渡辺美智雄の発言 (本会議)

⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。 詳細は利用規約をご確認ください。

○渡辺美智雄君 私は、自由民主党を代表して、去る七月八日、栃木県黒磯町新木野俣用水隧道工事に起きました一酸化炭素による大量中毒死傷事件について、総理大臣並びに関係大臣に対し質問を行なうものであります。
 まず、質問に入る前に、泣いても泣き切れない二十五名の他界せられた方々とその遺族に対して、つつしんで衷心から哀悼の意を表するものでございます。(拍手)また、かろうじて一命を取りとめたとは申せ、いまだ病床に呻吟をして、後遺症におののいておる罹災者の方々に対し、これまた心からお見舞い申し上げるものでございます。(拍手)
 さて、いさいは新聞、テレビ等で御承知かと思いますので、簡潔に事故の概要を参考に申し上げますならば、去る六月二十八日台風第四号によって、同地方に集中豪雨があり、かんがい面積約七十ヘクタール、関係戸数約百六十戸を持つ新木野俣用水路の第四トンネル内の上流に土砂くずれがあり、流水がはばまれたのが事故のきっかけであります。この地方においては、田のかんがいはもちろん、日常生活に欠くことのできない用水路だけに、一日もこれを放置することはできません。そこで、農業災害復旧工事として谷黒組に請負を依頼し、土地改良区が人夫をあっせんして、隧道内の土砂の取り出しを行なっていたところ、たまたま照明用に持ち込んだ三百ワットのポータブル発電機からの排気ガスによって、にわかにトンネル内で作業中の部落民がばたばたと倒れ、数時間を出ずして二十五名が死亡、重軽症三十四名という中毒患者を出したのが、この事故の概要であります。復旧事業費三十三万円の事業としては、大きく痛々しい事故であって、天災ではなく、まさに人災であるといって過言ではありません。
 この事故は、直接の関係面積こそ小さいかもしれないけれども、二部落のほとんどが全滅するというほど悲惨なものであります。農業近代化への過程において、農業災害について多くの問題点を提起した事件であります。
 しかるに、関係省は数省にまたがり、それぞれ自分のなわ張りを守るために、総合した積極的な対策がとりにくいというところに、いろいろなむずかしさをまざまざと見せつけられているのであります。たとえば、遺族に対する補償の問題一つを取り上げましても、労災法の厳格な解釈をたてにとって、出し渋ろうとする動きもないとは申せません。まことに遺憾にたえない次第であります。
 栃木県においては、事故発生後直ちに百万円の見舞い金を贈り、また、一日も早く部落民に水を与えるために、法令にとらわれることなく、五百四十万円の全金額を県費支出をして、仮の水路をつくって速急に水を流したのであります。なおまた、日赤、新聞社等にお願いをして募金を行ない、悲惨な遺族への慰めのために迅速な手を打っておるのであります。
 また、ありがたいことには、ニュースを聞かれました天皇、皇后両陛下におかれましては、あの辺の地勢、民情等をよく知っておられますだけに、はなはだふびんにおぼしめされ、さっそく御遺族に対し金一封の御下賜金を下さいまして、部落民をいたく感激させたのも周知のとおりでございます。人間尊重を看板とする佐藤総理大臣におかれては、そしてまた、天皇陛下に対してみずから忠良なる臣をもって任ずる佐藤総理大臣におかれては、すみやかに温情ある法の解釈をもって遺族補償の万全を期されることと信じますが、その御決意のほどを承りたいのでございます。
 あわせて要望しておきたいことは、ことに各省間において責任のなすり合いのために、政治の成果があがらないというようなことの絶対にないよう、総理の強い指揮と、これこそ裁断を仰ぎたいのであります。
 なお、農業の機械化が進み、一方、劇物的農薬散布が広く行なわれている現在、農村における近代化に伴った思いがけない、大きな災害が偶発するおそれが多くなっておる今日、農業労働者災害について抜本的施策を講じ、災害の予防と救済の徹底をはかるべきだと思いますが、総理の誠意ある御答弁を承りたいものでございます。
 次に、農林大臣にお伺いします。
 この工事は、木野俣用土地改良区が災害復旧工事といたしまして、農林水産業施設災害復旧事業費国庫補助の暫定措置に関する法律、つまりいわゆる災害暫定法に基づいて、約三十三万円の事業費をもって国庫補助の申請を行なっていたものであります。暫定法によれば、緊急を要する場合は、国や県の指示がなくとも、仮工事は自主的にも行なうことができることになっておるのであります。しかるに、この工事の場合は、事故発生以前において、県と組合役員と請負業者とが現地に立ち会って、適切なそれぞれの指示を受けて行なったものであって、暫定法によっても何らの支障なく着手された適法な工事であると思います。農林大臣の御所見を承りたいと存じます。
 労災法の適用をめぐって、巷間、部落民と施行業者との間に契約書の交換が行なわれていないとのけちをつける者もございますが、災害復旧の応急工事というものは、そもそも緊急を要する場合であるのであって、後日それらのものについては精算をすることで、取り急ぎ最小限度の工事を着工するというのが全国的な慣例でございます。農林大臣はどういうお考えでありますか、御所見を承りたいのであります。
