緒方竹虎の発言 (本会議)
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○緒方竹虎君 諸君、私は、昨日行われました鳩山内閣総理大臣の施政方針演説に対して質問をいたし、その所信をたださんとするものであります。(拍手)
第一に私のお尋ねいたしたい点は、鳩山総理が、去る十二月二十一日の予算委員会における言明に反して予算案の提出をせず、しかも施政方針の演説だけはこれを行うという無責任な措置に出られたことについてであります。(拍手)内閣の最も重大な任務は、毎年度の予算案を編成し、これを国会に提出することであります。これは憲法第八十六条に明定された義務であり、また財政法第二十七条によつてその時期も通例十二月と定められているのであります。鳩山総理は、去る十二月二十一日の予算委員会において「予算はどうしてもつくらなくちやならぬのです。予算の提出は法律の命ずるところでありますから、これを出さぬといつたら法律違反をやるわけであります。」と明瞭に答弁をされました。(拍手)ただいま私の申しましたところは速記録の字句そのままであります。しかるにもかかわらず、予算編成の期間を十分持ちながら、遂に予算案を提出しないということは、まさに憲法に定められた内閣の責務を放擲するものであります。(拍手)また、いやしくも内閣総理大臣の言明についてこれほど正面切つて大胆な食言を行われたことは、かつて類例を見ないところであります。(拍手)その政治的責任は重大であると申さねばなりません。
思うに、鳩山総理みずからが、予算案は必ずこれを提出すると言明されたにかかわらず、これを提出しないということは、一体何を物語るものでありましようか。これこそは、鳩山内閣の国民を欺偏する選挙宣伝的政策が予算的には絶対に実行不可能であることをみずから告白するものにほかならないのであります。(拍手)
組閣以来、現内閣は、その地位を最大限に悪用し、全然予算の裏づけなしに各閣僚が勝手に放言を重ね、これがすべて今すぐにでも実現できるような欺瞞をあえてしているのであります。(拍手)もし予算を編成するとなれば、たちまちにして馬脚を現わし、全く信用を失墜するので、これをおそれて、憲法上の責務でもあり、総理もこれを言明されたところの予算の編成及び提出の責務を放擲したものと断ぜざるを得ません。(拍手)しかも、一体予算案の提出もしないで、すなわち予算的に一体実現可能かどうか、またどの程度に可能なのかも明らかにしないで、施政方針の演説だけはこれを行うなどいうことは、良心ある責任政治家ならばとうていできないはずであります。(拍手)私は鳩山総理にただしたいのであります。一体、十分の時間的余裕があつたにかかわらず、予算案を編成しなかつた理由は何でありますか。また、昨年十二月二十一日の総理の答弁によれば、予算を出さなければ法律違反であるとみずから明言されておりまするが、これに対しいかなる責任をとられるのか、明確に御答弁を願いたいのであります。(拍手)
第二に私が究明いたしたい問題は、憲法改正と自衛に対する鳩山総理及び鳩山内閣の態度についてであります。総理は自衛隊の創設と再軍備のための憲法改正とを年来の主張とされ、これをみずからの政治的使命のごとく吹聴くせられておりましたことは公知の事実であります。(拍手)明朗政治を看板とせらるる鳩山総理は、党を出たり入つたり、また出たり、(拍手)きわめて不明朗な出処進退をされたことはまことに遺憾千万でありまするが、その出たり入つたり、また出たりされたときの理由づけの一つがこの憲法改正と自衛との問題だつたことは、お忘れにはならないはずであります。(拍手)それにもかかわらず、一たび政権の座につくや、急に豹変して消極的態度を示すに至つたことは、まことに奇怪千万と申さねばなりません。(拍手)
しかも、驚いたことには、大村国務大臣は、鳩山内閣を代表して、去る十二月二十三日の予算委員会におきまして自衛の目的であれば原爆、水爆、コバルト爆弾に対処するだけの戦力を持つても憲法違反ではないと明確に答弁しておるのであります。(拍手)一体、鳩山総理が年来憲法第九条の改正を強く主張された理由は、現行憲法下ではごまかしの軍隊しか持てない、これでは士気が上らず、防衛ができないということであつたのであります。それに、何ぞはからん、現行憲法でも自衛のためならばどんな戦力でも持ち得るとあえて公言さるるに至りましては、変節まことに驚くべきものがあります。(拍手)施政方針の演説を伺うと、憲法改正問題一般に関する考え方は、かつての行き過ぎを反省され、むしろわれわれの考え方に近寄られたようにも見えまするが、総理の変節は明らかにされねばなりません。
