中島通子の発言 (外務委員会)

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○中島参考人 私は、女性の権利、特に女性の労働の権利との関係で意見を申し述べたいと思います。
 人権の歴史の中で、第二次大戦以降現段階における特質の一つに挙げられるべき点は、人権保障の男女平等原則が国際的に確認されるようになったことであります。御審議中の国際人権規約、いわゆるA規約とB規約が、いずれも第二条で性による差別のない人権保障を規定したほか、さらに第三条を設けて、男女に同等の権利を確保すべきことを重ねて強調しているのは、男女平等原則の重要性を示すものと言えましょう。この重要な原則の実施を、単なる道義的な義務でなく、法的拘束力を持つものとして国家に義務づける国際人権規約が今国会で批准されようとしていることは、まことに意義深いものと考えます。ところが、政府の説明書によりますと、「両規約の目的とするところは、我が国政のよって立つ基盤として常に重視されて来たところ」であり、実体的にも「両規約の趣旨は、多くの面において既に国内的に確保されているところである」とされ、批准によって新たな措置は余り必要とされてないかのような印象を受けます。しかしながら、男女平等の原則に関しては何ら確保されておらず、特に労働の権利の面では著しい性差別が存在し、A規約を批准する以上、その実施のためには、立法措置を初め多くのことがなされなければならない点に特に注意を喚起し、以下四点にわたって具体的な意見を述べたいと思います。
 第一点は、労働の機会の男女平等の保障であります。A規約第六条第一項は「すべての者が自由に選択し又は承諾する労働によって生計を立てる機会を得る権利」を保障するため適当な措置をとることを義務づけ、同第二項は、その「措置には、個人に対して」「完全かつ生産的な雇用を達成するための」政策、方法等を含むと規定しております。ここに言う「生産的な雇用」とは、個人の能力を完全に発揮させる雇用と解釈され、本条は、すべての男女に、自己の能力に応じた仕事を自由に選び、その労働によって自己の生計を立てる機会を得る権利を保障するものであります。
 わが国の憲法は、第二十二条で職業選択の自由を、同二十七条で勤労の権利を保障していますが、通説的解釈によれば、前者は職業及び営業の自由を国家から保障するものであり、後者は国家が勤労を欲する者に職を与え、それができないときは失業対策を講ずる義務を負うものとされています。A規約第六条は、右のような憲法の解釈とそれに基づく国内法の枠を明らかに超えるものであります。すなわちこれは、仕事を求めているすべての女性に、自己に適した仕事を自由に選択し、それによってみずからの生計を立てる機会を男性と平等に保障するための積極的な措置を国家に義務づけるものであります。
 現在女性は、女性であるというだけの理由で多くの職場から締め出されています。大卒女性の就職難はますます深刻になっていますが、大卒に限らずすべての女性にとって、採用の機会が与えられるのは男性と異なる職種、つまり補助労働や単調労働であり、男性と異なる雇用形態や身分、つまりパートや臨時、準社員や嘱託です。これらの採用差別は近年ますます拡大する傾向を示しており、これらの差別を是正し、女性の労働権を保障するためには、採用の段階における差別を禁止する立法措置が不可欠となっております。この立法はすでに欧米諸国では実施に移されており、わが国でも昨年の国会において、社会党より男女雇用平等法案として提出されましたが、残念ながらいまだ成立に至っておりません。特にわが国では本条項の権利の完全な実現は、かかる立法措置なしにあり得ないことを強調したいと思います。
 第二点は、労働条件における男女平等です。A規約第七条は「すべての者が公正かつ良好な労働条件を享受する権利」を保障し、(a)の(i)において「特に、女子については、同一の労働についての同一報酬とともに男子が享受する労働条件に劣らない労働条件」を、(c)において「先任及び能力以外のいかなる事由も考慮されることなく、すべての者がその雇用関係においてより高い適当な地位に昇進する均等な機会」を保障しています。これらの規定は、同一価値労働についての男女同一賃金の原則にとどまらず、賃金以外の職種や昇進昇格、定年や退職基準等すべての労働条件についても男女の平等が保障されなければならないことを規定したものであります。
