水野武夫の発言 (公害対策及び環境保全特別委員会)
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○参考人(水野武夫君) 御紹介いただきました、日本弁護士連合会公害対策委員会の水野でございます。
私ども日弁連公害対策委員会は、従来からこの瀬戸内海の問題について重大な関心を払ってまいりました。臨時措置法ができました昭和四十八年に、私どもは大々的な瀬戸内海の調査を行いまして、いまお手元に配付しております「海と国民の権利」という形で報告書をまとめておりますし、あるいは昨年の十月に大阪で開かれました人権擁護大会のシンポジウムにおきましては、「海と海岸線の保護」というふうなテーマでこの問題を取り上げ、それらの成果を踏まえまして今度の恒久法の提案の前に、私どもの案といたしまして、お手元にございます瀬戸内海環境保全法試案要綱といったものを公表いたしまして、この問題に取り組んできたわけでございます。そういった観点から今度の瀬戸内法の改正及び水質汚濁防止法の改正案を拝見いたしますと、正直に申し上げて、私どもが期待をしておりましたものとはかなり遠いということを言わざるを得ないのでございます。時間の関係もございますので、四点だけにしぼりまして、今度の法律案についての意見を申し上げたいと思います。
まず第一は、総合的な管理あるいは規制、こういった点から見て、今度の改正案で十分かどうかという点でございます。御承知のように、瀬戸内海というのは一体となっておるものでありまして、瀬戸内海を全体的にとらえて、しかも海域と陸域とを一体としてとらえて総合的な管理規制をしていかなければならないということは、従来から指摘されてきたことでございます。さらには、瀬戸内海の国民の利用というのは、さまざまな形で利用されております。そういった国民のさまざまな形の利用、それをどういうふうに調整していくかということについても、総合的に考えていかなければならないということもまた指摘されてきたところでございます。
そういった観点から今度の改正案を拝見いたしますと、まず今度の改正案では、基本計画というものを総理大臣が作成しまして、それに基づいて府県知事が府県計画というものを策定するということになってございます。これは確かに現在の府県ばらばらの行政よりは一歩進んだものであるということは評価できると思います。しかしながら、この基本計画に基づいて府県計画というのがまず一体いつごろまでに作成されるのかということについては、法律的には何ら歯どめがないわけであります。御承知のように、四十八年に制定されました臨時措置法が、政府は速やかに基本計画を策定すべしというふうに規定しておりましたけれども、結局五年近くたって初めて基本計画ができたというふうなこともあるわけでありまして、やはり基本計画はいつまでにつくる、それに基づいて各府県の計画というのはいつまでにつくって一斉にそれを出す、そして、その各府県の府県計画をさらに全体的な観点から総合して、もう一度全体的な統一した総合計画をつくると、こういうふうな観点が欠けておるのではないかというふうに考えるわけでございます。
さらに、先ほど岡市参考人の御指摘にもありましたように、こういう府県という単位でこういう計画をつくるのが果たして妥当かどうかということについては、非常な疑問があると思います。私どもの案では、岡市参考人の御意見にもありましたように、一定の海域ごとに地方保全委員会というふうなものをつくって管理していくべきではないかということを提案しておるわけでありますけれども、一挙にそこまでいくのはなかなかむずかしいということはあるかと思います。しかしながら、府県計画を最後にもう一度全体的な形で取りまとめる、統一的に取りまとめるということはぜひお考えいただきたいというふうに考えるわけでございます。
それから第二点は、それと関連いたしますけれども、今度の改正案では、自然海浜保全地区を指定することができるというふうな規定が新たに設けられております。これは恐らく今度の改正案の一つの目玉になっておるのではないかと思います。こういうふうな保全地区を指定して保全を図れということは私どもの主張と一致するところでございまして、これについては一応の評価ができるわけでございます。しかしながら、先ほど高崎参考人あるいは浜崎参考人の御意見にもありましたように、これは府県が条例で指定をするということになっておるわけであります。それじゃ現在そういった自然海浜を破壊していっておるのはだれかといいますと、これはほかならない府県なんですね。したがって、府県が果たしてこういった指定をどこまで有効にするだろうかということが非常に疑問なわけでございます。それに対する担保が何もないわけであります。したがいまして、やはり瀬戸内海の全体的な視野から、現に客観的にそういう形で残っているものは、これは府県の思惑にかかわらず環境庁長官なり何なりがそういう指定をしていくと、そういう形で保全を図っていかなければ、せっかく海浜保全地区の指定といった規定を設けた実効が上がらないのではないかというふうに考えるわけでございます。
