田上穰治の発言 (外務委員会)
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○田上参考人 御質問、まことにごもっともでありまして、私が承認関係国、未承認国と申しましたのは、たぶんそうなるだろうというふうなことで申し上げたのであります。別に法案に書いてあるわけではないと思います。
ただ、ただいまの御質問にお答えしなければなりませんが、海外渡航の自由、あるいはこれは広い意味において旅行、居住移転の自由にも結びつくものでありまして、人権の一つであることは当然でございます。しかし、その人権であるがゆえに無制限、いかなる意味においても規制できないというわけでないことは、もう御承知のとおりでございまして、それが憲法の上では公共の福祉に反しない限りというふうに私どもは解釈しております。もっとも、これは先ほど申し上げました二十二条の第一項の場合の「公共の福祉に反しない限り、」という意味ではないのでございまして、第二項の海外移住の自由という項の中にもし含めるといたしますと、直接その二十二条には限定がございませんが、これは判例、学説において大体一致しておるところで、一般的に憲法の保障する個人の自由についても、公共の福祉に反する場合に必要な最小限度において制限を加える可能性がある。具体的にどの条文、いかなる場合にということになりますと、さらに個別的に申し上げなければならないのでございますが、そういう意味において、結局ただいま御指摘の承認、未承認ということよりも、法律論としては、旅券法十三条の一項五号の解釈、運用に帰すると思うのでございます。この点で、結局承認なり未承認というふうなことの区別が若干結びついてくると思うのでございますが、未承認国に対して渡航するということが、当然にはいまの旅券発給拒否理由に該当するとは私も考えないのでございます。けれども、これに関連しまして、未承認といえば、つまり、条約関係、国交が回復されていないということになりますと、そこに承認関係の国とはかなり違ってくる。つまり、条約上の結びつきのある国でありますと、相手国におきましても相互に条約を尊重する義務がございます。そういう意味において、わが国がその相手国に対して、国民の保護のために必要な措置をとる、要求をするという場合に、これが相手国においてその要求を条約に従って慎重に考慮するということになるわけでございますが、条約関係のない国でありますと、その点が必ずしも明確でないし、当然には保障されない。そこで、御指摘のように、未承認の国の場合には、常にわが国民が渡航した場合に保護されないのかというと、そういう抽象論というか、一般的にはわれわれも考えないのでございます。しかし、これはやはりケース・バイ・ケースで考えなければならないのであって、一般論として、どこの国とか、あるいはいつの時代、時期とかいうふうなことを離れまして、一般的には、この承認関係の国に対する渡航とで区別が出てくることはやむを得ない。しかし、御指摘のとおりに、未承認の国に対する渡航であるから、一律に同じようにきびしく規制するとか、あるいは当然に渡航、旅券の発給を拒否する、こういう結論にはならないのでございますし、また判例におきましても一つ、東京地方裁判所の、三十五年でございましたか、判決がございますが、未承認国に対する渡航であるからということだけで、その理由のみをもって旅券発給を拒否するということは、ただいまの旅券法十三条一項五号の不当な拡大解釈であるというふうに申しております。下級審の判決でありますが、この趣旨には私も賛成でございます。しかし、だからといって、この未承認の国に対する渡航が承認関係の国に対する渡航と全く同じように扱われなければならないかというと、かなり条件というか、事情が違っている。その意味で、一方には五年間の数次往復旅券を出すということがありましても、一方の未承認国に対する場合にはシングルな旅券を出すというふうに、従来どおりの扱いといたしましても、この差別は必ずしも憲法の、法の下の平等に反しない。法の下の平等というのは、何ら差別する理由のない場合、つまり、不合理な差別の場合に憲法違反とするのでありまして、ただいま申し上げましたように、条約の関係によって、日本の国が、相手国に邦人が滞在するときに、これを保護するについての有利なある程度の保障のある場合と、そうでない場合とによりまして、差別を設ける一それも程度によりますが、ある程度の差別を設けることは、憲法違反と考えないのでございます。
