綱島正興の発言 (本会議)
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○綱島正興君 私は、自由民主党を代表いたしましてただいま提案説明のありました農地被買収者問題調査会設置法案につきまして質疑を試みんとするものであります。(拍手)
第一問は、昭和二十一年法律第四十三号、すなわち自作農創設特別措置法、及び、同二十七年法律第二百三十号、農地法施行に関する法律等を改廃せんとするような意思があってこの法案を出されたのではないか。これが第一点。第二問は、旧地主の復活や小作地の取り上げ等、幾分でも自作農創設維持法及びその政策を変更せんとするような意図があるのではないか。第三問は、昭和二十八年十二月二十三日最高裁判所が言い渡した、自作農創設特別措置法により政府がなした強制買収の事実の法的妥当性に関する判決の効力を烏有に帰せしめ、または削減せんとするものではないか。第四間は、第一に、農地被買収者問題調査会設置法案第二条によれば、農地を買収せられた者に関する社会的な問題を調査審議するとありますが、本法案にいうところの社会的問題とはどういうものであるか。第二に、もし調査審議した結果、社会的に打ち捨ておきがたき事情が明らかとなった折は、一定の補正的な善後措置を講ずる気があるかどうか。
以上の四点が、私が質疑をいたす要旨であります。以下、私の質疑の理由を明らかにいたします。
第一間は、自作農創設維持に関する法制を改廃し、または自作農中心主議のわが農政を変更するのではないかというのであり、第二問は、この法案の施行の結果では、旧地主制度を復活したり、または小作地の旧地主のためにする取り上げ等を意図しておるのではないかという質疑であります。この質疑は、まことにばかばかしい質疑でありますが、この一、二問を申し述べざるを得ない理由は、世上に、本法案の実現の暁には、自作農主義が変更せられ、また弱体化される、あるいは旧地主制度が復活せられるおそれがある、小作地の取り上げが行われるとか、盛んに宣伝、吹聴いたして、何か自作農民に不利益な施策が行われるのだとか、いろいろ雑多な言をなし、あるいは自己の政治上の立場に資したり、あるいは反政府的な空気を醸成せんと試みる者が相当数に及ぶようであります。煙を見て火となすは、世にそのたぐい必ずしもなしとは言えません。しかしながら、雲を仰いで山となし、大海を指さして天となすとは、これは全くおかしなことでありましてその勢いのおもむくところ、いわゆる世に一犬虚にほえて万犬実を伝うというようなことがあり得るので、ここに、かような問いをなさなければならぬ理由があるのでございます。
自然科学が進歩すればするほど、他の産業と対比いたしまして、農業の生産性は劣勢と相なります、自由経済の中では、他産業と競争いたすことはほとんどできないような経済事情にあるのであります。ところが、一面、農業は不可欠産業でありますから、世界各国は、農業に関する限り、保護政策をとっておる。世界で一番恵まれておる米国でさえも、農業に対して巨大なる保護政策をとっておるのであります。例をあげますと、一九五九年度の米国の総予算は二十五兆円でありますが、そのうち、軍事費が十五兆円であり、内政費は総額十兆円でありますが、この十兆円のうち、二兆九千億円は、実に農業保護政策費でございます。かくて、生産条件の悪い国は主として生産補助政策、生産条件がよくて生産過剰な地方におきましては価格保障制をとりまして、農業保護に世界すべての国が協力いたしております。わが国は生産補助と価格保障の両政策を併用いたしておりますが、その施策は不十分でありまして、善良な農民にこたえるには、財政上の理由によるとは言え、まことに心細きところがあるのであります。