そもそも憲法は国の基本法典でありまして、軽々に手をつけるべきものでないことは申すまでもありません。しかしながら、現行憲法は、その内容においてあくまで尊重すべき数々の原理、原則を含んでおりまするが、他面、その成立の過程におきまして、占領下において押しつけられた憲法であるという性格はぬぐいがたいものがあるのであります。(拍手)従いまして、日本再建の根本たるべき民族的信念の問題として現行憲法の再検討をいたすべきことは、われわれの強く主張するところであります。(拍手)この観点からいたして、われわれは、国の基本たるべき民主主義的諸制度が最も円滑に運営されるための諸問題、すなわち国会の運営、参議院のあり方、自治体のあり方等に最も重点を置いて検討すべきものと考えておるのでありまして、第九条の問題ももとより重要なものの一つではありまするが、従来鳩山総理が第九条のみを目ざして憲法改正を主張されてきたこと自体にも行き過ぎがあると存するのであります。(拍手)ここではつきりとお尋ねをいたします。総理は、従来の主張に反して、自衛のためならば憲法を改正せずしてどんな戦力でも持つてよいと考えておられまするかどうか、あるいは憲法を改正して自衛軍を創設することを適当と考えておられるのであるかどうか、また、もし後者の見解をとられるならば、大村国務大臣が、内閣を代表して、自衛のためならば現行憲法のままでどんな戦力でも持ち得ると公式に答弁されたことに対し、いかなる責任をとられるのか、明確にお答えを願いたいのであります。(拍手)
第三に私が追及いたしたい点は、鳩山内閣の外交問題に対する無定見と不統一とであります。(拍手)鳩山内閣組閣以来の外交に関する幾多の放言は、単なる選挙管理内閣の思いつきとして、さして問題とするに足らないという考え方もあるかもしれませんが、外交問題は、対外的信用の見地からして、単に首相、外相の演説に表われたところのみならず、一切の公的発言が重視されねばならぬのであります。(拍手)
そもそも、今日の世界において、外交問題はどの国にとつてもきわめて重要な問題でありまするが、敗戦後きわめて微力になつたわが国にとりまして外交問題ほど慎重と賢明な態度を要するものはないのであります。(拍手)わが国の経済の発展も、独立の保障も、賢明にしていささかの誤まりもない外交の裏づけがあつてこそ初めて可能であることは言うまでもありません。(拍手)しかも、その根本の基調は、日米協力、国連協力を主軸とし、自由主義諸国との親善友好を確保し、東南アジア諸国との提携を緊密にし、この土台の上に立つて共産圏諸国との貿易回復等も施策することにあり、かくて、あくまでも自由民主主義陣営の一員として世界の平和と祖国の独立発展とをあわせ期することにあると確信するものであります。(拍手)
翻つて、現下の国際情勢を通観しまするに、インドシナ休戦の実現以来、共産諸国の平和攻勢はがぜん活発をきわめ、一面国際緊張が緩和したかのような様相を呈しつつも、謀略的な冷たい戦争は一そう激化の傾向にあると見られるのであります。ことに、わが国がソ連、中共の集中攻勢の目標とされておることは、幾多の事実によつて立証されるのであります。このような環境下にあるわが国としては、今が外交政策に最も慎重を要するときであると思うのであります。しかるにもかかわらず、鳩山内閣成立以来の外交態度を見まするに、この重大なる外交問題を選挙宣伝の具に供し、驚くべき無定見と不統一とを暴露し、選挙目当ての人気取り政策によつてわが国の対外的信用の失墜をも顧みぬ宣伝が行われておるのであります。(拍手)
今日、世界では、従来自由党内閣が多年継続して参りましたところの自由民主主義諸国との協調を基調とする外交政策は鳩山内閣によつて一変せられ、日本が共産主義国家群に進んで接近するのではないかという危惧と誤解を持たれておるのであります。(拍手)このような軽率きわまる中ソ迎合の態度は、たちまちにして共産諸国の乗ずるところとなり、その平和攻勢のほこ先をいよいよ強めておるのであります。そのねらいは一体何であるか。言うまでもなく、日米を離間し、日本を孤立せしめるにあることは明らかなところであります。われわれもまた終局的には共産圏諸国との国交調整をも念願するものでありまするが……(発言する者多く、議場騒然)ただいま申した事情は十分に腹に含んでいかねばならぬのであります。(拍手)
そこで私が鳩山総理に第一にただしたいことは、今日の冷厳な国際事情をどう認識しておられるかということと、共産主義勢力の脅威をどう考えておるかということであります。今日のようにきびしい東西対立の中にあつて、無力にひとしいわが国が、共産圏にも迎合をし、米英その他自由諸国の信頼をもつないでいくというような二筋道の外交が長くあやまちなく運営せられると信じておられるかどうか。また、かく信ずるについては、諸外国がそれぞれいかなる態度に出るものと予想し、またいかなる外交手段ないし順序によつてそれを実現せんと考えておられるかを、はつきりお伺いをしたいのであります。(拍手)
外交に関する質問の第二点は、鳩山総理が、去る一月十日の車中談で、ソ連との戦争終結にイニシアチブをとり、解散前にでも手を打つと言明されたことについてであります。重光外務大臣の公式演説がどうであろうと、総理大臣の言明は不問に付し得ないきわめて重大な性質の問題でありまするので、明確な答弁を要求するものであります。(拍手)一体、日本側から戦争状態終結を呼びかけるとは、何を意味し、いかなる方法をもつてこれをなすのでありまするか。また、その効果はどうなるのでありまするか。また、桑港の平和条約加盟国にいかなる反響があるという見通しでありまするか。これを要するに、鳩山総理は一体いかなる用意と内容とをもつてソ連、中共との国交回復をはからんとしておるのであるか。単に選挙用の放言としては、あまりに重大であります。(拍手)そこで、はつきりと具体的の構想を明示されたいのであります。
