下村和之の発言 (社会労働委員会)
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○下村参考人 下村でございます。
最初に御紹介いただきましたように、私は全国中小企業団体中央会の労働専門委員でございます。同時に岐阜県の中小企業団体中央会の会長をいたしております。また、私自身小さな鉄工所を経営しております。また、岐阜にございます工場団地の理事長として七十数社の組合員を抱えて、その指導をしながら企業を営んでおる者でございます。
ことしの春闘におきまして、労働四団体の統一要求として全国一律最低賃金制の確立ということが取り上げられておることはよく承知をいたしております。また、このことは全国中小企業団体中央会に対しまして、労働四団体からこれが実現に協力するよう要請を受けておるということも承知をいたしておるわけでございます。
現在、最低賃金は、先ほどの参考人も申し上げましたように、地域別、業種別に全国の労働者に対してほとんど適用がなされておる状態でございます。しかし、これらの金額は調査の時点、地域、業種等によってかなりの開きがございます。調査の時点の問題はともかくといたしまして、地域別、業種別に開きがあるということは、それぞれ各県の地賃の中で審議をされておる場合に、それぞれの実情に応じてきめ細かく勘案をされて決まった金額でございまして、いわゆる地域の実情とか業種の実情を反映しておるわけでございます。これをいま全国一律でならそうといたしますと、それらの実情を無視をすることになりまして、大きな混乱を起こすおそれがあります。特に低賃金層を抱えております中小企業にとりましては、より大きな混乱を引き起こすのではないかということを憂慮いたしておる次第でございます。したがいまして、私たち中小企業者の立場としては、これには絶対に反対でございます。
最低賃金は、最低賃金法の目的の中にありますように、賃金の低廉な労働者の賃金の最低額を保障することにより云々ということになっておりますが、低賃金というのは一体どれだけが低賃金なのか、これはもういろいろ議論の分かれることであろうかと思うわけでございます。この低賃金は一体どういうものかということでございますけれども、これも四十五年の中賃の答申にありましたように、いわゆる労働市場の相場賃金に密接に関連して、不公正な賃金に対処するということになっておるわけですから、いわゆる低賃金といいましても、単純にどこが限界かわからない額ではなくして、不公正なものを排除するというのが目的ではないか。そういうことになりますと、いわゆる労働市場をどうとらえるか、あるいは賃金の相場をどう見るかということになってくるかと思います。
賃金の相場というのは、普通に平均賃金だとか、あるいは学卒初任給だとか、あるいは賃金の中位数だとか、あるいは何分位数だとかいうことをよく言われますけれども、ここで言う賃金の相場というのは、そういった特定のポイントをとらえて考えるものではない、こういうふうに思うわけでございます。賃金をある階層に分けましてその分布をつくってみますと一定のパターンがございまして、いわゆる労働市場の相場というものは、そういった一つの形をなして分布しておる諸状態そのものが一つの相場ではなかろうかと私は思うわけです。そういうパターンをはずれて存在しておるような賃金が不公正あるいは不当な賃金であろうかと思うわけでございます。高いところへ飛び抜けて存在しておるようなものは、全体の公正という立場からいけば多少抑えなければいけない問題が起こるんじゃないか。それから低い方の立場にあるものがいわゆる不公正な低賃金であって、この最低賃金法というのは、こういった不公正な賃金を救済する、あるいは排除する、取り除く、そういった効果をねらうべきものではないか、こういうふうに思うわけでございます。
それから、労働市場をどうとらえるかということでございますけれども、労働を物にたとえるということは私は必ずしも賛成はできませんが、あえて物にたとえるとすれば、いわゆる労働者の生活の基盤、居住、これを中心にいたしまして、移動、流通の可能な範囲内に限るべきだろうと思うわけであります。北海道から沖繩まで同じ労働市場だというふうな考え方をとるべきではない、こういうふうに考えるわけでございます。現在、最低賃金の設定は、大体地賃の範囲内で決めておるわけでございます。
私のところは岐阜でございまして、いわゆる太平洋側の部分と日本海側に近い部分、いわゆる山岳農村地帯があるわけでございますが、一つの最低賃金を決めようという場合においても、いわゆる岐阜等を中心にした市部と、それから山村部ではかなりの開きがある調査が出ておるわけでございます。かつて最低賃金を決定するある業種につきまして調査をしまして、一つの企業の中でこれにひっかかるのが七割も八割も出てきておるような企業も、中小企業でありますけれども、存在しておるわけでございます。すでに一県の中においてすらこういった差が出てくるわけでございます。いわんや全国を一つの、一本の市場と考えて一つの不公正な賃金を決めるための労働市場を設定するといったようなことは、これは不可能ではないか。額が低ければいいんだという先ほど御意見もありましたようでありますけれども、私は観念的に、全国一律最低賃金制というものは制度としては反対でございます。
