山内広の発言 (本会議)

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○山内広君 私は、ただいま趣旨説明のありました農地被買収者等に対する給付金の支給に関する法律案に対し、日本社会党を代表し、深い怒りを込めながら、以下若干の質疑をいたすものであります。(拍手)
 そもそも本法律案は、去る第四十六国会にも提案されたものであり、しかも、当時は会期まさに終わらんとする数時間前に提案、その提案理由の説明もなされないままに審議未了になったのであります。何ゆえこのようなこそくな提案のしかたをしたのか。そもそもこの法案は、国民の声を無視したものであり、かつ、調査会の答申にもそむき、全く党利党略以外の何ものでもなかったからであります。(拍手)
 昭和二十八年十二月、農地改革に関する最高裁判所の判決があってからは、歴代の政府は、一貫して旧地主に対しては再補償はしない、また再補償する義務もないと、常に言明してまいったところであります。しかるに、旧地主団体とそれを支持する一部与党議員は、執拗に再補償を要求して政府や自民党幹部に働きかけ、その結果、ついに政府はその圧力に屈し、みずからの言明をひるがえして、この法案を提案するに至ったのであります。(拍手)その後の新聞論調や投書等にも見られるごとく、この再補償については、旧地主の一部の人々を除いては、一人として賛成している者はおりません。それゆえこの法案は全く党利党略的法案と私はあえていわざるを得ないのであります。(拍手)
 私は、かかる前提に立って、佐藤総理大臣並びに関係各大臣に若干の問題点をあげて質問をいたします。
 まず第一に、佐藤総理は、あの農地改革について、その意義をいかに把握され、どのように評価しておられるかという点であります。
 申し上げるまでもなく、この農地改革は、農調法制定以来、久しきにわたって考究されてまいりました自作農創設事業の成果でありまして、おそかれ早かれ、旧地主制度は崩壊し、働く農民に解放の喜びを与えなければならない歴史的運命のもとにあったのでありまして、敗戦はその改革を促進したにすぎないのであります。もし、この改革が断行されなかったとするならば、当時の社会情勢から見て、小作争議は激発し、食糧不足に苦しんでいた国民に大きな不安と動揺を生ぜしめ、政治的経済的な大混乱を引き起こしたであろうことは、国民すべてが認めるところであります。すなわち、この血を見ざる一大改革こそ、わが国経済の安定と農村の民主化の基盤をつくったものといわなければなりません。
 しかるに、その後の政府の農業政策はいかがでありましょうか。農業基本法に基づく貧農の切り捨て、農地法の改正による農地保有面積の制限緩和の動き、そしていままた、旧地主に再補償はしないというたびたびの言明にもかかわらず、補償を報償ということばでごまかして給付金を支給し、旧地主を勇気づけようとしているように、そのいずれを見ても、あの歴史的意義を有している農地改革を否定し、戦前の旧地主制度という亡霊を復活させようと意図していると断ぜざるを得ないのでございます。(拍手)
 この農地改革の意義と評価を、総理はいかに考えておられますか。あわせて農林大臣の明確なる御所見を伺いたいのであります。
 第二に承りたいことは、昭和二十八年十二月になされました農地買収に関する最高裁判所の判決についてであります。
 そもそもこの問題は、農地改革が実施された直後から、旧地主は、当時のインフレ等から見てその対価は正当ではなく、憲法第二十九条の正当な補償に違反しているとして訴えを起こしたのでありますが、これに対し最高裁はこの訴えをしりぞけ、農地改革は正当な法律に基づき、正当な補償によって行なわれたもので、合憲であるという判断を下したのであります。(拍手)しかるに、前に申し述べましたとおり、政府の農地政策の後退と動揺とに乗じ、農地解放は誤れる占領政策の所産であるとか、この最高裁の判決は正しくないとか主張し、農地補償の強い要求が起こり、一部の与党と結び、今日この無謀な法案の提出となったことは、はなはだ遺憾なことであります。
