和島岩吉の発言 (外務委員会)
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○和島参考人 和島でございます。
私は弁護士として、また国際人権規約の批准促進を要請してまいりました大阪府民会議の代表としての立場から意見を開陳したいと思います。
私たちの所属する日本弁護士連合会では、つとに国際人権規約の持つ重大な意義を認め、昭和四十三年十月、長崎市における人権擁護大会で国際人権規約の批准措置決議、昭和四十九年十一月水戸市における人権擁護大会では、批准促進の宣言をして強い関心を示してまいりました。
なお、国際人権規約がいつまでもわが国で批准されない事態を重視しまして、私たちは大阪で、これが促進を要請する府民会議を結成しました。この会議は期せずして保守、革新を問わず、超党派的に各界各層の人たちによって構成されました。この会議では人権規約の意義を強調し、批准促進をしばしば政府に申し入れました。一昨年の十一月には、前国連の人権部長マルク・シュライバー氏を招聘しまして、国連における人権規約の各国の対応状況につき紹介され、人権規約の世界史的意義を再確認するとともに、わが国の即時批准の必要をいまさらながら痛感したのであります。
国内における世論もますます高まってまいりまして、府民会議は昨年四月十一日、本年四月十九日、東京都において「各界のつどい」を主催しましたところ、広く全国各地より各界多数の参加を見、強い批准促進の要請決議となり、この決議はその都度政府に申し入れました。
ここで国際人権規約の基本的性格を考えてみたいと思います。
国際人権規約はその前文で、人類社会のすべての構成員の固有の尊厳と平等で譲ることのできない権利とを承認することが、世界における自由、正義及び平和の基礎であること。これらの権利が人間の固有の尊厳に由来すること。恐怖及び欠乏のない自由な人間の理想は、すべての人々が、その市民的、政治的諸権利とともに、経済的、社会的、文化的諸権利を享有できる状態において初めて達成し得ること。次に、各国家が国際連合憲章により、人間の権利及び自由の普遍的な尊重及び遵守を促進する義務を負い、個人が他の個人及びその属する社会に対して義務を負い、この規約に認められた権利の促進及び遵守のために努力する責任があることと定めています。これが国際人権規約の基本的性格であります。人権規約に見られるところは、人間の尊厳、人権の尊重が平和の基礎であることを宣明していることであります。
次に、国際人権規約の歴史的意義を考えてみたいと思います。
この規約が制定されました背景には、第二次世界大戦に対する全人類の痛烈な反省があります。周知のように、第二次大戦は数千万人に及ぶ人々の生命を奪っただけでなく、ナチスによるユダヤ人の虐殺、わが国の軍隊による中国人に対する大量の殺傷をもたらしております。このような事態を繰り返さないためには、国際的な監視の中での徹底的な人権擁護の必要性が各方面から指摘され、一九四八年に世界人権宣言が第三回国連総会で採択され、この宣言に法的拘束を持たせるため、その後十八年を経て、一九六六年に国連第二十一回総会で国際人権規約が採択されています。両規約と選択議定書はいずれも一九七六年に発効しました。
国際人権規約の成立は、人権尊重により、人類の悲願である世界平和達成への通路を切り開いたものと言えましょう。この規約が国際的に励行されることにより、世界史が当面する一切の課題が力強く解決への道が切り開かれることを信じます。
国際人権規約を大観しますと、A、B両規約には共通して、民族の自決権の擁護、一切の差別の禁止、男女の平等を規定しています。A規約は、労働基本権、家庭の保護、生活水準の確保、健全な生活の享受、教育に対する権利、文化的権利などいわゆる生存権的基本権を定めており、B規約は、生命の尊重、良心表現の自由、集会結社の自由、居住、移転、出国の自由、遡及処罰の禁止など、いわゆる自由権的基本権と公務への参加権を一定めています。
要言しますれば、現代文明、人類の理性が到達承認した集大成とも言えましょう。また人類が当面している諸問題を解決する基本法とも言えましょう。特に戦争時代の悲惨を体験してまいりましたわれわれ日本人には、B規約の残虐な行為の禁止、戦争と憎悪扇動の禁止にだれよりも共感されますし、不当逮捕の防止は、戦時中の自由抑圧が想起されます。公正な裁判、監獄法の人道的処遇は、当面いたしております司法問題に、民主化推進への指針ともなり得ましょう。
