山王丸茂の発言 (社会労働委員会)
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○山王丸参考人 私、山王丸でございます。
御高承のとおり、昭和四十五年の九月八日に中賃から、それまでの最賃行政に関連してみると相当前向きな姿勢の答申が打ち出されたわけでございます。この答申の内容はもうすでによく御承知かと思われますけれども、ちょっと関連するところを申し上げてみますと、この時点では、中小企業労働者を中心として、七百万人を超える労働者が適用労働者としてあったわけでございます。基本的な考え方として、最低賃金制度は、「労働経済の変ぼうのなかでこれに即応し、なんらかの原因で、なんらかの形で存在する不公正な低賃金に対処し、有効に作用するものでなければならない。このためには、労働市場の相場賃金と密接に関連した実効性ある最低賃金でなければならない。従って最低賃金は、労働市場の実態に即しかつ類似労働者の賃金が主たる基準となって決定されるようなあり方が望ましく、それは低賃金労働者の保護を実効的に確保する面でも現実に適応するものであると考える。」というふうに触れておるわけでございます。現在、労働四団体の最賃法に関する賃金決定の基準の考え方と全く同じ考え方が、四十五年のこの答申の中でも触れておるわけでございます。また「最低賃金はすべての労働者が何らかの形でその適用をうけることが望ましい。従って、まだ適用をうけていない労働者についても適切な最低賃金が設定され、全国全産業の労働者があまねくその適用をうける状態が実現されるよう配慮されるべきである。」この推進に当たっては「労働市場に応じ、産業別、職業別又は地域別に最低賃金を設定することを基本とするべきである。」そして「この場合、低賃金労働者が多数存在する産業、職業又は地域から逐次最低賃金を適用し、すべての労働者に包括的に適用を及ぼす」という答申が出まして、全国の都道府県では労働省の指導と相まって、この方針にのっとって今日まで非常な努力をしてまいったわけでございます。その結果、現在、すなわち本年の三月三十一日現在では、産業別に三百七十二件、地域別には四十六件、適用労働者の数は三千二百六十一万四千人と、ほとんどわが国の民間労働者の数を占めるように相なったわけでございます。
これは、最低賃金が、賃金、物価等経済情勢変化の中で実効性を確保するための改定が行われてきたものでございまして、特に昨年度、昭和四十九年度におきましては、全国の都道府県でそれまでに決まっていたもの、あるいは改定されていたもの全部について改定を行いまして、労使、公益三者構成の最低賃金審議会、いわゆる地方最低賃金審議会の非常な努力によりまして、四十九年度中にほとんど前向きに改定されたという実績も出ております。私も地方最低賃金審議会の委員をやっておりますけれども、四十九年度中に従来のものをそっくり改定するということのためには、労働側も使用者側もあるいは公益の先生方も大変な努力をしたわけでございます。
なお、現在、御高承のとおり非常な景気の冷え込みでございまして、また低成長経済に突入しておるわけでございますが、しかも雇用情勢は悪化して、なかなか緩和されておりません。今年度に入りましてから今月までにさらに最低賃金額の改定に前向きに取り組みまして、業種、地域合わせて、今年度に入ってから現在までに二十件の諮問がすでに出されております。
私のおります福島県では、昨年の八月七日発効の地域最賃はまだ一年たっておりませんけれども、今月の十三日の審議会の席上、基準局長から地域最賃の改定の諮問が出されまして、早急にこれと取り組むということを決定しておりますし、また七つの業種別の最低賃金につきましても、小委員会を設けて改定の方法その他を検討するということが決定いたしております。恐らくこの傾向は、先ほど二十件と申し上げましたけれども、今後全国の都道府県で相当出てまいるのではないかというふうに思われます。従来から特に労働側では、賃金相場あるいは生計費というものを基準としてこの最低賃金制度の改定等に関しましては非常に強く主張してまいりましたし、私ども使用者側は、何と申しましても企業の支払い能力を無視するわけにはいかないという観点から臨んでいる場面が非常に多くあったわけでございます。申し上げるまでもなく、一たび最低賃金制度が、いわゆる法制化されたものが決定いたしますと、この支払いの責任は企業のみの責任でやらなければなりません。何らの保障も援助もないわけでございます。しかも、守られなければ罰金刑といういわゆる罰則も伴っておるわけでございます。したがって、最低賃金制度設定の趣旨は十分理解しておりますものの、やはり企業の支払い能力、そういうものを無視するわけにはまいりません。元来、最低賃金制度とは、これ以上安く人を使ってはならないというぎりぎりの線のいわゆる最低賃金を決められるわけでございまして、実態はいわば社会保障的な賃金というふうに私ども理解しております。したがって、労働市場の実態に応じまして、最低賃金の額が決まってもそれぞれ実態に応じた上積みをすることはもちろん一向差し支えないわけでございまして、とかく最低賃金制度というものが何か雇用賃金の相場、いわゆる賃金相場的なものに誤解されやすい面もあるように存じております。
