田中均の発言 (国際問題に関する調査会)
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○参考人(田中均君) どうもありがとうございます。田中均です。よろしくお願いします。
この席に座った思い出というんですか、二十数年前に外務省の局長で、ここに座ったときの緊張感ですかね、だから、何を言っても言葉尻をつかまれないようにというのが、今でも多分そうだと思いますが、政府委員の鉄則だったんですね。ですから、余計なことは一切言わないということでした。だけど、今日はちょっと余計なことを言うかもしれませんので、是非、言葉尻をつかまれないようにしたいと思います。
今、神保さんと岩間さんが言われたこと、いずれも極めて妥当な御説明だったんですけど、余り重複しても意味がないので、ちょっとそれを補完するような形でお話をしたいと思います。ただ、私、若干ニュアンスが違う話をするかもしれないので、そこは留意していただきたいと思います。
レジュメに沿ってお話を申しますけど、今、岩間さんが言われた、いわゆるリベラルな国際秩序、これは、私が外務省を辞めたのは二〇〇五年ですが、それまでの世界というのは、いかにそのリベラルな世界を増進していくかということだったんですね。援助を増やそう、貿易を自由化しよう、要するに環境被害を防ごう、戦争を違法化しよう、こういう形で、まさにそのリベラルな秩序の維持に努めるというのが日本の使命であったと思うんですね。
そういうリベラルな秩序というのは、私はもう返らないと思うんですね。なぜ返らないかというと、まさに戦後、これを主導してきたのはアメリカだったわけですね。で、アメリカの今トランプ政権が言っていることというのは、これまでつくられてきたリベラルな秩序とは全く違うことを言っているわけですね。もう援助を切るぞ、それからパリ協定から離脱だ、国際機関から離脱をし、自由貿易どころか関税をぶっ掛けていくという、WTOの世界では考えられないことですよね。それを平気でやる、アメリカだからできるということですね。
アメリカ一国主義というのは、基本的にはアメリカが主導国として自由主義体制、リベラルな体制を支えてきたという時代の終えんだと思うんですね。岩間さん言われたように、アメリカは相当な持ち出しをしていたんですね。だから、リーダーシップは当然そうだと思うんですよ、政治の世界でもリーダーシップが、やっぱり率いていくからにはそれなりの自己犠牲というのか、自分が余計にコストを払うということをやらない限り付いてこないわけですから。で、そういうアメリカ、寛容なアメリカは終わったということなんですね。
トランプだから終わったのか、あるいは構造的な変化があるから終わったのかというと、私は後者だと思うんですね。トランプはその終えんを加速したということは言えると思うんですが、だけど、実際問題として、やっぱりこの八十年の金属疲労みたいなものですね、とりわけ二十年の中東における戦争というのが非常に大きかったと思います。
その間、中国やインドやブラジルといった新興国が台頭してきて、なぜアメリカだけが余計にコストを払わなきゃいけないのかというそれが構造的な問題で、トランプはそれを極端に述べていますが、だけど、多分そういう構造変化のゆえにアメリカの政策が決まっているわけで、これは元へ戻らないというふうに思います。
トランプさん、私自身も力による平和というのは一体何を言っているんだろうかと。今まで言われていた、トランプさん自身、海外に派兵して、アメリカ側の兵士が犠牲の上で、その平和を追求するということはもうしないんだということですね。
だけど、それでは力による平和というのはどういうことかというと、基本的には、ロシアや中国といった軍事大国に対しては、力による平和というのは当てはまらない、それはもう取引なんだと。取引に当たっては、私たちは以前は自由、民主主義という価値に基づいて取引をしてきたわけだけど、トランプの頭の中にはそういうことはないんですね。まさに、戦略的取引であって、価値に基づく取引ではないということですね。だから小国、要するにアメリカの犠牲が多く伴わない小国に対しては力を行使するということはいとわない、だけど大国に対しては取引ということなんですね。
私はびっくりしたんだけど、イランに対する攻撃をやって、アメリカ人の兵士が三人死んだと。そのときに彼は何を言ったかというと、三人の犠牲者が出たと、これに対する報復をするんだということをカメラの前で堂々と言うわけですね。戦争を仕掛けた人が、一部の兵士が死んだからといって、それに対する報復だと、こういうその言葉の使い方自身に、まさにアメリカが追求しているのは価値ではなくて、まさに損得の世界なんだということが出てしまっているということですね。
それから、国家安全保障戦略というのは、これは今、神保さんも言われた、あるいは岩間さんも言われたけど、やっぱり具体的に意味を持っていくと思います、これからね。
