糸川英夫の発言 (予算委員会)
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○糸川参考人 ただいま高木教授から、東大宇宙航空研究所長並びに科学技術庁の宇宙開発推進本部長としての日本の宇宙開発全般の御報告がございましたが、私は鹿児島県の内之浦にあります東京大学鹿児島宇宙空間観測所で今日までどんな成果が得られましたか、つまりそのアチーブメントのダイジェストを聞いていただきたいと思います。
三つございまして、第一は宇宙観測でどんな発見が宇宙で行なわれたかということなんであります。よくいままでに何発ロケットを上げたかという質問を受けますが、私どもは、上げたロケットの個数や上げた高さを誇るわけにはいきせんので、どれだけ宇宙で新しい発見を行なったか、宇宙の秘密をどれだけわれわれは獲得したかということが評価の主目的だと考えているのであります。非常にたくさんございますが、きょうは、そのハイライトみたいなものを七つ選びましてお聞きいただきたいと思います。
一番目が、いわゆるエックス線星の発見でございまして、一部新聞にも伝えられましたとおり、星の中にはエックス線しか出さない星があるのではないかという、非常に一部の科学者が数年前からそういう妄想を持っておりましたが、こういう星はかりに宇宙に存在していたとしましても、エックス線が全部空気層で吸収されますから、地上では絶対に見ることができない。つまり見えない星なんでありますが、これがもし存在するとすれば、ロケットの上にエックス線カメラを載せましてこれを上層に打ち上げて、空気のないところでエックス線撮影をすれば、その星の姿がとらえられるはずではないかということで、東大の内之浦で何個かのロケットがエックス線カメラを積んで打ち上げられました。ほとんど時期を同じゅういたしましてアメリカのホワイトサンズでエックス線カメラを積んだロケットが打ち上げられましたが、両方のエックス線カメラは、いずれも日本人科学者が開発したものでございます。そこでかなり方向が正確にわかりましたので、岡山の東大天文台が特殊なフィルターを使って、エックス線星を非常に長い時間かかって露出しまして、撮影に成功いたしました。続いてアメリカのパロマの天文台がやはりこの星のエックス線撮影に成功いたしまして、日米科学者と四つの実験所の共同で初めてエックス線星が発見されたのであります。この正体はいまだにわかっておりませんので、いままで星が生まれて死ぬ、いわゆる星の輪廻ということがいわれておりますけれども、そのいままでの理論で知られている限り、どうもエックス線星というのは理屈に合わないのでありまして、そういうものが宇宙に存在しているということは、われわれがいままで、星がなぜ生まれて死ぬかというプロセスの理論的根拠を根底からあるいは変えなければならないようなものであるかもしれない、今日宇宙科学で最も大きな課題を投げかけたわけでございます。きわめて最近の話であります。
二番目は、夜、空をごらんになりますと、星も月もないのにかかわらず空が明るく見えます。あれは大気上層にあります酸素が光を発するのですが、赤い色の光を発します。これは一定の高さの非常に薄い層にだけ発光層があるのじゃないかということがいわれておりましたが、その層の高さがいままで明確にわかっておりませんでしたのを、日本の観測ロケットで初めてこの高さを明確に観測いたしました。二百八十キロメートルの高さであることがわかったのであります。
三番目は、電気には流れる電気と、とまっている電気がございまして、流れる電気を電流といい、とまっている電気を静電というのでありまして、地球のまわりの宇宙空間には、静かな電気のたまりみたいなものがあるということはわかっておりましたが、実は理論的に考えますと、静かであり得るはずがない。静かなものには必ず波が立つのではないかということがいわれておりまして、波があるのではないかということが理論的に予見されておりましたのを、やはり内之浦からの観測ロケットで初めてこの波を発見いたしました。ことしありました国際会議で日本代表からこれを発表されまして、たいへんな反響を呼んだ発見でございます。
それから四番目には、短波通信に使います電離層でありますが、この電離層もいままでスタティック、つまり静的で、非常に静かな層のように考えられていたのですが、その中に非常な擾乱があるということをやはり発見いたしました。
五番目には、内之浦から上空を観測いたしますと、高さ千四百キロメートルのところからプロトロンとデュートロンの数が非常にふえるという現象が発見されました。これは、つまりバンアレン放射能帯の一番下側のところが、鹿児島の上空では千四百キロメートルの高さから始まるということが初めて確認されたわけでございます。
六番目には、黄道光——黄道面と申しますのは、地球が太陽のまわりを自転運動しているのは一つの平面に乗っておりますが、その表面上に非常にたくさんの粒子があって光を出しております。この観測に、やはり日本の科学者が初めて日本の観測ロケットを使って成功いたしました。
七番目は、まだ済んでおりませんのですが、テレビカメラを使って非常に高い上層の風をはかろうということであります。これは、従来外国が、地上に置いたカメラで上の風の観測をやっておりましたのを、地上のカメラですと、曇ったときに雲で遮断されて上空が写せないものですから、テレビカメラをロケットの上に載せまして、雲の上に出てしまって、それで上層の風をはかろうという非常に野心的な計画でございます。これは各国からいま日本が注目されている技術の一つでございまして、これが成功しますと、世界中がこの技術を使うことになると思います。
