鈴木茂三郎の発言 (本会議)
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○鈴木茂三郎君 岸総理は、総選挙によって国民の審判を初めて受けられ、岸総理一色の内閣を組織されたのであります。私は、ここに、社会党を代表いたしまして、岸総理の組閣に祝意を表するものでございます。(拍手)
特別国会に臨み、ここに表明された岸総理の所信は、言い古されたものであるというばかりでなくて、きわめて抽象的なものであったことは、私のはなはだ遺憾とするところであります。(拍手)
岸総理一色の第二次岸内閣の組閣が電光石火的であったということは、何ら私は誇るに足りないと思います。誇るに値するかどうかということは、組閣をすみやかに完了した以上、特別国会の劈頭、その所信を具体的に明らかにし、同時に、その政策、特に総選挙における公約と、当面の緊急対策に関する施策をこの国会に提案して、即時実行できるようにするかどうかということが、誇るに値するかどうかという点であると思います。(拍手)ただいま総理の所信を承わりますと、総選挙に当って国民に公約されたところは、いっこれを実行に移されるのか、永遠のかなたに追いやられたような感を受けるのであります。(拍手)民主主義の政党政治の要諦は、どの政党であれ、責任の地位に立ったとき、いつ、また、いかなる場合においても、その方針、政策を即時実行できる用意を持っていなければならないのであります。
かような見地から、私のお尋ねしたい第一は、財政経済上の問題、特に当面の深刻な経済不況に対する緊急措置の問題についてであります。
さきに第一次岸内閣が本年度の予算案を提案された当時、政府は、不況の情勢を過小評価して、楽観的な見通しを持たれたのでありますが、その後の経済情勢を見ますと、国際経済は、アメリカは、次第に利潤率の低下が始まって、緩慢ながら悪化の一途をたどっている。英国は、軍事費を削減するか、それとも社会保障費を削減するかという危機に直面をしている。また、世界後進国の諸国は、工業原料品の下落、外貨の交乏等に悩み、「政府の当時予想されたのに反して、世界景気は立ち直る徴候さえ今日見られないのであります。日本の経済不況はさらに深刻でありまして、岸内閣が本年度予算案を編成した当時の予算案に裏づけされた経済計画は、今日あらためて再検討しなければならない状態に立ち至っております。(拍手)三十一億五千万ドルという、政府が予想した対外輸出は、二十八億ドルを下回るおそれさえある。アメリカとのはなはだしい片貿易は少しも是正されない今日、日本商品の排斥だけはさらに強行されております。東南アジアの貿易は伸び悩み、岸総理が描かれた県南アジア開発基金の構想は、盧生邯鄲の夢と消え去った感があるのであります。(拍手)しかも、日中貿易は、政府の心ない言動によって、せっかくの第四次貿易協定が破壊され、日本の外交と同じように、各国間の激しい世界市場争奪戦の中で、わが海外貿易は八方ふさがりの状態にあるのであります。(拍手)
そこで、お尋ねをいたしたい点は、かかる深刻な国内の不況対策を、岸総理は具体的にどうされようかということが、私の質疑の第一点であります。(拍手)
私は世界並びに日本の現在のかかる経済情勢に関して、どうしてもここで考慮しなければならない二つの基本的な問題があると思います。
一つは、世界経済の後退または不況は、今や資本主義特有の過剰生産恐慌の様相を露呈して参っておるのであります。従って、これは、資本家本位の資本主義体制の矛盾に根ざすもりでありますから、西欧諸国と呼ばれる日本を含めたこれら諸国の資本主義体制が変革されない限り、こうした資本主義の末期的な症状は快癒できないということであります。(拍手)
他の、もう一つの点は、こうした西欧諸国の指導者たるアメリカに日本が今日のように従属しておって平和外交のみならず、経済不況打開のための海外貿易の伸張をはかる経済外交の自由さえ制約されておる現状において、抜本的な対策を立ててこれを解決することは、きわめて至難であると見なければなりません。
