岡村省三の発言 (社会労働委員会)

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○岡村参考人 紹介を受けました総評の岡村であります。私が参考人として意見を述べる立場を最初に申し上げてみたいと思います。
 御存じのように、ことしの春闘におきまして総評、中立労連、同盟、新産別の労働四団体が、最低賃金制度についての統一要求を提出をしています。これを基礎にしまして社会、共産、公明、民社の四党が共同法案を作成をいたしまして本委員会に提出していることはすでに御存じのことだと思います。私の立場は、このわれわれの要求及び四党案が一日も早く成立することを願う立場から意見を申し上げてみたいと思います。
 最初に私たちの要求であります。要求は、一つは最低賃金の決定方式についてであります。最低賃金の決定方式は、全国一律の最低賃金を法制化すること、この一律の制定に関連しまして、実効性の上がらない産業、業種、地域についてはその一律の上に上積みをするということであります。二番目の決定方式は、労働協約の拡張適用を制度化する、こういうことであります。
 それから二番目は、最低賃金の決定基準であります。最低賃金の決定に当たっては、生計費賃金事情を基礎にして決める。しかも、御存じのように日本の賃金なり生活条件というのは毎年一回春闘を中心にして改定をされているわけでありますから、最低賃金についても毎年改定をする、これが決定基準であります。
 三番目が決定機構であります。決定機構については、現状の最低賃金審議会ではなくて、最低賃金を決定する権限を持つ最低賃金委員会を設置をするという考え方であります。しかもこの委員会は、第一に中央及び地方に設置をするということ、それからその構成については労使同数の委員と少数の中立委員で構成をしたいということであります。第三は、委員の推薦については労使はそれぞれの関係団体が推薦をし、中立委員の選出については労使の同意を必要とする、こういう考え方に立っているわけであります。
 私たちがこういう要求を出した背景には、大別しますと二つの理由、それから一つの考え方があります。
 その大別して二つの理由という一つは、日本の低賃金、低福祉水準の存在ということであります。時間の関係もありますから簡単に申し上げますと、戦後の自民党を中心とする保守党の政策の基本構造というのは、私なりに理解すれば、対外的には安保体制に依拠しながら国内的には高成長、高蓄積、これを全面的に支援をする、こういう立場に立って進められてきたと思うのです。そういう中で、成長の余禄を、部分的に低賃金とか低福祉水準など社会的な矛盾にばんそうこうを張るといいますか手当てをする、こういうものだったと思うわけであります。
 御存じのように日本は、特に昭和三十年代以降世界に類例のないような高成長を遂げたわけであります。今日資本主義社会においては世界で第二位の工業水準に達しているわけであります。この工業水準に達するまでの過程でどういうことがとられたかといえば、国なり地方自治体が、挙げて産業基盤の整備、たとえば道路だとか港湾だとか土地だとかというような整備に狂奔するし、金融とか税制の面で優遇策をとるし、当然、国民生活の維持という立場から言えばやるべき課題である交通だとか、住宅だとか、教育だとか、社会保障の充実だとか、こういうことをネグレクトして政策が遂行された。しかも、今日社会的にも問題になっている公害その他企業が当然負担すべき社会的な負担についても、これを放置するという政策がとられたわけであります。しかも御存じのように、日本は明治以来、戦争中の一時期を除きますと、労働力の余っていた国であります。優秀な労働力が低賃金で存在をする、これを最大限活用して今日の成長を遂げたというのが私は実態だろうと思います。したがいまして、時間の関係もありますから細かいことは別にして、日本の今日の低賃金水準というのは、工業生産水準が世界第二位という実態にもかかわらず、アメリカはむろんのこと、ヨーロッパの先進諸国に比べても賃金は低い、しかも物価が異常に高いという中で、生活水準全体から見れば世界で十数番目という状態に置かれていることは皆さん御存じのとおりであります。
 この低賃金という問題と同時に日本で特に私たちが注目しなければいかぬのは、この低賃金水準の中で格差問題が存在するということであります。これも御存じのように、三十年代前半では、特に内外から指摘された問題として二重構造の存在ということがあったわけであります。大企業と中小企業、本工と臨時工ないしは男女における格差、こういうものが非常に大きく存在したわけであります。三十年代後半、春闘が定着をしまして、われわれとしては春闘相場というものを形成してこの格差の縮小、賃金水準の引き上げに努力をした結果、統計的に言いますと、昭和三十四年の一番格差の開いた段階から、四十年代に入ると、ある程度格差の縮小ということに成功してきたわけであります。
 ところが、政府を中心としてとられた政策を見てみますと、三十年代後半から四十年代にかけて、たとえば農業基本法なり中小企業基本法なり、積極的な労働力流動化政策という名のもとに新しい日本の低賃金層が創出されたということが指摘できると思うわけであります。