 なお、国庫補助申請の対象となる災害復旧工事は、農林省は請負工事で行なうことを全国に指導いたしておりますし、現に一〇〇%程度のものは、災害復旧工事は請負工事で実施されておるのであります。しかもその実態は、おおむね緊急に仮工事をする場合は、着工したりいろいろなことをやります。賃金の支払い等においても、あとで精算をするというケースが多いのであります。
 次に、国営採択の那須野ヶ原開拓パイロット事業地内には、明治以来の老朽水路、いま申しましたような新旧木野俣のような老朽水路がたくさんございます。しかしながら、水のないところでありますから、水路をとめて、その水路の改修をするということは非常に困難でありますために、長期間にわたって明治以来大改修が行なわれていないというのが現況であります。したがって、非常に危険な状態に現在あるところがたくさんあり、このような事故が続発するおそれがございますので、現に国において国営事業として採択をし、実施設計中のこの開拓パイロット事業をすみやかに繰り上げて実施をしてもらいたいということが、この事件をきっかけとしてほうはいとしてその地区において起きておることを御了承いただきたいのであります。また、そうすべきことが犠牲者へのせめてものはなむけであると思うのでありますが、農林大臣はいかがでございますか、その点御所見を承りたいのであります。
 続いて、小平労働大臣にお尋ねをいたしたいと存じます。
 小平労働大臣は、事故発生後現地にも見舞いに行かれました。各戸にも花輪をお届けくだされ、また、金十万円なりの弔慰金も御拠出くださいました。まことにありがたく、感激おくあたわざるところでございます。ところが、労働省といたしましては、かかる事故の発生に対しまして、つまり新型発電機のトンネル内持ち込みというようなことに対しまして、いかなる災害予防の措置をとってこられましたのか、また、事故発生後いかなる救護活動を行なってこられましたのか、御説明をいただきたいと存ずるのであります。
 第二点は、労災保険の適用についてお尋ねを申し上げます。
 この復旧工事は谷黒紀の請負工事であり、谷黒組指導のもとに応急工事を行なったわけでありますが、谷黒組職員の現場監督ら四名については労災法が明らかに適用せられて、その遺族に対しては相当額の年金もおりる、あるいはまた一時金がおりる、療養者に対しましては医療給付と失業期間中の休業補償の手当も出る、こういうことは確実であります。ところが、一緒に働いておった残りの約五十五、六名の者に対しましては、一体どうでありましょうか。同じ坑内における労働をしておりながら、部落民の遺族や入院患者に対しては、労災金の支給がいまだに困難であるかのごとき印象を世間に与えておる。そうでなくてさえ、妻を失い、夫と死刑をし、働き手の一人むすこをなくした遺族は、まさに仕事も手につかず、ぼう然自失をしておる現在、ただ一つの光明として思っておった遺族年金の望みがなくなったなら、一体どうなりましょうか。半狂乱どころか、中には自殺をする者も出てきかねない悲惨な状態であるということを御承知おき願いたいのであります。大会社や、常に労働法の保護のもとにある炭鉱労働者などよりは、むしろはるかにみじめな状態にあるということを知ってもらいたいのであります。
 今回は全体工事の一部分である応急工事の着工にあたりまして、部落民と谷黒組との間に文書による雇用契約が取りかわされていなかったかもしれないけれども、谷黒組長の供述からしても、組合書記の供述からしても、また、口頭により工事の全体について請負契約をしたことは明らかであります。さらにまた、事故発生の以前において、谷黒組は大田原労働基準監督署に対して労災保険の届け出もしていることも、これまた疑いのないところであります。個々の部落民に直接谷黒組が賃金を支払う契約書を取りかわしたかどうかというような小さなことを一々取り上げてまいりますと、それは手続上若干の不備がある点はあるかもしれません。しかし、もし日雇い労働として作業に従事した部落民には年金がおりない、正規のその現場監督には、しかもあやまちを起こしたほうは年金ぶおりる、そうしたらば一体この犠牲者たちは何をもって救ってあげたらばよいのでありましょうか。そういうようなことで政治がありましょうか。災害復旧工事中の仮応急工事というようなものは、農林災害暫定法でも認めておるように、とりあえず必要の最小限度の工事をして、あとで正式な設計をしたり賃金の精算をしたりするのが、全国至るところすべてであります。決して過言ではありません。この際は、単なる末梢的な法律の解釈でお茶を濁すようなことは断じて許されません。高度の政治的判断によって、労災保険の適用によって、人間尊重の政治の実をあげられるように強く要望し、重ねて労働大臣の所信を承りたいのであります。
 以上申し上げまして、私の質問を終わります。(拍手)
  〔内閣総理大臣佐藤榮作君登壇〕

発言情報

speech_id: 105205254X00519660722_020

発言者: 渡辺美智雄

speaker_id: 9286

日付: 1966-07-22

院: 衆議院

会議名: 本会議