戸叶里子の発言 (本会議)
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○戸叶里子君 私は、日本社会党を代表し、去る七月八日、栃木県那須郡黒磯町百村新木野俣用水第二隧道内で起きた悲しむべき災難に対して、佐藤総理並びに関係閣僚に緊急質問を試みんとするものであります。
すでに御承知のように、この事件は、先ごろの台風四号の雨のためくずれ落ちた土砂を取り除く作業をしていた部落民六十名中二十五名が死亡した事件であります。この事件は、実は高さ一・五メートル、幅一・二メートルという狭い、低い、人間がやっと立っていられるかどうかという隧道の中で起きた事件であります。この入り口に立った者はだれでも、この中に人間はおろか、犬やネコでも入るのをきらうと思うほどまっ暗で、一寸先は見えず、また、冷たい水は、長ゴムぐつを通して冷え冷えと感じるというところでございます。この中に、あかりをとるためにカーバイド灯と三百ワットのガソリンエンジンを持ち込んだからたまりません。排気ガス中の一酸化炭素によって、入坑者の中でもそのエンジンの位置に近い人がばたばたと倒れたのであります。したがって、一番奥に入っていた人たちは助かり、その人たちは息が苦しくなったので、しゃがんで指令を待っていたが、指令のかわりに何か音がしたので入り口のはうへ飛び出してくると、たくさんの人が重なり合って倒れていたので、起こしたり、おぶったりして夢中で出てきたと言っております。
このエンジンをトンネルの外に置き、電線を引いて、中の照明になぜしなかったのでしょうか。聞くところによると、このコードの長さは百八十メートルであり、あと四百メートルを、手配中であったそうです。だれが四百メートルのコードをとりに行かなかったとか、だれに頼んだとか、人を責める前に考えなければならないことは、人間尊重の考え方がまだまだ徹底しないことであります。(拍手)人間を第一に考えるならば、人が隧道に入る前にどんな無理をしてもコードはそろえておかなければならなかったのです。そして、エンジンをトンネルの外に置き、電線を引いてトンネル内の照明にしたなら絶対に防げた災害でした。
佐藤総理、どうぞ、もっと人間尊重の精神を末端まで植えつけてください。政治の最高責任者として、特にこの点をどうお答えになるのか、はっきりしていただきたいのであります。(拍手)
いまから三年前、三十八年の大雨でも、この隧道より五、六十メートル上流で落盤をした当時、修理をしたことがありますが、そのついでになぜ下流のこの隧道も修理をしなかったのかと残念でたまりません。私のこのことばを聞いて、農民の一人は、災害でも起きなければ県や国で金を出してくれません。高原のはずれの部落では血の通った行政など期待しているわけにはいかなかったのです。国とか県とか、そんなものを当てにしていたらいつになってめどがつくのかわからぬという気持ちにいつもさせられてきたのですと、半ばあきらめたような恨めしそうな顔でつぶやいていました。私の胸には、そのことばは突き刺さるような気がしました。農林大臣は、こういう農民の声をどうお感じになるのでしょうか。
どんな災害のあとにも言えることですが、その場を何とかつくろうという考え方と、原形復旧にのみとらわれていて、こまかい注意なりあとあとのことを考えてのあたたかい思いやりが少しも見られないことは残念であり、そのことが、防げる災害も防げなくしているのでありますから、この際、原形復旧という考え方を変える必要があるのではないかと思いますが、農林大臣はいかにお考えになりますでしょうか。(拍手)
しかも、この事件以来さっそく田の水に困ったため、ブルドーザーを動かして、たった四日間で七百三十メートルの新用水路ができたのです。やればできるのです。なぜ、このことが二十五人のとうとい犠牲者を出さなければできないのでしょうか。災害を未然に防ぐ防災の政治こそ必要であります。この際、政治の姿勢という根本問題について、佐藤総理のお考えを明らかにしていただきたいのであります。(拍手)