人権規約は、日本国憲法と理想を一にしています。われわれ日本国民にとって見落とすことのできないのは、この人権規約が日本国憲法とその理想を一にしていることであります。日本国憲法は、基本的人権の尊重と国民主権と戦争放棄とを三大原則としています。人権尊重に徹し、戦争を放棄することが平和達成への唯一の道とするわが日本国憲法を、世界的に、国際的に人権規約が承認したことを意味しているとも言えましょう。こうした観点から国際人権規約は、わが国が世界に先駆けて批准さるべきであったと思います。
批准が当面する世界情勢と国内情勢が持つ意義を考えてみましょう。現下の世界情勢は、世界人権宣言、国際人権規約に結集した人類の悲願である平和を希求する流れと、また一方には、対立する民族、国家間の紛争を、武力を誇示し、武力による威嚇または武力の行使で解決しようとする動きは後を絶たず、一歩誤れば人類の滅亡にもつながる戦争を誘発する危険をはらんでいます。私は、なお希望を失わないのは、人権規約が強調するように、人間の尊厳を認め、人権を尊重することにより、世界平和を推進する動きが人権規約の批准にあらわれていることであります。このことは、世界が平和への道を探求していることでありましょう。人権を尊重しない国家社会には真の平和はあり得ないことを、世界の歴史が物語っています。このことがようやく国際人権規約の批准により、国際的に承認されようとしているとも言えましょう。
現在、すでにA規約は五十八カ国、B規約は五十五カ国、選択議定書は二十一カ国によって批准されています。国内的にも解決を迫られている多くの人権問題があります。外国人の差別的処遇、部落差別、その他各種の差別問題が、日本国憲法下に問題となっています。規約が強調する内外人平等を含む一切の差別の禁止は、これらの国内問題の解決にも大きく寄与すると思います。
人権規約に対するわが国の対応を見てみます。人権尊重を基本とし、戦争放棄を宣言して平和への道を歩むわが国が、国際人権規約を今日まで批准しなかったことは、各国から奇異の念をもって見られています。日本国憲法のもとに平和国家として再出発したわが国は、世界各国の先頭に立って世界平和を推進すべき使命を自覚すべきであります。この使命の遂行のためにも、どの国よりも先にこの国際人権規約を批准すべきであったのであります。重大な国際情勢のもとに、国を代表して平和外交を展開する使命を有する人々が、いまなおわが国がこの規約を批准されないことにいかに当惑してきたか、察するに余りあります。こうした見地から、今日わが国がこれを批准することの意義は大きいと思います。
私は遅まきながら、国際人権規約の批准が今国会で審議されることになったことを歓迎するとともに、速やかに批准されることを強く要望するものであります。ただ、今次政府提出案件では、選択議定書が含まれず、A規約についても、公休日の報酬、スト権の原則的付与、高等教育の漸進的無償化が留保されていることはまことに残念であります。A規約は特に第二条で、この規約に認められた権利の実現を漸進的に達成するため云々と規定しております。即時全面的な実行を予定してはおりません。この点からも、政府案が前記の留保をすることの意味を解するに苦しむのであります。しかし、提案されている内容には不満ではありますが、とりあえず現在提案されているものの批准を早急に実現させ、残されたものについても可及的速やかに批准すべきものと考えます。いまや国際的にも国内的にも世論は盛り上がっています、平和達成の悲願を込めて。
私たちは、いまもう一度あのいまわしい太平洋戦争の反省の中で制定された日本国憲法をかみしめてみたいと思います。その第十二条において「この憲法が國民に保障する自由及び権利は、國民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。」と明記し、その前文において、われわれは平和を維持し、専制と隷属、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようとしている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う、と宣言しています。日本国憲法は、国際人権規約の即時批准を強く要望しているものと考えます。
終わります。(拍手)