千田正の発言 (予算委員会)
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○千田正君 私は、ただいま議題となりました昭和三十四年度一般会計予算外二件に対しまして、まことに遺憾でありまするが、反対せざるを得ないのであります。(拍手)以下きわめて簡単に反対理由を申し述べます。
私は、昭和三十四年度予算においては、政府はすべからく、外にあっては国の自主独立を完成し、内にあっては日本経済の深刻な危機を克服することを目標とした、しこうして、真にその目的に沿うごとき内容を含んだ予算案こそ編成さるべきであると信じておるものでありますが、近年の岸内閣の諸般の政策及びその動向について考察いたしまするに、そしてまた、今次の予算案に対してその内容を見るに、事実は必ずしもそうではないことに対しきわめて遺憾に存ずるものであります。
今、本予算案を見まするに、歳入歳出ともに一兆四千百九十二億、前年度に比して大きく膨脹しているのでありますが、その歳入増加分は、大部分が租税の自然増収に対する過大な見積り、あるいは揮発油税の税率引き上げ等々によるものであり、今日の段階において、あえてかかる膨大な予算を編成するに至った政府の目標は、明らかに地方選挙あるいは参議院選挙を目前に控えて岸内閣の人気取りにあるものと思われるのであります。しかしながら、真に岸内閣の人気を回復し、内外の信用を増大させるためには、むしろこの際、民生の安定と地方財政の健全化を軸とし、国の自主独立を完成せしむるものこそ第一に必要であると思われるのであります。
政府の予算編成方針は、一言にして尽すならば、それはすなわち、安定より成長へということであります。この方針によって編成された予算を見るに際し、少くとも次の諸点に言及せざるを得ないのであります。
すなわち、歳入の面については、先刻も申し述べました通り、自然増収と増税に全く依存し、それによって歳入増の大部分をまかなうというものであります。大体この租税の自然増は、昨年秋ごろまでは約八百億程度と見込まれていたのでありますが、今回の予算によれば、実に一挙に一千八十六億とされております。それは明年度の経済成長率を六・一%、実質的には五五%に引き上げる操作によっておるのであります。政府の三十四年度経済見通しによれば、三十四年度は上期は横ばい、下期は好転という、はなはだ楽観的なものでありますが、しかしそれは、積極財政をとることによって下期は好転するのか、あるいはまた、そうでなくても、下期は好転というのか、その辺はきわめてあいまいであります。このようなあいまいな成長率を基礎とした水増し作業によって租税の自然増収が計算されるということは、ただに健全財政を呼号する政府の態度にみずから反するばかりでなく、四百十三億の減税さえもみずから踏みにじり、揮発油税等の引き上げによって、実質的には減税は二百億以下という結果を招来したのであります。
歳入の面についての第二点は、以上の租税の自然増のほかに、昭和三十三年度たな上げの経済基盤強化資金、その他繰り越し、蓄積資金等々、すべての財源を使い尽して、一体昭和三十五年度財政の財源をどこに求めるのかと疑わざるを得ないのであります。これに対し、政府は、過去の蓄積資金を使い果したことは、現在直面している経済状態から将来の安定した経済への発展をはかるために必要な経費として計上したものであり、これによって将来の財政の基礎を作っていく。三十五年度財源は、例年のごとく、税収、その他税外収入によってまかない得ると言っておりますが、私は、そのような楽観的な見通しよりも、むしろこれを一つの転機として、公債政策が現実の問題として登場してくることをおそるるものであります。
次に、歳出の面については、これまた多くの遺憾の点を指摘しないわけには参りません。最近、当予算委員会においていわゆる核兵器論争が行われたことは耳新しいことでありますが、本年度予算を見るに、防衛費は千五百三十六億、その総予算に対する比率は一〇・八%であります。零細な中小企業や農漁民の納める三十四年度申告納税は六百四十八億でありますが、防衛費はこれの約二倍半に当るわけであります。およそ、日本の防衛、その安全保障は、核兵器の保有によって保障されるものでなく、政府のいうところのいわゆる小型であるにせよ、防御用であるにせよ、核武装は憲法違反ではない、政策としては保有しないのである云々、あるいは、核武装したアメリカ軍の問題については憲法の及ぶところではない云々といった見解は、政府がどんなに強弁するにせよ、日本を一朝有事の際に核兵器の戦場と化することになるということは火を見るよりもなお明らかであります。