この地域は、実は、先ほどもお話がありましたように、国営那須野ヶ原総合土地改良地区に指定されており、四十三年度から着工の予定になっている地域であります。今日の事故のあとでもあり、また、随所に危険な個所があるところでありますので、この計画を早めて、一日も早く着工すべきであると思いますが、農林大臣の御所信を承りたいと思います。先ほどの御答弁では、急速に着工するよう努力をいたしますとおっしゃいましたけれども、大体どの程度早められるかの見通しをはっきり承りたいのございます。(拍手)
また、その内容の問題でありますが、聞くところによると深山ダムに力を入れて、計画上は新木野俣川の土地改良は粗末なものらしいとうわさされていますが、せっかくの総合土地改良の計画でもあり、防災の意味からも十分お考えになって悔いのないものにすべきでありますが、この点どうお考えになっていらっしゃるか、あわせて承りたいのでございます。
さらに、農業用水利の維持、改善については、国が責任をもって常時点検すべきであると考えるものでありますが、農林大臣はどうお考えになるでしょうか。
次に、遺族の補償についてお尋ねをいたします。
労働大臣は、現地記者会見の際、昨年十一月から労災保険法が改正され、農民も任意加入で動力機械による農耕作業の事故については適用されることになったが、この事故を契機として、土地改良関係の事故についても農林省と協議して検討したいと発言されております。これは大切なことです。なぜならば、今回のように一度に多数の犠牲者は出していませんが、一年にあちこち六十名近くの土地改良関係で犠牲者を出していることが伝えられているからであります。さらに、今日の日本農業は、その生産性を向上するためにも、ますます機械化が急速に進展し、同時に農薬の使用も多くなることが予想されるのでありますが、それに伴って事故も当然増大することとなります。したがって、農民に対する労働災害保険法の全面適用が緊急に具体化されなければならない段階にきております。土地改良への労災法の適用も含めて、労働、農林両省はどのような検討を加えておられるか、明確に両大臣の御答弁を承りたいのであります。(拍手)
さらに、現実的な問題といたしまして承りたいのは、今回の事故に対する労働災害保険の適用の問題であります。
若干の事実経過を申し上げますならば、事故の発生した二日前、つまり七月六日の土地改良区の理事会において、労働力の提供について、一議員が、労災はどうなっているのかと聞いたところ、書記がいわく、今回の仕事を請け負った谷黒組で手続をしているので、心配ないと言いましたと報告しております。しかも、頭上からの土砂くずれを心配して、谷黒組は保安帽を買ってあるから、だいじょうぶだと強調したことまで、つけ加えて報告されております。その際、この書記が役場の職員の兼務であったために、契約書がどのように処理されていたかまで調査できなかったことは、無理からぬことと理解できるのであります。しかも、理事会は、補助金の関係で、土地改良事務所へ一時までに報告をしなければならないために、大急ぎで会議を終了したのであります。
以上の経過から見ますと、土地改良区と谷黒組との間には請負契約があり、そのうちの一部労働力については、契約書の問題はともかくとして、事実上の労働契約があったことは明らかであります。すなわち、この工事は村民が総出動して道路の清掃作業をするようなケースと異なり、村民の労働力の提供は、谷黒組との請負契約の内容として、労働賃金が組み込まれていたことは明らかでありますので、そこには労働契約が存在したと断定しても決して過言ではないのであります。しかも、先ほどの経過にもありますように、労災適用の問題については、理事会において確認されているのでありますから、たとえ谷黒組の手続がおくれたとしても、また、手続上に不備の点があったとしても、これらの農民に対して、労災保険の適用をすみやかに措置されるよう望むものであります。労働大臣の賢明なる御答弁を承りたいのであります。