以上のような実例を申し上げましたのですが、非常にたくさんの発見が外国においても行なわれておりまして、秋どもは、こういうものが総合されて新しい宇宙観というものが生まれることを最終的に願っております。今日すでに私どもが持っております材料を積み重ねましても、かつてニュートン、アインシュタインが持っておりましたところの宇宙観とは全く違った宇宙観をわれわれは持っておりますが、決してまだ完全な宇宙観ではない。たとえば、エックス線星の発見によって宇宙の理論が根底からくずされようとしているようなこともございまして、もっともっと完全な宇宙観というものを持ちたいというのが最終的な任務でございます。
こういう観測あるいは発見をいたしますのに二つの調査方法がございまして、地球を東京の都心と考えますと、放射状に出まして、放射状の道路に沿って観測をするやり方と、環状道路に沿って環状にぐるぐる回りながら観測するやり方と二つがございます。放射状道路のほうを観測ロケットといい、環状道路に回しますものを人工衛星と呼ぶわけであります。したがって、宇宙空間に放射状道路の観測ロケットの線と人工衛星の環状ルートの網の目を張りまして、宇宙の中のいかなる秘密も余さずに探りたいというのがわれわれの意図するところなのでございます。したがって、人工衛星が決してオールマイティではございませんので、放射状道路、環状道路が組み合わさって初めて宇宙のいろいろな秘密がわかるものなのであります。
そこで、前者の放射状道路をはかります観測ロケットですが、これはまっすぐに地球から出まして、またまっすぐに放射状道路に沿って戻ってまいりますので、もちろんできるだけ遠くにまでいくものがほしいわけであります。それからたくさんの計測器を積むものがほしいわけであります。そのために、いま日本が持っております一番優秀な観測ロケットはラムダ3H型という、通称L3Hと称するロケットでございますが、これは高さにしまして千八百キロメートル、それから計測器の搭載量が二百三十キログラムございます。これに匹敵する外国の観測ロケットを、ことし出ました日本物理学会の会誌の表の中から探ってみますと、アメリカにアストロビー一五〇〇という観測ロケットがございますが、これた高さが千九百キロメートルで、計器搭載量が七十キログラムでございますので、ラムダ3H型に比べてやや性能が劣るのではないかと思います。それからソ連のはわかりませんのですが、フランスが、表に載っております範囲では、高さの最高が五百キロメートルでございますが、この九月に高木所長と私とヨーロッパへ参りましたときに、フランスの学者から直接聞いたところでは、ごく最近千キロメートルの高さまで上げて調査をやったということでございます。ただし計測器の重量が二十キログラムしかなくて、とても日本のラムダ3Hにはかないませんでしたという報告でございましたから、ラムダ3Hは、あえて世界第一位とは申しませんけれども、世界で最上部にランクされる観測ロケットであるという自信を持っております。
それから、あと残るのは人工衛星でございまして、網の目を完成するための環状道路をこれから建設する工事のプランを立てているわけでございます。先ほど高木先生の御説明にありましたとおり、そのためにミューロケットという大型のロケットを使用する計画を立てて、その地上設備がすでに鹿児島に完成いたしておりますが、ミューロケットはいままでの観測用ロケットに比べて何ぶん値段がたいへん高いのであります。こういうものを上げて、つまり軌道に入れようとして失敗しますとたいへん大きな国費の損失になりますので、いままで開発したカッパー、ラムダという小型ロケットを使いまして、できるだけ完全な軌道に入れる技術の練習をしておきたい。そしてミューロケットを使いますときには一発目から軌道に入れたい。そういう考えから昨年、今年度二カ年にわたりましてカッパー10型ロケット二個、ラムダ4型ロケット三個、合計五基をこの技術の開発に投入いたすことにいたしました。すでにカッパー10型二個は発射されて所期の目的を達しましたが、本年度この技術開発のために投入されるラムダ4型Sのうち第一号機がこの九月に打ち上げられたわけでございます。
御承知のように、日本は人工衛星を上げますのに外国から技術を導入したり、あるいは習いに行ったりすることをしておりませんので、全く日本の科学者の自分の頭脳でその技術を考えて、手探りでございますけれども見つけ出そうとする努力を続けております。したがって、非常にたくさんの地上試験や何回かの予備試験の後にでなければ、人工衛星を軌道に乗せる技術は完成できないものと思っております。九月に打ち上げましたラムダ4型S一号機は九つの目的をもって上げられましたのですが、その中には人工衛星の軌道に入れるということ自体は含まれておりません。これは直接の目的ではございませんが、九つの目的のうち六つが完成されまして、所期の目的が得られましたのですが、残る三つについては資料が得られておりませんので、この十二月にもう一度同じ型のものを上げまして、残った三つの検討を行なうわけでございます。さらに、来年の三月にそれらを集積いたしましたもので実験を行ない、でき得ればここらで小型の人工衛星を実際に入れてみまして、人工衛星を軌道に入れる技術を完成し、一九六八年、つまり昭和四十三年の春に、四十二年度予算の末期でございますが、来年度予算の最後に打ち上げを予定されておりますミューロケット打ち上げまでには、このカッパー、ラムダを使いまして軌道へ入れる技術を全部完成いたしたいと考えておるのでございます。
以上、御報告を終わります。(拍手)