従って、私がここで岸総理にお尋ねをいたしますことは、かかる基本的な問題ではなくて、当面の緊急対策として、増大する失業者の生活の保障、国家の責任において、減退する雇用を確保すること、不況の最もはなはだしい農林漁業を立ち行くようにすること、中小企業や農林漁業の近代化を資金の面からも助成すること、また、産業の土台である働く国民の生活の向上をはかること、その他、私は、最近農村、漁村を視察いたしまして、この経済不況が農村、漁村に与えておる影響がきわめて深刻なものを見まして、一日もゆるがせにできないということを切実に痛感いたしたものであります。これらの緊急対策を即時実施するために、わが日本社会党は、当特別国会に、補正予算案を編成し、それに伴う関係法案とともに提出することを、強く政府に要求をしておるのであります。これに対する岸総理の所見をただしたい。
財政経済上の第二点のお尋ねは、中国貿易の問題であります。この問題は、日中貿易を発展せしめることに対して政府にこれまで強い制約を加えてきたアメリカから、日本がその従属関係を断ち、日本に必要な平和と貿易のための外交を行えるように自主独立することが根本的な問題であるのであります。(拍手)し心し、私は、ここでは、日本の貿易を伸張して経済不況を打開するという見地から、岸総理の日中貿易に対する所信をただしたいのであります。
日中の友好や第四次の貿易の協定、その他たくさんな今日存在しておる協定が成立いたしましたのは、アメリカの日本に対する制約の条件の中で、こうした成果を上げ、しかも、この成果はアメリカに気がねをされる歴代の保守派政府の努力ではなくして、国民外交による民間の手で一つ一つ積み重ねて、ここまで成果を上げて参ったのであります。(拍手)本来ならば、かかることは当然政府が行わなければならない問題であるのであります。しかるに、政府側の心ない言動なり、誤まった措置のために、政府みずから、せっかく民間の手によって上げた成果をここで破壊するというようなことは、私は何といたしても理不尽といわなければならぬと思うのであります。(拍手)日中の貿易と同時に日中友好関係が破壊されてどうして日本の平和と日本の貿易の発展、経済不況の打開ができましょうか。政府の手で誤まって破壊したことは政府の手で解決しなければならないことは当然であります。岸総理は、いたずらに手をこまねいて傍観者のような立場をとるのではなくて、進んで平和互恵あるいは善隣友好の基本的な立場に立って、これが解決のために努力されなければならないと信ずるのであります。わが党は、この最悪の事態の打開のために力を尽すことに、もとよりやぶさかではございません。岸総理のこれに対する所信をただしたいのであります。(拍手)具体的に——手をこまねいておるのではなくして、どうしようというのかという具体的な所信をただしたいのであります。
第二にお尋ねいたしたいことは、民主政治のあり方についてであります。岸総理も、所信において民主主義に関する熱意を示されておるようでございます。民主政治の育成にも努めるということを言われて参っております。昔から、言うはやすく行うはかたしといわれていることはここでありまして、岸総理のやっていることは、およそ言われていることと逆であるのであります。(拍手)
現行憲法を貫いている最も重要な原則は民主主義であります。古い日本から新しい日本に脱皮し発展させる基本精神こそは、民主主義でなければならないのであります。しかるに、新しい日本へ脱皮することを妨げておるものが、根強く今日なお残存しているのであります。すなわち、それは、古い日本が持っておった封建牲、独裁性の官僚的な反民主主義の反動的性格であるのであります。第二次岸内閣に対する内外の批判を聞きますと、不幸にして、第二次岸内閣こそは、この古い日本を代表する反民主主義の反動的な政府であるかのような批判を受けておることは、私の遺憾とするところでございます。(拍手)
申すまでもなく、議会政治運営の形式としては、二大政党対立の形が最も進んだ政治形態ではありましょう。現在の二大政党は、ただ形だけであって民主主義が発達してできたものではありません。しかも、二大政党の形のもとで初めで行われた今回の総選挙の実情を見ますと、これは、総理自身が体験されたように、公正かつ明朗な選挙ではなく、むしろ民主主義を冒涜した選挙であったとの批判さえ起っておるのであります。(拍手)