これを国際経済の中におけるわが国民経済の立場から見れば、農産物の輸入は米麦、豆、飼料、砂糖、木材、皮革、羊毛、綿花等を合算いたしますと、昭和二十七、八年以来継続いたしまして、年間二十億ドルを下ったことはないのであります。これは輸入総額の五六%から六〇%を占めております。これを国民所得の点から見ますと、農民人口は全国民の三九%を占めておるにかかわらず、その所得は一六%を下っておるのであります。農産物を増産して農産物の輸入度合いを低減するとともに、農民の所得を増加して農家家計を引き上げることは、国民経済の観点からも、農家家計の観点からも、まことに大切なることでありますので、農業生産過程においての不労所得を追放することは、農業合理化の上から、まず第一に手がけなければならなかったので、敗戦の直後、昭和二十一年に自作農創設特別措置を行い、地主の不労所得をほとんど皆無にして不在地主や不適正耕作者等の農地を強制買収して、農地制度の大変革をいたしたのであります。その後、自作農主義を基本といたして農業施策を継続いたしており、実に自作農創設維持はわが農政のバック・ボーンを形成いたしておるのであります。この政策を僅少にても傷つけることは、まことに許しがたいことでありますので、第一、第二の問いをなしましたことは、実にばかばかしいようでありますが、世間の情勢上、これを問うて明らかにいたしておかねばならぬ事情がございますので、これをお尋ねする次第であります。
第三間は、最高裁判所が二十八年十二月二十三日に言い渡した、自作農創設特別措置法に基く強制買収に伴う一切の措置が適法、適正であるとなす判決の効力を烏有に帰せしめたり、または削減せんとする意図でこの案を出したものではないかという質疑でございます。
当今、一部の者には、悪法は法たる一資格なしとか、また、これに服従する義務なしとか、公然と断言する者があり、順法精神に欠けるものがだんだん増加する傾向があります。民主主義国においては、みだりに法を守らず、または確定判決の効力を軽視するような風潮がありますことは、まことに警戒しなければならないことであります。ところが、この法案実現の上は前述の判決の効力を烏有に帰せしめるのだなどと流布する者も間々ありますので、この際、政府の明瞭なる御答弁をわずらわしたいのであります。
第四間は、この法案第二条によれば、「農地を買収された者に関する社会的な問題を調査審議する。」とありますが、社会的な問題の調査審議とは、いかなる調査審議であるか。これには、おのずから調査審議の範囲にも限度がありましょうが、一体どういう範囲でなされるのかということの問いであります。
次に、農地買収当時は適正であった買収行為も、その後の社会上、経済上の著大なる変化の結果、現在となっては補正的な善後措置を必要とすることが明らかである場合、一面においては自作農創設維持政策を堅持し、かつ、旧地主制度の復活を排除し、しかのみならず、小作地の取り上げ等を厳に戒めつつ、補正的な善後措置をなす意思ありやいなや、これが政府に対する第四問でございます。
元来、自作農創設特別措置は、農民にその耕作地を所有せしめ、自作農としてよりよき農家家計を立てしめるとともに、食糧自給度を高めるための措置であったのでありますが、自作農創設特別措置によって得た農地を転売する者があります。そのうち、農業用地として転売するものはしばらくおくとするも、農業用地以外の用に供するために転売することは、でき得る限りこれを制限すべきものだと思うのであります。このことは、わが国の農地が現在のところまことに僅少でありましていろいろの方面から農地を造成しなければならぬ実情でありますので、やむを得ざる場合のほかは、農地の転用は禁止すべきものであります。わずか六畳と四畳半くらいの平屋建の公営住宅を建設するに当って美田をつぶして建設するなどは、まことに好ましからざるところであり、このことは膨張しつつある都会の郊外に常に見かけることでありまして、一町か二町行けば山ぎわの遊閑地があるにかかわらず、美田をつぶしてこれを建設する。しかも、その美田の中には、自作農創設特別措置として反当り三百六十円から九百六、七十円で買収された旧地主の土地がその多くを占めておる。新地主は、これを高いときは反当り三百万円以上、安いときでも、農地外に転用する場合は、大てい反当り三十万円を下らざる価格で転売いたしておるのであります。
