平井博二の発言 (外務委員会)

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○平井参考人 私は、現在日中貿易業界で実際に旅券を利用し、あるいは使用しております体験上から、この問題についての意見を申し上げたいと思います。
 この法案を読みまして第一番に感じましたことは、手続の非常な簡素化ということでございますけれども、実は私ども日中貿易その他四カ国との貿易を行なっているものは、非常に複雑な手続をいままで要請されておりましたために、これが改正されるのであれば非常に賛成であるわけでありますけれども、実際にこの法案の内容を読んでみましたところ、実はそれに名前をかりまして、むしろ特定の国に対する差別を非常に強化しておるのではないか、もう一つは、特定の国に対する渡航をより一そうきびしくしておるのではないか、こういうふうに考えるものでございます。
 具体的に申し上げますと、第一点は、五年間有効の数次旅券というものを今後全面的に取り入れる、こういうお話でございますが、これにつきましては、私どもはこの内容を読みまして、旅券法の部分的な改正ではなくて、むしろ新しい旅券法ではないかというふうに考えるわけでございます。いままで私どもが参りますたびに、毎回ごとに旅券の申請もしくはその前の複雑な趣意書の手続というものをやっておりましたのですが、今度五年間できるということは、五年間しなくてもよろしい、こういうことになるわけでありますから、いままでとは全く――山下部長のお話をかりますと、新しい制度というふうに私どもは感じております。その場合に、その考え方の根拠となっておりますものが、つまり、五年数次にわたって御本人に旅券を渡しつばなしで自由に使っていただく、こういう政府答弁がございました。これをお聞きしまして、なるほどいままでとは全く違うということを感じたわけです。したがいまして、この中で、五年間どこへ行かれてもかまわない、つまり、どこの国へも五年間は自由に行ける、こういうお考えでございます。ところが、私どもがよくこの法案の内容並びに外務委員会におきます大臣と山下さんの御答弁を伺いましたところ、それを実行しない国、つまり、五年間有効の数次旅券を出さない国というのがある。法文の上では、外務大臣が指定する範囲内の渡航先、こうなっておりますが、これを大臣のおことばをかりますと、北朝鮮と中国と北ベトナムと東ドイツ、こういうふうになっております。私どもは、どういうわけでこの四カ国がこのような差別を受けるのか、こういう気持ちをまず持つわけでございます。このおことばの中では、未承認ということばがございましたけれども、この四カ国以外にまだ未承認の国はあるはずでございます。なぜこの四カ国だけ差別するのかという点は、どうしても合点がまいりません。いろいろ私どものほうで検討いたしました結果、これはこういう立場ではないか。つまり、中華人民共和国を承認しないで、いわば台湾におります蒋介石グループを承認するという問題、それから朝鮮民主主義人民共和国政府を承認いたしませんで、いわゆる韓国を承認しておるという問題、それからベトナム民主共和国政府を承認しないで、いわゆる南ベトナムを承認しておる、こういう立場。最後にドイツ民主共和国政府を承認せず、ドイツ連邦共和国政府を承認している。この立場からこの四カ国が排除されている、こういうふうにしか考えられないのであります。したがいまして、この四カ国を差別するというお考えの基礎には、つまり、この四カ国に対しては絶対に承認しないという立場、そういう立場が貫かれているのではないかというふうに考えるわけであります。
 たとえば現在までの旅券法を拝見いたしますと、やはり二年間有効の数次旅券がございました。しかし、この数次旅券はむしろ特定の用務ということが重点になっておりまして、特定の国に行くか行かないか、国による差別というものはむしろ書いてございません。今度の新しい旅券法の場合には、まさに国によって差別をするという考え方がここにまず第一に貫かれているのではないか、こういうふうに考えるわけでございます。しかも、その差別の根拠と申しますものは、いま申し上げたような政府の態度というところから生まれているのではないか、こういうふうに考えるわけであります。
 第二点は、いわゆる渡航先の追加の問題でございます。いま申し上げたように、今度は旅券というものが五年間有効で、いわば商用であろうと観光であろうと、自由に行っていただく、こういう政府御答弁のお話のような内容でございますと、そしてまた、その記載の中に包括記載というのがございまして、全世界地域、こういうことになりますと、その旅券を持っておりますならば、全世界いついかなるときでも、相手国がよろしいといえば自由に行ける、こういうふうになっております。ところが、先ほど申し上げた四カ国に対しましては、従来どおりのシングル旅券ということでございますが、もちろん、そのうちにシングル旅券を出してない国もあると思いますが、このシングル旅券しか出さないということになりますと、先ほども田上先生のお話のいわゆる横すべりという問題でありますけれども、これは全世界地域の包括旅券を持っております者にとりましては、この四カ国を除いて横すべりというふうな問題は全然ございません。