 御存じのように、今日の産業構造というのはきわめて重層的な下請構造であります。しかも新しい低賃金層として臨時工なり社外工なり季節工なり出かせぎないしはパートという、こういう差別雇用と低賃金が多数存在しているわけであります。こういうことは、今日の日本の状況で考えた場合に、果たして社会的に許されていいのかどうか、これが私は一番大きな問題点だろうと思うのです。われわれ労働組合としても、みずからの力の弱さがこういうものの存在を許したということについては率直に反省をしたいと思いますけれども、私は、社会的に許されていいというようには考えないわけであります。
 しかも四十年代後半からインフレが非常に高進をする、狂乱物価という中で労働者なり国民の生活が非常に不安に陥れられる。そういう中で、労働者なり国民が立ち上がるとどういう政策がとられたのかと言えば、御存じのように、総需要抑制という中から大量の失業者がつくり出されるというのが一つの方向であります。同時に、もう一つの方向は何かと言えば、インフレの犯人を賃金ということに仕立て上げて、したがって、そういう中で賃金か福祉かということで労働者と国民の分断を図る、ないしは賃金か雇用かということで労働者内部の矛盾を突いてくる、こういうやり方をいまとられているわけであります。要するに、このインフレの被害を労働者なり国民なり中小企業なり農業の犠牲によってくぐり抜けようというのが今日とられている政策だろうと思います。
 そういう歴史的な経過を踏まえて、果たして一体全体最賃行政というものがどういうものであり、その実態はどの辺に問題があるかということを次に指摘をしてみたいと思うのです。
 御存じのように、昭和二十二年に最賃法が制定されました。その中には、二十八条から三十一条にわたって最低賃金制についての規定があったわけであります。ところが、これが具体化されるまでには十年以上もたなざらしになっていたという経過があります。三十四年にいわゆる業者間協定による最賃法というのがつくられたわけであります。この中心は九条及び十条であります。この九条及び十条というのはどういう決定方式であるかと言えば、業者団体が勝手に一方的に労働者の初任給を決定をする、これを最低賃金審議会にかける、ここで多数決で押し切る、これが当時の最低賃金の主要な決定方式であります。私たちは、これが次のような問題点を実は含んでいるというように考えます。
 一つは何かと言うと、労働者の労働条件決定に当たって一方的に決定するということは、労働者の団結権、団交権の否認であるというように考えます。第二番目は何かと言うと、業者が初めから一方的に決めるわけですから、初めから賃金水準に比較して低い。加えて、これは実績によっても明らかなように数年たって一回しか改定をしない、こういうことでありますから、初めから有効性がないものは数年たてばますます実効性がないし、それが果たしている社会的役割りというのは低賃金固定化策以外の何物でもないのではないか、こういう立場をとっているわけであります。
 少なくとも最低賃金というものを考える場合には、国内的には憲法二十五条なり労働基準法一条、二条、国際的に言えばILO条約の二十六号、三十号その他の条約なり勧告があります。この精神が生かされないものは国際的には通用しないわけであります。私たちのそういう追及の中で、実は政府は四十年代に入ってこの法律を改正をしました。それが改正されたものが今日の現行法であります。
 現行法は御存じのように十六条を中心で決定をされています。いわゆる審議会方式であります。しかし、先ほど私たちの要求の際に申し上げましたけれども、審議会というのは、諮問を受けて審議をするというものでありまして、みずから調査し決定するという権限を持っていないという問題点が一つあります。それからもう一つの問題点は何かと言うと、三者構成に表面的にはなっている、ところが、この実態は三者構成ではなくて、二対一の構成だと言って私は間違いないと思います。
 それを具体的な例で申し上げますと、昨年の秋に全国的に地方最低賃金の改定が行われたわけであります。東京の場合には、御存じのように千七百九十四円で決まっております。これは失対賃金の最低下限の金額であります。労使でこの改定のときに詰められた金額は千八百円台の話が具体的に出ていたわけであります。ところが、この金額で最終的に押し切られた背景には、この委員会だったと記憶をいたしますけれども、議論をされたように、労働省の当局が各県の労働基準局を指導して、最低賃金の金額を失対賃金以上には絶対するなという行政指導が行われて、その意向を受けた公益委員がこういう金額を決める、これが全国的な状況であります。だから、地域包括最賃の金額を見ていただけばわかりますように、全国的に失対賃金の金額ないしはそれと幾らも違わない、一けたの円しか違わない金額で決まっている、こういう実態になっています。したがって、名目的には三者構成ということになっておりますけれども、明らかにこれは二対一の行政指導型の最低賃金決定機構だ、こういうことが言えると思います。
 そこで、私たちが要求した最低賃金の要求の理念ないしは発想について一言申し上げてみたいと思います。