(「そうそう」と呼ぶ者あり)日本の安全保障は、核兵器の保有や核武装したアメリカ軍に依存するところにはなく、また千五百億以上の防衛費を組んで、はなはだしいむだづかいと汚職を作り出すのみか、時代おくれの、アメリカに返還までしたF86ジェット機を百八十機も生産するというばかげた防衛方式の中にもなく、日本の安全保障ということは、実に相対立する両陣営、ことに米ソをあくまで戦わせないようにするというところにこそ存在するのであります。すなわち、日本が自主独立と積極的な中立の道を誤りなく歩き、しこうして、世界平和のために貢献することこそ、換言すれば最大の日本の安全保障であると言わざるを得ません。
次に、歳出の六分の一に近くまで大幅に増額された公共事業費は、道路、港湾関係を主にしておりまするが、一部には土建屋財政という酷評が与えられておるほどであり、一部の土建業者に一時的に資金が放出され、それがやがて一つの政治資金グループになるであろうということはこれまた明らかてあり、しかも、その財源たるや、揮発油税の増税にかかっているに至っては、公共事業の名も泣くだろうと思うのであります。しかもこの点で寒心にたえないのは、この公共事業費が地方財政を相当に圧迫するという事実であります。すなわち、国の公共事業費の増加と見合って地方財政計画においては三百九十二億の増額になっておりますが、このうちで地方団体の純負担額増加は、二百八億となっております。こうした公共事業費の激増によって、財源の乏しい地方財政はますます窮屈となっております。また国から補助を受けないで地方団体が行う事業費は、昭和三十三年度二百二十八億増に対して、三十四年度は三分の一の七十四億増、しかも七十四億のうち二十四億は公共事業の最重要部分たる道路整備に充てられるといった工合でありまして、単独事業費は去年よりも十四億減少しておるのであります。いわゆる一兆円道路、すなわち政府の道路整備五ヵ年計画なるものは揮発油税の増税によってまかない、その上単独事業、補助、事業に伴う地方負担等々三千四百億を見込んで、これでは全く他力本願というのほかはなく、このような状態では、そもそも五ヵ年の間に道路が公約通り整備されるのか、はなはだ疑わざるを得ないのであります。このように公共事業費が増額の四二%を占め、歳出面一千七十一億の増加のうち四百六十九億にも上るというのに比べて、社会保障費の増額はわずかに二百十九億、総額に対して千四百七十七億、総予算の一〇・五%を占めるのみで、公共事業費よりも、防衛費よりも少額であるということは、岸総軍か常日ごろから福祉国家建設を繰り返し強調しているだけに、はのなはだ皮肉なことと言わざるを得ないのであります。
次に、最大の公約の一つであった国民年金制度がようやく実現するの運びになったのは御同慶の至りでありまするが、公約の三百億から百十億に減っております。失業対策費は二百九十八億で、十二億増となっておりますが、失業保険費の負担が八十八億で、十七億減となっておりますから、失業対策費は差し引き三億減少しておる勘定であります。その上、失業吸収人員が二十五万人と前年度と同じに据え置かれておるということは、政府みずから失業対策の貧困を表明しておるにすぎないのであります。これは結局、労働力率を昭和三十四年度六七・四%と、不景気の最中であった二十九年度六八%よりも低く見積り、職業を求める人口は少いと独断し、この数字を基礎にして失業対策費を算出したものであって、これは前にも述べました通り、経済成長率を勝手につり上げ、租税の自然増を算出した方法と全く軌を一にするものであって、まことに数字の詐術というよりほかないのであります。