したがいまして、渡航先の追加というふうな問題が起こります国はどこかということを考えてみますと、これはいま申し上げた四カ国しかないのではないかというふうに考えられるわけであります。つまり、この考え方の中には、やはりこの四カ国に渡航しようとする場合、どうして全世界地域の中にこの四カ国を含めないのかという問題でございます。この四カ国をはずすということになりますと、五年有効の数次旅券を持っております者でも必ずその追加を申請しなければならない。現在私どもの体験しておりますことでは、この申請はとても一週間やそこらでは終わるものではなくて、二十日から四十日もかかっております。貿易業界にとりまして、現在しょっちゅう世界に出ております。そして貿易の必要上に応じまして、いろいろな国に飛ぶ必要はしょっちゅう起こっております。まして、国交のない国との貿易関係をどういうふうに発展させようか、このように民間は努力しておるのでありますから、いろいろのときに生じました必要性から、たとえば中国から朝鮮に行く、あるいはベトナムに行く、あるいは東ドイツに行く、こういうふうな問題は当然起こり得る問題でございます。したがいまして、これは商売上からいきましても、他の国と何ら変わりのない問題でございます。しかし、これでまいりますと、必ずこの四カ国で、たとえば北京におきまして――私どもは北京にしょっちゅう行っておりますけれども、そこのベトナムの代表部あるいは朝鮮の代表部、そういうふうなものとの接触の中から、急拠商売をしなければならないという場合になりましても、この法案からまいりますと、現在では二十日から四十日間、たとえば香港にまで出まして、そして申請をして、また戻ってきて行かなければならぬ、こういうふうなことになっておるのであります。特に横すべりの問題につきましては、いわゆる横すべりという考え方自身について申し上げたいと思います。と申しますのは、一体、横すべりということが悪いことなのかということでございます。私どもにしてみますと、相手国がどうぞいらっしゃい、こういうふうに言っております。ただ、たまたま私なら私の持っております旅券にその相手国の名前が書いてない。しかし、相手国はそれでもかまいませんからどうぞいらっしゃい。それに行くということがどうして悪いことなのか、私どもにはわかりません。片一方では、五年間有効の数次旅券で世界じゅうどこの国へもいらっしゃい、こういうふうな態度をとっていらっしゃりながら、この四カ国の中で、ある一国がどうぞいらっしゃいといったときに、旅券に書いてないからこれはいかぬことだ、こういうふうな考え方がどうしても私どもにはわからないのでございます。
 先ほどやはり田上先生のおっしゃった罰則の問題でございます。考え方としてはいま申し上げたような点でございまして、それに対して罰則が全く新しくつけ加えられております。しかもこの罰則というものが、私ども法案を読みましたときは、ただ三万円の罰金と、こういうことかと思いまして、よく読んでみましたところ、たとえばそれに違反した場合には、旅券の返納命令、十九条が発動できるようになりました。また、旅券の効力無効宣言、つまり十八条が発動できるようになっております。さらにまた、没収することができる、二十五条の発動もできます。そしてまた、今後の旅券の発給やあるいはそのあとの渡航先の追加を禁止することもできる、十三条、こういうふうにまでなっております。どうしてこの横すべりという問題について、いままでよりもかくも格段に罰則を強化するのかという点が、私どもにはどうしてもわからないのでございます。戦前の旅券規則を拝見いたしましたけれども、これにもこのような罰則は書いてございません。したがいまして、私どもは、この罰則というものが現実にどこの国へ行こうとする人間に適用されるのかということを考えましたときに、これはこの四カ国に行く人間に対して適用される、こういうふうにしか考えられないのでございます。
 それから第四点といたしましては、利益、公安条項の問題がございます。実はこれは別に改正前の法律と違っている点ではございませんけれども、私どもにしてみますと、この旅券法の第十三条の第一項五号のところに、一般旅券の発給制限の項目の中に、「日本国の利益又は公安を害する行為を行う」場合に旅券の発給を制限するというのがあります。これは私どもが調べました範囲内では、現在の旅券法が作成されましたときに、当時の島津政務局長の御答弁によりますと、「御懸念のように、そのときの政府の政治的な考えで左右されるということは万々ないわけであります。」こういう御答弁がございました。しかし、これがどこに適用されたかということを考えてみますと、私どもの記憶では、一九六六年の夏に、中国に青年交流で行こうという青年約六百人近くだったかと思いますが、この人たちに対する旅券の発給がこの条項によって制限されております。しかもその根拠は、当時の白幡移住局長の答弁によりますと、閣議の決定ということでございます。これは私どもの理解では、明白に政府の政治的な考えできまったとしか言いようがないように考えております。したがいまして、今度の改正でこのような利益、公安条項をなぜ削除しなかったのか、こういう点がまず考えられるわけでございます。