それは、一番我々にとって注意しなければいけないのは、それが東アジアにどういうインパクトがあるかと。文字どおり読むとね、文字どおり読むと、まさにヨーロッパ、ソ連との関係はヨーロッパやりなさいと、中東は一定のマネジメントのためにアメリカは力を貸すよと。で、東アジアというのは、この国家安全保障戦略というのは、ある意味、二〇一七年に出た国家安全保障戦略、それはピボットだったんですね。中東からアジアに対してその力点を変えるよと、アジアはリバランスするぞという、戦略を変えたんですね、この西半球のプライオリティーをつくるということは。
そうすると、具体的な姿として北朝鮮有事でどうするんだ、台湾有事でどうするんだということが多分現実的な問題として出てくるだろうというふうに思う。私たちはそういうことに備えていなきゃいけないというふうに思うんですね。
それに対して、世界が一体どういう対応をしているのかということについて、日本の対応というのは大事なことなんだけど、その前に世界がどういう対応をしているかということについてお話をしますけれども、アメリカの国内はどうかと、これはもう非常に日々動いているわけですね。
トランプは、アメリカの国内のその岩盤支持層を回復するためにイランをたたいた。というのは、宗教的な問題とか、イスラエルに対する、私は基本的にこのイランの攻撃というのはイスラエルにせっつかれたことであることは間違いないと思うんですね。通常のアメリカであればこんなことしていませんよ。これだけその結果的なコストが多い行動を取る、それはやっぱりトランプの自己認知欲というんですか、何かイスラエルにせっつかれた、場合によってはサウジにせっつかれたかもしれませんが、やっぱりそれでダックするのは嫌だと、討つというところにやっぱり彼の精神構造はあったのだろうと思います。
この実はイランに対する米国の行動というのは、私は多分見誤っていると思うんですよね。というのは、私は一九七九年にワシントンにいたんですね。そのときに何が起こったかというと、イラン人質事件、大使館が人質に取られた。あれからのアメリカのイランに対する怨念みたいなものは物すごく強いんですよ。だから、我々が、アメリカがイランを攻撃したと、核の問題だと言うけど、核の問題であればもっと早くやっていればよかったわけで、この期に及んで核の問題で軍事行動を取るかと。そうではない、やっぱり体制なんでしょうね、お坊さんがトップに座るような体制に対して鉄槌を加えるということ。これはイスラエルの主張であって、それに乗っかったということではないかというふうに思います。
私は、このイラン攻撃がトランプさんの支持率上げることにはならないと思います。今、三七%ぐらいですか。むしろ私はこれはトランプの人気を更に下げていくというふうに思います。関税の最高裁判決とか、あるいはエプスタイン問題とか、いろいろ国内的には更に広がる問題がいっぱいあるわけですね。だから、結果的に何が起こるかというと、それは、下院は民主党側が取るということは多分間違いがないと、上院はちょっと分かんないねということなんだけれども、何が大事かといったら、アメリカの分断というのが更に深まっていくということが大事なことであって、その結果、トランプ的な世界がなくなるかというと、そうじゃない、もっと激しく対立が出てくるんじゃないかなというふうに思います。
ヨーロッパについては、さっき岩間さん言われたように、デリスキングということ。要するに、ちょっとアメリカと一緒に行動するのは危ないんじゃないかと。ヨーロッパは圧倒的にアメリカに依存度が高いわけですね、軍事的にも、NATOの中で、あるいは貿易面においてもね。だから、それを、やっぱり過剰な依存を下げようというヨーロッパの努力は現実に起こっています。
それは、例えば国防費をGDP比三%、あるいはインフラを入れると五%、あたかもアメリカの要求に屈したかのように思われてはいるけど、そうじゃない。あれはまさにヨーロッパが自立していくために自分たちの国防力を増加させなきゃいけないということであって、それから、メルコスールとの自由貿易協定とかインドとの自由貿易とか、貿易の多角化、これはかなり深刻なイシューとしてやっていくというふうに思います。
それだけじゃない。中国北京詣でをしているわけですね、ほとんどのヨーロッパの主要国の首脳がね。だから、やっぱりアメリカとの関係を考えるにおいて中国との関係をどうするかという意識がヨーロッパにも非常にあるということは我々念頭に置くべきじゃないかというふうに思います。
三ポツ、これが一番大事なことなんですが、一体、日本外交はどう対応していくのかということですね。多分、皆さんの中にも意識、意見の違いがあると思うんだけど、この十年、二十年の間に、外務省もそうだけど、意識の違いというのがどんどん出てきた。最近は抑止力至上主義、とにかく平和を、力による平和と同じようなことなんだけど、抑止力を強めることが平和をつくるために必要なことなんだと、こういう意識の人と、おい、ちょっと待てよと、幾ら国防力を上げたところで問題解決するわけじゃないんじゃないかと、したがって、より外交を重んじる人。