それから、いろいろ御質問がこまかくございまして、一々お答えするのがあるいはできないというか、漏れているかと思いますが、その点はあとで御指摘いただきまして、外務当局、外務大臣が、ただいまの国益、公安条項でございますか、それを適用して旅券の発給を拒否するということになっておることは、非常に乱用のおそれがあるという御指摘でございます。私も、できるだけこのような規定は条件を明確にすることができれば、立法技術的に見て好ましいと思うのでございます。しかし、若干私の感想を申し上げますと、これは旅券法にはそれほどその点について特別な規定が見えないようでございますが、権利の救済制度につきましては、その後、御承知のように三十七年の十月以来、行政事件訴訟法の規定も国会を通り、実施されているのでありまして、たとえば、先ほどほかの参考人のほうの意見の中にもございましたが、中共あるいは北鮮に対する旅券の発給を申請した、ところが、外務当局のほうでははっきり拒否はしないけれども、しかし、その申請書の受理を容易にしないとかいうふうなお話がございます。事実を私は存じませんけれども、もしかりにそのような発給の申請をし、その申請を受け付けない、あるいは受け付けても直ちに措置をしない、拒否あるいは発給するということをきめない場合には、現行の訴訟法によりますと、不作為の違法確認の訴えという道も新しく開かれているわけでございます。かつての二十八、九年あるいは三十年代の初期に見られたようなそういう場合とは、救済の手続法はかなり改善されているわけでございます。また外務大臣の判断が誤っているという場合には、むろん御承知のように訴訟で争い、裁判所の審査を受けることができるのでありまして、この点は、若干入管法のたてまえとは違っていると思うのでございます。国民の場合と外国人の場合とにおきまして、憲法のほうから申しますと、二十二条が適用されるかされないかという相当の違いが出てまいりますが、旅券法の場合には、国民の海外渡航でございますから、むろん憲法の二十二条が正面から適用されまして、したがって、その行政当局の裁量権の乱用の疑いがある場合には、訴訟上の救済によってこれを直すことができるし、また、将来のそういう事態に対しては、判例によってかなり明確にその点の是正はできると思うのでございます。また、先ほどもちょっと申し上げましたが、承認、未承認という区別は、これは現実にはそういう国によって違いがあることは明瞭でございますが、ここでは、私は外交のほうの特別の専門というか、その立場ではございませんけれども、結局、先ほど申しました海外渡航の自由がどういう場合に制限されるか、あるいは現行の旅券法の十三条の規定などがはたして人権の規定から見て合憲であるかどうかというふうな問題につきましては、結局公共の福祉に反する場合はどういうことかということできまると思うのでありますが、国内の国民の生活につきましては、ほとんどの国法が適用される状況でございます。ところが、海外に渡航いたしますときには、その国民に対しては一般のわが国の国法はかなりの場合ほとんど適用されなくなる、身分的な属人的なものを除きまして適用されなくなる。そこで、公安関係という御指摘がちょっとあったかと思いますが、そういうものについては、これを一応旅券法のいまの発給拒否の条項の中に入れる必要があると私は考えるのでございます。また、国益ということばははなはだ不明確でございますが、これは日本の国家の利益ということでございますが、民主政治あるいは国民主権ということから見まして、国民の総意によって運営される日本の政治あるいはその意味における国家の立場というものが、特に外交関係におきまして――これも先ほどほかの方から御指摘があったかと思いますが、いまの中共でありますとか、北鮮のような場合でありますと、同じ国の中に別の政権が樹立されている。これをどういうふうに評価するかはむずかしい外交の問題でございまするけれども、そういう場合に、一方の政権とはわが国が条約で承認の関係にあるし、他方はそうでないといたしますと、その間の調整はどうするかということは、一般の未承認国の場合とかなり違うと思うのでございまして、そういう場合に、これはだから渡航する国民個人の保護の問題から少し角度が違ってくるのでございますが、渡航によって生ずる国益にはたして害がないかどうか、こういう判断でございますが、この点は非常に私としてはむずかしいし、またはなはだ遺憾なことだと思うのでございますけれども、現実には要するにまだ国交回復してない国がある間は、そういう差別が出てくる。その場合の判断は外務当局だけでなくて、結局これは同時に裁判所の審査ということも考慮いたしまして、そのような意味で慎重に考えなければならない、かように先ほどから申し上げたのでございます。あるいは答弁が不十分かと思いますが、なお御指摘をいただきましてお答えしたいと思います。