高田富之の発言 (本会議)
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○高田富之君 私は、日本社会党を代表してただいま提案されました農地「被買収者問題調査会設置法案に対しまして若干の質問をいたしたいと思うのであります。
この法案は、一見、大して問題のないもののように装われているのでありますが、その実は、なかなか大へんな問題を包蔵しているのでありまして、農地被買収者の社会的問題を調査する、かような表現を用いてありますが、これ自体、すでに政府の非常な御苦心のほどがうかがわれるわけでありまして、要するに、これは、旧地主団体が多年の宿願として参りました解放農地国家補償実現への突破口を開くおそれのある、きわめて穏やかならざる法案であると思うのであります。(拍手)そこで、私は、まず、この問題に対する幾つかの点につきまして政府の所見をお伺い上、また、この問題の本質につきましても、いささか、この際、政府の御認識をただしておきたいと思うのであります。
昨年十二月に、かねて自民党内に設置されておりました農地問題調査会が取りまとめた答申によりますと、解放農地問題解決のために、農地の転用、転売に対して特別税をかけること、特に、創設農地には格別の重税をかけようという趣旨であります。また、旧地主の中の生活困窮者に対して救済措置を要求しているのであります。この答申も、表現はあまり刺激的な文字は使っておりませんけれども、考え方の底を流れているものは、一貫して農地改革の不当、解放農地買収価格の不当ということが貫かれているのであります。政府は、この特別調査会の強い要請を押え切れなかったために、ここにこの法、案を出したものと思われますので、この際、この答申と関連しながら、若干の点について、念のため政府のお考えを確かめておく必要があると思うのであります。
第一にお伺いしたいことは、解放農地買収価格の正当性についてでありますが、昭和二十八年最高裁の判決によって明らかな通り、対価決定の基準は、当時の価格水準のもとで、きわめて合理的に妥当な方法をもって定められたものでありまして、この点に関する限りは、一点の疑いをいれる余地のないものでありますことは、従来、政府みずからも繰り返してこれを確認して参ったところであります。もし、今日でもなお政府はこの信念に変りがないということでありますならば、この際、給付金とか、その他いかなる名目をもってするを問わず、絶対に補償的な措置はとらないということを、ここにあらためて御確約願いたいのであります。(拍手)
第二点は、農地の造成と地主補償財源に充てるための農地転用税ともいうべき農地課税についてでありますが、農地造成のためというのは全くのカモフラージュのためのつけ足りでありまして、その非論理性については議論の余地はありません。要は、地主補償財源としての思いつきの課税案でありますが、もし補償はしないという前提に立てば、もとより、その財源問題はおのずから消滅してしまうわけであります。また、もしも補償問題とは一応別に農地課税の是非を論ずるというのであるならば、これは税制調査会あたりで扱うべき問題で、内閣に特別の調査会を設ける必要はないと思うのでありますが、総理府松野長官にお尋ねしたいと思います。
なるほど、農地の売買価格は相当に高騰いたしております。しかし、これは、貨幣価値の変動、需給関係の逼迫に基く経済現象でありまして、何も農地だけに限ったごとではありません。終戦時にはただ同然だった株式が、その後何百倍にもなったり、山林や宅地その他の物件におきましても、みな同様であります。旧地主がインフレの犠牲者だというのであるならば、あるいはそういうことも言えるでしょう。しかし、そうなれば、保険契約者や、預金封鎖を受けた者や、低米価で強権供出をしいられた農民も、みな同じであります。(拍手)一々、インフレで得をした方に課税をして、損をした方に補償金を出すなどというばかばかしいことが、一体できますか。もちろん、地価の高騰をこのままほっておいていいと私は議論をしているのではない。工場や住宅の建設の障害を来たし、住宅公団でも最近家賃が高くなる、こういうことは、まことに困ったことであります。だからといって、これに税金をかければ一そう高くなるだけのことでありまして何の益するところもないのであります。建設大臣は宅地価格の抑制策について何か考えておられるかどうか、この際お伺いしておきたいと思うのであります。
私は、農地課税論者に考えていただきたいと思いますことは、今日、農民の多数の方々が、国家公共の要請によってやむなく農地を転用売却しなければならない窮状に立たされているということであります。農民にとって、農地は生命であります。値段が上ったからといって、それ自体何の得にもなりません。工場、住宅、道路、学校などに農地のつぶされていく、この農民に対してこそ、国は万全の補償、救済の措置をとらなければならぬのであります。(拍手)この点につきまして農林、建設両大臣の御所見を承わりたいと思うのであります。
もとより、中には、生活に困って進んでみずから農地を転売せざるを得なくなる農民も少くありません。わが子を売っても土地だけは手放したくないのが農民の心理であるにもかかわらず、農民が泣く泣く農地を手放すということは、全く政府施策の貧困の結果であって、これを、あたかも暴利をむさぼる不心得者扱いにする自民党内一部の議論は、農民の心情を解さざる、はなはだしい暴論であるといわなければなりません。(拍手)農林大臣は、このような与党内一部の暴論に絶対にくみさないということを、この際言明していただきたい。同時に、あわせて農地の保全、貧農救済の措置について積極的な御意見を承わりたいのであります。