 私たちがよく労働省といろいろ交渉する中で言われる言葉について、ここで指摘をしなければいけないと思うのです。それは、最低賃金というのは落ち穂拾いという考え方であります。私たちはこういう考え方には立ちません。非常に低い低賃金労働者の救済という視点といいますか、労働省はこれであると思います。私たちの考え方というのは、次のような考え方であります。それは、憲法で規定をしている健康にして文化的な生活を営む権利、基準法で指摘をしている人たるに値する生活を確保する必要がある、こういう考え方、ないしはILO条約で指摘をされているような考え方を基礎にして今日の日本の状況を考えれば、国民生活重視の政治経済体制をつくっていく、その場合のナショナルミニマム形成の基軸として最低賃金をやはり考えなければいけないのじゃないか、こういうように実は考えるわけであります。したがいまして、労働者には最低賃金、農民の場合には、そういう労働者の生活、賃金を基礎にした生活保障、中小企業の場合で言えば課税最低限の引き上げを通じて最低の生活を確保する、むろん、社会保障の関係で言えば、失対賃金とか生活保護とか各種の年金とかいうのが、そういう関連で内容が当然改善をされる、こういう必要があると思うのであります。
 先ほど経営者側の方から一律について反対という話が出ましたけれども、今日の日本においても、たとえば就労する労働者の最低年齢が規制をされておる、時間が決まっておる。なぜ賃金ができないかということについて、私たちは納得をするわけにはいきません。こういう立場に立っています。
 時間の関係もありますから最後に一言申し上げたいのは、こういう私たちの要求に対して、いつも言われる問題点として企業の支払い能力、ないしはその延長線上から言うと中小企業の限界といいますか倒産というような問題が提起をされます。内容を細かく申し上げませんで、二、三の点についてだけ申し上げておきたいと思うのです。
 私は、総評で二十年にわたって中小企業労働運動をやってきました。中小企業安定審議会の委員もやらしていただいております。政府が出した経済白書なり労働白書その他を読んでみましても、高賃金で企業が倒産した例というのを残念ながら余り知りません。たとえば、ここ二十年にわたる日本経済の成長の中で、景気循環過程で何回か不況がありました。今日はまた低成長への切りかえという中で雇用不安がいっぱい出ております。しかし、中小企業が困難になっておる理由というのは、いろいろ見聞きし読んだりしておる中で明らかになっておることは、たとえば景気循環過程における金融政策から金融的に行き詰まるとか、親企業が下請工賃をたたくとか支払いを延ばすとか、それから大企業が中小企業分野に進出をしてくるとか、ないしは今日の国際経済情勢の中で、発展途上国の追い上げというような中で企業が転業していくとかいう理由が多くあります。特に四十年代に入ってからの問題点は、先ほども指摘がありましたように、低賃金、低福祉では労働者が集まらないというところから転廃業が進んでいるというのが客観的な事実であります。そうだとすると、最低賃金を、われわれが要求しておるようなものをつくることが中小企業の倒産につながるというように考えるのは事実と違っておる、こういうことを私は強調しておきたいわけであります。
 むしろ、いま申し上げたような中小企業の抱えておる諸問題を政策的に解決するとするならば、賃金については最低賃金だとか、世間並みの時間短縮をやるとか、そういうような労働者の労働条件の改善とか福祉という最低の歯どめがあって、初めて有効な政策ができるというように私たちは考えています。今日の状況から考えると、むしろ困難な企業状態を克服するといいますか、低賃金によってこれを乗り切ろうというような考え方は果たして社会的に認められる考え方なのかどうか、しかも今日のような日本を取り巻く経済情勢から言えば、低賃金に依存して企業の存立を考えるというようなことは客観的にできるのかどうか、この辺についても改めて考え直していただきたいというように考えます。
 しかし、とはいえ、私たちは中小企業が困難な事情に置かれておるということはよく知っております。私たちともある面では共通点があります。私たちがこの中小企業問題を問題にするのは、直接的には労働者の労働条件の改善とか、雇用の確保とか、権利の拡大という視点からそういう問題意識を持っております。経営者側の方からすれば、当然企業の存続発展、利益の確保という立場から問題にされるだろうと思うのです。ただ私は、共通点があるというのはこういう面で共通点があると思います。それは、大企業から圧迫をされている中小企業の方々をどうやって守っていくのか、たとえば政策的に言えば、中小企業分野の確保だとか、独禁法の強化だとか、ないしは官公需の確保だとか、下請企業の地位の改善だとかいうふうなことについては私は一致点があると思います。また、金融、税制その他の抜本的な改善の必要性も認めます。
 そういう立場から言いますと、御存じのように私たちは国民春闘を展開をしております。私たちは、中小企業の皆さん方がみずからこういう困難な課題に向かって立ち上がること、したがってそういう面で共通の点があるならば一緒に闘いたいという考え方を持っております。そういう立場から、最低賃金の実施と中小企業の困難な問題というものを変に結びつけることなく、今日の日本の置かれている状況、将来の日本のあり方という問題から大局的に考えて、われわれの要求についてぜひ理解をしていただき、実現に当たっていただきたいことを申し上げまして、私の意見にかえさせていただきたいと思います。(拍手)

発言情報

speech_id: 107504410X02219750617_006

発言者: 岡村省三

speaker_id: 2737

日付: 1975-06-17

院: 衆議院

会議名: 社会労働委員会