河野正の発言 (本会議)
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○河野正君 ただいま議題となりました政府提案の国民健康保険法案並びに同施行法案に対し、私は、日本社会党を代表いたしまして反対の討論を行うとともに、わが社会党提案、同一部改正法案に対し、全面的賛成の意を表するものであります。(拍手)
1本法案は、さきに第二十八通常国会にも提案せられ、しかも、審議未了に終ったことは、すでに御承知の通りであります。このことは、政府が医療保障政策の一環としての国民医療の向上というものを無視し、選挙公約の手前上、国民を欺瞞する手段として取り上げたことに対する国民のふんまんの結果であったのであります。換言すれば、わが党の主張の正しさを示す結果でもありました。しかるに、今回、本法案が、一部経過措置を改めるのみで再び提案せられたことは、民意を無視し、国会審議を軽視するもはなはだしいものと断ぜざるを得ないのであります。(拍手)このことは、単に世界の趨勢に応じ、好むと好まざるとにかかわらず、社会保障制度を最大のスローガンとして国民の前に示さざるを得なくなり、真の国民の福祉、国民の医療のための施策でなく、不純と矛盾に満ち満ちたことを示したものであります。
今日、国民ひとしくが社会保障政策の強力なる推進を熱望していることは周知の事実でありまして、国民年金の早期実現と国民皆保険対策に万全を期することは、われわれ為政者に課せられました最大の義務であります。しかしながら、皆保険を急ぐの余り、形式のみを整えることは、国民の利益に反するのみならず、かえって実質的皆保険に逆行するものと断ずべきであります。単なる組織網の拡充と統制の強化に終ってはならぬのであります。といって、われわれは、皆保険の推進を否定するものではありません。しかし、国民皆保険推進の必須条件は、その基礎的諸条件の整備であります。中でも最も重大な点は、地方財政に及ぼす影響の問題であります。もちろん、本法では五分の調整交付金の制度は設けられたのでありますが、現行療養給付二割は、実際には種々と制約をこうむり、実質一割五分前後となり、事務費もまた、実際必要費の六ないし七割程度に終ったのであります。従って、自治庁当局の発表によりましても、二千六百市町村の実に八割五分が赤字を出し、一般会計よりの繰り入れにより、辛うじて命脈を保ったのが、その現況であります。
かくのごとく、国民健康保険財政が、医療給付二割国庫負担をもってしてはその運営の不可能なることは、すでに、社会保障制度審議会を初めとして、いやしくも社会保障を口にするものの定説であって与党内部においてすら、その声が高かったのであります。しかるに、国民や識者の声には耳にふたをして、単に五分の調整交付金でお茶を濁そうとすることは、断じて許すことができないのであります。(拍手)御承知のごとく、わが社会党は、つとに三割国庫負担を強調して参ったのであります。社会保障制度審議会も、これまた強く勧告して参ったのであります。にもかかわらず、政府の態度は、全く徳川幕府の農民政策同様、生かさず殺さずの態度をとって参ったのであります。
保険財政に関し、さらにわれわれが見落してならぬ重要な問題は、結核対策でございます。昭和二十八年、画期的な結核予防法が制定せられ、今日まで五カ年の歳月をけみしたのでございます。自来、結核の死亡率ははなはだしく減少して参りまして、世界各国の刮目するところとなったのでございます。しかるに、一面、患者の発生は跡を断たず、その数実に三百万と称せられておるのでございます。従って、結核医療費の保険財政における比重は、はなはだ大なるものがございます。換言すれば、結核医療費の解決なくして保険財政の健全化はあり得ないというべきであります。ことに、財政的基盤の弱い国民健康保険制度を強化する道は、結核医療費の重圧排除以外に道のないことを知るべきであります。よって、社会保障制度審議会も、その予算制度の一元化を強く要望しておるところでございます。しかるに、今後も依然として結核医療を保険財政の上にあぐらをかかすとするならば、それは健康保険にあらずして不健康保険なりと断ぜざるを得ないのでございます。(拍手)かかる傾向は、結核対策の上からも、健康保険の健全化の上からも、まことに悲しむべき現象でございます。
