丹下洋一の発言 (社会労働委員会)
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○丹下参考人 中立労連の丹下でございます。
私もただいまの岡村参考人と同様に、労働四団体の最賃制についての共同の要求あるいは野党四党の最賃制の根本的な改正についての共同の法案を成立をさせる、こういう観点で意見を述べさせていただきたいというふうに思います。
私どもが最賃制について考えている基盤というのは、ただいまの岡村参考人の考え方と同様でございますので、重複する部分もあるというふうに思いますけれども、幾つかの点で意見を申し上げます。
まず第一に、いままでとられてまいりました賃金政策の問題であります。また経済政策の問題でありますけれども、いまの日本の経済をつくり上げていく上には並み並みならぬ労働者、国民の犠牲があった、その上に初めて日本の経済が高度成長をしてきた、そして、その結果が労働者、国民の生活をあるいは生活の基盤を本当の意味で確立をするという状況ではなしに、むしろ新しい困難を背負わせてしまった、こういうことが大変大きな問題として指摘をされなければいけないのではないかというふうに考えるわけです。
過去にとられてまいりました最賃制の運営等にいたしましても、私どもの立場からすれば、労働省等々が言うように仮に労働者の最低を拾っていく、こういう落ち穂拾いの立場ですらなくて、むしろ高度成長を支えるための労働力の誘導化政策あるいは低賃金政策の固定化、こういう意味で少なくとも客観的には作用をしてきたというふうに言わざるを得ないのじゃないかというふうに思うわけであります。なぜならば、高度成長の結果の中で、わが国は資本主義世界でも第二の工業力を持つような国になったわけでありますけれども、その中で非常に多くの低賃金労働者が存在をする。労働する以上、その労働力を売った金で生活ができなければいけないということになるわけでありますけれども、そういうことすら満足にできないという非常に多くの階層がいるということは統計上も明らかであるというふうに思います。
多少古い統計でありますけれども、四十八年の時点で、雇用労働者の賃金の中位数が八万五千三百円というふうに出ておりますけれども、それ以下の労働者は女子においては九五%、男子においても三八%いる。五万四千円以下の労働者というのは五百六十三万人いる。これは十人以上の規模で、パートを除いておりますから、実質的にはもっとこの層というのが拡大をするという状況になっていると思います。この賃金が、労働者が労働をして、そして生活をするということに本当に足る賃金であるというふうにはだれしも考えないのじゃないかというふうに思うわけであります。
さて、こういう中で行われております現行最賃法の問題点でありますけれども、私どもは二つの点で大きな問題があるのじゃないかというふうに考えております。
その一つは賃金決定の基準であります。現在の賃金決定の基準というのは、労働市場の相場賃金を基準にするということ、あるいは企業の支払い能力を優先させるということ、それらを含めて、結局は一定の額を定めることによってどのくらいの影響率が出るのか、こういうことを基礎にして賃金決定がされているわけであります。しかし、労働力の相場賃金というのは、結局は自然にできてきたものであるし、そのときの労働力の事情あるいは経営の側の労働力に対する要請、こういうふうなものを前提にして、そうした自然発生的なものを前提にして、その最下限をちょっとばかり切って上げていく、こういうかっこうになっているのじゃないかというふうに思うわけであります。
企業の支払い能力がある、そしてそれ以上のものを出すということになれば、その企業はつぶれてしまうか、あるいは労働者の質というものを選定をし、労働者の雇用機会が失われるではないか、こういう意見も大変に強くあるというふうに思いますけれども、これらについても、実はそういう観点に立ってこれらの基準が決定をされているのじゃないということは、いまの時期になれば明らかな問題なのじゃないかと思います。私は食品の労働組合の出身でありますけれども、食品の労働組合の中を見てみましても、大変に低賃金の労働者がいる。そして、低賃金であるから雇用できるのだ、こう言っている経営者もいたわけでありますけれども、この現在の不況の中で、そうした企業から労働者が一時帰休の形あるいは解雇の形でどんどんと締め出されるということになれば、経営者が雇用機会を確保するために一定の賃金水準でやむを得ないというふうに考えたのでないことは明らかであって、むしろ低賃金において企業利潤を確保をする、こういう観点に立って、その主張が賃金決定の基準に大きく作用していたのだということが明らかなのじゃないかというふうに思うわけであります。
二番目の問題点といたしましては、決定方式の問題があります。これについても行政主導型の決定方式でありまして、審議会方式という枠内であっても、労働者の生活の状態あるいは労働者の要求、賃金実態というものが的確に反映をするという形にはなっていなかった。一定の政策目的を持って、そしてそれに基づいて賃金決定の基準がつくられるようにする、こういう機能を果たしていたのではないかというふうに思うわけであります。
