津田実の発言 (法務委員会)

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○津田説明員 私がテレビに出たということを中心にしてお尋ねでございますので、まず私が申し上げますが、私はこの事件につきましてテレビで放送いたしたことはございません。あるいは私のいつかの写真をもって私の述べたことを引用したのだろうと思います。
 そこで、私は当時新聞記者から質問を受けました際に、この事件につきましては、もちろんこれは公海であるかどうかという事実上の問題はまだわかっていない。もし公海であればどうであるかという質問に対しまして、公海におきましては刑事裁判権はその船舶の旗国あるいは当該責任のある船舶乗り組み員の本国において刑事裁判権がある、こういう法律上の見解を述べた、それがおそらくテレビに結合され放送されたものと私は考えます。
 そこでその理由を申し上げますと、いま横山委員の仰せられましたローチュス号事件の問題は、私もよく承知いたしております。ローチュス号事件は一九二六年に起こった事件でありますが、ただいまお話しの中では国際司法裁判所の判決によりまして、当時の被害船の国であるトルコにも、それから加害船のローチュス号の所属国であるフランスにも裁判権があるというふうな結論であった。これが当時の国際法のルールとしては一つの判例となっておったことは事実です。しかしながらこの判例に対しましては、ただいま仰せられましたように多くの批判がありまして、この判決のそもそも成立の過程におきまして、裁判官六人、六人の意見相半ばし、裁判長がこの結論を決したというような経緯もあります。その後、この判決に対する批判といたしましては、もしそういう形になると、船舶の乗り組み員、あるいはその船舶そのものは、外国の裁判管轄権に服する場合が多くなってくる、あるいは外国及び本国の両者の裁判管轄権に服するようになって、非常に乗り組み員の保護、あるいは船舶の保護に欠けるところがある、そういう批判が非常に強いわけであります。そこで一九五二年にブラッセルで締結されました船舶の衝突に関する刑事裁判管轄権の条約におきましては、船舶の旗国または責任ある、乗り組み員の本国の刑事裁判権に服するという条約ができた。と同時に、国際連合の国際法委員会におきましても、海洋法草案審議の際におきまして、やはり同様の結論が正しいという意見が多数を占めておる。その後一九五八年に、すなわち昭和三十三年でありますが、ただいま問題にされました多数国間の公海に関する条約の採択会議がジュネーブで開かれましたが、その際におきましては、その条約の採択に賛成多数でございまして、わが国もこの採択に賛成をいたしました。そこでその条約は一九六二年に発効いたしたわけでありまして、これが多数国間の公海に関する条約であります。わが国は、現在これに加入いたしておりませんけれども、昭和三十八年に国会におきまして、政府委員はこれに加入する予定をもって作業をしておることを申し述べております。もちろん採択会議で賛成しましたことは、先ほど申し上げたとおりであります。現在この公海に関する条約には三十二カ国が加盟をいたしております。アメリカももちろん加盟をいたしております。そこでこの条約は国際連合の海洋法に関する会議の経過並びにブラッセル条約の経過から見ますと、これはもはや国際慣習法にまで発展している、国際慣習法になっているというふうに考えざるを得ないわけであります。そこで国際慣習法、つまり確立された国際法規というものは憲法によって当然順守しなければならぬわけでありますから、日本はこの条約に形式的に加入しておるといなとを問わず、国際慣習法を順守しなければならない。したがいまして、現在におきましてはこの国際慣習法によりまして、衝突船舶の刑事裁判権はその船舶の旗国、またはその責任ある乗り組み員の本国にあるというふうに法律上は解釈せざるを得ないと思います。
 そこでアリゾナ号の事件が公海上で起こったかどうかという点については、あるいは現在まだ完全に確定したということは申せないかもしれませんが、これは海上保安庁において諸般の調査を行なっておるというふうに私どもは考えております。
 そこでアリゾナ号を、それじゃ日本で差し押える、出港を阻止する、ということができるかという問題であります。この問題は、法律的に申しますると、この公海に関する条約の同じ条文に、刑事手続においても、拿捕または抑留することができないということになっております。したがいまして、この船舶を拿捕したり抑留したりする、つまり実力をもって出港を阻止するということは、これは条約上できないことになる。したがいまして、そういう国際法が確立しておりますから、それはできないということになる。そういたしますと、法律的のギリギリの線として、わが国の行ない得ることはどういうことであるかと申しますと、現在当該明興丸とアリゾナ号との関係におきましては、少なくとも明興丸につきましては、業務上過失致死、あるいは業務上過失艦船覆没という犯罪の容疑があるわけであります。
 そこで明興丸について、一体だれが責任があるかという問題がもちろんあります。したがいまして、そういう刑事事件は、当然日本に裁判権があるわけであります。そこでその刑事事件の取り調べの対象として、アリゾナ号あるいはアリゾナ号の乗り組み員を対象とすることはもちろんできます。したがって、そういう意味におきまして、アリゾナ号をこの八月の三日、四日の両日にわたって海上保安庁が調べられたわけですが、その内容が正式の刑事訴訟法の捜査によっておるか、あるいは訴訟の端緒を得るための捜査であるか、それは私は承知いたしておりませんが、少なくともそういう関係において、日本の刑事裁判権、つまり捜査権の発動はできるわけです。ただそのアリゾナ号に対しましては、いま申しました公海に関する条約の趣旨がありますので、強制抑留はできない。そういうことになりますと、任意捜査しかできない、こういうことになる。任意捜査についてはやったか、おそらく捜査までいっていないかもしれませんが、あるいは捜査前の事情聴取をやっておるということは、ただいま海上保安庁から御説明申し上げたとおりであります。したがいまして、その点で、刑事裁判権上何もやっていないということではないのでありますが、今回の刑事裁判権そのものは、もしこれが公海の衝突であれば、その本国側にある、こういうことになると思うのです。でありまするが、たとえば先ほど鍛冶委員の仰せられましたように、衝突の現場において、いろいろの指示を事実上海上保安庁がするという問題であります。これは法律上できるのは、その対象が日本の主権に服するものでなければならぬと思いますが、公海におきましては、アリゾナ号は日本の主権に服することはないわけであります。でありまするが、国際条約の見地から、その事実行為としてそれに強く要請をするということは、これは当然なすべきことだと思います。それはなすのがあたりまえですが、法律のぎりぎりの線とすれば、そういうことは、自分は本国しか受けないのであって、そちらの勧告、あるいは要請は受けないといわれてもしかたがない。しかしそれは非常に非常識である。それは国際人としては非常識であるというそしりは受けるかもしれないけれども、ぎりぎりの法律論としてはそういうことになるのではないかというふうに私どもは考えております。そういう意味のことを頭に置きながら、私は新聞記者の質問に答えた次第でございますが、この事件が具体的に公海上であるか領海上であるかというようなことについては私は何も触れておらないというのがその状況でございます。

発言情報

speech_id: 104905206X00419650812_083

発言者: 津田実

speaker_id: 17127

日付: 1965-08-12

院: 衆議院

会議名: 法務委員会