昭和三十二年中に、富山県下における転用農地の売上総額を反当りに平均いたしますと、実に反当七十万円弱になるのであります。富山県のごとき工場地帯の僅少な地域においても、かくのごとくであります。京浜地方とか、京阪神地方、北九州、名古屋地方等の転用農地の価格は、反当り平均二百万円にも及ぶでありましょう。しかも、北海道とか青森とかいうような地域は、転用農地面積は僅少でありまして、工場地帯ほど転用農地面積が巨大であります。従って、全国平均は反当り百万円を下ることはありますまい。転用農地の総面積は、推測するに年間二万町歩を下らないでありましょうから、その代価は、富山県の三十二年の例に従えば千四百億円、これを京阪神その他の工業地帯の例に従えば、実に四千億円前後と相なるでありましょう。かりに、これを全部被買収地主の土地と仮定いたして計算いたしますと、買収当時は反当り平均六百円として一億二千万円くらいで買収せられたものが、現在は四千億円ないし千四百億円くらいで転売せられる実情でありますので、これを目撃しまして、旧地主のうちには、ほとんど憤死に近い憤りをした者や、流浪者となった者等も多々あるのであります。ここに見のがすことのできないのは、被買収地主は、耕作権を持っていなかったという理由で強制買収せられておるのであります。その土地に耕作権を持っていた者が新地主となり、自作下るに至ったのであります。今度は、この新地主が農地を農地以外の目的に転売するときは、耕作権はもちろん消滅するのであります。耕作権消滅の形を前提としてこれを転売するときは、かつて所得した額の千二百倍ないし四千倍。これを転売するのであります。一は耕作権を持たなかった理由で強制買収され、他は耕作権を消滅することを前提こして転売するのであります。この間の国の措置に、まことに公正を欠くものがありはしないか。これを黙過することができないのであります。これが、災害で失うたのならば、あきらめもつきます。一考をわずらわすのは、耕作権を保有せざるゆえに、捨て値回収なもので、平均反当り六百円くらいで強制買収せられ、この強制買収の結果得た農地を、他は千二百倍ないし四千倍にも及ぶ値で転売し、売買に際しては、かつてこの農地取得の原因であった耕作権そのものをみずから消滅するのであります。かようなわけでありますから、被買収農地のその後の社会的、経済的変化を調査審議せられ、質回者が申し述べたような事実が現われにら、これに対して、自作農創設維持の線に沿いつつ、何らか適切なる補正的な善後措置を講ずる意思ありゃ、いかん。これが第四問であります。(拍手)
世には、都会の土地も値上りしたではないかなどと言う人もありますが、都会の土地は、自由経済の法則に従って値上り、値下りをいたしておるのであります。買収農地の利得は、強制買収という国の一方的強制行為の結果生じたのでありますから、これと同視することはできないのであります。都会においては、値上りそれ自身について何人も憤りを感ずるものはございません。解放農地の農地外の転用は、国家強制買収の目的たる自作農創設制度をその点においては無効たらしめ、しかも、巨利を博するのでありますから、よほど暗愚な者でない限り、憤りを感じないものは、およそ世にはございません。これが実は大切なことであります。大風が吹いて棟を吹き倒されても、悲しみはしても憤るものはございません。慈母でも、むち打てば、小児といえども、なおかっこれを黙過する子供はないのであります。
かようなわけでありますから、政府が法律によって強制した結果は、大部分の土地についてはその目的を達しておりますが、その一部のもの、すなわち、前述のごとく自作農創設維持の精神をじゅうりんしておるものに対し、一定の是正の方途を講ずることは、まことに当然の事理であります。それでありますから、この措置について、かような不公平があるにかかわらず、これを非難せんとするようなものは、土地ブローカーか、もしくは都会近郊の土地ブローカーに連なるものか、あるいは他に何らか悪意のあるものよりはかなかろうと思うのであります。(拍手)
これが大体私が質問をいたしました要点であります。質問を詳しく言うたのは、理由を明らかにするために詳しく申し述べたのであります。
〔国務大臣岸信介君登壇〕