加藤閲男の発言 (予算委員会公聴会)
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○加藤公述人 私は國鐵勞働組合の加藤でございます。ただいまから鈴木委員長の御指名によりまして、昭和二十二年度の追加豫算につきまして、國鐵勞働組合としての意見を申し上げるわけでございますが、皆樣御承知の通り、わが組合は、去る十月二十日第二囘臨時大會におきまして、組合内の意見の對立から流會をいたしまして、その結果私どもも責任上辭職をいたしております。本日ここに國政に關して重要な意見を開陳する機會を與えられたのでございますが、はなはだ遺憾なことには、右樣の事情により、機關としてのはつきりとした見解を申し上げることができませず、一部の者、もしくは私個人の意見にわたりますことがございますことを、まずもつてお詫び申し上げておきます。實は一昨日プリントをいただきましたが、私に對しどの部面における意見を求められているのか捕捉に苦しんだ次第でございまして、はなはだ勝手ではございますが、次の二點について意見を申し上げて、御參考に供したいと、かように考えております。
第一は千八百圓基準の是否でございます。このことについては、勞働者は實際の生活の面から、全面的にこれによつては食つていくことができないと申し述べております。また國内各層における議論においても、守るべきではあるが守られないという結論に今日到達しているのではないかと思いますので、私は單にこの追加豫算案より受けます感じだけを申し上げてみたいと思うのでございます。追加豫算の全部を見ますと、一應政府の言われる均衡主義は保たれているようでありますが、これは千八百圓ベースの犠牲においてなされているように思われるのであります。すなわち米價について見ますと、補償金を廢止いたしました關係上、買入價格が消費者價格となつておりまして、從來十キロ九十九圓であつたものが、百四十六圓餘に上つておりますし、タバコについてみても、配給のものについては値上りこそしていませんが、量を減した關係上、勤勞者にとつては、タバコは生活必需品であるのにかかわらず、配給量の不足の分は、在來よりも十二倍から十六倍に値上されたタバコを購入しなければなりません。以上きわめて卑近な表現の方法を用いたのでありますが、追加豫算が、政府の言う通り、表面上インフレに影響を及ばさない健全財政であるという體裁だけをとつても、米價及び專賣金の値上のみでも、千八百圓の維持が困難であると斷言できるのであります。いわんや、私どもが八月以來政府に折衝を續けております勞働の再生産に必要な攝取カロリー等々の科學的計算を考えてまいりますならば、千八百圓ベースなるものは、速やかに改訂さるべきであるとの結論に到達するものでございます。
次に私は國鐵の特別會計の赤字と獨立採算制について、意見を申し述べます。まず鐵道の特別會計について申し上げて見ます。國有鐵道は、申すまでもなく國民大衆の運輸、需要を充足するという生産事業を行つているのでありますから、企業經營にふさわしい會計制度になつていなければ、能率的な運營はできないものと思われるのであります。國有鐵道の現在の制度は、一般行政官廳と同樣の消費經濟的會計制度になつておりまして、豫算制度、決算制度を初め、金錢の授受、保有金の運用等に至るまで、きわめて非能率的になつております。まず豫算制度について見ますと、鐵道經營に必要な支出は、各款項別に所要金額が豫算に計上され、國會の承認を要し、款項別豫算を超えては旅客貨物の運輸量がいかに増大しようとも、追加豫算の承認がなければ、石炭も買えないということになつておると思うのであります。私ども組合では、事業經營の特徴としての機敏に需要に應ずる措置が講ぜられるよう、まず特別會計として設置せられた根本に思いをいたし、この會計制度の改革を提唱するものであります。米國におきまする代表的な國營公共事業であるところのT・V・Aでは、その對策といたしまして、事業會計的豫算制度を採用いたしまして、純計主義による彈力のあるランプサムの豫算を認めておりまして、一般行政官廳の豫算とは、まつたく異なる原則によらせているようであります。また鐵道の收入の面も、國が經營しているという理由で、收入するとただちに國庫金としての取扱を受けるので、保有資金の運用が、きわめて窮屈のようであります。事業經營上の收入金は、ただちに事業經營に支出せねばならないのでありますから、一般會計と異なりまして、事業收入は國庫金の取扱いをすることをやめて、民業的運用が可能になるように改める必要がるるのではないかと考えております。
次は國鐵の運賃でありますが、ややもすれば物價の高騰により、消費資材としての石炭や、鋼材の値上り、または從業員の給與を改めたりすることによりまして、運賃の改正が適當に行われていないようであります。社會主義政策實施の點からも、ひとり鐵道の立場からではなく、廣く陸運、海運、自動車等全體の政策の見地から、調整決定すべきものと考えておるものであります。そうでないと、各運輸機關の輸送力を合理的に活用することはできないと思います。船が餘つていながら、また鐵道の方では輸送力が不足を唱えながら、船舶の活用ができない、こういうようでは、國全體の立場から見ておかしいことではないかと、私ども常日頃考えておるのであります。さらにまた鐵道の輸送力の擴充、殊に戰時中の補修不足や戰災復興の資金は、特別の措置によつて捻出さるべきであり、これらのための支出に對し、赤字として責めらるべきではないと思うのであります。