 政府は、これまで、この判決は権威あるものであり、十分尊重するとともに、再補償は絶対に行なわないと、幾たびも言明してまいったにもかかわらず、本法案の中身は、これまでの言明を裏切り、その名は給付金支給となっておりますけれども、それはことばのごまかしであり、その実質は補償であることに変わりはございません。もし政府のいうように、日本経済の発展等に貢献したことに報いるための報償として支給するものであるとしても、政府はすでに農地改革の当時、旧地主に対しては、買収価格のほかに、別に報償金を加算の上支給しておるのでありまして、いまとなってこのような処置を重ねることは、実に不当な処置といわざるを得ないばかりか、さらに、単なる金銭の問題ばかりでなく、別に重大な問題をも含んでいるものといわざるを得ません。政府は、常に国民に対しては順法の精神を説きながら、その行為においてはみずから最高裁の判決を無視し、その権威を傷つけ、順法の精神をじゅうりんしようとしているのであって、私は、政府のこの暴挙を断じて許すことができないのであります。(拍手)
 この点に関し総理の明快なる御答弁をいただきたいのであります。
 第三は、さきの安保国会の混乱に乗じて強引に設置された農地被買収者問題調査会の答申及び総理府の臨時農地等被買収者問題調査室の調査結果に関連してお尋ねいたします。
 両調査機関の調査結果の発表によりますと、旧地主に対し再補償すべきであるとはどこにも述べてはおりません。答申では、生活上、生業上困っている者に対する生業資金の貸し付けの措置と、子弟教育に困っている者に対し育英制度の運用において配慮を加えることなどを適当とし、他方、調査室の世論調査では、約六〇%の人が、現在困っている者だけに何らかの措置を講ずれば足るということが明らかにされているのであります。さらに、この両調査によりますと、旧地主の生活水準は、一般の農家に比してはるかに高いばかりでなく、一般国民に比しても良好であることがきわめて明瞭になっているのであります。もちろん、現在真に生活に困窮している人々に対しては、それが旧地主であろうと一般農民であろうと区別することなく、社会保障制度の一般的条件の中において適切な措置を講ずることは当然であり、日本社会党もこの点を強く主張しておるのであります。ただ旧地主であったという理由だけで特別の措置を行なうことには、絶対に賛成するわけにはまいりません。(拍手)
 本法案の内容は、多くの時間と多額の費用をかけて調査した結果を全く無視し、旧地主の生活水準のいかんにかかわらず、買収された農地面積の割合によって一律にすべての旧地主に給付金を支給しようとしているのであります。政府が幾ら詭弁を弄し、補償を報償と言いかえようと、それは再補償であることに相違はないのであります。一方においては、国民金融公庫法を改正して、旧地主に対して特別の融資を行なおうとしているにもかかわらず、何ゆえまたまたこのような再補償を行なおうとするのか。なるほど先ほどの趣旨説明では、被買収者が日本経済の発展等に貢献したことを多とするとともに、その受けた心理的影響を考慮して報償を実施するものであると、一応理由らしいものを申し述べられましたが、農地改革がわが国の民主化、日本経済の発展のために寄与したことは、さきにも申し述べたとおりであって、このことは、自作農民になった農民を含め、あの敗戦後の混乱の中で働き続けてきた勤勉なる日本全国民の血と汗とによってもたらされた成果なのであって、ひとり旧地主のみの貢献によるものではないのであります。(拍手)このことを忘れ、旧地主のみに目を奪われておるのでは、国民不在の政治と指弾されても抗弁の余地はありますまい。
 かように、調査結果によっても、また政府の趣旨説明によっても、再補償する根拠は断じてどこにもありません。総理の明瞭な御答弁をいただきたいのであります。
 次にお伺いいたしますことは、この再補償との関連において、今後の農政のあり方についてであります。
 この農地補償の要求の一つの理由として、農地改革によって解放された農地が、その後の住宅、工場等の拡張により、不当な高価で転売され、旧地主はいかにも経済的損失を不当に受けているように思い、その損失の補償を要求しているのでありますが、物価の高騰は何も農地のみに限ったことではありません。一般物価の高騰は、政府の地価対策、物価対策等について何ら確固たる政策のない結果であって、非難さるべきは政府の無策そのものであると断ぜざるを得ないのであります。(拍手)