また、こういうふうに考えますと、不公正な低賃金を排除するということですから、これはいまや雇用との条件の中で決めるものではなくして、いわゆる社会保障的なものでありますから、社会的性格を帯びた賃金でございます。
したがって、これを決めるにつきましては、現行ではいわゆる最低賃金審議会の答申を得て決めることになっておるわけでございますが、審議会の構成は御承知のように公労使三者構成でございます。しかし私は、労働側は労働者の直接の交渉の代表ではないと思うのです。使用者は使用者としての交渉の代表ではないと思うのです。いまや最低賃金というのは社会的な賃金でございますから、労働側は労働者の内部の事情によく精通しておる経験者であり、使用者側は事業の経営の実態を詳しく知っておる経験者である、そういう立場で、社会的な最低賃金を決めるための意見を述べるということであります。これではどちらかへ偏るおそれがあり、また話し合いが、意見の食い違いが大きく出てくる場合もありますから、これに公益側の社会的な公正な立場で、学識経験豊かな委員が加わって、その三者でこれを審議決定をするという形ではないかと思います。いわゆる審議会において公労使の多数決で決められるというところに意味があるのでございます。同等の立場でございまして、ですから、これはいわゆる通常の賃金の労使の交渉、労使の話し合い、こういったことで決めるべき性質のものではないのではないかと思うわけでございます。
話が戻るかもわかりませんが、最低賃金は労働市場の相場の実態に対応して、不公正な低賃金を排除するというのが目的でありまして、相場を押し上げる働きを期待するものであってはならないと思うわけでございます。労働団体の方の要求は最低賃金の額が月額七万円とか六万円とかいうことに聞いておりますが、現在の最低賃金、かなり幅広く広がっておりますが、平均ぐらいのところをとって、仮に日額千八百円くらいと考えましょうか、もし七万円とか六万円とかいう月額にするということは、六割または九割くらいのアップをしなければならない。ところが賃金というのは一つの配列の中にあるわけでございますから、最低賃金だけが別のものではないわけです。最低賃金がもし大幅に上がれば、いわゆる一人前の、あるいは正常な相場の中における賃金も押し上げざるを得ない。その上げ幅は小さいにしても、こんな六割も九割もアップをさせようと思えば、少なくとも平均のところでも四割とか五割ということをアップしないと、労働者のいわゆる能力を正しく評価して、それにふさわしい格づけをしていくということにならない。そうすれば、一般の労働者の勤労意欲をそぐ、いわゆる努力をスポイルするといったようなことになりかねないのでございます。ですから、最低賃金というのはそういった全体の賃金を押し上げる性格を持たせるべき性質のものではないのではないかというふうに考えるわけでございます。あくまでいわゆる一つの賃金の配列という相場の中から取り残された不公正な取り扱いを受けておる賃金を取り除くためのいわゆる歯どめとなるべき賃金であると考えるのが私は至当ではないか、こういうふうに思うわけでございます。
さらに、一般に賃金を決める場合に、通常はいわゆる労働者に働いていただきまして、あるいは資本とか技術とかいろいろなものとの完全な協調の中で価値を生産するわけでございますから、いわゆる価値の生産の寄与の割合に応じてやっぱり賃金というものは格づけされていかなければならないと思うわけでございます。
現在中小企業は非常に労働力の確保がむずかしいのでございます。やむを得ず比較的質の低位の労働でもうまく適材適所に配分いたしまして、そうしてこれを活用いたしておるのでございます。いわゆる中高年齢層を多く使っているのも中小企業でございます。また婦人だとかあるいはお年寄り、多少質的に弱い労働も使わざるを得ないし、これも適材適所にうまく使っておるのが中小企業ではないかと私は思うわけでございます。もし最低賃金が高くなり過ぎますと、企業としてはその賃金に見合う労働をしていただかなければなりませんし、そうなりますと、中小企業としては労働の選択の範囲を狭められるおそれがありますし、また労働者の方から言えば雇用の機会を失う、こういうことになりかねないのでございまして、最低賃金の額の決定というものは、あくまでいわゆる不公正なもの、不公正なところへ置かれるものを排除するという立場で考えなければならない。相場があって最低賃金があるのでありまして、最低賃金があって相場ができていくというものではないのであります。
そういう私の考え方から考えますと、いわゆる全国一律最低賃金制というものは、もちろん現在の企業、特に中小企業の健全な事業の経営を阻害するおそれがむしろ出てくるのではないか、かように考えるわけでございまして、全国一律最低賃金制はまず反対でございますし、また、最低賃金というものは社会的な性格の賃金でございますから、労使の交渉によって決めるべきものではございます。また、相場があって最低賃金があるのであって、最低賃金があって相場をつくっていく性格のものでないということを申し上げまして、私の意見を一応締めくくらせていただきます。ありがとうございました。(拍手)