かように、国民健康保険法案が社会保障の一環としての皆保険たらんとするならば、まず国が大幅な予算化を行い、責任を負うものでなければならぬのでございます。さきに、七人委員会及び社会保障制度審議会は、療養給付率を七割に引き上ぐべきことを答申いたしました。すなわち、医療制度は、安くて、何の不安もなく、今日の進歩した医療の恩恵を受けられる制度でなければならぬのであります。世に手おくれという言葉がございますが、その手おくれの原因のほとんどすべてが経済的理由によることを思うとき、われわれは涙なきを禁じ得ないのでございます。この貧しきための不幸を救う道は、ただいま申し述べたごとく、医療給付率七割以上にほかならぬのでございます。従って、今回のような五割給付は、すなわち、社会保障の無理解を暴露するものというべきでございます。
さらに、われわれがこのような経済的負担を論ずる際、重ねて見落してならぬ点に、零細企業従事者の問題がございます。今日、五人未満の零細企業に従事する被用者は三百万と称せられておるのであります。日本経済の不幸な特色でもあります。従って、皆保険推進を遂行するに当っては、この日本の特色といわれる零細企業の網の中で、不安定で、しかも経済的に恵まれぬ、貧しいこれら大群の労働階級を、社会保障制度の中でどう取り扱っていくかは、きわめて重大なる問題でございます。これなくして皆保険の実現はあり得ないということを強調いたしたいのでございます。しかるに、政府がこれまでこの点についてあいまいもこの態度をとって参っておりますことは全く痛憤にたえない次第であります。(拍手)
今日、政府は、勤務評定、警職法等、労働者の弾圧にはきわめて積極的でありますが、貧しき大衆のためにはきわめて消極的であることは、これまた、われわれの断じて許しがたい点でございます。(拍手)善政は—よき政治は警察力にまさるということを知るべきであります。すなわち、脆弱な零細企業の被用者なるがゆえに社会保障の網の目から漏れる、不安定な、しかも生活に脅かされるこれらの人々を、いかにして社会保障の網の中に吸収せしめるかが、為政者の急務でなければならぬのでございます。
かくのごとき五人未満の零細企業もさることながら、すでに解決済みでなければならぬ五名以上の事業場についても、まだ十分な処置が行われておらぬことは、全く許しがたい点でございます。当局の発表によっても、その六〇%が未加入といわれておるのでありますが、その怠慢ぶりは強く糾弾されなければならぬと考えます。さらに、そのことが、赤字が出るからという、赤字対策の一環として故意に見のがされておったとするならば、これまた、われわれの断じて許し得ない点でございます。
国民は皆保険あるいは国民年金制度という一連の美名に酔わされて参ったのでありますが、しかし、その一連の美名に隠れて、医療を、官僚統制のもと、劣悪なる欺瞞政策として押しつけんとするならば、国民ひとしくが容認し得ないところでございます。
岸総理は、今日まで、しばしば、機会あるごとに、長期政権担当を呼号せられて参ったのでありますが、しかし、単にかけ声のみで、あるいは国民に微笑を送ることのみが善政の道ではないのであります。長期政権の道、国民の支持を得る道は、乏しき国民の心を心として社会保障の道を邁進することにほかならぬことを知るべきであります。今こそ、虚心たんかい、天の声に謙虚に耳を傾け、国民健康保険を百の社会保障の一環として恥かしから由ものに改めることこそ最も肝要であることを知るべきでございます。この点、私は、強く要望するとともに、わが社会党案に同調されることを、これまた強く期待をいたす次第でございます。
以上、諸点をあげて反対の討論にいたす次第でございます。(拍手)