 今日、日本の農政は一つの曲がりかどに立っているといわれています。基本法農政は、農民そのものに信頼されないまま、その計画は進まず、貿易自由化による農産物輸入の激増による国内農産物の圧迫、最近問題となっている農産物の流通機構の問題等、政府は全力をあげてこれらの問題に対処、取り組まなければならぬ現状に置かれておるのであります。かかるとき、旧地主に対してのみ再補償をするなどといううしろ向きの政治を行なうならば、一千二百万の農民は、政府の農政に対しますます不信の念を強めるばかりだと思うのであります。
 さらに、この再補償に要する経費は、事務費等を含めますならば、昭和四十年度の農林予算の実に四割をこえるものでありまして、一千五百億円以上の巨額に達すると見込まれておるのでありますが、これだけの巨額の金があるならば、曲がりかどに立っている農政を前向きに立て直すためにこそ使用すべきものであって、これこそが農民のひとしく望んでいるところと信じているのであります。(拍手)総理並びに農林大臣の御所見を伺いたいのであります。
 次に、この法案の提案経緯並びに再補償を実施することによって生ずる問題に関連して伺いたいのであります。
 今国会の再開冒頭に行なわれました総理の施政演説においては、一宅地部を新設するようなことまで誇らしげに述べられていたにもかかわらず、この法案に関しては一言半句も触れておらないのであります。一千五百億円以上の巨額の経費を必要とする本法案を重要法案とは考えておらなかったのかどうか。それとも、政府は、当初提案の意思はなかったが、旧地主団体と、それを支援する一部与党議員の圧力に屈し、党利党略の法案となったのではないか。かつ、聞くところによると、行政内部においてさえ、この問題の所管官庁になることをきらったほどのうしろ向きの法案であることなどの事情から、施政演説により国民の前に明らかにすることを故意に怠ったものとも考えられるのであります。この国民をあざむく提案のしかたについて、総理は明らかにしていただきたいのであります。
 次に、もしこの再補償が実施されることになりますれば、社会に及ぼす影響ははなはだ大なるものがあると思うのであります。旧在外財産補償問題をはじめ、学徒動員、強制疎開等、さらには、空襲による人的、物的損害を受けた人々も直接の戦争犠牲者としてその補償を要求してくることは必然であり、すでにその声は高まっておるのであります。政府は、これらの人々に対しても補償する決意の上に立って本法案を提案されたのかどうか、明らかにしていただきたいのであります。(拍手)この点については大蔵大臣の答弁をもあわせて要求いたします。
 いま政府は、財源難を理由に、社会保障制度を後退させるような、現に医療費の値上げ等を企図しているのでありますが、この不合理な旧地主のみの再補償を直ちに中止するならば、一千五百億円の財源が生まれるのであります。この額は、健康保険組合の赤字解消と地方公共団体の公営企業の赤字を埋めてなお余りがあるのでありまして、いま直ちにこの党利党略的な法案を撤回して、全国民の願望にこたえるべきものと思います。
 さらに、大蔵大臣に対しては、この一千四百五十七億の公債発行は、インフレ要因とはならないか。また、従来の大蔵大臣の公債発行抑制の方針に反するものではないか、その点明らかにしていただきたい。
 総理府総務長官に対しては、何ゆえこの仕事を総理府で引き受けられたのか。旧地主の生活保護の見地から厚生省とも関係があるので、農林省との総合調整上総理府で引き受けたというのがこれまでの答弁でありましたけれども、法案の内容は、工藤調査会の答申は全く改変され、面積を基準として一律の補償となり、厚生省の割り込む余地が全くなくなった今日、総理府でかかえるべき法案ではないものと思うが、いかがでありますか。さらに、この作業を進める際は、地方公共団体の農林省の関係機関の協力を求めなければならないのでありますが、手足を持たない総理府でこの仕事ができるのかどうか。それとも、万一この法案が通れば、その上で所管がえをするつもりであるのかどうか、伺いたいのであります。
 以上、いずれの見地から見ましても不法不当な本法案を撤回せられるよう強く望んで、私の質問を終わります。(拍手)
  〔内閣総理大臣佐藤榮作君登壇〕

発言情報

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発言者: 山内広

speaker_id: 11903

日付: 1965-03-23

院: 衆議院

会議名: 本会議