こうした問題点に対して私たちの主張をしておりますところは、労働者が企業に雇用される、そして働く、賃金を得る。その賃金というのは、労働者が人間として生活するに足るような賃金、すなわち憲法や労働基準法あるいはILO条約の中に含まれているような、そうした人たるに値する生活を営める賃金、こういうものを基準にして考えるべきであって、自然発生的に企業経営の都合によって生まれてきた賃金相場の下限を切る、こういうものではないのじゃないかというふうに考えているわけであります。賃金というのは元来そういうものではないのじゃないか、こういうふうに考えているわけであります。
しかし、労働力市場の中における労働組合の力がまだまだ非常に弱いということもあって、それを規制する力というのが薄く、したがって非常に極端な低賃金労働者が生まれているということについては、私ども労働組合の立場からもそれなりに考えなければならないところがあるわけでありますけれども、これらの最低基準、労働者が労働者として生活するに値するような賃金を決定をするということは、今日国の責任でもあるのじゃないかというふうに考えるわけであります。
労働基準法の中には労働時間の最低というふうな問題も決められている。賃金というのは、労働時間と並んで労働者が労働契約をする上での最大の要素であるわけでありますけれども、その賃金についてはただいま申し上げましたような形での決定しかされないということでは、今日の社会状況を考えてみると、そういう点での社会の公正あるいは社会正義ということを考えてみると、とうてい許されるところではないのじゃないかというふうに思うわけであります。労働者の一番基本的な労働条件であります賃金がナショナルミニマムとして形成をされていく、そしてそれに基づいて国民諸階層の生活が確保されていく、こういうことが今日の社会的なあるいは政治的な使命だということを特に強調をしておきたいというふうに考えるわけであります。
次にいわゆる支払い能力論の問題であります。これについては、私どもの周りを見てみても、非常に困難な状況に立っている中小企業というのがたくさんあるわけであります。そして、計数的に言えば、賃上げをするというふうなことがその企業に非常に大きな影響をもたらすことがあるということも存じているわけであります。しかし、翻って考えてみますと、この中小企業の困難な状況というのは、単に賃金が問題であるのかというと、決してそんなことはないのじゃないかというふうに実態からしても考えざるを得ないわけであります。非常な低賃金で労働者を働かさせて、そして企業がもっていく、それしか仕方がないのだ、こういうふうに考えるのは政治の立場でないというふうに思いますし、それ以上の現実の問題としては、仮に私ども非常に低い賃金である、しかしそれにもかかわらず倒産をする、こういう企業をたくさん見ているとしますと、あるいは一定の社会状況の中で賃金が上がっていく、その中でも企業が中小企業といえども発展をしていく、こういう現実を反面見ていると、その中小企業の困難というのは、むしろ中小企業を取り巻いている現在の経済的なあるいは政治的なさまざまな形での政策の弱さ、不足、過ちというのが一番根本にあるのじゃないだろうかというふうに考えているわけであります。
そうした問題を除いて、中小企業の問題というのを賃金とストレートに結びつけ、全国一律最賃の流行ということが即中小企業を破壊に導くというふうな議論があるとすれば、これは事実にも反しているわけだし、そういう方向では中小企業の真の意味での発展、基盤をつくるということにはなり得ないのじゃないか。労働者を安く使うことによって、そのことによって中小企業の存立があるのだ、こういうふうに考えていれば、事実とも違うし、社会的な政治的な観点からしても著しく公正に反するのじゃないだろうかというふうに思うわけであります。そこで、私どもはまず全国一律最賃を志向し、その中ですべての労働者が、憲法あるいは労働基準法にうたわれているような意味での賃金を受けることによって労働者としての生活を安定をさせていく、それを前提にして、それでもなお中小企業がりっぱに存続をしていくような政策をさまざまな形で打ち出していく、それが政治の役割りだと思いますし、そういう点から独禁法の問題あるいは金融の問題、財政の問題、税制の問題等々にも同時にメスを入れていくことが必要なのではないかというふうに考えるわけであります。
私どもの要求は、一つは、全国全産業一律最賃制を基本として、その上に産業別最低賃金の一般的拘束力を積み重ねていく、こういうかっこうでまず全国的な底支えをし、その上にさらにそれだけでは問題が解決をしないところにはその上積みをしていく、こういう考え方。それから二番目としては、最低額を決定する権限を有する労使対等の立場での賃金委員会を設置する。三番目といたしましては、最低賃金額は、賃金委員会の算出する労働者の生計費を基礎として、生計費の上昇に応じてスライドする。こういう要求を持っているわけでありますけれども、それらの要求というのは四野党の共同法案の中に盛られているわけでありますから、こうした労働者の、あるいは広く全国民的な要求、要望でもあるというふうに思いますが、これを国会において十分審議をされ、われわれの要求を実現されるようにお願いをして意見を終わらせていただきたいと思います。(拍手)