次に、農林漁業予算につきましては、前に片岡委員も指摘されました通り、総予算に対する比率は、昭和三十三年度七・八%から七・四%に減少しておるのでありますが、これはまた、まことに納得しがたいことであります。岸総理は、内閣の重要政策の一つとして、常に農林水産問題を掲げ、しばしば特別の考慮を向けると言明し、現に去る一月の施政方針演説の中でも明らかに述べておられるのでありますが、しかるに、具体的な施策である予算の裏づけにおいては、言明に反して減少しておるというごときは、羊頭を掲げて狗肉を売るの類であります。戦後の政府の農業基本政策は食糧増産に主力を置いたのでありますが、その間、零細なる農漁民の生活水準の低下と経営内容の劣悪化は天下周知の事実であり、今や農漁村は、土地の細分化による経営放棄、法人化問題、米価算出方式、潜在的失業問題、漁業問題等々、数え上げれば枚挙にいとまのないほど矛盾が露呈されており、全産業を通じて最も水準の低いこれら第一次産業部門に対する早急にして完全なる保護政策の実現が叫ばれている折柄、農林漁業予算において見られるような政府の無策に近いような場当り的やり方には断じて納得し得ないものがあるのであります。もちろん、今般内閣に設置される農林漁業基本問題調査会において種々検討が加えられると思うのでありますが、そしてまた、それらの結論に大いに期待しているわけでもありますけれども、先ほど申しました通り、基本問題を解決する方向が少しも見出されていないうちに、一方では補償を求める旧地主の運動に早くも対応するかのごとき動きを政府が見せるというがごときは、きわめて遺憾に存ずる次第であります。
さて、最後に、財政投融資について一言いたしたいと思うのであります。わが国の経済の特徴的な点は、何よりも生産設備の増加と国民所得の増加のアンバランスに集中的に表現されていると思うのであります。すなわち、生産設備の増加は、昭和三十二年度一兆三千七百五十億、三十三年度一兆六千七百四十億、三十四年度見込み一兆四千百三十億、この三カ年の合計が四兆四千六百二十億であるのに比較して、国民所得の増加は、昭和三十二年度六千五百五十四億、三十三年度から三十四年度見込みまで加えても総計一兆二千四百二十五億にすぎず、その差は実に三兆二千億以上であります。その結果、この設備投資の過剰をどうするかという問題は、財界、経済界あげての大問題であるのにとどまらず、今日の主要な政治上の問題、社会政策上の問題は、ここにその経済的背景を有するものであります。しこうして、この問題を解決するためにこそ、一般会計あるいは財政投融資計画を通じて経済の均衡的発展をもたらすように努力すべきものであると考える次第であります。しかるに今回の財政投融資は、その規模において五千百九十八億、前年度に比して一挙に千二百三億増という膨大なものであり、その増加率は、一般会計の増加率を上回っておるのであります。もちろん、開発銀行や農林漁業金融公庫に対する資金供給の面にも現われておる通り、自己資金の不足を政府出資で埋め合せするという点もあり、これらを差し引いたといたしましても、実質増は一千億と見られるのであります。この財政投融資の原資のうち五六%は大蔵省資金運用部の資金であり、すなわち半分以上は零細な郵便貯金に頼っているわけであります。これに加えて、先刻申し述べました通り、洗いざらいの資金を漏れなく総出しにしているのであります。
次に、この資金供給の内容を若干見まするに、たとえば輸出入銀行の三百六十億円は、岸・藤山外交の経済的跡始末と、昨年来進められておる延べ払い等不正常輸出促進のしりぬぐいに充てられておるものであり、以下、開発銀行からその他に、あるいは主として輸銀、開銀、電発、石油資源等四社だけで四百六十三億も計上されておるのを見てもわかるように、一部にのみ厚くできているのであります。そうして逆に国民金融公庫、商工中金、中小企業金融公庫は四十三億も減額されておるのであります。農林漁業に対する財政投融資に至っては実に全体の八・四%にしか当らないというお寒い状況であります。かくて大資本の設備過剰はますます進む反面、国民所得の分配はますます不均衡になり、日本経済の破行性は拡大されることはあっても、均衡を生ずる方向には全然向っていないと言わざるを得ません。一般会計、財政投融資を通じてかくの通りとするならば、これでは民生の安定を軸とし、経済不況を克服していく方途を今回の予算に求めることはとうてい不可能であります。総じて今回の予算は、ほんとうに国民の求めている生活の向上、わけても、組織を持つこともできず、その声を中央に反映させることもできない零細なる農漁民、中小企業労働者あるいは生活保護世帯の人々の声なき声を相去ることすこぶる遠く、最低限度の要求さえも満たされていないものと断ぜざるを得ません。
私は、ここに政府が国民の志向する方向を冷静に見きわめて、勇気を持って政策転換を行うことを近き将来に期待しつつ、あわせて今次の予算案が、われわれの期待と相反すること多きを指摘して私の反対討論を終る次第であります。(拍手)