 第五点といたしまして、先ほども田上先生の触れられました旅券の返納命令の中で、新しい項目がつけ加わっております。つまり、「渡航先における日本国民の一般的な信用又は利益」これは文章を読む限りにおきまして、あるいは御答弁の中であったかと思いますが、たとえばこれは破廉恥罪であるとかいうものであるというふうなお話も聞いております。しかし、先ほど申し上げました利益公安条項、こういう問題と考え合わせてみました場合に、それからあとで申し上げます渡航趣意書というような差別の問題と合わせて考えてみましたときに、この条項がどういうふうに利用されるか。たとえば私どもが北京におりまして、北京の日本人の集会なら集会もあります。その中で、現在の政府に対する批判的な言動をいろいろ出した、こういうふうな場合に、この国民の一般的な信用に該出する、こういう判定が下されないということにつきましては、いままでの実績から見まして、私どもはどうしてもこの保障が必要である、このように考えております。したがいまして、このような条文を新しくつくったということ、これが私どもいま申し上げたようなことに利用されるという懸念を非常に強く持っております。
 第六番目に、新しくできました外国滞在届けというのもございます。これもいろいろお聞きしましたところ、動乱があったときに、そのときの邦人の動向をつかんでなければいかぬとか、こういうふうなお話がございました。しかし、これもこの旅券の名義人で外国に三カ月以上滞在するものについては、届けを当該もよりの領事館に出すということになっておりますが、この国交の回復してない四カ国の場合には、あるいはその他の未承認国の場合には、どの領事館をお使いになるか、これは存じませんけれども、こういうふうな届け出を出すということによりまして、実はこれは事務の円滑化というふうに説明の中で書いてありますけれども、これも先ほどから申し上げております横すべりをかくも厳重に禁止しているという問題、それから事前審査を依然として強硬にやっておるという問題、こういうことと考え合わせてみますと、これはいわば中国など四カ国に対する渡航者の動向を掌握し統制する、こういうふうにしか考えられないのでございます。
 第七番目に、渡航趣意書の問題を申し上げます。これはおそらく御存じない方があるいはいらっしゃるかもしれません。これば私どもが中国などへ参ります場合に、法律にも何にもございませんけれども、外務省から共産圏渡航趣意書なるものを要求されます。しかも、これは十五通現在要求されております。この渡航趣意書というものはどの法律に基づくものかということを私どもは調べてみましたけれども、どこにもございません。ただ、昭和四十一年の広田移住局長の答弁によりますと、行政上の便宜でとっておるというようなお話がございました。これを出さなければ実は私どもは旅券申請すらできない状況に置かれております。現在中国などへ行きます場合には、十五通の渡航趣意書というものと、さらにそのほかに相手国の招待状、インビテーションを要求されております。これも十五通要求されております。このこまかい内容をもっと申し上げますとたくさん時間をとるかと思いますので、省きますけれども、この渡航趣意書というものをまず出しまして、現在では比較的多いのが三週間程度の期間を要しております。それから一カ月かかるというのがざらでございます。まあ、はっきり申し上げれば、私どもは航渡趣意書を出しまして、三週間から一カ月かかって、やっとほかの国に行く人と同じような人並みな扱いが受けられる、こういう状況でございます。したがいまして、これは法律にもございませんけれども、このような行政手段は直ちに撤回すべきである、このように考えております。
 以上申し上げましたように、私どもは、事務手続を簡素化いたします、こういうことには賛成でございます。現在、日中間におきまして、春と秋に広東で交易会というのがございます。ここで大体年間およそ三億ドル前後の取引が行なわれております。ここへ毎回千人近い日本の商社なりあるいはメーカーの方々が行かれております。この毎回ごとにただいま申し上げたような渡航趣意書を出しまして、そしてまた、今度は新しい法案になりましても、年に二回必ず行くということがございますのに、ほかの国とは違って、五年数次はもらえないで毎回毎回申請しなければならない、こういうふうな状況に置かれておるわけでございます。したがいまして、私どもとしては、事務の簡素化ということでは別にかまいませんけれども、それに籍口いたしまして、実はいま申し上げたような四カ国に対する差別が現実に非常に強化されておるという点、それから先ほど罰則その他でもありましたように、これを取り締まるという面が非常に強化されている。こういうことを強く感じますので、この法案に対しては私はほんとうに反対でございます。
 これが私の意見でございます。

発言情報

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発言者: 平井博二

speaker_id: 32422

日付: 1969-07-03

院: 衆議院

会議名: 外務委員会