千田正の発言 (本会議)

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○千田正君 私は、ただいま議題となりました昭和三十二年度一般会計及び特別会計並びに政府関係機関予算について、反対の意を表するものであります。(拍手)
 なぜなれば、政府並びに与党の諸君があまりにも朗らかならっぱを吹き過ぎて、われわれ国民は、非常に不安の念にかられているからであります。真に国を憂い、真に民生を憂うるものは、まさに万世のために命を断つというだけの信念を持たなければ、今後の日本の独立は期せられないと思うから、私は反落するのであります。
 池田大蔵大臣は、その財政方針を述ぶるに当りまして、三十二年度予算は、収支が均衡さえしておれば、財政規模は大した問題ではないと言明して、インフレ化の心配がないがごとく豪語しておられるのでありまするが、一千億円の予算規模拡大と、財政投融資の増加六百七十三億円を合わせると、これが物資への購買を刺激して、特に生産財の需給を窮屈にし、輸入増を来たして、国際収支のアンバランスとなり、国内インフレ必至の方向へ進むことは、火を見るより明らかであります。
 以下、その理由を述べて、政府の考慮を促したいと思うのであります。
 反対理由の第一点は、本予算及び財政投融資計画が、内外経済の現状、見通しから見ましても、インフレ要因を包蔵しているということであります。池田蔵相は、国会における財政演説で、世界の景況は、多少の波動はあるにしましても、今後もなお高水準を持ち続けると言われてはおりますが、われわれは手放しに池田蔵相の言葉を信ずるわけには参りません。その理由の一つとしては、国際収支のバランスは、本年に入って、二月の国際収支を見ましても、一月に引き続き六千三百万ドルの赤字であります。これは、仏貨債の支払いや特需収入が少かった点もありまするが、根本的には、輸出が伸び悩んで、二月は二億千三百万ドルと、三十一年度の月平均約二億ドルと変らないのに対して、輸入は二億七千八百万ドルと、最近にない最高の数字を示しておるからであります。しかも、三十二年度上半期外貨予算の発表によりますというと、上期二十六億四千三百万ドルを公表するに至って、石炭、石油、食糧、繊維原料あるいは肥料原料、鉄鋼原料の輸入に十分の予算を計上したから、物価は上らないというのは、あまりに甘い見通しではないでしょうか。むしろ輸出の前途には楽観を許さぬ悲観材料が多いのであります。国際収支バランスの不均衡が財政に及ぼす影響は多く、インフレ要因十分とわれわれは見ざるを得ません。
 反対理由の第二点は、いわゆる一千億の減税施策により、国民生活の上に、あるいは国民所得分配の上に、ますます不均衡を拡大さして行くということであります。すなわち千九十二億円の所得税減税の恩典は、先ほども天田君が指摘しておりましたが、国民の七三%、六千五百六十八万人に達する所得税を納めていない低所得層の人々には及ばないのであります。しかもこのような低い所得層は、地方税、間接税を多額に納めており、三十二年度においては、四百億円前後の間接税が、この低所得層から増徴され、高額所得層の減税の財源に充てられるという矛盾があるからであります。一方、減税内容を見まするに、年所得五十万円をこえる納税者数は、全体のわずかに七%にすぎないのに、減税額は七百億円、これに対し、五十万円以下の納税者数は九三%を占めるのに、減税額三百億円という、上に厚く下に薄いという不均衡があるのであります。さらに鉄道運賃の二二%の引き上げによる増収三百六十五億の約七〇%、約二百五十五億円、私鉄バスの値上げ、タバコの増収五十五億円等は、この低所得層の負担増加となり、ますます苦しい生活にやがて追いやられる結果となると私は断ぜざるを得ないのであります。
 反対理由の第三は、完全雇用についてであります。政府は一千億施策について、完全雇用を掲げておりまするが、経済企画庁の三十二年度経済の見通しを見まするというと、明年度新たに加わる労働力約九十万人に対し、国民総生産七・六%の伸びによって、八十九万人を吸収すると見込まれておるのでありまするが、この数字は、労働人口の増加見込数と一致し、雇用者数はふえても、失業者数は変らないということになります。現在六十万人の完全失業者、さらに一千万になんなんとする潜在失業者や不完全就労者は、全く救われないということになっております。一方において、今日この程度に顕在的な失業者が食いとめられておるという事実は、農村における過剰就業という事実を土台にして成り立っているということで、この点も見のがすわけにはいきません。政府が標榜しておるところの完全雇用の道は、農業においては過剰就業あるいは潜在的大量の失業者をかかえたままで、他産業における雇用の問題を解決するという形では、完全雇用の解決にはならないのであります。さらに、インフレ的積極政策で、たとえ一時的に雇用が増大しましても、完全雇用への着実な発展は望めないと私は思うのであります。