岸総理にお尋ねいたしたい第一点は、二大政党による民主主義は、多数党、政府党が少数党、反対党を尊重する建前の上に初めて成り立つものと信ずるのであります。総選挙後の政治のあり方を見ますと、わずかな期間ではありますが、多数が少数を押える一党独裁の反民主的な傾向がさらに顕著に強まってきたのであります。(拍手)
岸総理は、二大政党下におい、て民主主義の発達をはかり、国会の民主的な運営を進めるために、少数党の意見を尊重する方法、どういう方法によって尊重されようとするのか、その用意があるかということを、私はここにお尋ねをいたしたいのであります。(拍手)
たとえば、政府がこれはよいと信じて行わんとする政策に関しましても、そのうち重要な特定の問題に関しましては、立案し、提案する前に、一応野党の意見を徴し、尊重することは、よい政治慣行であるように思われます。今日まで、政府は、いろいろな諮問委員会または審議会というようなものを設けて、それぞれの意見を徴するようなことはされておる。しかし、これは単にそういうゼスチュアをするだけのことであって、政府は、多くの場合、当初きめた提案の方針を変えようとしたことはほとんどないように見受けられるのであります。われわれは、反対の意見や修正意見をいつでも採用せよというのではありません。対立した二つの意見は、世論の反響というものを十分考慮のうちに入れて、適正妥当な結論を見出す、これこそ民主主義の要諦と信ずるのであります。(拍手)私はこのことは、政府が独自の立場から国会に提案される諸法案の審議、その取扱いについても同じことが言えると思うのであります。
民主主義のあり方に関する質疑の第二点は、小選挙区制の問題であります。首相は、その就任第一声において、適当な時期に小選挙法案を提出するということを言われております。この問題は、申し上げるまでもなく、人権尊重と平和を守る憲法の改正に通ずる、わが民主政治の土台をゆるがす重大な問題であるのであります。従って、総理は、これを、いつ、いかなる形で当国会に提案するのか、これを明示されたいのであります。そうでないと、私は、政界にいたずらな波乱と混乱を引き起すおそれもあるのではないかということを憂慮いたします。
第三点は、目下問題となっておる復古的、反動的な道徳教育の実施、憲法において約束された教育の自由、人格権の尊重をじゅうりんする教員の勤務評定強行の問題、これらの問題は、国のあらゆる識者が反対し、国民の多くは危惧の念を抱いておるのであります。教壇に立って学童の教育を実際に担当している者は、総理大臣でもなければ、文部大臣でもありません。私は、総理は教育の実務を担当する学校教員の反対意見をもっと率直に聞くべきであると思うが、どうか。(拍手)
第四点は、岸総理はひそかに労働三法の改正をもくろんでおるということが伝えられております。労働三法こそは、新憲法においてわが国労働者に与えられた基本的労働権に基いて制定された諸法律であるのであります。これは働く労働階級のマグナ・カルタであって資本家だけでなく、労働者の権利をも保護しなければならない立場にある政府が、労働三法改正の意図を秘めているとすれば、私は、これは重大な問題でなければならぬと思います。この際明確にされたいのであります。
第五点は、岸首相は、その組閣の声明において、進歩的な保守派たらんことを明らかにされておるのであります。これは、私はまことにけっこうなことであると思います。総選挙に当って、私は、二大政党について、その民主的なあり方について、自民党が現在のように反動的な保守派であってはならない、英国のように、進歩的な保守党たらんことを望んだのであります。岸総理の今回の声明は、総選挙における私に対する喜ばしい回答として、私はこれを理解をいたしたいのであります。しかし、これまた言葉だけであってはならないのであります。労働運動や生存権確保のための民衆の運動、たとえば、汚水問題や軍事基地問題のごとき、露骨な警察権の干渉や、検察権の発動が、ひんぱんになってきたことも、周知の事実であります。これこそは、封建的、独裁的な官僚性の反動政治そのものであるといわなければならないのであります。(拍手)岸総理は、実際にはこういうことをやっておりながら、保守派としての反動性を、いかにして進歩的な保守派たらしめんとするか、ここに具体的にその方針を示されたいのであります。(拍手)わが日本社会党は、かかる反動政策に対しては、断固として、総力をあげて民主主義を守るために戦う決意であることを、ここに特に表明いたしておきます。(拍手)
