加藤信幸の発言 (治安及び地方制度委員会)

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○公述人(加藤信幸君) 冷嚴なる敗戰のどん底から、新憲法の實施によつて國民に自由と個人の尊嚴が與えられ、七千八百萬國民にデモクラシーが育成しつつありますことは誠に慶祝に堪えないところであります。併しながら國家の治安を考えますときに、今や晝夜の別なく強盜、殺人、詐欺、窃盜等血腥い事件が大地を覆うており、國民は一夜の安眠すらでき得ない現状は、誰が何といつても事實でありまして、治安特に警察及び司法に關する政府の責任は極めて重大なることを痛感する者であります。私は警察關係につきましては全くの素人であります。二十八歳より十二ケ年間、課長、部長として地方自治行政を擔當し、現在教育界に轉向いたしておりますが、ここに提案の重大性に鑑み敢えて意見を申上げたいと存じます。
 第一總論。日本の民主化と治安の確立とは極めて重大なる關係を有し、ここに警察竝びに司法制度の全面的改革が必要であることは言を俟たないところであります。日本は從來官僚獨善國家であつた。軍閥と共に警察官僚なるものが全國を支配したことは事實であります。故に往々にして、警察權が濫用せられた場合があり、甚しきに至つては公正なるべき議員選擧においても、これが或る程度の支配權を持つたことがありました。反對黨の大臣を落選させんがために不法なる選擧干渉が行われた事實があり、又犯罪の捜査におきましても、思想取締におきましても、不法檢擧、不法取締等によつて、何ら證據物件なきに拘わらず、罪なき國民が牢獄に繋がれた事實があつたのであります。私はかかる事實をときどき新聞紙上で見まする度に、警察制度の改正と警察官の再教育を希望していたのであります。いわゆる警察官僚主義なるものが軍國主義と共に半世紀の長きに亙つて日本國民を奴隷のごとくに支配して來たのであります。マツカーサー元帥よりの書簡はこの私の言わんとするところを明確に指摘されておるものであります。從つて私は今囘提案されました警察法案の立法精神につきましては衷心より贊成の意を表し、且つ又民主國家建設の上にもこれが改正と運營の合理化を要請する者であります。以下その要點につきまして各論において述べたいと思います。
 各論。第一、自治警察制度の限界。政府の原案によりますと、市及び町村には自治警察を設置することになつておりますが、我が國の町制の現状から見ますると、人口二萬以下の町が八〇%以上を占めております。ここで先に本委員會に提案いたしました書類には、人口三萬となつておりまするが、これはプリントの誤りでありますから二萬と修正をいたします。政府の原案では人口五千以上の町村に自治警察署を新設することになつておりますが、これ又貧弱なる町村に貧弱な警察署を獨立されても、その運營は實に心配するところが多々あるのであります。私は獨立の自治警察署は少くも人口二萬以上の都市及び市制を施行せる、いわゆる市に限定をいたしたいと考えます。つまり日本の二百十幾つある市制を施行せるいわゆる市と人口二萬以上の町といたしたいと考えております。人口二萬以上の町村はすでに市制施行の前提にありまして、近き將來に市制を施行することが明らかであるからであります。かくして自治警察署を相當強力なものとして、その使命を達成せしめなければならんと考えます。
 第二、公安委員の人數であります。政府の原案は、中央公安委員は五名であり、地方公安委員は三名でありますが、この人數につきましても、地方公安委員の三名は少な過ぎると私は考えます。これも中央公安委員と同數の五名を採用されんことを要請するものであります。蓋し地方におきましても、餘り人數が少いことは、却つてそのボス政治によつて警察を占領されるような心配があるからであります。
 次に第三に、公安委員の資格竝びに選任、權限等であります。すでに述べられましたごとく、公安委員の資格等につきましては、私は日本國民にして男女共選擧權を有し、且つ從前におきましても國法を侵害した前科なき者を前提といたしたいと存じます。提案されました法律案の内容によりますと、禁錮以上の刑に處せられた者はいかんということになつておりますが、少くも警察行政に携わる公安委員は、禁錮であろうが罰金であろうが、とにかく國法を犯した者はその資格がないということにしなければならんと私は考えます。
 次にこの公安委員の任命制度でありますが、これは知事、市町村長が地方議會の協贊を得て任命することになつておるのでありますが、これは民主化の今日におきましては、少くとも有權者の公選によらなければならない。而してその公安委員は有權者の三分の二以上の希望の場合におきましてはリコール制を採用しなければならない、このリコール制の問題につきましては、すでに我が國におきましては農地委員がこれを實行してその成果を認めております。