 反対理由の第四点は、農林漁業対策並びに公共事業費についてであります。農林予算の拡大予算総額に対する比率は、一そう低下いたしまして、食糧増産対策費百七十億円で百十万石の食糧増産が見込まれても、農地の壊廃あるいは人口増によるところの増産必要量百五十万石に対しては四十万石の後退となっておるのであります。さらに明年度経済計画の大綱に、鉱工業生産の伸びを一二・五%に予定しておるのに対し、農林生産の伸びは、わずかに〇・四%にしかすぎないのであります。農林省の推計によりましても、食糧の生産並びに国内における消費が現状のままに推移いたしますと、消費人口の増加と農地の壊廃によって、昭和三十五年における米麦の不足量は、約六百万トンを推定されるのであります。これは米に換算して約四千万石ということになります。このような問題が出ておるときに、食糧自給に対する予算は、前にも述べましたように年々減少してきておりまして、農村あるいは漁村等におけるところのいわゆる基礎産業は圧迫されつつあるのであります。ことに増産のため、必死の開拓者に対しまする開拓行政は、新たなる観点のもとに立って、この人たちの意欲を十分に伸ばすべきではないでありましょうかと、私はつくづく、こうした問題についての現政府の政治の貧困を嘆かざるを得ません。
 次に、災害復旧費は昨年度に比べて四十四億円の減少になっております。災害復旧率は、・三十二年度末において、昭和二十八年の災害が八五%、二十五年の災害がようやく一〇〇%復旧されるにすぎないという現N状において、災害復旧費が約一〇%も減少しているということは、災害復旧に対して誠意のないことを立証しておるのであります。三年間に完全復旧してこそ、年々災害に悩む国民の要望にこたえるゆえんであると思うのであります。
 反対理由の第五は、社会保障費についてであります。社会保障費は、間接税の増徴や、あるいは国鉄運賃の値上げの被害を受け、減税の恩恵に浴しない約六千万の低所得層に対しまして、わずか九十一億円の増額にすぎません。生活保護費の面については、保護基準を引き上げる反面、生活保護者の標準をきびしくして十九万人を減らしたことは冷酷であり、生活保護は受けていないが、ボーダー・ライン層は、全国で九百万から一千万人に上ると言われる、この階層に対しては、何ら見出すべきところの対策は打ち出されておらないのであります。さらに、失業対策の対象人員を三十一年度の二十四万八千人を二十二万五千人に減らし、失業対策費は、給付単価を五%引上げたにもかかわらず、三十一年度より三億円削っておるのであります。給付単価五%の引き上げも、運賃やバス代の値上りにより相殺されるということになるのであります。さらに、住宅問題あるいは国民健康保険の問題等、数えれば数限りのないほど政治の貧困を私は追及せざるを得ないのであります。
 最後に、地方財政におきましては、地方財政再建促進特別措置法により再建整備をやっておりますが、それは行政水準の切り下げによって、地方住民の福祉の犠牲において、この赤字を整理しているという状態になっておるのであります。全く地方財政は、行政内容の低下によって憂うべき状態にあると、自治庁すら指摘しているのであります。地方交付税につきましても、所得税の減税に伴う欠陥は、交付税の繰入率を三・〇五%引き上げなければそれを補うのに十分でないのに、地方自治体側の要求が三%引き上げに対し、わずか一%の引き上げしか認められておらないのであります。実質的には、二・〇五%は少くなったと言わざるを得ません。さらにまた、国の財政は拡大均衡予算、地方財政は六百億円という借金予算の計画では、中央と地方財政の不均衡を拡大するものであり、地方債の現在高実に五千二百億、ここ数年を出でずして、地方債の償還額と借入額がひとしくなると言われている地方財政の現状から考えますと、三十二年度の公債費の元利補給九十五億円は、三十一年度分の地方交付税の自然増を回すというからくりをしており、自主財源たるべき交付税を特定財源に充当いたしますならば、不当な処置というべきであり、かくのごとき処置では、地方債の重圧から地方財政の窮乏を救うことはできないと思うのであります。
 以上、六点をあげましたが、このほかに、戦後十二年、いまだに戦争の犠牲の問題があります。外に向っては、国の賠償の問題、国内においては戦争犠牲者に対する問題等ありまするが、今次予算の審議の過程からみまして、神武以来の景気どころか、社会不安への断崖へと進みつつあると断言せざるを得ません。私は政府に対し、真に国民生活の安定を期し、さらに健全財政の理想を達するためには、明らかに今度の財政というものは、むしろ不安へ不安へと進む財政政策であるということを、あえて究明いたしまして、政府の猛反省を促して、私の反対討論を終ることにいたします。(拍手)

発言情報

speech_id: 102615254X02219570331_061

発言者: 千田正

speaker_id: 27068

日付: 1957-03-31

院: 参議院

会議名: 本会議