このことに関連してお伺いしたいのでありますが、今回の被災によって、入院、通院されている人たちの治療費の問題であります。申すまでもなく、一酸化炭素中毒による疾病は、すでに三池炭鉱の例に見られるように、中枢神経系統の障害であり、それは全身障害となる可能性が多いのであります。したがいまして、一酸化炭素の中毒患者に対しては、労災保険法ですら不十分であり、私たち社会党は、一酸化炭素中毒特別措置法案を国会に提出しているのであります。こうした観念からも、政府は、早急にこれらの治療者に対して労災保険法を適用し、かつ、新たなる立法措置を講ずることが必要と考えるのでありますが、労働大臣はいかなる御所見をお持ちになっているか、前向きの御答弁を伺いたいのであります。(拍手) また、今回の事故の被害者には、多くの女性が含まれておりますが、労働基準法第六十四条において、女子の坑内労働への就業を禁止しているのであります。にもかかわらず、こうした坑内労働へなぜ女子が参加したかといえば、政府の農業政策の失敗、小農切り捨て政策、あるいは農産物価格の保障がないところから、所得格差を埋めるために、多くの男子の農民は、やむを得ず出かせぎに出ているからであります。しかし、農民にとってみれば、夫がいないからといって、たんぼの水を放置しておくわけにはいきません。そうしたせっぱ詰まった気持ちはわかるにしても、それ以上に人命が尊重されなければならないのであります。だからこそ、労働基準法が女子の坑内労働を禁止しているのであります。そうした意味においては、今回の事故に際しての労働行政上の責任は、きわめて重いといわざるを得ないのであります。(拍手)労働大臣は、今後どのように行政的措置を強化されるのか、御所見を承りたいのであります。
合同葬も終わり、落ちつくにつれて、村では、だれにもぶつけることができないもやもやしたものと、また、今回の事件のきびしさを、今日ひしひしと感じている空気がみなぎっております。表面は不気味な静けさがただよっていますが、遺族とそうでない家庭の間には、深刻なものが流れているのです。たとえば、庭にほうっておいた麦が腐りかかったので、これをこいて片づけたり、テレビを見たりするごくあたりまえのことが、あの家は事件に関係がないからいいなというような声になって、あちこちから自然に流れてきているのです。狭いところですし、その悲しみはとうてい言い尽くせないことですから、しかたがないとは思いますが、このままほうっておいては、また次の問題が起きてくるのではないかと、心配でたまりません。それというのも、働き手を失って、あすからの収入がとだえ、どうしたらよいのかととまどっている家庭が多いのです。夫を失った十七世帯の家庭の中には、老母と三人の子供をかかえて、さっそく子供の高校通学をやめさせなくてはならない家庭をはじめ、たくさん問題のある家庭ばかりでございます。働き手があっても、乳飲み子を含めて五人の子供を残して犠牲になった月井アサノさんの家では、この乳飲み子が夜ごとに母の乳ぶさを追って泣きやまず、六十四歳の祖母は疲れ果てている状態です。政治の貧困から生じた人災の結果、こんな悲惨な家庭をたくさん出したのですから、一日も早くこの方たちが立ち直るような方途、特に生活保障を考えてあげなくてはなりません。総理大臣のお考えを承りたいのでございます。(拍手)
近代国家と高度成長政策を誇る佐藤内閣の皆さん、農民と水という、最も初歩にして最も大切な、しかも単純なことが忘れられていたのです。三十三歳の小沼信夫さんという働き手を失ったおとうさんは、私の顔を見るなり、農村では一粒の米をつくるにも水が入用です、そして、その水のためには、私のうちのむすこのような犠牲者を出さなければならないのですと言って、すり切れた畳の上にぽろぽろと涙を流しておりました。
私たちは、みんなでこのことばをかみしめなくてはなりませんが、政治の責任の地位にある総理に、特にこの際、全国にある僻地、僻村、特に山間部の農村を点検し直し、愛情のある、血の通った政治を断行されんことを強く要望し、犠牲者になられた方々の御冥福を祈り、また、病気で休んでいらっしゃる方々の御全快を祈りつつ、私の質問を終える次第でございます。(拍手)
〔内閣総理大臣佐藤榮作君登壇〕