さらに、自然海浜保全地区はどういうふうな規制がされるかというのを改正法で見てみますと、一定の行為をする場合には届け出をするということになっております。そして、府県知事はこの届け出に対して勧告あるいは助言を行うと、こういうふうな規制の仕方になっておるわけであります。で、こういったことで十分な保全が図られるのかどうかということについては非常に疑問であると言わざるを得ないわけでございます。
さらにもう一点、この自然海浜保全地区は、それじゃ埋め立てはどうなのかと、埋め立ては禁止されるのかということなんです。これについては何ら明確な規定がないわけであります。私は、この法律の解釈から、自然海浜保全地区に指定されれば、これは全面的に埋め立ては禁止されるのだというふうに解釈すべきではないかと考えてはおりますけれども、しかしながら、その点が必ずしも明確ではないということを問題点として指摘しておきたいと思います。
さらに、三番目は、総量規制の問題でございます。これはまた今回の改正案の一つの大きな目玉でありまして、一歩前進という意味で高く評価できるものであります。しかしながら、瀬戸内海の関係について考えてみますと、瀬戸内法ではCODについてのみ総量規制を行うというふうに書いてあるにすぎません。しかも、今回の総量規制というのは、本来言われておる総量規制、すなわち一定の地域、海域の環境容量を設定しまして、その範囲内で全部の汚染を賄うと、そういった本来あるべき総量規制ではございませんで、現在の状態から汚染物質を削減していこう。しかも、可能な範囲で削減していこうという制度でございます。したがいまして、この制度は現行の瀬戸内海環境保全臨時措置法、この方式と何ら変わらない。したがって、瀬戸内法に関しては一歩も前進したことになっていないのであります。しかも、このCODの削減に関しましては、臨時措置法では少なくとも目標年度と目標量というのが法律に明記してございまして、そのために三年間であの目標が達成できたわけであります。しかしながら、今度の瀬戸内法の改正案では、そういった目標というものは法律的には何ら規定がされていない。内閣総理大臣の方に一方的に任してしまうという形になっておるわけでありまして、もしもその目標の設定の仕方あるいは削減量の設定の仕方が不十分であれば、現行の臨時措置法よりもかえって後退するということにもならざるを得ないというふうに考えるわけでございます。
さらにもう一つ、燐その他富栄養化による被害防止のために、そういった指定物質につきましては、指定物質削減指導方針というものを策定しまして赤潮の防止に努めようというのが今度の臨時措置法の規定でございます。しかしながら、燐その他のそういった物質を削減していくというのであれば、どうしてこういう指導方針といった別の形でやるのか。これをCODと同じように、現行から削減していくわけでありますから、CODと同じ方式の総量規制方式で乗っけて、それと同じ方式でやっていくのに何ら支障がないはずであります。したがって、その点も現行法のこの改正案では不十分ではないかということを言わざるを得ないわけであります。
さらに、水質汚濁防止法の総量規制、これは瀬戸内海のみならずすべての海域について、すべての水域につきまして総量規制が導入されたということで非常に高く評価するわけでありますけれども、一番最後に、各発生源ごとに定められる総量規制基準というものが定められることになっております。で、各事業者は、この「総量規制基準を遵守しなければならない。」という規定があるわけであります。しかしながら、それに違反した場合にそれを処罰する規定がない。これは、現行の水質汚濁防止法の濃度規制については処罰する規定があるわけであります。しかしながら、今度の総量規制の、総量規制基準に違反した場合には処罰する規定がない。これはやはりしり抜けだというふうに言わざるを得ないのでございます。
