田上穰治の発言 (外務委員会)

⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。 詳細は利用規約をご確認ください。

○田上参考人 これは、先ほどから申しておりまする旅券の制度が、憲法十三条の国民の権利、生命、自由その他の権利を国家が尊重しなければならない、最終的に国民の生命、自由保護の責任を負うということから、条約を結んでおる国々の場合には、比較的にその責任を果たすことが容易であり、相手国との間の条約上の権利義務がございますから、そのほうからこの保護についての裏づけができるわけでございます。また、承認関係国との友好を促進するというふうなことも、これも条約を尊重する義務というふうなことから、これは憲法九十八条第二項にございますが、当然のことでありまして、ただ、私の希望するところは、現在まだ条約を結んでいないと申しますか、いわゆる未承認国というものができるだけ近い将来に少なくなるように、すなわち、世界のほとんどの国とすみやかに国交が回復される、そうなれば、おのずからこのような差別が消滅するわけでございまして、そういうことを希望するものでございます。
 次に、多少問題になるところとしまして、いわゆる横すべりに関する罰則という問題がございます。これは御承知のように、渡航先を追加する義務が、従来から旅券法第八条にございますが、これについてもしこの手続をとらないで、渡航先を明確にしないで、その国、その地に参ったような場合には、結局旅券法違反ということでございますが、従来はこれについて罰則がなかった。今回の改正法案には罰則がございます。こうなりますと、先ほど申しました包括的な渡航先の記載というふうに今回からなるといたしますと、未承認国へ渡航する場合に、渡航先がその点旅券に明示されていない。その結果、罰則が適用されるということになるわけでございます。つまり、この点が未承認国へ渡航することにつきまして、この改正法案が新しい制限を加えた、規制を加えたといえるところでございます。これにつきましては、しかしながら、もし罰則がないといたしますと、現行の制度であると、渡航先を追加する義務というのは、義務に違反してもほとんど道義的なものでありまして、法律的には何らの不利益を受けないという結果になるのでございます。つまり、旅券の没収もないし、あるいは将来における旅券の発給を拒否するということにもならない。したがって、これは単に法律的な義務というよりも、むしろ道義的な義務というふうになるわけでございます。しかしながら、渡航先を明確にするということは、初めに申し上げた旅券制度の一つの重要なポイントでございまして、外国に国民が出かけるときに、どこに行くか、あるいはいつ出かけるかということは、政府に対して明確にする義務がある。これに対して政府のほうでは、その渡航した国民について最終の保護責任を負う、こういうたてまえでございます。したがって、その意味におきまして、私は、罰則をつけることは必要であると考えております。
 ただし、問題は二つございまして、その罰則の程度がどういうものか。一つの考え方は、先ほどは触れませんでしたが、外国に日本国民が出国をする場合に、旅券がないあるいは確認を受けないような場合には――確認というか、承認を受けない場合には、一年の懲役、十万円の罰金というのを限度とする相当きびしい罰則がございます。あるいは旅券を申請するときに、虚偽の事実を記載して申請したというふうな場合には、従来からこれまた一年の懲役、三万円の罰金を限度とする相当きびしい制裁がございます。それとの比較において、今回の罰則は三万円となっておりますが、どうかと申しますと、私はこれ以上きびしく罰する必要はない、それは、大体の考えが一種の行政上の秩序罰、秩序犯的なものと考えるのでございまして、刑事犯のごときものとはやや性格が違う。また、旅券制度の根本から申しましても、第一には、海外に出かける出国そのものについての規制というものがまず前提でございまして、その次に、いずれの国に、どこの地におもむくかということについて、政府と十分連絡をし、了解を得なければならないというのが第二段として考えられるわけでございますから、そういう意味においても、この旅券の証印なく、あるいは旅券なく出国する場合とは程度においてかなり違ったものであると思うのでございます。