第三として最後にお尋ねいたしたいのは、核兵器とミサイル基地の問題であります。総理は、本日の所信の表明において——今日まで、核兵器の実験に関して条件を付されて参りました。これは、実際は、核兵器の実験の禁止を——できないことに条件で縛ることになるのであります。しかるに、ようやく、今日、わが社会党と同じように、原爆の実験に関しまして無条件に賛成されたことは、岸総理の一歩前進であるとして私は喜びます。(拍手)しかし、同時に、核兵器とミサイル基地の問題については重大な当面の問題でありまして、この問題について岸総理は、総選挙に当っても、また、前国会においても、核兵器の持ち込みはしないと繰り返し声明されておるのであります。しかるに、岸総理が声明されれば声明されるほど、結局、日本は米ソの核兵器の競争並びに核兵器の戦争の危険に国民と領土をぶち込むようなことになるのではないかという疑惑と不安が日増しに国民の中に強くなって参っております。(拍手)これはなぜでありましょうか。一つは、アメリカの国防当局が、日本本土並びにその周辺に核兵器を持ち込んで武装をし、ミサイル基地を設置しようという強硬な意図を、今日までしばしば表明してきたこと、これがために国民の疑惑と不安を強くしておると思われるのであります。
また“西ドイツにおいては、アメリカの軍事基地が核兵器によって武装されること、北大西洋軍事同盟の戦略に従って、同じような武装が行われることについては、今日となっては、もはや、いかんともいたしがたいようでございます。ただ一つの残された問題は、ドイツの軍隊それ自身が核兵器によって武装するかしないかという問題が残されておるだけでございます。しかるに、昨年の西ドイツの総選挙によって、革新派を押えて保守派が勝利を得ました。その直後、アメリカから圧力がかかって、保守派のアデナウアー首相は、ドイツ軍にも核兵器を持ち込むことを承諾しなければならない羽目に陥っておるのであります。これがため、ドイツ国民は、総力をあげて反対運動を行なっております。それでありますから、総選挙後の西ドイツに起ったことが選挙後の日本にも起るのではなかろうかということ、これも国民の核兵器に対する疑惑や不安を強める理由ともなっておると考えられるのであります。(拍手)
さらに、こうした情勢の中にあって、日本は、アメリカの軍事基地においても、また自衛隊自身においても、絶対に核兵器を持ち込んで武装をさせない、ミサイル基地を設けさせないという岸総理の言明や態度に、きわめてあいまいもこたるものがあるのであります。従って、結局は、岸総理は、アメリカの要求に屈服して、核兵器並びにミサイル基地を設置せしめられることになるのではなかろうか、こうしたところにも国民の不安と疑惑がいやまして濃くなり、深くなっていくように私は考えるのであります。それでありますから、岸総理が、これまでのように、日本の自衛隊は言うまでもなく、アメリカ軍事基地においても、核兵器を持ち込み、またはミサイル基地は作らせないという意思を、ただ表明されただけでは、国民の抱く疑惑と不安は断じて解消しないのであります。私は、この際、広く世界の日本に対する不安や不信を解くためにも、この際、日本の潜在主権を有する沖縄等も含めて、日本の本土には一切核兵器を持ち込ませない、また、ミサイル基地を作らせないという、日米相互の理解に基く協定を取りつけることが、まず必要であると思うのであります。(拍手)これに対する岸総理の所信をただしたい。私は、国民が核兵器とミサイル基地に対する疑惑と不安から解放されて、祖国日本の平和と建設のために明るい希望を持って生活することのできるよう、岸総理の決断を望んで、私の質問を終了いたします。(拍手)
〔国務大臣岸信介君登壇〕