さらに、この点について、一般農地と解放農地とを、いつまでも、ことさらに区別して扱うということが、自作農の維持育成にとってよいことであるか、まずいことであるか、これは言うまでもないことでありますけれども、この際、あわせて、農相の御見解を明確にしておいていただきたいのであります。
次に、第三点といたしまして、旧地主のうち、生活困窮者に対する救済措置に関してでありますが、この点について、自民党では、いろいろと御苦心の調査もされたようでありますけれども、もっとはるかに信憑性のある調査がすでに行われているのでありまして昭和三十年の臨時農業基本調査の結果に基いて農林省が取りまとめ発表したところによりますと、旧地主層は、一般農家に比較してはるかに生活水準が高く、経営内容も良好であることが、きわめて明瞭になっているのであります。(拍手)すなわち、一般的に耕地面積は広く、農産物販売高が多く、専業農家も多い。そして、兼業の方でも、その兼業の内容は高級なもので、一安定性のあるものが多い。また、山林経営面積も多いのであります。もちろん、中には生活にお困りの方もあるにはあるでありましょうけれども、他の一般農家と比較すれば、当然、その数も少いのであります。このように、りっぱな国の調査ができているのに、今さら何をあらためて調査の必要がありますか。また、旧地主の中の生活困窮者に限って社会保障的な救済措置をやらなければならない理由が、一体どこにあるのでありましょうか。わが党は、旧地主、旧小作といったような区別なく、全農民を対象として農村にもっと徹底した社会保障制度を確立、実施すべきことを主張するものであります。今日、農村は、社会保障制度の、いわば盲点となっているのでありますが、この点について、特に厚生大臣の御所見を承わりたいと思うのであります。
第四に、旧地主は、引揚者などと同様、戦争犠牲者だというような御意見も一部にあるやに見受けられるのでありますが、いやしくも、農地改革は、戦前久しきにわたって考究されて参りました自作農創設事業の完成であって封建遺制ともいうべき地主制度は必然的に崩壊の運命にあったものであります。これが国会の議を経て合憲的に平和的に達成されたということは、旧地主層をも含めて、全国民のひとしく祝福、慶賀すべき事柄であります。(拍手)従って、旧地主層の方々を戦争犠牲者だというようなことを申しまして、これに、見舞金とか一時金など、何らの名目たるにかかわらず、国民の血税を支払うべき筋合いのものではないと信じますが、岸総理のお考えを承わっておきたいのであります。以上四点について、それぞれ明快な御答弁をいただきたいのでありますが、従来の委員会における政府の重ね車ねの御答弁もありますので、もし、これに納得のいく御答弁がいただけるものとしますならば、一体、この調査会なるものは、何の目的で、何を調査しようというのか、被買収者の社会的問題とは一体何か、総理はこの委員会に何を御諮問なさるお考えであるか、これを、具体的に、例示的に御説明をいただきたいのであります。
最後に、旧地主団体の運動についてでありますが、今日まで過去数カ年にわたる地主運動の様相を見まするに、農地改革をのろい、旧地主制度の復活を叫び、特に反当十万円の補償を要求するなど、まことに常軌を逸した運動の感が強いのであります。しかも、このような運動が、無責任な若干の保守的政治家たちの扇動によって、何十万人をその傘下に集めているという事実は、まことに驚くべく、また憂慮すべき事態と申さなければなりません。この運動が盛んになってから、今日までの社会的影響はきわめて甚大であります。かつて、香川県下には、数千件に上る、大量一斉、かつ暴力的土地取り上げ事件が起り、法治国のもとに許すべからざる不祥事件として、世論のきびしい批判をこうむりましたことは、まだ記憶に新たなところであります。その後、今日におきましても、小作契約の更新を地主が一斉に拒絶する、表面上は合意解約の形式をとった農地返還強要事件のごときは、全国各地に枚挙にいとまないありさまでありましてこの数年来、耕作農民の不安は著しく増大しているのが現状であります。政府は、地主運動の悪影響に目をつぶって顧みず、口には農地改革の成果を維持すると言いながら、事実が証明する通り、完全に農地行政のたがはゆるみ果てていると私は考えるのであります。(拍手)この点について農相の御見解並びに対策を明示されたいのであります。
こうした地主運動も、要するに、結局は、歴代保守党政府が、次々と、反民主的な、いわゆる逆コース的政策を追求していたずらに反動主義、復古主義の風潮を醸成してきたことに根本原因があると申さなければなりません。もしこの法案が通過したら、一体どうなるか。地主団体は、補償実現近しとばかり、いよいよますます運動は熾烈化し、重大な社会不安を農村に惹起することは必至と見なければなりません。(拍手)勢いに乗じて国家補償から、進んでは農地法の改悪とか、解放農地返還要求とかいうようなところへ発展して、ついには収拾すべからざる事態を引き起すおそれなしとは断言できないのであります。
願わくば、政府は事態を真剣に反省されていたずらに目先の選挙対策にとらわれて、旧地主層にあらぬ期待を抱かせるような思わせぶりは、この際おやめになっていただきたいのであります。(拍手)農地改革に御協力いただいた旧地主の皆さんに対しては、この際、率直に正論をもってこれを説得することこそが、責任ある政治家、責任ある政党政府の当然とるべき態度ではないでしょうか。この点について岸総理の真剣な御答弁をお願いして、私の質問を終る次第であります。(拍手)
[国務大臣岸信介君登壇〕