 それから第二点として、やや重要だと思いますのは、一度このような渡航先を隠して、いわゆる横すべりをいたしまして処罰された場合に、処罰となりますと、将来は旅券の発給を受けることができない、こういうおそれがございます。この点は、私は当局におかれて慎重に扱うべきだと思うのでございます。海外渡航の自由というのは憲法二十二条で保障されております。むろん、これは先ほどから言っておる旅券制度によって示されるように、公共の福祉に反する場合には制限を受けるということは私ども考えているのでございますが、さればといって、一度この点で渡航先追加を怠って横すべりをしたために罰せられて、罰金刑はそれほどではないと思いますが、それによって永久にその人が将来旅券の発給を拒否されるということになりますと、その限りでは、いずれの国に対しても渡航できなくなる。渡航の自由がその人についてはほとんど絶対といいますか、完全に奪われるようなおそれもないわけではございません。したがって、私は、この改正法案に反対ではなくて、罰則の必要は考えるのでありますが、しかし、これを旅券法十三条の第一項と結びつけまして、その場合に常に、このような違反があって罰せられたときに、当然旅券が将来は発給が拒否されるというふうにしてはならない、これは行き過ぎであると思うのでございます。たとえば再犯のおそれがないと認められるような場合には、旅券の発給も認めるべきではないか。現行法は旅券の発給を拒否することができるとありまして、拒否しなければならない、当然に拒否されるという条文ではございません。したがって、この法案なりあるいは法律の運用にあたりまして、慎重な考慮が払われるべきであり、もしこの点で解釈を誤りますと、むろんこれは訴訟において争われ、裁判所の審査を受けることになるわけでございますから、そういう意味において当局が軽たしく発給を拒否しないようにということをお願いしたいのでございます。
 なお、もう少し時間がいただけるようでございますが、旅券法案の十九条に返納命令の規定がございまして、その中に、在留邦人の一般的信用または利益を著しく害しているために渡航の中止をさせ、帰国させる必要があると認めるときには、外国におりまする邦人、渡航者に対して旅券の返納を命ずることができるという条文が新しく加わったのでございます。これはいろいろ過去に、最近におきましても在留についての弊害があるようでございまして、外国におきましても、やはり日本の国民に対しては、公共の福祉に反する場合に、憲法で認められた自由について必要な限度における規制を加えることはできると考えるものでございます。したがって、滞在国、在留しておりまする国の一般国民の秩序を破壊するような場合は、これは滞在国の問題でございますから、わが国が法律によって取り締まるわけではございませんが、在留邦人並びに渡航者の保護のために必要な限度においては、公共の福祉の要請から、ある程度の制限を加えて、つまり、渡航した者が帰らなければならないようにするということもやむを得ないと思うのでございます。しかし、むろんこれはやはり国民の憲法二十二条の権利に関するものでありますから、訴訟上の救済は当然与えられるべきであって、それは帰国後において訴訟で争うことを許す。したがって、この点も、やはり当局が裁量権を乱用しないように、この法案の運用にあたりまして慎重な態度を希望するものでございます。外交上、むろんそういった場合には、在留しておりまする国との関係において、当局に裁量の余地が残ることはやむを得ない。外交上特に著しく害があるというふうな場合、そういう影響、関係も出てまいりますから、一般的信用、在留邦人の利益を著しく害するという場合には、単純な国内における行政処分とはやや違ったものでありますけれども、しかし、人権の保障に関係のあることは当然でありまして、そういう意味において、訴訟上裁判所による審査の対象となり得るものであり、したがって、この条文の運用にあたりまして慎重な配慮を希望するものでございます。
 それでは時間が参ったようでございますから、あとは御質問がありましたらお答えしたいと思いますが、一点だけ繰り返し申しますけれども、憲法二十二条におきまして、海外渡航の自由というのが保障されている。それは一体どこに書いてあるかということですが、私どもは一応通説に従いまして、第二項の海外移住の自由というのが書いてございますが、それに含めて類推して憲法の保障を認めるものでございます。しかし、その場合に、第二項には「公共の福祉に反しない限り」ということが書いてない。二十二条第一項には書いてあるということから、一部の学説としては、第二項のほうは無制限の自由が保障されている、いかなる意味においても法律によって規制することはできないのだという説がありますけれども、判例また通説は、二十二条第二項の場合あるいは海外渡航の自由についても、一定の限度で、憲法十三条に示されておるような「公共の福祉に反しない限り」という一般の制約を受ける、かように見るのでございますが、この点は時間の関係で簡単にいたしまして、ただ現行法もそのようになっているということを申し上げておきます。
 なお、もう一点は、法務省との関係がございますが、直接これは法案と関係ございませんが、外務省と法務省との関係、もし御質問ございましたらお答えいたしますが、時間になりましたので、一応これをもって私の意見を終わります。

発言情報

speech_id: 106103968X03019690703_004

発言者: 田上穰治

speaker_id: 10934

日付: 1969-07-03

院: 衆議院

会議名: 外務委員会