 次に公安委員の權限についてでありますが、この公安委員がいわゆる警察署長を任命するという任免權を持つておりますが、この任免權は私は少し考える餘地があろうと思います。公安委員はいはゆる諮問機關として置きたいと思うのであります。公安委員が適任者があれば結構でありますが、假りに政黨關係とか或いは選擧關係とか、何度も繰返されたごとく、いわゆる地方のボス政治家等の場合におきましては、往々にしてその神聖なるベき警察制度が冒涜されるような心配があると思うのであります。
 次に公安委員の資格の中には、官吏竝びに官吏の前歴のあつた者を除いておりますが、これもどこかの知事さんの御意見にありましたように、私は官吏と雖も、眞に時代に目覺め適任者であれば公安委員に選任されても差支ない、併し警察官の前歴のあつた者を除くということにしたいと考えております。
 第四といたしましては、國家警察の區域でありますが、どなたかのお説にもありましたごとく、私は郡を區域とする國家警察制度の確立というものを考えております。つまり現在日本の状態から申しますと、人口五千や六千の町村に、一つの警察署を置きましても、五人や八人の警察官におきましては到底その實績を擧げることはでき得ないと思います。況んや犯罪捜査につきましても、或いは經費の問題につきましても、非常にこの點が關心を持たなければならないところであります。現在日本の實情から申しますと、二十ケ町村或いは二十五ケ町村を包含する郡の單位におきまして、一つの國家警察制度を認むべきであると私は考えておるのであります。從つて人口五千、六千の町村は單獨の警察署とせず、これらはいわゆる郡の區域として、人口三萬乃至五萬の郡の區域として國家警察制度を確立すべきものであると考えます。
 第五、財政的措置であります。財政的問題につきましては、朝來數氏の方によつて論及されておりますが、警察制度のその使命を遺憾なく達成せしめるには、この財政的基礎が確立しておらなければならないのであります。人口五千、六千の貧弱な町村に、貧弱な豫算において、警察が決して健全な活動はでき得ないのであります。故に私は警察の經費に限つては、地方と中央とを問わず、國家警察と自治警察とを問わず、すべてこれは國費とすべきものと思います。若しも國費が現在の國情からどうしても不可能な場合におきましては、相當多額の國庫補助に俟たなければならないと思います。この理由は敢えて説明するまでもありませんが、例を以て示しますならば、先般私の縣にありましたごとく、一人のピストル強盗を逮捕するに、金五十萬と米數俵を要した事實があります。かようなことは到底小さな五千や六千の警察署、つまり町村の警察署において堪え得られない負擔であります。
 それと同時に警察官の待遇問題でありますが、前委員の御意見にありましたごとく、闇屋とか或いはブローカーと結託したというようなことがありますが、そういうのではないといたしましても、とにかく現在警察官の待遇というものは、非常に薄給であります。ためにいろいろな疑惑の目を以て國民から見られることは事實であります。故に警察官の待遇は、その一家を支うベき待遇が與えられなければならんと私は思います。而して今度の警察制度の改正によりまして、警察官に任用すべき資格條件は、少くとも新制高等學校以上の卒業生でなければならないと思うのであります。とかく知識程度が低いと國民を指導する價値に乏しいからであります。
 第六、國家警察と都市警察との連繋竝びに總理警察權の法文化であります。この問題につきましては端的に申しますと、兩者共に十分なる提携を持たなければ效果が現れないと同時に、總理の警察權發動につきましても、これを二十日以内に議會に承認を得よということになつておりますが、この二十日以内に承認を得るということは、改めて議會を召集しなければならないような面倒なことがあろうと思います。故に私はどういう事項どういう事項と或る程度の枠を示して、前以て議會の協贊を經て置く必要があり、これがためにこれを法文化して置く必要があると思います。
 第七、菅區の問題でありますが、現在この法案の内容を見ますると、日本を六警察管區に分つております。併しながら私は中部地方の例を以て今示しますと、岐阜縣、三重縣、愛知縣のごとき東海地方が北陸竝びに京阪地區と同じ警察管區にあるということは、非常にこれは各種の場面の不利であります。故に名古屋警察管區及び、金澤、つまり北陸警察管區を新設されまして、京阪地區を獨立し、ここに京阪地區と東海地區、北陸地區の三つの獨立を要請いたしたいと存ずるのであります。次に中國四國でありますが、これは瀬戸内海を隔てて、地理的におきましても非常に困難でありますからして、香川、愛媛、高知、徳島の四國四縣は獨立したいわゆる四國警察管區とせなければならないと存じます。
 以上私の意見を申上げました次第であります。失禮いたしました。

発言情報

speech_id: 100114398X01819471126_025

発言者: 加藤信幸

speaker_id: 30503

日付: 1947-11-26

院: 参議院

会議名: 治安及び地方制度委員会