここ数日、フランスの方から新しい核政策などが出てきたりしておりますけれども、ただ、日本も同様ですけれども、アメリカから自立するというのは現代の世界においてそれほど簡単なことではないですから、まだ議論は始まったばかりであります。
 残りの時間で、世界の安定化に向けた日本外交のお話をしていきたいと思います。
 国家のレベルとしては、まず、当然、その防衛力の強化というのはいろんな意味で必要とされるんですけれども、同時に、インフラをひっくるめた社会的レジリエンスの強化というのも必要だと思います。現に、様々なエネルギーインフラが攻撃を受けて世界的な影響を及ぼしておりますので、そういう意味で、日本のインフラのレジリエンスというものをもう一度見直す必要があるだろうと思います。
 今まで私は、特にNATO、EUとのつながりというものを非常に重視してきたんですけれども、それに加えて、アジアとのつながりというのも地域的にこれから重視しなければいけないだろうと思っています。
 済みません、ちょっと前後してしまいましたけれども、経済、社会、人的つながりの強化、法の支配の重視というのをやはり、ASEAN諸国、それから地域の同志国、韓国やオーストラリア、ニュージーランドなどと共にやっていくと。ここは、北岡伸一先生が西太平洋連合という提案を随分前にされていますけれども、そういう、何というか、経済だけでなくて人的なつながりを強化しつつ、その中で法の支配の重視を広げていくというような取組が必要なんだろうなと思っています。
 そして、ごめんなさい、ちょっと前後していますけど、国家レベルに戻りますと、人への投資と新たな再分配の方法と、中産階級を犠牲にしない社会モデルの提示というのは、これは、やはり日本のような国が努力して、それをやはりアジアにおいても共有してもらうというようなやり方が必要だろうと思っています。世界的にやはり格差の拡大が広がり、それが民主主義に非常に負担掛けていると思いますので、この点でやはり日本のようなまだ比較的格差が少ない社会が最もモデルを示すべき立場にあるのではないかと。
 それから、ある種の私は行き過ぎた自由主義への修正というものが必要なのではないかと。これもやはり、グローバルエリート層というのはどこにでも逃げていって、国家に対する義務を果たさなくてもよいというような構造があることは私は問題なのではないかと思って、そこに先日書評しましたフィリップ・テーアという方の議論を紹介しております。
 地域レベルの、そのASEANの話は先ほどしましたけれども、それに加えて、やはり私は、軍備をやりつつ対話も重視するべきだというのがやはり日本のような国がやることだと思っています。それは、何というか、翌年効果が出ることではないんですけれども、長い目で見て、対話のためのフォーラムを根気強くつくり続けていくような努力をしていくのは、やはり歴史的にも日本が果たすべき役割だろうと思います。そういう意味で、将来的な東アジア地域における軍備管理・軍縮、信頼醸成のための知的な準備をしていき、あるいは人的なつながりをつくっていく努力、それから地域の緊張緩和外交の推進、この関連ではアジア版OSCEというような御提案も出ております。
 いろんなやり方があると思いますし、私自身もここに関心を持って議論を続けていますので、こういう面で日本がリードしていくべきというふうに思っていますし、これは決して本当に、繰り返しますけど、数年で結果は出ないかもしれない。中国が話合いには応じませんよというのはいろんな方に言われるんですけれども、チャンスというのはいつやってくるかは分からないので、十年、十五年、二十年掛かるとしても、私はこういう知的努力は日本がやるべきことだと思っています。
 それから、グローバルレベルで、そのルールに基づく国際秩序というのは、現在、諸大国が非常に力に基づく行動をしている中で維持するのはとても難しくはなっていますけれども、最近、一九三〇年代との比較が盛んになされますけれども、当時との最も大きな違いというのは、やはり私はグローバルサウスの存在だと思います。
 これらの諸国は、一九六〇年代以降に国際社会に登場した国がほとんどですけれども、今後の世界の成長を引っ張っていくのはこれらの国ですから、彼ら自身は別に全くルールがない社会で大国の後ろを付いていきたいとは決して思っていないわけで、そういう国々と連携して何らかのルールがある空間というのを維持していくという努力が日本のような国には求められているのだと思います。
 同時に、国際機関も改革が必要なものは多いのは事実ですけれども、アメリカが余り努力しない中で、日本のような規模の国ができることは限られているとは思いますけれども、優先順位を決めて維持しつつ改革を進めるというのがあるべき姿だろうと思います。それから、もちろんグローバルサウスの国の中で必要とされている支援はODAの形で継続していくというようなことだと思います。
 最後に、フィンランドのアレクサンダー・ストゥブ大統領が最近フォーリン・アフェアーズ誌で発表された論文の中では価値に基づく現実主義というのを提唱されているんですけれども、やっぱり世界の将来、行方というのは最終的にはグローバルサウスが決めるんだということをおっしゃっていますし、これから日本が発展していくためにも、口を閉ざすのではなくて、やはり開いて、日本の知恵を世界の中に生かしていくという方向性が必要だろうと思います。
 以上で終わります。ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 岩間陽子

日付: 2026-03-04

院: 参議院

会議名: 国際問題に関する調査会