 周知のとおり、わが国の労基法は、第四条で、女子であることを理由とする賃金差別を禁止しているのみで、憲法十四条を受けて労働条件における均等待遇を定めた労基法第三条には、性別による差別禁止を明記しておりません。そのため、単純な賃金差別の是正がある程度進むと、それは仕事差別や身分差別に形を変え、近年女性差別はかえって拡大するという結果さえ生じています。これらの差別を是正し、女性が男性と同等の良好な労働条件を享受することを保障するためには、わが国ではやはり立法措置が不可欠であり、その具体的な方法は、労基法三条に性別を加える方法と、新たな雇用平等法による方法と二通りありますが、わが国の法体系からすれば、その両方が必要であると考えます。
 第三点は、労働時間の合理的な制限及び公休日等の報酬の問題であります。A規約第七条(d)は「休息、余暇、労働時間の合理的な制限及び定期的な有給休暇並びに公の休日についての報酬」を保障していますが、政府は、この公休日の報酬について留保しています。
 労働時間の合理的制限は、女性の労働権を考える立場からは重大な関心を持たざるを得ない問題であります。昨年十一月に出された労働基準法研究会報告は、男女平等の雇用機会を得るために、基本的には女性も男性と同様に時間外労働をすべきであり、生理休暇等も廃止すべきであるとしておりますが、現行の労働基準法は週四十八時間労働の上に、男性については三六協定さえ結べば無制限の時間外労働が可能であり、また、有給休暇についても六日という短さの上に、その取得率も低いという現状は、労働時間に関する国際基準から著しく立ちおくれ、各国から働き過ぎと非難されているところであります。
 その働き過ぎ男性を基準として、女性も同じように働かなければ雇用の平等は保障できないという議論は、母性と基本的人権としての女性の労働権を否定するものでありますが、また世界の潮流に逆行するものでもあります。少なくともILOの労働時間に関する基準までに労働時間——これは時間外労働を含めてでありますが——を短縮し、休日をふやせば、女性差別の理由とされている過保護論はその大半が存在基盤を失うでしょう。現在わが国が置かれている国際的立場からいっても、「労働時間の合理的制限」はILOの基準を下回るべきではありません。また最近の行政指導による時間短縮の実績を見れば、実施のための措置としては労働基準法改正という立法措置が不可欠であります。
 もう一つの重要な問題点は、公休日の報酬についてのわが国の留保であります。わが国では、月給制によって休日の報酬を受けるおおむね終身雇用の労働者と、パート、臨時、アルバイトと呼ばれ、日給あるいは時間給によって休日の報酬を一切受けない差別的雇用形態の労働者に二分され、この二重構造によって労働者の低賃金と不安定雇用が支えられておりますが、近年ふえ続けている女性労働者がパートに集中している現状を考えるならば、本条項の留保は、雇用形態を通じての女性労働者の差別を固定化することになります。A規約自体が漸進的な効力を持つものであるにもかかわらず、これを留保するということは、将来の問題としても考えないということになるわけで、このような留保は一日も早く撤回されることを強く求めたいと思います。
 第四点は、産前産後休暇の所得保障の問題であります。A規約第十条第二項は、働いている女性には「産前産後の合理的な期間においては、」「有給休暇又は相当な社会保障給付を伴う休暇が与えられるべきである。」と規定しています。現在労働基準法は産前産後の休暇中の賃金について規定せず、健康保険法が六〇%の出産手当金を定めているにすぎません。しかし健康保険法の適用は常時五人以上の従業員を使用する事業所等の制限があり、多くの働く母親は、六〇%の所得保障さえない現状です。本条約批准後は、すべての働く女性に出産休暇中の所得保障が行われるための立法措置が行われなければならなくなります。その場合の基準としては、ILO第九十五号勧告の示す一〇〇%保障が重視されるべきでありましょう。
 ほかにも意見を述べたい点はありますが、両条約の目的とする男女平等を実現するためには、少なくとも以上の四点にわたる立法措置と、留保の撤回が不可欠であることを重ねて強調し、私の意見を終わります。(拍手)

発言情報

speech_id: 108703968X00919790507_006

発言者: 中島通子

speaker_id: 9461

日付: 1979-05-07

院: 衆議院

会議名: 外務委員会