終戰當時國鐵の戰災被害額は帳面上約六億數千萬圓と稱せられております。現在これを補修するためには、約百倍の六百億以上を要するものであろうと思つております。戰災復興を五箇年と考えまして、現在の物價がそのまま持續するとしても、年額百二十五億圓程度は特別措置をとらるべきでありまして、また石炭價格と鐵道運賃との約合いがとれておらないという現實も指摘できるかと思うのであります。すなわち國鐵の赤字は、マル公改訂前においては、大體本年度百億未滿でありましたが、現在では百六十億近いものと見られるようになりました。このことは、マル公改訂というか、新經濟政策と申しますか、鐵道特別會計を犠牲にして行われているように思われるのであります。從つて追加豫算に表われておりまする一般會計よりの五十億の繰入れ、これは私ども當然石炭に對する價格差補給金の性格を帶びておるものと考えております。從いまして、これは繰入れということでなくして、當然返還不要の金である、かように考えております。しかもこの五十億を差引きました殘りの赤字は、日銀からの借入金の形に相なつておるようでありますが、鐵道經營というものの經營面の赤字というものは、今日政府が鐵道運賃を据置きするという社會主義的政策をとつております關係上、當然殘りの日銀繰入れというようなものについても、前に申し上げました五十億と同じような措置、すなわち返還不要という解釋を私どもはいたしておるのでございます。もつと小さい部面を申しますならば、鐵道特別會計で負擔しておりますところの地方鐵道の監督費等、行政的な費用は、海運行政の場合と同樣、當然一般會計の負擔に移すべきものと考えておりまして、その他鐵道の赤字は、鐵道自體の責任では決してないということを、私力説したいのでございます。
次に最近國有鐵道の獨立採算制云々と言われております。私から申し上げるまでもなく、獨立採算制ということは、ソヴイエトにおいて國營事業の管理に關する一方策として採用されたものであります。このころわが國において通常用いられております獨立採算という概念とは、必ずしも一致するものではないようであります。わが國で普通獨立採算といえば、事業經營上他から何ら補助または援助を受けることなく獨立して收入で支出を賄つていくという收支適合の原則として理解されている健全財政または健全經營の別名のように考えられているようでありますが、ソヴイエトにおける獨立採算制の概念は、その内容において、このほかに別の意味をも含めているように思われます。そこで獨立採算制という言葉も、まずその意義を明確にしておかなければ、いたずらに議論を紛糾させるおそれがあるのであります。そこで獨立採算制とは何を意味するかと申しますると、はなはだ僭越でございますが、私どもは事業自體が自己の責任において事實を能率的に經營していくための制度であつて、資本主義經濟の私人企業における標準原價、豫算統制、收支適合、利潤獲得に相當する考え方を、國家の經營する事業管理に採入れようとするものである。ソ連において社會主義經濟における能率の向上、改善の方策として採用せられたものであります。從つてこの重點が能率的、自主的經營にあつて、收支適合ということは、必ずしも絶對のものではないように考えられます。このことは例を引いて申し上げますれば、たくさん例をもつておりますが、時間の關係で省略させていただきまして、私はわが國有鐵道の獨立採算制ということについて申し上げるならば、ソ連と米國におけるこの制度の成功までには、かなりな長い年月を費していることから、私はここでその見透しについて申し上げるだけの自信はもつておりません。しかしながら、原則として獨立採算制は確立すべきものであるという觀念はもつておりますが、先に申し上げました現在の國鐵の赤字をただちに、いわゆる通念的な獨立採算制に結びつけられるということは、私ども國鐵におります者としては、はなはだ迷惑に考えているものでございます。
最後に私はこの席をお借りいたしまして、私ども國鐵勞働組合は、全官公廳の勞働組合とともに、八月十五日内閣總理大臣に對して、適正價格による生活必需物資の完全配給を裏づけとする最低賃金制の確立と、危機突破のために生活補給金の支給を要求いたしたのであります。このことは決して名目賃金の値上を要求したものではなく、實質賃金を要求したのであります。流通秩序を確立いたしまして、わが國の經濟再建に寄與せんとする勞働者の建設的覺醒であり、決してとかくの非難を受けました過去の要求と揆を一にするものではないとの確信の上に立つたものであります。でありますから、政府との交渉もきわめて平和的に一箇月餘も繼續し、政府に誠意のなきことがわかりました後におきましても、なお平和交渉の望みを捨てず、中央勞働委員會に提訴して、隱忍自重十囘にわたつて、政府と交渉を續けてまいりまして、今日に至つた次第でございます。實に要求書提出後百日になんなんとしております。聞くところによりますと、一兩日中に調停案が示される段階にまいつておると考えられますが、調停案が發表されましたならば、當然政府より豫算措置がこの委員會になされるものと考えますがゆえに、何とぞ私どもの窮境を御洞察の上、速やかにこのことを審議決定していただきまして、今月中に生活補給金の支給をしていただけるように、歳出面に官公吏の待遇改善という條項がございましたので、この席をお借りいたしましてお願い申し上げた次第でございます。御清聽を感謝いたします。