少なくとも、私たちが外務省にいたときには、要するに物事を解決するのは外交だと、対話だと思ってきたわけですね。だから、対話がない抑止力の向上なんてあり得ない。ただ、今見ていると、ほとんど多くの議論がいかに抑止力を上げるかということに費やしているような気がする。
二つ問題意識があるんですけど、我々、外交の基軸は日米関係だと言っているじゃないですか。日米関係はなぜ日米同盟関係なのかというと、価値観の共有があったんですね。やっぱり自由、民主主義で、その行動するときに価値観を基準にやっているという我々気持ちもあったし、アメリカにもそういう気持ちがあった。今、全く違いますよ。アメリカ第一と、その下での日米同盟関係というのは違う。本当に今のままでいいのか。日本は日米関係が外交の基軸だということでいいのかと。
最近十年間の外交の基軸というのは、中国をいかにして抑止するかということになってきた、びっくりしましたけど。私たちが外務省にいたとき、二〇〇五年まで、議論の中心というのはアジア太平洋という言葉だった。アジア太平洋というのは中国を含んで、いかに中国を、変えられないんだけど変えていくかという、だから、一種のエンゲージメントですね、中国を入れて、その中国の行動を変えていこうというアプローチだった。ところが、アメリカは、いや、中国の行動は変わらないと言ったわけですね。
それで、二〇一七年にピボット、まさに国家安全保障戦略の変更、それから安倍内閣のときのインド太平洋構想というのは、基本的には中国を牽制するコンセプトなんですね。ですから、そういう意味から、今の外交の主軸というのはいかにして中国を牽制するかと。
で、私は皆さんにお聞きしたい、本当にそれでいいですかと。中国のように、日本の貿易の二割以上が中国ですよ。日本にとって最大の貿易パートナーである。それから、あっという間に二〇一〇年に日中はGDPで肩を並べたわけだけど、今中国は日本の四倍ですよ。それが、ますますその格差が広がっていくでしょう。それが隣国であり、いや、とにかく日本国民の反中意識というのは、九割の人が中国嫌いだと言っているわけですね。だから、いかにそれに乗っかった政治をするかと思っておられるかもしれないが、だけど、本当にそれでいいですかと、中国という国をアメリカと一緒に牽制していくということでいいんですかと。
ところが、アメリカは明らかに戦略を変えているわけですよ。さっき申し上げたように、アメリカの力による平和というのは、小さな国に対しては軍事力も使うぞと。だけど、ロシア、中国についてはむしろ取引なんだと。現に昨年の米中首脳会談なんか見ても、あえて台湾の問題は触れないということで合意しているわけですね。
だから、貿易戦争、中間選挙の後まで延長するとか、もろもろのインディケーションを見ると、やっぱりアメリカの意図というのは、中国ととにかくマネージしてうまくやっていこうと。そのときに、日本が中国にただ牽制するんだと、台湾について、その台湾の今の答弁は変えないよということで突っ張っていくことがどれだけ日本の国益に資するかということを私は是非国会議員の方は考えていただきたいと思うんですよ。
僕は別に、中国に対して融和主義を取ろうということを提案しているわけでは全くないですよ、全くない。だけど、隣国で、日本の四倍、五倍の大きさを持った国がこれから五年、十年たつときに、今のような、何というんですか、ある意味、非常に制裁の打ち合いをするような関係でよいのかと。それは、僕は外交の怠慢だと思う、政治の怠慢だと思う、申し訳ないですけどね。だけど、やっぱり何か方法を考えなきゃいけない。それが、アメリカと一緒になって中国を牽制するということではいけない。なぜかというと、もうアメリカの方針は変わりつつあるから。
それから、日本にとってもっと深刻な問題は、対中融和主義と言われない形で中国を取り入れていくにはどうするかと。そういうときにやっぱり必要なのは、一対一でやるよりも五対一ぐらいでやった方がいいよと。ASEANや韓国や、あるいは豪州とか、そういう国々と中心に中国との関係を整理していくということが必要なんじゃないかというふうに思うんですね。
私はやっぱりCPTPPというのは日本の武器だと思います。CPTPPに中国や台湾や韓国やEUを入れていくという行動を日本が取ることによって、自由貿易主義だということと、中国をみんなで抑え込みましょうよというような意図表示にもなる。だから、そういうことを是非考えてほしいというふうに思うんですね。
さっき申し上げた、自由で開かれたインド太平洋もいいけれども、アジア太平洋協力というのも少なくとも並び立つような重点にしてくれないかと。今や、インド太平洋だけ、それは十分ではないんじゃないかということを申し上げて、私のお話としたいと思います。
どうも御清聴ありがとうございました。