第四点、埋め立ての問題についてでございます。埋め立てが瀬戸内海汚染の元凶であるということは従前から多くの人に指摘されてきたわけでございまして、埋め立てを何とか規制しなければならないということが瀬戸内海環境保全の第一の目標だと言っても過言ではなかったかと思うのでございます。ところが、御承知のように、臨時措置法は十三条で、埋め立てをする場合には、「瀬戸内海の特殊性につき十分配慮しなければならない。」と、こういう訓示規定が置かれたにとどまりました。これは先生方御承知のように、各党から、全面禁止であるとかいろいろなきつい案が出たわけでありますけれども、最終的にそういう訓示規定に落ちついた。そのかわりと言っては何ですけれども、第二項で、埋め立ての基本的な方針については、「瀬戸内海環境保全審議会において調査審議する」と、こういった二項の規定が設けられまして、妥協的に成立した経過がございます。そこでこの基本方針は、昭和四十九年五月九日に、瀬戸内海環境保全審議会が、埋め立ての運用に関する基本方針というものを答申しております。その埋め立ての基本方針にはこういうふうに書かれています。「瀬戸内海環境保全臨時措置法が全会一致の議員立法として制定された経緯にもかんがみ、瀬戸内海における埋立ては厳に抑制すべきであると考えており、やむを得ず認める場合においてもこの観点にたって別紙の基本方針が運用されるべきである」、このように明確に述べておるわけであります。しかしながら、現実はどうでありましようか。その後各地で埋め立ての免許がおろされております。これはすべてこの基本方針に適合しておるということでおろされておるわけであります。で、適合しておるかどうかの判断はこれはだれがやるのか。これは、免許を申請し免設を許可する府県知事自身が一人でやっておるわけでございます。埋め立ての基本方針には、影響が軽微であること、そういったことを十分検討しなければならないということが規定されております。しかしながら、その埋め立てを考える場合の報告書は、すべて、この点はこういうことで影響が軽微である、この点はこういうことで影響が軽微である、こういった形で作文的につくられて、それがそのまま通って埋め立てが認可されるという形式になっておるわけであります。あるいは、特定の汚染地域につきましては「留意事項」というのがございまして、この「留意事項」に適合しない埋め立てはできないということになっております。その中に、たとえば「公害防止・環境保全に資するもの、」こういう規定があるわけであります。ところが、たとえば陸域の公害工場を移転するために埋め立てをする。これは陸の方は住工が混在しておりまして非常に公害が大きい、それをまとめた形でどこかへ移転させたい。移転させるには海を埋め立てるしかないということで埋め立ての免許が出されて、これはこの「留意事項」に適合するということで認可がおろされるというふうな形になっておるわけであります。そうしますと、われわれいろいろな事例を拝見しておりますと、現在のこの臨時措置法十三条及びそれに基づく基本方針ということにつきましては、四十八年当時先生方が意図されました結果、さらに瀬戸内海環境保全審議会が意図いたしました結果とはかなり違って、まあいわば全然埋め立ての規制にはなり得てないということが言えるのではないかと思うのであります。確かに環境庁から出されております資料は、埋め立て免許の件数、それから埋め立て面積については減少しております。しかしながら、これは基本方針ができたために埋め立て免許が減ったということでは決してないと思います。これは経済的な不況であるとかそういったものの影響でありまして、少なくともこの現行の基本方針は埋め立てには何ら規制的な役割りを果たしてない。そうしますと、今度の改正案ではどうなっているか。この点については、今度の改正案は何ら変わるところがないわけであります。したがって、一番大きな問題点である埋め立てについて、五年前に制定された臨時措置法、しかもそれが十分な役割りを果たしていないということが認識されておるにもかかわらず前進していないというところは、やはり大きな問題だろうと思うのであります。
昭和四十八年九月に、公有水面埋立法の改正に際しまして参議院建設委員会が附帯決議をしております。その附帯決議によりますと、「公有水面の埋立て及び埋立地の利用により、公害の発生等の深刻な社会問題を生じている近時の状況にかんがみ、」「公有水面埋立法を抜本的に検討し、早急に所要の法整備を行なうこと。」という附帯決議をしておるわけであります。これは五年前のことであります。公有水面埋立法の抜本的な見直ということも、当時から言われておりながら一向に進展をしていないのが現状でございます。したがって、その点も今度の改正案については問題があるということを申し上げまして、私の意見を終わります。