最近、労働側から出されております一日二千八百円、七万円という全国一律最低賃金制度の額について考えてみましても、何かわが国全体の雇用賃金相場のレベルアップをするというような感じを私どもは受けておるわけでございまして、私どもが理解している、先ほど申し上げました社会保障的な賃金で、全くこれ以下で人を使ってはならぬという最低賃金制度の本旨からはちょっとかけ離れたような額という感じがするわけでございます。まして現在の中小企業の置かれております労働市場の中におけるいろいろの実態あるいはまた支払い能力、そういう面からも、いま触れました金額ではとても実現不可能ではないかというふうに感じております。
また、賃金というものは労働の対価として支払われるものであるという原則、これは何人も認めざるを得ないのではないかと思いますが、そこで、労働の対価として支払われる賃金に関連しまして労働の質というものが問題になってまいります。申し上げるまでもなく、コンベヤーに乗っかって、いやおうなく働かされる労働の質もございましょうし、軽労働、重労働あるいは頭脳労働、肉体労働、あるいはまた、地方によく見受けられる実態でございますけれども、農山村に多いわけですが、そこの付近の家庭のいわゆるおばちゃん方あるいは相当な年配の人たち、おじいさん、おばあさん、そういう人たちが、小遣いでもかせいで孫に何か買ってやる、全くその程度の現金収入があればいいんだというようなことで、きわめて軽い、しかも非常に気ままな勤務状態、好きなときに出てきて好きなときに帰る、用事があったらいつでも帰ってしまう、そういうような実態の労働の質も現実には相当あるわけでございます。これは私どものおります福島県内にも——必要とあらばもっと具体的に申し上げますけれども、そういう事例が、最低賃金の決定に当たって実態調査の結果明らかになったということもございます。
また、物価の問題であるとか生計費の問題というものも、よく賃金に関連して当然決定基準として論議されますけれども、この物価そのものにもいろいろ問題がございますし、また、生計費等につきましても、物価が上がったから即生計費がそれだけかかるというわけでもなく、これはその環境によってかなり生計費も違ってまいります。
そういうこともございますし、いろいろな実態、特にわが国の中小零細企業の労働市場の中における実態の地方と中央との格差、あるいは業種別の賃金だけでも相当な格差が現状ではございます。自由主義経済体制のもとにおける現在の日本の中小企業の宿命的ないろいろな実態一つを考えてみましても、いまの段階で全国一律最低賃金制度を設定するということは、私はまことに時期尚早ではないかというふうに存じます。もしあえて、この全国一律最低賃金制度を設定するとすれば、そう無理な形でなく、先ほど来申し上げましたような労働市場の実態の中で、支払い能力その他も十分勘案して、守られる線ということになると、きわめて低い金額にならざるを得ないんではないかと私は思う。そういうことでは、いまこの制度の改定を要請している方々は恐らく納得しないと存じます。そうかといって、相当のレベルアップした額ということになりますと、支払い能力のない企業に対する保障の問題をどうするかということが出てまいります。現行の最低賃金制度がかつて設定された当時から、中小企業関係から、これらに対する保障とか援助の問題が出ておったわけでございますけれども、今日まで、直接最低賃金制度の実施に関連して予算措置を伴った保障、保護助長策というものはなかったわけでございます。相当の高額の全国一律最賃制がもし出たとなりますと、支払い能力のない、たとえば先ほど申し上げましたような、ほんの片手間にお小遣いをかせげばいいんだというような労働力を使って、その補いを家族労働でしながら、労使とも全くこれでいいんだという状態で細々と経営をしている業界も現にあるわけでございますが、それは極端な例と申されるかもしれませんけれども、こういう零細中小企業に対する保障という問題が私は無視できないと存じます。もしこれをやるとなると、全国的に相当の金額も必要と思われますし、またこれらの実態を調査するための人員の配置、整備というものだけでも大変なものになるのじゃないかと思われますし、まず理想で、現実には実現困難ではないかというふうに存じます。
現在、冒頭に申し上げましたように、全国の地賃、いわゆる地方最低賃金審議会の三者構成の各側委員の非常に前向きな努力の結果、業種別、地域別の賃金の格差も縮まりつつありますし、相当の実績を伴う向上を遂げておるわけでございまして、私は、いまの段階であえて全国全産業一律最低賃金制度をやる必要はないのではないかというふうに存じます。
以上、簡単でございますが、私の意見を申し上げました。(拍手)