なお、この問題に関連してただしておきたいのでありまするが、総理は、去る十八日の民主党神奈川支部の大会において、抑留者の帰還や領土の返還をあと回しにしても、まずソ連との国交を開く方針だと言われたそうであります。抑留者の帰還や不当占領の解除は、国交調整以前に当然果さるべき国際的義務でなければならないと信ずるのでありまするが、総理はこれをあと回しにしてもよろしいと言われるのは、いかなる所信に基くのでありまするか、はつきりした答弁をお願いいたしたいのであります。(拍手)
外交に関する第三の問題は、中共に対する考え方であります。去る十二月十当、鳩山総理は、中共、台湾ともにりつぱな独立国だと言われました。重光外相は、十七日、総理のこの発言は中共が中国大陸を支配している事実を述べたにすぎないのであつて、政府としては今直ちに中共を承認する考えはないと訂正発表しているのであります。しかるに、これより先、十一日外務大臣談として発表いたしました外交基本政策なるものの第四項には、われわれは相互に承諾できる条件でソ連及び中国との正常関係を回復する意思を有すると明確に述べております。外交専門家の重光氏が正常関係の回復とは何を意味するかを知らぬはずはないのでありましてこれは、単に普通の国際的緊張緩和を意味するのではなく、まさしく中共承認を打ち出しておるとしか考えられないのであります。(拍手)昨日の外交演説に述べられましたことく、国際義務に反せざる限り中国大陸との交易を促すというのならば、自由党内閣の従来の方針といささかの変りもないことでありまして(拍手)現に対中共貿易は、昨年一年の間に、輸出は前年の五百万ドルが二千万ドル近くなり、輸出入合計で四千万ドルをこえておるのであります。しかるに、総理及び外相が特に右のごとき発言をした真意はどこにあるのでありまするか。一体、従来の方針に対し何らか変りがあるかのごとき印象を与えたさきの発言は誤まりであつたのでありまするか。それとも、中共承認のごとき措置を考えておられるの、でありまするか。不用意の発言として済ますには、あまりにも事が重大であります。(拍手)この点に関し、総理の明確な所信を伺いたいのであります。(拍手)外交に関する第四の質問は、鳩山内閣の外交方針の真意は結局どこにあるかということであります。組閣以来幾変転したあげくとして鳩山内閣の外交方針は結局吉田内閣の従来の外交方針と変りがないようにも思えるのでありまするが、一体、鳩山内閣は、自由民主主義国との親善友好関係を基調とする吉田内閣の外交方針を変えるつもりなのか、変えないつもりなのか、われわれのみならず、全世界が聞いておるのであります。端的に御答弁をお願いいたします。(拍手)
外交方針に関する第五の質問は、フィリピンに対する賠償の問題についてであります。鳩山首相は、比島大統領に書簡を送り、賠償問題の早期解決をはかる旨を述べた由でありまするが、具体的にいかなる構想を持たれておるのでありまするか。賠償問題の早期解決は従前から日本政府の要望するところでありまするが、一体従来の話し合い以上にどの程度の賠償を考えておるのでありまするか、またその様式はどうするのでありまするか。これらの具体的構想なくして漫然と賠償解決を唱えるのは、不誠意でもあり、相手国に対しても礼を失するのでありまして、(拍手)ここに具体的に総額、支払い方法、その他の考え方を明示されたいのであります。(拍手)そもそも、国内の問題に関しても、政府の責任者が選挙目当ての無責任な放言を慎しまねばならないことはもちろんであります。いわんや、外交問題について、特に賠償のごとき困難な交渉を要する問題について、総選挙を目前に控えた先の知れぬ内閣が、確たる具体案も明らかにせず、単なるゼスチュアとしていろいろな行動に出ることは、まことに不謹慎と申さねばなりません。(拍手)
以上、これを要するに、鳩山内閣の軽率にして無定見かつ不統一きわまる外交発言には、選挙目当ての人気取りが多分に含まれておると断ぜざるを得ないのであります。(拍手)責任の地位にある内閣が外交問題を選挙宣伝に利用するがごときことは、最も悪質にしてまた危険きわまりない地位の乱用であり、民主党内においても心ある人々の必ずや深く憂えておられるところであることを信じて疑いません。(拍手)
繰り返して申しまするが、今日ほど外交の重大な時期はありません。責任の地位にある者の一言一句は直ちに内外に影響を持つものであります。以上の諸問題は、ことごとくきわめて重要でありまして、その影響するところすべてきわめて重大でありまするから、この際、言葉を濁されることなく、明確にして誠意ある答弁を望むものであります。
以上をもつて私の質問といたします。(拍手)
[国務大臣鳩山一郎君登壇〕